第5話:あなたのために
ダークエルフは単体でA級以上の戦闘力がある。魔法の知識に長けており、危険な闇系統の魔法を得意としている。知性も高く、チームで連携して戦うこともある。フォール・リーフの効果も知っているだろう。栽培している可能性だってある。
(追ってくる可能性はないだろうし、これだけのために追うのはめんどくさいだろ…)
2本だったとはいえ、今村で不足しているみたいで少し高値で売れた。警備隊にはダークエルフがいたことを伝えた。だからといってどうにかなるわけではないか…それに信じてもらえたかどうか…
日が完全に沈み、宿に帰ると
エリスが、ベッドの上で寝ていた。相当頑張ったんだろうな。錆の件でもかなりお世話になったんだし…
「エリス、夕飯の時間ですよ。起きてください。早く行かないと食堂が閉まってしまいます(嘘)」
「ハンバーグ食べたい…むにゃむにゃ…」
「ほら、早く起きてください!」
激しめに体を揺すって無理やり起こす。腹をすかせたまま寝られるのはあまり良くない。
おかげでようやく起きた。
食堂に向かう。メニューの中にハンバーグがあるので頼んだ。朝食のときみたいにならないように1人前頼んだ。成人向けに量が設定されているので、もとよりこれでよかった。
「わぁ!ハンバーグだ!でもなんで1人分しかないの?」
「朝の時を思い出してみな?」
「そう言われると…納得…」
夕飯を食べ終えると、私はエリスに先に風呂に向かいますと伝えて大浴場に向かった。ダークエルフから逃げたときに少し汚れたからな…明日の出発は早いからササッと入ってこよう。
部屋に戻るとエリスがいなかった。どこ行った!?
先に部屋戻ってるねとは言われたもの、いないとなれば探さないといけない。
まさかダークエルフに……それかまだご飯食べてるか……
とりあえず食堂に向かっていなかったら、捜索活動しよう……
―――食堂にて
「あれ?さっき食べてた子よね?お友達なら戻ってたわよ」
「部屋にいなかったので心配しました。行き違いだったようですね。」
「……君が出てったあとすぐだったんだけど…部屋には戻ったのよね?」
「……!?」
(嘘だろ!?被害は私だけだ…なぜエリスが…?フォール・リーフはすで売ってある。エリスが仲間であることがバレるはずもないのになぜ?
なんでこんな事になった…)
―――フォール・リーフの群生地にて
月光がフォール・リーフを照らしている。きれいと言うにふさわしい
その中にフォール・リーフを摘んでいるエリスの姿が
「エリス!!」
林の奥からダークエルフが現れて、言葉を発する
『フォール・リーフが摘まれたことを攻めるつもりはない。ただ、助けが欲しい』
『なんだ?だからといって人質を取る必要はないだろう!解放しろ』
『ダークエルフ一族は神聖魔法が使えない呪いにかかっている、回復薬を作るのには神聖魔法が必要。故に人から力を借りる必要がある、この件については謝らせてもらいたい。申し訳ない』
『神聖魔法…それにフォール・リーフの成分を抽出したとしても回復効果しか得られないはずだ。フォール・リーフを使うほどの傷なら少し我慢すれば治るはずだが?』
『アンチド・リーフとフォール・リーフを調合すると強力な解毒薬になる。ここは唯一のアンチド・リーフの群生地、故に採取しにここまで来た。』
『危害を加えるつもりはないと?』
『ああ、カイザー様に誓おう。』
魔王カイザーにまで誓えると言うなら信じてもいいだろう…
「エリス、大丈夫か?」
「うん、でもこのエルフたち何言ってるかわからないの。」
「それは後で話す。それよりもエリス、お前神聖魔法は使えるか?」
「いまのルークちょっと怖い…」
(…!?……そうだ、焦るな。慎重に解決しなければ、もし失敗でもすれば何されるか。)
「ごめん…少し焦ってただけ。それで、神聖魔法は使えるの?」
「これってフォール・リーフだよね?これを抽出してほしいってこと?それならできるけど」
「お願いできるか?」
「慣れてないから少し時間かかるかも……」
できればそれでいい。端的かもしれないけれど、ダークエルフと敵対するのは絶対避けなければいけない。だから、できればいい。
神聖魔法自体使えることは珍しくない。人間に闇魔法が使える人間は少ない。
逆に魔物のような対となるような生き物は闇魔法が使えるのは一般的、神聖魔法が使えるのは珍しい。
だからダークエルフが頼んだ理由がわかる。
『強引に協力を申し込んで申し訳ない。お詫びはなんでも受け付ける。だから何なりと言ってくれ。』
『もう一度確認していいか?敵対するつもりはないんだな?』
『ああ、魔王カイザー様に誓う。』
『ならばいくつか質問させてもらう。報酬はそれから決めてもいいか?』
『構わん』
『お前たちはどこから来た?』
『南東のディソード大陸のダークシェードから来た。』
『次だ、なぜフォール・リーフの抽出液が欲しい?』
『族長が時効性の毒にかかって、それでここまで赴いたわけだ。猶予はあと10ヶ月しか残っていない』
『だから、強引にも協力が欲しかったのか……その毒の持ち主は誰だ?』
『…ヴァンパイアだ。勇者に倒されてこちらの大陸に流れてきた。どうすればよかったのだ……』
『ヴァンパイアで毒を持つのはごく一部のはず……それに時効性となると……!?それでは効き目がありません!』
『うそだ!本には効き目があると書かれていた。間違いなどあるはずがない。』
『それは180年前の知識です。今では一時的な解毒でしかないと証明されています。副作用覚悟になりますが、世界樹の樹液かドラゴンの涙、胸部鱗が有効です。副作用を消すならフェアリーの心臓です』
『それは、本当なのか…?』
『ああ、ここで証明する方法はないが確かだ。』
「ルークできたよ!これだけあれば大丈夫かな?」
『これだけあれば大丈夫か?お詫びの件だが、人間界で使われている通貨はあるか?今多少不足していてな…』
『ああ、これだけある。遠慮なく受け取ってくれ。抽出の件、助言感謝する。機会があればこちらに赴いてくれ。それと名を聞いていいか?』
『私の名前は、ルーク、隣がエリスだ。』
『私の名前はロイだ。ありがとう』
これでどうにかなった……焦った。しかし、ダークエルフが人間に協力を申し込むとはな…しかも今はほとんど魔王エルシア領の下にある人間にね……エルフとダークエルフは対立しているというのにか…それだけゼファーの死の影響力が大きいか伝わってくる。
「ルーク?あのエルフたち立ち去っていったけど、何話してたの?僕の名前も言われてたような気がするし…それになんの言語なの?」
「とりあえず宿に戻ろうか。もしかしたらのこともあるからね」
―――宿にて
「おや?、随分遅かったじゃないか?どうしたの?」
「この子がちょっと町外れのところに向かっていってしまったようで…」
「そう、なら良かったわね。なにせダークエルフが現れたって伝えられたからねぇ」
「そうなんですか!?無事でほんと良かったです」
部屋に戻って、エリスに会話の内容を伝えた。あまりにシビアなことは避けつつ伝えた
「あの黒いエルフはダークエルフって言う種属なんだね。わからなかったや。それより族長大丈夫かな…?僕の抽出が失敗してたらどうしよう…」
私から見るに完璧な仕上がりだった。魔人語が話せる程度ならどうにか説明がつくが、抽出に成功していると私の口から伝えても怪しまれる。
「大丈夫、エリスはすごい魔道士になるから」
「ほんと?やっぱ僕ってすごい魔道士になるのかな!?」
「なれるよきっと。」
それよりも受け取ったお詫びが想像以上の額で驚いている。これならオルヴァ・ヴェレア王国まで持ちそうだ。
「ダークエルフさんたちもう一つ植物持ってたけど、あれは抽出しなくてよかったのかな?」
「あれはアンチド・リーフって言って、闇魔法でしか抽出できない植物らしい」
「てか、ルークって魔人語話せたんだ!知らなかったよ。今度教えてほしいなぁ」
「学校の入試に合格したらね。そしたら教えてあげてもいいよ。さあ寝るよ、今日はもう遅いからね」
「はーい…ルークのケチぃ。本当はもっとダークエルフさんたちと話してたくせに。」
「はいはい、早く寝なさい。ただでさえ寝起き悪いのに、遅くまで起きてたらおいてくからね。」
「護衛する人がいないのに先に進むなんて、意味ないじゃん!」
(…痛いところ突くな)
「早く寝な。朝食抜くよ?」
「んふふ、ルーク兄ちゃん必死で可愛い!しょうがないなぁ、明日になったらもっと話ししてね」
(…もう手に負えない。完全に一本取られたな。)
―――外で懐かしいような風が吹く、でも一種の怒りが含まれているようにも感じる
「エリスは先に寝てて、私はちょっと外に行ってくる」
「……」
て、もう寝てるのか…
急いで宿の外に向かう―――
街外れたところに普通の人が立っている。けれど、なぜだろうか懐かしみを感じる。
一瞬強風は吹く、反射的に目を閉じてしまう
再び目を開けるとそこに人はいなかった。
見間違えか……
「あら?やっぱりユアンと同じだわ」
声が聞こえる方を向くと美しい女性が鼻を立てながら私の匂いを嗅いでいる
「す、すみません、ユアンとはどういうことでしょうか?」
「やっぱりユアンに似ているわね。」
再び強風が吹く。
「あの格好じゃあわからないわよねえ?やっぱり私といえばこの姿よねぇ」
「…エルシア?」
―――あなたのために―――




