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-柚希6才-風邪っぴき父さん

 びしゃびしゃに濡れている額がとても心地よかった。 ひとり親……父親として6歳の息子を育てている僕が倒れている暇なんてないのに、数年ぶりに風邪で寝こけてしまっている。


「おと~、いたいいたいとんでゆけぇ」

「ん、ありがと」


 そして、そんな僕をヨシヨシとしてくれているのが息子の柚希だ。 本当に優しくて賢い息子に思わず涙が出る。濡らしたタオルを、小さな手で一生懸命絞っている音を耳に何秒か目を閉じては、開けて息子の様子を見守る。


「げほっげほっ……」


 あまりの辛さに鼻もツーンと赤くなって、片腕を両目に乗せる。それから額に乗せてくれていたタオルをとって顔を拭く。 正直、まだ悪寒もあるが、寝てばかりも居られない。


 柚希の「だめだよ、おと~」って言葉に軽く微笑みながらベッドの縁を支えになんとか立ち上がる。節々が痛くて思わず背中をさすりながら。くいくいと袖を引っ張られると、今の僕はすぐにベッドに戻されてしまいそうだ。


「柚、おかゆたべよっか」


 そういえば、まるで仕方ないなと言わんばかりの大人びた表情で僕の手のひらを掴んでくれる。それに応えるように僕もギュッと握り返した。


「「へへ」」


 2人揃って同じタイミングで顔を合わせて笑う。照れ笑い、というやつか。流れで柚希の頭をぽふっとしてから、冷蔵庫をあける。


「あれ? たまごない、」

「おとぉーこっちだよ」

「ははっ……はぁ、しまった」


 冷蔵庫の中身を何度見回しても買ったばかりの卵がないと焦っていると、下から声が聞こえてきてハッとする。通りで探しても見つからないわけだ。

僕は、なぜか野菜室を探していた。


 そして、卵を取り出してキッチンに置いて、今度は机に置いていた冷やご飯を鍋に入れてから水もいれて中火にかける。塩と鶏ガラを少しだけいれて、時々混ぜながらぶくぶく沸騰するのを待ってから味噌を適量いれる。既にこの時点でいい香りが漂ってきた。


「ん~いーにおい」

「でしょ~?」


 全ては亡き妻に教えてもらったレシピなんだけど。 僕は妻と付き合うまで卵焼きさえろくに作れなかったから。 外食が当たり前の人生だった僕に手取り足取り料理を教えてくれたのが妻だった。


「おと~たまご!たまご」

「あ……らら」


 卵を片手に持ったまま、入れるのを忘れていたみたいだ。これが一番、仕上げに欠かせないというのに。お椀に卵を入れてカチャカチャと溶かしていく。 

 サラサラになったのを確認して、お鍋の中に円を書くようにいれたらお箸で素早く3周回す。すぐに強火に数秒かけて火を消した。

これで胃に優しい、ちょっとしたお粥(雑炊)のできあがり。


「このまま、たべちゃおっか」


 僕は鍋を持ち、息子には鍋敷きとスプーンをふたつ渡す。 そして一緒にダイニングテーブルまで向かった。どうやら今日は、隣同士で座って食べるらしい。いつもは向かい側に息子が座っているから少し新鮮な気持ちだ。


 先にお粥を息子のスプーンですくってから「熱いよ」と注意して口元に持っていく。すると何度もフーフーした後にパクッと口に入れ、慌てたようにはふはふと。 それが少し面白くて、笑いながら僕も1口「あつっっ」……どうやら、人のことを笑える立場にはなれなかったようだ。息子と同じ轍を踏んだ僕は、涙目になりながらはふはふはふと口の中でお粥を冷ます。


「おと~おなじっ」

「ははっ……ちがいない」


 妻の味のするお粥を食べているうちに、いつもは遠い3人家族の足音。

それがなんだか、今日だけは「清水樹」「清水里奈」そして2人の宝物の「清水柚希」そんな幸せな3人の足並みが”タンッ”と揃った音が耳元で響いた気が、する。いまもほら、きっと妻が「いただきます」なんておちゃらけた口調で笑ってることだろう。





【今日の僕は息子から風邪を貰ったけど、息子のおかげで今日もなんだかんだで幸せです】

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