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-柚希6才-ギュッと幸せを詰め込んで

 ある土曜日。午前7時。 敷布団で僕は頭まで毛布かぶって寝ていた。 せっかくの休日をゆっくりしようと……決意していたのに。


「おとぉーおきなさああい」

「ぐはっっ」


 パタパタパタと忙しない足音が聞こえてきたと思った刹那――僕の腹に衝撃が走った。 人の腹に乗っかってケラケラと笑っているのは、紛れもない息子の柚希。先日、6歳になったばかりなのにまだまだ無邪気さは有り余っているらしい。


 渋々毛布から顔を出すと目と鼻の先に柚希の顔。 満面の笑みで僕の鼻をつまんで、なにがそんなに面白いのか笑いこけている。


「ふぁめなあい、ううき(やめなさい、ゆずき)」

「おきないと、あさごはんないって、おかーいってるもん」


 その手札を出されたら負けだ。 無いと言ったら本当に無いのが僕の妻だから。欠伸を噛み殺してから、柚希を胸の中に抱きしめるように起き上がった。 急な浮遊感に柚希も「わわぁっ」と情けない声をあげている。


「今日は、ホットケーキかな? 」

「あーーー!! おえかきするのわすれてた!おとーはなしてぇぇぇ」


 さっきの仕返しとばかり、より一層、ギュッと柚希を捕まえる。どうやら、チョコペンでお絵描きする予定だったようだ。 喉をクツクツと鳴らして遊んでいると――ぺしんっっ


「いったぁぁ」

「いい加減におきなさい、樹 」

「いや起きてた、それにしても酷くない里奈!?」


 頭に星が散ったと錯覚してしまった。 いそいそと手のひらで、叩かれた頭を撫でながら見上げると、腰に手を当てた妻の里奈と、里奈の後ろに隠れた柚希が視界に入る。


「もう出来上がるから行こ」

「「はーい」」


 柚希と僕で返事の声色もトーンも一緒すぎて、思わず吹き出して笑ってしまう。 里奈もその様子を見て目尻を下げている。


「樹はイチゴジャムでいいよね?」

「ん、ありがとう」


 答えつつ、少しだけ甘えるように、片腕を上にあげると、呆れた笑いを浮かべながらも勢いよく僕の腕を引っ張ってくれた。 そして立ち上がる。

 今度はさっきまで見上げてた顔を上から見つめる形で頭をぽふっと撫でると、背中を強くバシンッと叩かれる。


「もう! はやくリビングにきて!着替えてからね……柚希もだからね!」


 どうやら、少し照れたらしい妻が愛らしくて、無意識に口の端があがってしまった。それから、僕の布団の近くに雑に投げられていた柚希の着替えを先に掴む。当の息子は準備満タンだったようで、既にバンザイをして待っていたから、そのままパジャマの裾を掴んで上にバフッと脱がせる。


 そしてすぐに、パーカーを上から着させてズボンをちゃちゃっと履かせたら柚希の支度は完成だ。 着替えてすぐに柚希が「おかーちょこぺん」と走り出したのをみて、思わず「おとーを、おいてくなよ」と呟いた僕は悪くない。

 僕も適当に着替えてからリビングに顔を出すと既に何枚かホットケーキは焼きあがっていたから椅子に座る。 向かい側に里奈。 その里奈の隣に座って、肩に頭を預けるようにニコニコ笑っている柚希。


今日もまた、家族3人の幸せな休日がやってくる。


「おとおみて!これ、おとー」

「ハハッ……なんだこれ……さて食べるか」

「そうねそうね!私もお腹すいちゃったわ!」


みんなで目を合わせて、両手をパンっと合わせて「いただきます」


……こんな幸せが続けばいいのに。



でも、だけどこれは。



「いつき!私のバターとって」

「はいはい」

「おとー!僕も!」

「はいよー」


こんな、どこの家庭にも有り得る、幸せな日常は、どれも全てが……。





【有り得たかもしれない、1つの世界線に過ぎないのだ】

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