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アルス×マグス  作者: KIDAI
行間一
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黒いローブの少年

「……なんだこの有様は」


 少年の声が夜道に響き渡る。

 そこは『リーヴァリー』と言う町の大通り。暗く、彼以外は誰もいない。


 ただ、そこには大量の肉塊ひとが転がっていた。


「こいつら、なんで死んでんだよ」


 フードの中から、目の前に広がっている光景を目に少年は唖然としている。

 少年は左胸に蒼い薔薇の刺繍が施されている、フード付きの黒いローブを羽織っていた。そしてそれと同じ物を、彼の前で転がっている死体も羽織っている。色は少々、黒と言うより赤に近くなっているが。


「ったく、意味わかんねーよ。ターゲットはガキ一人だろ。一〇分で終わるだろ。なのになんでてめーらは殺されてんだよ」


 つっても、もう死んでるから誰も答えられねーか、と付け足した少年はボリボリと頭を掻きながら、面倒そうな態度で死体の元へ歩いていく。

 この近辺では最近雨は降っていない。ところが水溜りの上を歩いているような足音が聞こえる。歩く度に赤い液体が少年のズボンの裾や、周りの地面を汚していく。


「うわっ、最悪。裾汚れちまったじゃねーか。こいつら無駄に血液流しすぎ」


 はぁクリーニングに出すのめんどくせー、と呟いている少年は、一つの死体の前で足を止めた。そこでしばらく悩んでいるような仕草をすると、


「ま、もう汚れてるからいいか」


 言うと少年は靴のつま先で死体の頭を蹴飛ばした。当然ながらもう死んでいるので反応はない。


「んー、本当に死んでるようだな。じゃあ次はこうなった原因だ」


 転がっている死体は全員術師で、術者階級はこれも全員『魔術師』だった。そこら辺の術師なんかよりは実力は上のはずだ。しかし全員殺されている。どれも死因が剣で切り裂かれて死んでいる辺り、どうやら仲間割れで殺し合ったようではなさそうだった。彼らの中で剣を持っているものがニ、三人しかいないからだ。


「他の組織の集団に襲われた、って線は薄そうだな」


 少年がそう思う根拠、それはその場の状態を見れば分かる。

 そこには死体と死臭、赤い液体の水溜り以外、戦闘の形跡がほとんどなかった。唯一地面に、真っ二つに割れたハンマーが突き刺さっているが、それ以外は大きな破壊の跡がないのだ。集団戦になっていたら建物の壁などが破壊されていていたり、戦闘範囲が建物の上など様々なところに広がっていたりしていてもいいはずなのだが、この戦場にはそう言った跡が全くない。不気味なぐらいに静寂していて、戦闘が行われたのはこの大通りだけのようだった。


「殺され方は全員同じ、そんでもって集団戦の形跡はなし。だとしたら相手はもしかして、個人ひとりなのか?」


 だがそれならそれで不自然だった。さっきも言ったように彼らは全員戦闘に特化した魔術師だ。それを四〇人も相手にした上、皆殺しにできる人間なんてそうそういる訳がない。


「武器が転がっている所を見ると、どうやら抗戦しようとしたらしいな」


 それでも全員殺されていた。


(……この町にそれだけの術者がいるって事なのか?)


 だとしたら、少々厄介だな、と彼は思う。その術者は十中八九、少年の敵だろう。任務中に邪魔されたら色々と面倒な事になる。


(ま、そん時はそん時だな。死体の処理はキファーフさんの部隊に任せるとして……、ん?)


 そこで少年は気付いた。大通りに倒れている彼の元部下たち。


(確か四十五人派遣したはずだけどな)


 その人数が足りない事を。


 三人いなかった。

 死体を粉々に粉砕されたのかもしれないが、それはないと少年は否定した。それは相手の体を粉砕する理由がないからだ。これだけ派手にやっといて三人の体だけ木っ端微塵に破壊するなんて、どう考えてもおかしかった。と言うかそれ以前に人間の体を粉砕する術を使っていたら、もっと大きな破壊跡が残っているはず。だがここにはそんな大きな破損箇所は見つからない。

 だとすると、違うところで殺されたか、もしくは……、


「運良く生き延びて、逃げやがったか」


 少年が所属する組織、その中でも彼が属する派閥では任務の失敗は絶対に許されない。成功すればそれなりの報酬を受け取ったり階級が昇格したりする事があるが、もし失敗して逃げ帰ってきたら、その者は死を持って責任を負わされる。


「たく、大人しく全員殺されてればよかったのに。余計な仕事が増えちまっただろーが」


 ボリボリと頭を掻きながら面倒くさそうに少年は言う。


「あーあー本当に」


 だが、彼の表情は笑っていた。心の底から楽しそうに。


「めんどくせーな」


 ニヤリと歪んだ笑みが作られる。

 そして蒼い薔薇の下に『イッザ=ラージー』と英語で刺繍を施されている黒いローブを羽織り直すと、少年は裏切り者の制裁に出かけた。


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