第28話:救済
私とフェリックスの言っていた嫌な予感というのは外れていたようだ。
あの後3日間という長くて短いような時間をかけ森を脱出することが出来た。
森から抜けた先、小さな村を訪れた。
馬を含め、騎士団員全員が疲れているので、しばらくの間休息を取ることとなった。
ハウルにも事情を話し、理解を得る事ができた。
村長にも一応取り合っておくこととなった。
「すみません、急に押しかけて更に宿泊までさせてもらって。」
「いえいえ、こちらこそごめんなさい。人数分の宿泊部屋を用意できなくて…」
村の住民はとても穏やかで、どこか落ち着きのある人たちで良かった。
村もとても豊かで過ごしやすい。
「いえ、大丈夫です。馬車を停める所があればそれだけで十分です。」
「ほら、君たちも挨拶だけはしておきなさい」
「こんにちは!」
「こ、こんにちは…」
「がおー!」
村長の背後から3人の背丈からして子供が出てきた。
「この獣人の子は?」
「先週の話でしょうかね……勇者様が連れてきたのですよ。
……そういえば、”1週間後にたくさんの兵を連れた騎士団が訪れるだろう。そのときにこの子を見せてあげろ”と言われました。時期的にも、この人数的にも合ってるのですよ。ですから貴方がたは騎士団様でしょうか?」
村長の言葉に迷いは何一つとしてなかった。まるでいつもの出来事であるかのように。
「ええ、実は私達は騎士団です。獣人の子を探し出すために、秘密で騎士団を動かしています。できれば内密にお願いします。」
「ええ、分かりました。」
「重ねて申し訳ないが、その獣人の子を一度私達に預けてくれないか?」
「ええ、勇者様からそうするよう言われているので」
”がおー”と言った獣人の子供を連れてハウルのもとへ連れて行く。
馬車へ近づくに連れ尻尾の位置が高くなっていくのが見て取れる。鼻をひくつかせ、匂いを嗅いでいる。
ある程度近づいた途端、急にその獣人の子供が走り出した。馬車の最後尾へと向けて。
その目線の先には馬車の中から勢いよくハウルが出てくるのが見えた。
「ぱぱ!」
「タラ!」
感動の再会だった。
お互いがお互いを抱き合い、お互いに着ている服をしっかりと握り、決してもう離れないという誓いを交わしているようだった。
「やはり勇者様の言葉には偽りがないようですね。」
横から声をかけてきたのは村長だった。
「よくわからないことを聞いてもいいですか?」
「ええ、構いませんよ」
「勇者とは一体何なのでしょうか?」
村長は手を顎に当て、考える。
「……それは人それぞれでしょう。しかし、私達にとって勇者とは救済者です。」
救済者と言われると納得がいく。他にも例えるならまだまだありそうだ。
「私は、……わかりません」
「っはは、構いませんよ。」
「それと、勇者様に助けられた身としてお礼を言いに行きたいのですが……」
しばらく上の空を眺める。目を閉じ、他の感覚を頼りに何かを感じ取っているようだった。
すると、村長が方向を指差す。
「南西の方向に勇者の住処がある。神の御心で結果がどう動こうと構わないのなら、お礼を言ってきても良いでしょう。」
何か意味を含まれた言葉でエルの質問に答える。
「ありがとうございます」
―――
3日間という時間が過ぎた。
森を抜け、その先には小さな村があった。
エルシアの治療は完了し、エリスもいつも通りの状態に戻っている。
「ここにはあまり長居しないほうが良さそうね」
そういったのはエルシア。
理由を聞こうにも全く答えてくれなかった。
どうやらエルさんいわく、この村に数日間泊まる予定だそうだ。
休息も取りたかった頃だし、ちょうどいい。
私達は村の宿泊施設を借りれるようで、荷物の整理をしていた。
ある程度まとまり、宿に運ぼうとしていた時、外では目が離せない瞬間があった。
ハウルと娘のタラが再会していた。
いつ見ても、親子との間の絆は感動する。
荷物のまとめなどをしていたら、気付けば夜となっていた。
村から少し離れた平原でみんなが集まっていた。
焚き火をいくつか置き、グループとなって焚き火を囲っている。
「良かったな!ハウル!」
「ええ!本当に…本当に……もう絶対離れたりしないからな、タラ」
「うん!」
言葉はまだ震えている。でもそこにはもう決して離れないという約束があった。
感動の再開を祝うように皆が雑談を重ねる。
「スープの準備ができましたよ!」
その声を合図に、皆が器を持って配膳を待つ。
その波に乗ろうとして、私も器を持って行こうとするが、突然肩を掴まれて行く手を阻まれる。
「すまないルーク、少し時間をくれないか?」
エルさんに言葉をかけられ、村とは反対の方向へ連れて行かれる。
「どうしたのですか?エルさん。」
「実はこの近くに勇者が住んでいるみたいなんだ。ハウルの娘を助けてもらったお礼を明日行こうと思っている。」
特にこれと言って不思議なことではない。なんなら私を連れ出して伝えることではない。
「それはいいですね。私も一緒に行ってもいいですか?」
「ああ、それは構わない。……でも村長にも同じように言った時に返ってきた言葉がどうにも引っかかるんだよ…
”神の御心で結果がどう動こうと構わないのなら”
と言われた。」
「確かに、なにか意味がありそうな言葉ですね。」
神の御心…これが何を指しているのかはわからない。でも何らかの現象で私達の運命を動かすということが何故か伝わってくる。
「だから、今は人を選んでいるんだ。今じゃなくてもいい。だから行くか行かないか決まったら私に教えてくれ。」
「私は行きますよ。」
「…そうか……わかった。明日の昼過ぎだ」
そう言って、エルさんは他の人にも声をかけに戻っていった。
私もゆっくりと足を動かし、戻っていった。
―――
翌朝、私はいつもどおりのことをする。
朝の走り、素振り。最近はリズも一緒にやっている。
「ねえ、ち、ちょっと対人してみない?」
「いいですよ。でも負けませんからね」
お互いに距離を取り、始まる。
リズが踏み込んだことで始まりの合図となった。
しかし、どうにも違和感が残る。リズとの実力差がはっきりとしている。
私はただリズからの攻撃を受け流しているが、力が全くこもっておらず本当に軽く受け流すだけ。
対人だから型だけと考えると合理的とも言える。
流石にずっと受け身のままでいるわけには行かないので、反撃に出る。
一瞬力を込め、リズの剣を弾く。リズの手にはまだ剣が残っており、防御もまだまだできる。
もし防御が間に合わなかったらと考えると、自然と力は抜けていた。
だから、剣先の速度は極端に遅くなっていた。
防御する時間は十分にあったはず。なのにリズは防がなかった。
「っへへ、負けちゃった…」
あたかも負けるつもりかのような声色で言う。
「最後の攻撃、防御する時間はあったはずですよ?」
「…実力がはっきり見えてね…もう十分だったんだ。る、ルークのほうが全然強いって」
この言葉を言う時、悔しさが混ざるはずだが、私はリズの話を聞こうと目線をリズの顔に合わせていた。
でもそこに映った表情に悔しさはなかった。
でも、どうしてだろうか…?
私にそれを聞く勇気はない
「…対人ですよ、本気で来ないと」
「わ、わかってるよ!」
ということでリズとは別れて、私は魔物を討伐しに向かった。
正直、昼になるまでは暇なので何をしていても良かった。
森へ向かう途中、フェリックスと出会った。
「あれ?ルークじゃないか!何しに来たんだ?」
「魔物を退治しようかなと思いまして」
「ちょうど俺も行こうと思っててな。一緒にどうだ?」
「はい!」
フェリックスさんがいるとなれば心強い。
流れに乗るように森の中へと入っていく。途中途中で他の騎士団員が戦っているのがわかった。
「…血気盛んですね…」
「君も言えたことじゃないよ」
そんな冗談交じりの会話を繰り返して進んでいると、突然襲われる。
判断が遅れて、避けて対処することとなった。
剣を抜き、構える。
先に仕掛けたのは私。相手もこちら側に突っ込んできたのでタイミングを合わせて首を切る。
「へぇ、やるじゃん」
とフェリックスが言ってくる。
どうやらフェリックスは襲撃にあった瞬間剣を抜いて2体の魔物の首を切っていたようだ。
「フェリックスさんの方がすごいですよ…」
「いいや、そんなことはない。俺がその年の頃だったら食われて終わりだろうからさ」
そう…なのか…?
…そうか。私は強いのか…
「では、もう少し奥に行きますか?」
「いいや、俺はやめておいたほうがいいと思う。」
「どうしてですか?」
「逆に聞くが、ルーク、お前は今心に穴が空いているだろ?」
「………」
はっきりと言えなかった。
あの嘘を引きずっているからだろうか…
どちらにしろ答えは
「はい」
としか言えない。
「一旦戻ろう。」
フェリックスに流されるまま、村まで戻ってきた。
今は人の気配がなく、とても静かだ。
「無理矢理にでも話せと言わない。でもあのまま戦ってたら取り返しがつかなかったかもしれない。」
エルさんから話を聞いているのだろう。あの状況で私が回避を選択する可能性はない。とフェリックスは判断し、私をここまで連れ戻してきたようだ。
私のことを一番分かっているのは私のはずなのに、一番分かっていないのが私のように感じる。
「そうかも知れませんね」
その可能性を否定できないあたり、私の心に穴が空いているのだろう。
「………まぁ、一番信頼の置けるやつに話せば多少は軽くなるだろ。なんなら俺が聞いてあげてもいいぜ?」
「そうですね…ありがとうございます」
「いいってことよ」
そう言うとフェリックスはどこか歩いていってしまった。
そのまま私は馬車の中へと戻っていった。
一番信頼を置ける人物の元へと―――
―――救済―――




