11 影三つ
片側三車線の道路並に広い町の中央通を走る人影が三つ。影の大きさは全てバラバラで、右から大中小となっている。
三つの影は何かから逃げるように必死に走っていた。
「くそッ! なんなんだよあいつは!」
ずっと走っていたせいか、しゃがれた声で言ったのは左側の一番背が低い男だ。
「……『奴』の仲間なのかもしれない。この町、『教会』があるし。もしそうだったら僕らに勝ち目なんてないよー」
野太い声でネガティブな事をのろのろ言ったのが右側にいる、一番体が大きい男。
「あーもう、うぜーなてめぇはいちいちよぉ! んなネガティブな事ばっか言ってねーでちょっとは何か考えやがれデカ物が! ついでに言うと『奴』は的確じゃねーな。『奴ら』だ」
「……そんな事言われたってー。僕頭悪いしさー。デリックは何か良い方法ある?」
「残念ながら思いつかないな。あんな化け物とまともに戦える方法なんて」
言ったのはデリックと言う二人の真ん中を走っている男。彼は眼鏡を掛け直しながら、
「大体方法があればとっくに使っているさ。でも見ただろお前達も、あの『光』の動き。あれは普通じゃない。どう見ても『騎士』並かそれ以上の実力だよ」
「なんだよ『騎士』並って。んなもん相手にできるかよ。つーかなんでそんな奴がこんな町にいるんだよ」
「それはさっきバップが言ったように『奴ら』の仲間か、それともこの町を守る兵士か。どちらにしても俺たちの敵だって事には変わりないけどな」
「……それよりもどうする? このまま帰っても僕達殺されちゃうと思うけど。先輩に」
「「……」」
体が一番大きなバップと言う男の言葉に、他の二人は思わず黙り込む。
「……そう言えばもうすぐ『奴ら』がいる喫茶店に着くんだけど」
「喫茶店? どういうこった?」
一番背の低い男──アルデが聞き返すと、
「……ほら、町の出入り口の近くにある喫茶店。あそこから『奴ら』の臭いがする」
言ってバップは、数十メートル先にある一つの喫茶店を指差す。
「あそこに『奴ら』がいるのか」
真ん中を走っているデリックが足を止めると同時に、他の二人もその場に立ち止まる。三人は喫茶店を凝視していると、一番背の低いアルデが口を開く。
「標的である『奴ら』は目と鼻の先。バップの鼻は確かだからあそこにいるのは間違いねーんだろうけど。このままつっこんでぶっ殺しに行くってのもありじゃねーの?」
「……僕はアルデの意見に賛成だなぁ。あんな化け物とやり合うよりは『奴ら』を狙った方が断然ましだよぉ。それに任務が成功すれば先輩も許してくれるだろうし」
「確かにそうだな。それじゃあこのまま任務を果たしに行きますか」
三人は歩いて喫茶店の前まで行くと、一番体が大きいバップが作戦を話し出す。
実はバップはこの三人の中では一番頭が良かったりする。自分では頭が悪いと言っているが。
「……じゃあ僕が店の壁を扉ごとぶっ壊すから、その隙にデリックの『スコープ』で標的を殺るって事で」
「おいおいそれじゃあ俺の出番がねーじゃねーか」
「……アルデは後方であの化け物が来ないか監視してて」
「バップてめぇ俺に喧嘩売ってんのか、ああ?! 俺は今暴れてーんだよ、むちゃくちゃ暴れてーんだよ!」
「暴れたいならあの化け物と一緒に暴れてればいいだろ」
「デリックてめぇもふざけんなよ。あんなのと暴れられる訳ねーだろ。暴れる前に殺されるわ」
「お前もお前で結構ネガティブだよな」
デリックが溜め息まじりで言っていると、隣に立っていた大男のバップがどこから出したのか、長さ二メートルもある巨大なハンマーを肩に担いでいた。
「……二人とも、遊んでいる暇はないよ。死にたくなかったらさったと殺そう」
突然バップの言葉が今までとは別人のように鋭くなった。彼は戦闘になると口調が極端に変わるのだ。それを聞いた他二人の表情にも緊張が走る。バップは一〇〇キロ以上もある巨大なハンマーを軽々と持ち上げ、振り被ると、
「……でも、少しはぶっ殺しがいがある相手だったらいいな」
それが合図のように、巨大なハンマーが喫茶店の壁を横薙ぎにする。