悪役令嬢は恋をする
こいつら破局せずに続いていたみたいです。(笑)
最近貢の様子が怪訝しい。
貢の誕生日だったあの日からだ。
もしかして浮気?
いや、貢に限ってそんなはずは……。
でも、貢ってあれで結構優しいところがあるし、意外と情に絆され易いところも。
そんなクールで頼り甲斐のあるイケメンだけに付き合っている相手がいたって言い寄ってくる子も案外いるかも知れない。
星野美月、あの女のように……。
今日もあの女に呼び出されていた。
いつもの放課後は私と一緒に帰ってるのに……。
正確には呼び出されたんじゃなくて待ち合わせなのかも知れないけど、それだと逢い引きみたいでなんか嫌。だから私の中ではこれは呼び出しだ。
二人の向かった先は図書室。
た、多分ただの勉強会とかそういうやつ?
貢って結構頭が良いから。私も夏休みの宿題ではお世話になったもんね。
全く、貢ってば本当に人が好いんだから。
うん、特に変な雰囲気を醸し出すとか、そういうのはないし問題はないか。だって貢だもんね。
結局その日はそれだけ。彼女をバス停まで送ると貢は真っ直ぐ自宅へと帰って行った。
だけどしかし──。
翌日もまた、私を置いて図書室へ。
そしてまた、その翌日も。
さらにまた、その翌日も、その翌日も。
ちょっとあの子調子に乗り過ぎじゃなんじゃない?
……って、え⁈
何? 今日は寄り道?
なんか感じの好い喫茶店に入って行ったんだけど。ファミレスじゃなくて喫茶店よ?
これじゃまるでデートみたいじゃない?
私の中では小洒落た喫茶店はファミレスの格上。友人同士じゃなく恋人と入るところ。だって完全に雰囲気が違うもの。
そんなことのあった翌日だけど、貢は何事もなかったかの如くの自然体。平常通りでいつもの私との昼食だ。ただ、隣にあの女がいることを除けば。
「なんでその女がいるのよ?」
貢手作りであろうサンドイッチを前にしながらも、今の私はそれどころではない。気にはなるけど、それ前にこの女の問題だ。
「別にいいだろ? 友人同士で昼食を囲み親睦を深めるなんて自然な話じゃないか」
去年まで独り黙々と昼食を済ませていた貢がこれを言う?
まあ、当時はこういう人付き合いのなかった貢だけに怪訝しいことはないんだけど。実際誰かに誘われたりすればそこに交ざったりしてたもんね。偶にだけど。
「でもだからって、その……ふたりのその、そういう時間──」
「ごめんなさいね。私も気にならないわけじゃなかったんだけど、十八女くんが構わないって言うから……。
でもそういう発言ってなんかラノベでよく見るヒロインに婚約者を浚われる悪役令嬢の台詞みたい」
はあっ⁈
こ、この女、言うに事欠いてなんてことを。
「誰が悪役令嬢よ! そっちの方こそ婚約者のいる男を誑かす自称ヒロインの女狐男爵令嬢そのものじゃない!」
冗談じゃない。このまま言わせておけば貢の彼女としての沽券に関わるってもの。ならばそんな敵は排除あるのみよ!
「おいおい、酷いなふたりとも。それだと俺は残念王子役じゃないか」
対して詼た返しで話をジョークへと変えようと試みる貢。
ねえ、これって場の空気を読んだ上で敢えてなの?
「ふふ、だとするとこの先は王子様の婚約破棄宣言かしら? 悪役令嬢が断罪されるお約束のシーンよね」
一方でより挑発的に仕掛けてくる星野美月。やる気満々じゃない。
「だけどお約束といえばこの後のざまぁもでしょ。断罪したつもりが逆にやり込められて破滅するのもまたお約束よね」──と返してやろうかと思ったけどやめにした。
だってこの場合ざまぁされるのは王子役もまた一緒だもの。貢相手にそんなことできるわけない。
場の空気が辛い。
「こ、これで勝ったと思うなよーっ!」
進退窮まった私はその場を逃げ出した。
「はぁ……。何なのよあいつ。
しかも貢は追い掛けて来もしないし……」
逃げ込んだ先は女子トイレの個室の中。
ため息が出る。
貢は私のことなんてもうどうでもいいんだろうか。
ううん、そんなことないよね。だって貢は私の彼氏なんだし。
「貢ぅ……」
寂しさと切なさが溢れてきた……。
「涙が跡になってる……」
散々自身を慰めたけどやはり寂しい。
やはり自分じゃなく貢の優しさが欲しい。
……って、よく考えてみたら求めているのはいつも私の方。
貢は私に求めていることってないのかな。
やはり不安……。
その日以降も貢は変わらなかった。
いや、一応はフォローの言葉を掛けてはくれたし、相変わらずあれこれと私に尽くしてはくれるけど、それでもあの女に対する行動はそのまま。
だからといって私の貢への想いが冷めることはなく、そんな未練のもと惰性に流されるように毎日が続く。
そして一月余り過ぎたある日──。
「大事な話がある」
いつもの昼食会。今日もやはりあの女、星野美月が一緒だ。
貢と美月、ふたりの笑顔が私の心に不安を呼ぶ。
教室という人目のある中での大事な話。以前美月が冗談めかしで言っていたラノベの婚約破棄の喩えが脳裡に浮かぶ。
まさか本当に婚約破棄、もとい交際破棄⁈
嘘……。私、棄てられちゃうの?
「「誕生日おめでとう!」」
「…………え?」
言葉と共に渡されたのは一冊の本。
私の好きな作家の書いたラノベだった。
緊張感が一気に弛緩する。
身構えていたところで意表を突かれ、内に溜め込んでいた涙が溢れてくる。
「はは、驚いた?
しかしこういうのが好きなのは解ってたけどまさかこんな泣く程に感動してもらえるとはな」
「う~ん、それはなんか違う気がするんだけど……。
そういうところが十八女くんらしいといえばらしいんだけど、ほどほどにしとかないと柳さんに愛想を尽かされるわよ?
まあ、私としてはそれはそれで面白いからいいっていえばいいんだけどね」
何? これ?
いや、手渡されたそれと言葉の意味は理解してはいるんだけど、それでも何がどうなっているのかが解らない。
解っているのは星野さんに貢を奪われて振られたわけじゃないってことだけ。
「あ~、あれか……。
でもそれは星野の悪ふざけのせいだろ。とはいえ見え見えの冗談なんだしそこまで気にする程のことか?
……って、何……?」
「馬鹿ーっ!」
初めてだった。まさか私が貢をひっ叩くだなんて。
「私……、私……、思い切り不安だったんだから!
もしかしたら私、振られちゃうんじゃないかって! 本当に婚約破棄みたいなことになるんじゃないかって!
だって……、だって貢ってば私が本当に欲しいものを今までくれたことがないんだもん!
私が欲しいのは物やイベントなんかじゃなくて、貢の気持ちなんだもん!
貢って私のこと一度も好きって言ってくれたことなかったでしょ。
私……、私……、ずっと……、ずっと不安だったんだから!」
私の心の中で蟠っていたものが怺え切れず遂に溢れてしまった。
でも、やってしまった感はあれど同時になんだか達成感的なものがありどことなく気持ちが楽になったというか……。
とはいえそれに伴い返ってくるであろう貢の反応が怖い。不安という後悔は避けられない。
「……うん、確かにそれを言われるとな……。
正直華蓮のことは嫌いじゃないんだ。
ただ、なんというかさ、好きっていうのがよく解らないというか……、だからこそそういう安易な判断を下すことを避けていたというか……。
とはいえいい加減その辺をはっきりさせるべきなのかも知れないよな。
だから言うよ。今の俺には華蓮が一番で他に代わるやつはいないって。
まあ、今はまだ自身の恋愛感情にあまり自信はないけど、そこのところは華蓮しっかりと教えてくれると期待してる。
──と、恋愛初心者だけに今はまだこれくらいしか言えないけど、一応俺の精一杯ってことで怺えてくれないかな」
「……ヘタレ!
でも、貢がそういう人間だって解って好きになったんだもん、仕方ないよね。
うん、貢精一杯の本気の気持ち、それが一番のプレゼントってことで受け取っておくね。
でも、来年はちゃんとしたの期待してるから」
「……お手柔らかに頼む」
やっぱり貢はヘタレだった。
真摯で誠実なのは美徳だし、そこが貢の良いところだけど、恋愛においてはやはり辛い。
でも、それでも好きなんだから仕方ない。
恋愛って他人事だと面白いけど、自分のこととなると……。
はあ~、なんか疲れた……。
後日判明した真相はというと、内緒の話だけど実はあの本の作者は星野美月さんだった。といってもさすがにペンネームは違うため聞くまでは判らなかったんだけどね。
なんでそんな話が出てきたかというと、貢の誕生日だったあの日、私たちをモデルにした作品を書きたいってことで秘かに貢と話をしていたみたいなのよね。当事者の一人である私には許可を取りに来なかったけど。
で、その理由はというと、私のキャラはちょっとばかりはちゃめちゃに加工をしたため本人とは似て非なるものとなっているとかでそこまで考えてなかったとか。……って本当かなぁ。
本当だよね。だってあの作品のタイトルって『悪役令嬢は恋をする』なんだから。
ということで彼女に一言。
誰が悪役令嬢よっ!
因みに、作品に出てくる主役の悪役令嬢は私というよりも作者である彼女にやや近かった。そして悪役ヒロインはというと、寧ろそっちの方こそが私に近い?
そういえばやたらと私に対して挑発的だった彼女。あれは冗談の当てつけだったということだけど、もしかするともしかしたらだったのかも?
だって作品を読んでいると、主人公ヒロインにそういう嫉妬を覚えるから。貢は彼女の相手役のモデルに過ぎない。フィクションだと解ってはいるけど、それでもやはりと思ってしまうのは貢の彼女としての私の独占欲に違いない。
だって好きなんだから仕方ないじゃない。
やはり恋愛ものは苦手な私。
果たしてこんなヘタレなカップルで良かったのだろうか……。
それはそうと、作品の書籍化ですけど当然ながら書いて直ぐってわけにはいきません。……多分そのはず? というわけでそこはフィクションということでメタなツッコミは勘弁願います。(笑)




