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-柚希6才-僕ら親子の旅路は

 なんてことのない休日の午後。 僕はリビングのソファーに座りながら、随分と久しぶりに小説を読んでいた。いつもなら、一息つこうと座った所で、数分もしないうちに「おと~、おと~」と6歳になる息子からの会話が止まらないから、小説を読んでいる暇なんてないのに。


 しかし、こうしてのんびりと小説を読めているのは単に息子が僕の相手をしてくれないからである。さっきまでと言っていた事と矛盾しているけど、話しかけられなきゃ話しかけられないで随分と寂しいものだ。


 昔なら数十分もあれば数十ページは読めていたのに、今は三ページも読めていなかった。 暇さえあればリビングの床で遊んでいる息子の様子ばかり見てしまうからである。


 男の子ならみんなが通るなのかもしれないおもちゃの線路と電車を床いっぱいに広げて遊んでいる柚希。

 柚希と仲良くしてくれていた、同じマンションに住む2個上のお友達が、もう遊ばないからと譲ってくれたおもちゃだ。


「せんろ、、はつーづく~よっどーこまっでもお」


 昔から歌われてきた曲を柚希が口ずさんでいる訳だが、本当に可愛らしくて思わずひくひくと口の端が引き攣ってしまう。 所々、性格の面では妻に似てる所も多い柚希であるが……どうやら、ドがつくほどの音痴も妻に似てしまったようだ。


「もう、こんな時間か」


 ふと、欠伸を噛み殺しながら腕時計をみてみると既に15:00を過ぎていた。  

 冷蔵庫にチョコ菓子を入れていたのを思い出してスっと立ち上がる。細長い筒状のクッキーに満遍なくチョコがかかってるやつは何歳になっても美味しい。


 大学生の頃に、妻……里奈の家に招待されたときもよくこのお菓子を二人で食べていた。 しかし当時、その食べ方に随分とカルチャーショックを覚えたものだ。


 氷水の入ったグラスに里奈が「これいいんだよね~」と言いながらチョコの面から直でその中に漬けたことが。

 あまりにも、非現実的な状況になんども目をこすっていると、まるで僕の方が有り得ないとばかりに反論をされた「この食べ方を知らないなんてなんてもったいないんだ!」と。


 しかし最初は慣れなくて手が進まなかったが、時間を重ねるうちに、いつの間にか僕も無意識に(特に夏場は)この方法でお菓子を食べるようになった。


「……よし」


 そしてそれは、今も変わらない。氷水の入ったグラスに数本いれて箱に入った残りと共に、ソファーの前のローテーブルに置いた。 これでおやつタイムの準備は完了である。


「柚希~そろそろお菓子にしようか」

「ん~大丈夫」

「うそでしょ」


 1人で、ノリノリでお菓子を準備していた事に気付いて固まる。 いつもならお菓子の単語に飛びついてくるはずの息子に爆速で断られた。 僕やお菓子には目もくれず、一生懸命線路を組み立てている。


だけど、ここまでおやつタイムを準備したのだ。 そうおもって、首筋をポリポリとかきながらもう一度こえをかけてみる。


「ほら、たべないと、柚くんのも、おとー食べちゃうよ?」

「いいよ~」

「”うそでしょ”」


 今まで経験したことの無い返答に、やはりドギマギしてしまい、仕方なく1人、震える指で菓子を摘んでパキっと食べた。ヒヤリと美味しい……美味しいがおとーは寂しくて泣きそうである。


「柚希~、おとー寂しいな?」

「ん~」


 相変わらず、こちらを見てもくれない柚希に僕はショックを覚えて、ちょっとだけ唇を三角にしてしまう。 それから、もう一本を口に入れて、いそいそと柚希の目の前に座った。どうやら今日の構ってちゃんは完璧に僕である。 だって、あまりにも寂しいから。


「おとー、さわんないでね」

「……あ、うん。はい」


 そして、大人の出番は無いらしい。もう、おとーのハートは一つも残ってないかもしれない。 そう思いながら胡座をかいて肩を竦める。

 なにか柚希の癪に触ることでもしたかと一瞬、脳裏をよぎってしまったが、なんの心当たりもない。 とにかくすごく集中して遊んでいるだけらしい。


「線路、長いなぁ」

「ん、ままのところまで繋げるの」

「そっかぁ」


 どうりで、やけに細長い線路が出来ていると思った。 でも、問題がある。


「線路、あと少しで無くなっちゃうな」

「うん、でも、あのね。 電車さんの旅はどこまでも続くの……サンタさんにいっぱいお願いするもん」

「そっか、そっかぁ」


 まさかこの流れで、クリスマスプレゼントのヒントを得ることになるとは思わず、口では平然を装いながら慌てて脳内に記憶する。

このまま行けば、今年のプレゼントは決まりだ。


「柚希。 こんど一緒に本物の電車つかってどこかいこうか?」

「いく、いきたい!いきたーい!」


 その言葉で、ようやく顔をみてくれた柚希に僕は目尻を下げて笑う。しかしその途端、僕の背後のローテーブルに置かれているお菓子が目に入ったらしい。


「あ!おと~おかし!たべてるずるい!」

「さっきいらないって言ってたからな!ぜんぶおとーのだもん?」

「いってないもんん!おとぉーのいじわるぅ~」


 どうやら、さっきまでの会話のほとんどが空返事だったようで、いまになってお菓子の争奪戦が始まった。




【僕ら親子の旅は、今日も通常運転です。そしてそれは何処までも】

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