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片目の中の君へ  作者: くろーばー
第2章:次の目的地へ
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第21話:母の剣

まだ日は出ておらず、冷え込んでいる。

エルさんに指示された通りに南側の城壁へ向かう。門は空いており、いつでも出入りができる状況。


「ルーク様達ですね。エル団長からは話を聞いているのでどうぞお通りください。」


門番が事前にエルさんと打ち合わせしていて、私たちの特徴などが全て把握されていた。だからこんなにもスムーズに通ることができた。


門を通り抜けて少し進むと、大きな岩がある。

そこにいくつも馬車が止まっているので、エルさん達だろう。


大きな岩に向けて馬車を進める。

近づくとヒソヒソと話しているのが聞こえる。


(なんだろうか…ここはいっそのこと、堂々と…)


「おはようございます。ごめんなさい、少し待たせましたか?」


「「「静かにして!」」」


小声だが、団結力に勢いづいて迫力があった。


「…ルーク君か…今エル団長が娘さんのリズさんと寝てるから、大きい音は出さないで…」


「理由は分かりましたが、ど、どうしてでしょうか?」


「あんな仲睦まじいとこ見せられたら、誰も邪魔できませんて。しかもエル団長が最近“リズが顔を合わせてくれもしないんだよ…”って愚痴ってきたくらいですから、尚更ですよ!」


「は、はぁ…」


呆れとよく分からないの反応。男の言っていたエルさんの言葉が気になった。

ルーク自身、あの日以来エルさんとリズは仲良くやっていると思ってた。でもあの発言を聞く限り、そこまで仲良くしていたように思える。


「…どうしてでしょうか?」


「んー…どういうことって…俺等にもわからないよ…」


「そうですか…でも結果的に仲良く出来ているようですし、いいじゃないですか」


そう、仲良くできていればいいのだ。


「そうだな………おっと、自己紹介が遅れた。

騎士団副団長のフェリックスだ。

そんなに実力はないが、運だけはいい男だ。よろしくな」


「ルーク・ラフナです。こちらこそよろしくお願いします。」


フェリックスがルークに挨拶すると、他の騎士団員たちもルークに向けて挨拶をしに来た。

一通り挨拶が終わり、フェリックスが声を上げる。小さな声で…


「そろそろ日が昇りそうだ。エル団長からは日が昇ってからと言われているが、別に縛られる必要はないんじゃないかと俺は思う。ということで出発しようと思う。各員準備」


予定では日の出と同時に出発であったが、計画を前倒しにするらしい。もしも途中でなにかあって宿が取れなかったみたいなことがあるかもしれないから。


昨日の打ち合わせどおりに、隊列を組んでいく。

馬車と馬車をつなぎ合わせたり、馬と馬車をつなぎ合わせるなどして準備する。


まだ日は昇っていない―――


「さて、準備は整った。早速出発しよう」


フェリックスが合図を出し、隊列を組んだ馬車が出発する。

進む道は暗く、よく見えない。


しかし、先頭からブツブツと詠唱が聞こえる…


『未だ日は日は昇らず、地は闇に染まっている。然れど、我らの歩みは止まらず。古の灯台の灯火よ、我らをその光で導き給え―――ライト』


ほんわかと先頭から光が漏れるのがみえる。


「……なぁ、ランプで良くない?」


(……w)


さすがのルーク(ユアン)も黙ってしまう。なんなら笑いをこらえている。

あの程度の光なら、『光よ、灯れ』くらいでもできるため、オーバーキル並の詠唱をあの人はしていたのだ。


騎士団たちは暇なときはいつもこうやってふざけ合ったりしているのか…?とルークは思い、前世の研究室籠もりっきりだったのとは反対で少し羨ましく感じた。


マッチ棒に火がボワッとついて、ランプに火が灯る。

明るさはさっきのライトと同じくらいの明るさが保たれている。


ほんとにさっきのはなんだったのだろうか?


かれこれ30分ほど進んでいると、あたりが段々と明るくなり日が昇っているのが確認できる。


「日が昇ってきた!魔物が活発に活動することはほとんどないだろう。この先開けた場所を通っていく。見張りは1人づつで構わない。」


フェリックスが告げ口で全員に伝える。

団員たちを見ると2人が見ている。1人でいいと言ったはずだが……


(…ハウルさんの娘を探すためか!?)


そう。この旅の目的はオルヴァ・ヴェレア王国に行くためじゃなくて、ハウルさんの娘さんを探すためだ。


そう思ったルークは着いていくのだから私も探さなければと決意した。


何事もなく順調に進み、時間が過ぎた。

森の横を沿うように移動していると……


「「右!!」」


団員の誰かが大きな声で叫ぶ。ルークが見ても何もわからない。あるのはただの森。たしかに何かはありそうではある。


「盗賊団が私達を見ているみたいね」


馬車の中からエルシアがこっそりと顔を出して、ルークに様子を伝える。


「どうする?サクッと終わらせちゃってもいいし…」


「いや、私に言われても…」


「あら、魔法を詠唱し始めたみたいよ?」


「とりあえず、防御魔法を張って防いだらどう?」


「そうね、魔王の威厳を見せるときかしらね」


そう言ってエルシアは手のひらを突き出し、無詠唱で正六角形型の防御障壁を張る。


盗賊団側も魔法の詠唱が終わり、魔法を放ってくる。放ってきた威力はそこまで無く、エルシアの防御に防がれる。てかびくともしていない。


馬車が止まる。


「敵意あり!総員体制を整えろ!」


控えていた団員が馬車から出てくる。昨夜作業していた団員は馬車の中で休憩。


盾を持つものは前へ出て、後ろには魔法使いが構える。


エルシアがフェリックスに何かを言うが、フェリックスはわかったというように手を軽く上げる。


「よぉ、商人さん。こんなに馬車を引き連れてどうするってんだい?」


「どうしたもこうも、ただの商業さ。ほしいならちゃんと金を払ってってくれよ?」


「はっ!お断りだね。俺等も金がねえんだ。それで、今構えている奴らは雇った奴らか?」


「まあ、そういう扱いをしようと思えばできるがな」


団員の目線が盗賊団相手に話しているフェリックスに集まる。

かるーくフェリックスが冷や汗をかきながら、話は進む。


「それでだ。俺等に一人力自慢がいてな、そいつと決闘して勝ったら割安で売ってくれねえか?」


「割合によるな…」


「タダで頼む」


そう言って、盗賊団の中から一人少しみすぼらしい剣士が出てくる。


こちらからは、魔法師が一人出てくる


「っちょ!こっちが剣士を出したらそっちも剣士を出してこいよ?」


「はぁ、もはやめんどくさいな…」


盾を構えていた剣士が縦を置いて前へ出る。


「そうだよ!そうこなくっちゃ!」


そうして両者ともに剣を構える。

フェリックスは何かを察しているように間合いを読み戦っている。


盗賊団の話し手の顔に笑みが浮かび上がる。


戦いに動きはなく、二人が剣を構えてただ立っているだけの光景。


そこにすべてを変える一声が入る。


「逃げろぉぉぉぉぉぉ!!!!」


馬車の方から大きく焦りの混じった声が響き渡る。


「フェリックスさん、捕まえましたけどどうしましょうか?」


「おや?俺の仲間がお前の仲間を捕らえたらしいぞ?」


盗賊団の話し手が目を泳がせながら手をモジモジさせながら黙っている。

どうやら、話し手たちが囮役でそちら側で時間稼ぎしている間、がら空きになった馬車の中身を強奪する予定だったらしい。


何でも用意周到な騎士団様たちである。


エルシアがフェリックスに話していた内容も、アイツラが囮かもしれない。ということだったのだろう…


フェリックス副団長の顔に笑みがこぼれる。


「俺の一声だけでお前らの今後が決まるんだぜ?さあ、お前らならどう動く?」


「おう!おう!どうした?」


馬車の中からエルさんの声が聞こえてくる。


「人質を一人捕らえているので、コイツラをどうするのか考えているところです」


「ボスは剣を構えているやつか?」


「いいえ、あのモジモジしているやつです」


フェリックスからボスが誰なのか伝えられ、エルはボスの元へとゆっくりと歩いていく。


「私はな、昨日…いや、今日か?まあ、どうでもいい。仕事して疲れたんだよ。それに今さっきまで娘と一緒に楽しく寝てたのになぁ?」


エルさんを横目に団員たちの方を見ると装備をテキパキと片付け、馬車に戻っていく。


「っは…しr……」


「どうしてくれんだよ?」


「女の分際で…片腕かつ、一人になった今、何ができるっていうんだ?」


「私達を襲いに来たってことは返り討ちに合う覚悟は持ってるんだろうな?」


盗賊団は皆剣や杖を構える。争いになることは決まった。


「あっは!あるわけねえだろ」


「あーあ、最期の情だったのにねぇ」


―――エルが剣を抜く―――


ゆっくりと低い声で語りかける。

エルさんの言葉が出てから数秒の沈黙が続くと、急にエルさんの姿が消える。


次に姿が見えたのは首を切られた盗賊団の立ち姿と、血糊がついた剣を持っているエルさんの立ち姿。


何が起きたのかわからず、盗賊団たちは立ち止まって固まっている。


そしてまたエルさんの姿が消える。

また姿が見えると似たような景色がある。


ことの重大さに気づいた盗賊団の者は青ざめた顔をしたり、情けない声を出したり、崩れ落ちたりしている。


そんなことを知らずにエルさんは次から次へと、また一人、また一人と首をはねていく。


そんな中ルークはエルさんの剣に見とれていた。今の状況に恐怖しているが、それ以上に剣の美しさ、私もなんな動きができたらいいのにな…という憧れも抱いている。


残り数人となり、盗賊団の話し手が口を開ける。


「わ、わかった…さっきのことは謝る…お前の娘との大切な時間を奪ったことにも。俺等にも家族がいるんだ、だからお前が言っていることもよく分かる……」


「同情を仕掛けた命乞いね…」


「!?違う!本心だ!」


「へぇー、じゃあ私はどうしたらいいの?」


「俺達を逃がしてくれ……」


エルさんにニンマリとした笑顔が出てくる。意図はわからない。

結果的に生き残った盗賊団はエルさんからの許しが出て逃げていった。


エルさんは何事もなかったかのように馬車の中に戻っていった。

またリズと一緒に寝るのだろう。


そしてまた馬車が目的地に向かって動き出す―――


―――母の剣―――


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