-柚希3才-酔った日の自問自答
『もし世界が終わるなら、君はどうしたい?』
夜も深まった深夜1時。 リビングのソファーに腰を下ろして、音量を極限まで絞ったテレビを見ていた。とくに観たい番組がある訳でもなく、ぼんやりと眺めていた。 その中で突然、耳に残ったのが先ほどのセリフだ。
手にしていたお酒のグラスを何度か傾ける。ほろ酔いのいま、グラスの中をカラコロと転がる氷の音がやけに心地よく思えた。
「世界が、終わるならねぇ……」
僕は世界が終わる時、何をしているのだろうか、想像力の乏しい僕には極めて難しい問いかけだった。
こんなとき妻が生きていたら、きっとニコニコの笑顔で、「ふふーん!そりゃあこの世の全ての地球の美味しいを食べ尽くすに決まってるじゃない!」なんて言い出しそうだ。
自分の答えは分からないのに、大好きだった亡き妻の答えそうな事ばかりスラスラと思い浮かんで口の端が上がってしまう。
「んっ……」
最後の一口を喉に落としてからコトリと机にグラスを置いて、ゴソゴソとソファーに横になる。酔いに流されるがまま、寝転がると途端に瞼が重くなる。
それこそ、こんなダラダラとした姿を妻に見られでもしたら、腰に手を当てて「風邪ひくよ、布団に入りなさい」なんて怒られてしまいそうだ。
(怒られたいなぁ……)
なぁ、里奈。ぼく、がんばってるよ。 きっと里奈が生きていたら僕は暖かな彼女の背中に頭を埋めている頃だと思う。だけど君は居ない。 ぼく、泣かないで頑張ってるんだよ。 ぼくに似て甘えたさんな息子の柚希の手を引っ張って、褒めて、大好きって笑い合う……でもその世界に君はいない。
酔いのせいだと軽く残った理性で理解はしているのに、気持ちのコントロールは効かない。 転がっていたクッションを抱き寄せて、ギュッとすると同時に目の中がじわじわと熱くなってポロポロと涙が流れていく。
「ッッッ……ウァッ」
カチッと強く歯を噛み締めて、鼻をクッションに押し付ける。 頭の中もジンと痛くなってきた。手に力もあまり入らなくなっていたが、なんとか残された気力だけで立ち上がる。
気持ちが落ち着いた、とは言えないけどなんとなく寂しくなって、千鳥足になりながら柚希が寝ている部屋に向かう。
ゆっくりとドアノブを捻って中に入ると、息子は敷布団の上で大の字になって、毛布をはじっこに追いやって寝ていた。
床に足をつきながら、毛布を少し雑に広げて、柚希の胸までバサッとかける勢いで僕も一緒に横になる。 それからぎゅっと体を柚希に押し当てるように、守るように腕を伸ばした。
「んぅ……おとぉー……ん」
くすぐったそうに身じろいだ姿が愛おしくて仕方がない。息子のふわふわとした頭をすりすりとすると、シャンプーの甘い匂いが鼻を掠めた。
「柚……柚くんはいいこ、いいこ」
呂律も思考も回らなくなってきたことだし、そろそろ僕も眠気に身を任せることとしようか。 スっとまぶたを閉じてしまえば、あっという間に暗闇に吸い込まれていきそうだ。
──あぁ、そうだ。思いついた。
”もし、世界が終わるなら”なんてことの無い日常の中でただ静かな終わりを迎えたい。 だけど、もしも欲を言わせて貰えるのなら。
【里奈も含めた家族3人、笑い合っての終止符が望ましい】




