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片目の中の君へ  作者: くろーばー
第1章:成長
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第8話:エルの娘

 ―――宿に戻りまして


「エルシアさん、王女に会ったというのは本当なんですね?」


「ええ、本当よ。明日にでも赴きましょうか?”困ったことがあればそちらに向かいます”とは言ってあるから、いつだって会えるわよ。」


「私としては今は特に困っていることもないですし、それにあちらがいいですよとはいえお邪魔になるのは変わらないので、余計なお世話はかけないようにしておきましょう」


 簡単に会えるように聞こえるが、王女に会いたいと名前とともに伝えてもらう。そこから会うために王城内の人たちに承認を得る必要がある。そして最終的に王女の元へ伝えられ、許可が出る。

 私達のわがままでここまでの人たちに迷惑をかけるとなると、流石に気が引ける。


「僕としては王都内の図書館に寄りたいな」


「それならいつでも寄れるわよ?国が管理しているものだけれど、誰でも利用できるようにはなっているから、いつでも寄れるわよエリスちゃん」


 エルシアの言う通りで、国が図書館を管理しているが利用規制などの(面倒事)ことは司書さんにお願いしている。国も管理が行き届いていていないわけではなく、管理するものが多く他の機関に任せるしかないみたいだ。


「そうなのですか!?なら、明日にでも行ってみようかな?」


 エリスが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながらキャピキャピ喜んでいる。可愛らしい。

 明日の予定は特に決まっていないが、どうしようか…

 義手が欲しいといえば欲しいところ。でも義手を買うほどのお金はないんだよなぁ。王女様に頼めばもしかしたらと思うが、あれほどの面倒事をかけると考えると…やめておこう。


「ルーク?何を考えているのかしらね?まぁた難しいことでも考えているのかしら?」


「…まあ一応…私って右腕がないでしょう?義手が欲しいなと考えていましてね。ですが義手の相場はおおよそ100万ゼニーから。旅の期間に変換すると5年分。今の手持ちでは全く足りませんのでね」


「…では、明日私とルークで女王様に会いに行きましょう。頑張れば話が通じそうですのでね。

 エリスちゃんにはごめんねだけど一人で図書館に行ったりしていてね。帰ってきたらまた教えてあげるからね」


 明日の予定が決まった。私とエルシアは女王様に会いに行く。気が引けるが、エルシアには絶対の自信が見えたので、ここはグッと我慢する。

 ぐっと我慢しようと思ったが、このままだと義手をただただおねだりすることになるから、更に気が引けてしまう。もう決まってしまったことは仕方ない。

 ただただ義手が欲しいというわけで決めたわけではないから。困ったことがあれば頼ってくれてもいいって言葉に甘えたつもりはない。

 エリスについては私の方からも申し訳ないと思う。エルシアと私の本来の関係を使った交渉になると考えられるので、エリスについて来られては困る。エルシアが魔王ってことには本当に信じているかどうか怪しいとことなので、あれっきりエルシアが魔王ってことは隠している。

 それに私が元ユアンと知られたら、困ることはないように思えるが、今まで隠していたことからエリスの中の何かが壊れてしまうような気がする。

 これで今の関係が壊れてしまったら、嫌だ。


「エリス、ごめんなさい。明日は一人にしてしまいますが、こちらもできる限り早く帰ってくるので頑張って勉強していてくださいね。」


「わかった!早く帰ってきてね?僕、ルークたちが帰ってくるのが遅かったら宿で泣いて待ってるかもね」


「エリスちゃんをそんなことにはさせないわよ!ほんとに早く帰ってくるからね!」


 それで今日のところは終わった。エルシアとエリスは同じベッドで、私は別のベッドで寝る。

 エリスとエルシアはこの位置関係に賛成だが、私としてはエルシアとエリスをくっつかせるとエルシアのバカがエリスに移ると思って反対している。

 でもエリスの可愛い笑顔に私もニコニコしながら賛成してしまう。

 それではおやすみなさい。


 ―――朝になって

 日が昇る少し前に私だけ起きた。王国は静まり返っており、外を眺めると店を開く準備をしている人もいれば、朝からランニングをして体力をつけている人などがいる。

 昼や夜ほど賑わっていない。しかし、人がいない分建物の美しさや…

 日が出てきた。

 この太陽が差し込む光がより美しい。昼のような真上から差し込む光とは違って真横から差し込む光が眩しい。

 店の準備をしている人、ランニングしている人が皆足を止めて日を眺める。

 静かだけど、街は息づいている。


 今日もいい朝ですね。

 みんなが起きるまでまだ時間がある、それに食堂が開くまで時間がある。外に出てランニング、素振りでもするか…食堂が開く頃になればみんなも起きているだろうし


 宿の外に出ると、一人の少女が走っていた。しかし少女と言うには似つかないほどの美しい体つきをしていた。ただただ走っているだけだが、そのしなやかな体の動きには、ついつい眺めてしまう


「…なによ?」


 そんなに突き放すような言葉を言われるほど変な目で見ていたのか…?


「あ!すいません、失礼も承知なのですが女の子に似つかわしくない体つきをしていましたので……い、いや別に否定しているわけではなく、美しいなぁって。日頃から鍛錬しているのですか?」


「そうよ、それよりこの体を褒められたのは初めて。ありがとう。今はB級冒険者、毎日の鍛錬を怠っていると体がなまってしまうから」


「そうですか!すいません、お邪魔しましたね。」


「気にしないで、私はリズ」


「ルークです」


 私も頑張らないとな。ランニングを消化するため、広場まで走って向かう。

 一面芝が広がっており、周りには木が生えている。よく見た草原みたいだ。


 木刀を持ち、エルさんとの模擬戦を思い出してイメージトレーニングする。

 もう足運びについては普通の人から見れば文句は言われないほどには正確になった。しかし、間合いの取り方が今になっても上手にならない。イメージトレーニングでは補えない何かがある。

 間合いとはそもそも自分の攻撃が行き届く範囲のこと。

 可視化できればその管理は容易になる。試合の展開によっては範囲の大小は変わってくる。


 今となって感じる。エルさんはすごい。片手しかないとはいえ、それを補うために適切に間合いを管理するためにきれいな足運び、筋力。ただただ戦闘していれば得られる能力なわけではない。

 日々の鍛錬のおかげだろう。

 私ももっと鍛錬しなければ…


「…その足運び、リズのお母さんに似てる」


「!?…リズさん? お母さんというのは…」


「さんはやめてくれ、気持ち悪い。それとリズのお母さんはエル、A級冒険者。そして私がエルの娘のリズ」


「エルさんの娘さんだったんですね。」


 そういえばエルさんと別れる前にアレンが”お前には王国に娘もいるっていうのに”とか言っていたような気がするな。


「もしかしてあなた、エルの弟子だったりする?」


 さすが、エルさんの娘。こんな短時間でここまでの推測を立てるなんて、驚いた。人を見る洞察力はすごい。嘘を付く理由はないので…


「5歳の頃に剣術をエルさんから習っていました。大変お世話になりました」


「そう。それならリズと一回手合わせして」


 いきなりだな…せめても理由だけでも聞かせてほしい。ある程度の推測ができるが…エルさんの弟子という理由から、どのくらいの強さなのか知りたいとか?

 というか、今はそれどころではないな。エルさんの娘ということから中々の手練ということは分かる。下手に迎え撃つと最悪旅に支障が出かねない。


 リズが木刀を生成する。

 木属性の魔法だ、いいな私も使いたい。

 まだいいよと言っていないのにリズはもう構えをしている。それに目は本気だ。

 私が片手だということに気にもとめていない。

 木刀とはいえ、無傷で済むようには思えない。私も本気で相手しないといけない。相手の技量もわからないし、エルの娘だからそれなりの実力者に違いない。


「じゃあ、行くよ」


 隙のない姿でこちらに向かってくる。こちらも日々の鍛錬を思い出しつつ、足運びをして間合いを管理する。リズは堂々と間合いの中に突っ込み、両手で木刀を掴み切り込んでくる。

 力では確実に負けるので攻撃を受け流して、カウンター重視で戦いを進めていく。


 押されたり押したり、試合はどちらに傾いてもいいような状態。

 戦況を変えたのはリズ。攻撃にフェイントを入れ、カウンターを発動させ生まれた隙に一撃を叩き込む。

 しかし、それをただただ受けるわけではないルーク。咄嗟に防御したとはいえ、不完全。ある程度のダメージを防いだとはいえ、体制を崩してしまう。


「もういいわ、あなたはすごいよ。身体強化していないのにここまでとはね」


「リズも身体強化していないでしょう?それなのになぜ?」


「身体強化に使う魔力の出力を最小限にして身体強化をしていたの。それに年齢差だってあるでしょうに。リズは11歳、あなたはおおよそ9歳ほど。それにリズは両手、あなたは片手。それなのにここまでの怪我で済むなんて、(お母さんどんな稽古したの…!?)」


「魔力の出力を減らして使用すると身体強化を使っていることに気づかれないし、筋肉の疲労も軽減可能…なるほどね…

 それで、どうして急に手合わせをお願いしたのでしょうか?」


「いや、お母さんの弟子だったのなら、リズと近い実力の人と戦えると思って……

(お母さんのところで稽古してもらいながらサボってたと思ったなんて…)」


「そうですか、エルさんからはいろんなことを学ばせてもらいましたよ。おかげで今ここまで強くなれたのですから。それに私なんてまだまだです。本気でエルさんと戦っても負けるでしょうし…」


「ふつう、そこまで考えないよ…今を肯定していくのが普通じゃない?

 …!?ごめんね!怪我させちゃって…」


「いいよ、気にしないでください。いつものことですし。そろそろ時間なので帰ります。また会うことがあったらよろしくです。エルさんにもよろしく伝えておいてください」


 ―――宿にて


「るーく…おはよう。」


「おはようございます、エリス。エルシアが起きたら食堂に向かいましょう」


 エリスがいつものように伸びをする。リズは鍛錬しているおかげで、少し色がついて肉付けされた筋肉が強調されて美しい、そして対象的にエリスは細くて白い腕が美しい。

 この前もこんなことを思ったな。


「え~い!ルーク、何を見ているのかなぁ?」


「エルシアさん起きたのですね。朝食がまだなので早く食べに行きましょう」


 見ていたのは事実だが、それをバレてしまっては話が違ってくる。

 何がとは言わないけれど、決してそういう気持ちがあるわけではない。


 ―――食堂にて


 朝食の内容はパン、目玉焼き、スープ。

 特に会話することなく、みんな黙々と食べる。特に嫌なことがあって話さないわけじゃなくて、朝食が美味しいから。腹が減っていると余計美味しく感じるからだろうね


 部屋に戻り、それぞれ準備をする。

 エリスは図書館に向かうので、昼食代、勉強道具をカバンに詰めて出かけていった。

 それから私とエルシアは…(エリスが出ていった後


「だ!か!ら!王女様に会うんだからきちんとした身なりにならないと!」


「ユアンもそうでしょう?いかにも田舎者みたいな見た目をして!それに臭いし」


「これ以外に着る服がないんだって!洗濯に出すと着る服がないから1日中裸で過ごさないといけないんだよ!エリスにも悪いし、出かけることだってできないしさ!」


「私は昨日もこの服で連れ去られて、何も文句言われなかったんだからこのままでいいでしょう!?それに王女様は目が見えないからそこまで気にしないでしょ!私だって、ここまで来るのにこれ以外の服を売ったりしてきて、今はこの服しかないのよ!」


「それは連れ去られたから、許されただけでしょ?いまは会いに行くんだから身なりが整ってないと会う義理がないだろ?」


「あーもうめんどくさい!最悪私が魔王エルシアってことを使えばいいでしょ?いい加減にしてよ!」


 生前は身なりのことでひどい目にあったものだ…


―――エルの娘―――


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