第19話:出発前夜
出発まであと1日。
やることと言ったら、簡単なことで清潔を保つこと。
今のルークたちは不潔と言っても過言ではない。
体みたいな見た目では言えない清潔は保てているが、見た目は清潔と不潔の中間。人によっては気にするし、気にしない具合。
服はボロボロ。ルークはローブを新調したとは言え、エリスとエルシアは未だに古い服のままだ。
本来はこのまま買わずに進む予定ではあったが、エルさんと同行するとなると不潔のままではエルさんも気にするだろうし、何よりもルークたちが気にしてしまう。
宿を出て、ルークがローブを新調した服屋へと向かう。
「ていうか、ルーク?スノロム村を出るときに言えば家に服なんてたくさんあったのに…もうちょっと準備していれば買わなくても良かったのに…」
「服なんていくらでもあるって言っても、エリスは毎日同じ服を着ていたでしょう?そういう習慣が旅支度の失敗でしょ?」
「そういうルークだって、今服ないじゃん」
「私はローブを着たかったのです!」
「ローブ着ているとは言え、今もローブの下に灰色のズボンに黄緑色の半袖着てるでしょ……」
「これは仕方ないでしょ…脱いだらほぼ裸ですし…」
「不潔!不潔!って言ってるルークもローブ脱いだら不潔だからね?」
服屋へ向かう途中にエルシアも横目で聞いていたが、なんか微笑ましそうにニコニコしている。
他から見れば母親のように見みえる。
ちまちま話しつつ、歩きを進めていると目的の服屋についた。
ルークにとっては見慣れた建物だが、エリスとエルシアは初見さんだ。
「すみません、お邪魔します…」
「あー!あの時の少年じゃないか!?今日はなんのようだい?」
「後ろの二人に服を用意してほしくて、できれば動きやすいものがいいかな」
「それと、ルークにも一着!」
エリスが横から入り込む。ルークはローブをまとっているから普通の服なんか必要ないと思うが、もう一着あって損はないし、清潔にもなる。もし戦闘中にローブを脱ぐことがあったとして、服が選択中で裸で戦う様なことにもなりかねない。
エリスなりの配慮である。
「あいよ!動きやすい服ね…今あるのでもいいかい?仕立ててると時間かかるよ?」
「今あるのでいいです!前回はチャラだったので今回こそはきっちり払わせてもらいますよ?」
「うちは仕入先がお得意さんだから、安いよ?」
「助かります」
その後はエルシア、エリスの分を2着、ルークに1着用意してくれた。ここにいる全員着こなしなど気にしないので、動きやすい服だけを選んでくれた。
「お代は1500ゼニーだよ」
「流石に仕入先がお得意さんとは言っても、安すぎないですか?この量だと、6000ゼニーは相場かと…」
「お得意さんがね、サトー商会ってとこでさ、その商会の会長さんが私の親戚でね、いいようにさせてもらってるんだよ。」
サトー商会:この商会があるから世界の経済が回っていると言っても過言ではない。
「あのサトー商会と!?」
「そう!ていうわけで、いつもこの値段でやらせてもらってるのよ。じゃ、1500ゼニーきっちり払ってもらうよ」
特に試着せず、お代を払い店を出る。ルークの着ているローブは高性能、これだけを売っているのだから、今買ったのもなかなかのもの。やはりこの店にしてよかった
「この後どうします?」
「僕は焼きとうもろこし食べたい!」
「もう勘弁してくれ…」
「服屋に行くから食べちゃだめって言ってたけど、もう服は買ったしいいじゃん!」
確かにそう言ったが、流石に昼も近いので勘弁してほしい。昼と言ってもまだ飲食系の店は閉まっている。
「エルさんを手伝いに行くのはどうかしら?前日だから、忙しそうでしょう?」
「そうだな。手伝いに行こう」
エルシアの何気なさそうな一言でギルドに行くことになった。明日から一緒するわけだし、多少は関係性を深めておきたい。
近そうで遠い距離を歩く。時間としてはそこそこかかったが、体感にしてみれば一瞬。
ギルドに着き、ルークたちは中へと入っていく。
まだ昼前なので賑わっており、入った時に挨拶したが全てかき消されるほどだ。
エルさんの姿はなく、明日に備えて準備しているのだろうと知る。
受け付けに行き、エルさんについて聞く
「エルさんは今どのにいらっしゃいますか?」
「…?あっ!ルークさんたちですね。エルさんが「多分昼前には来るだろうから、顔を知っているお前は受付でまっていろ」って言われてたんですよぉ。昼前はあってますけど、こんな遅いとは思わないじゃないですかぁ!私が思ってたより2時間は遅かったですよ!まあ、愚痴っても仕方ないですし、案内します…」
ただ会いに来ただけなのに、申し訳なく思う。
2階に案内され、ハウルと話した部屋へはいる。部屋の中にはエル、ハウル、警備隊の数名がいる。
「おお!ルークか、遅いぞ!」
「呼んですらないのに来るのが当然みたいに言わないでくださいよ」
「ルークのことだから、来ると思ってたさ。まあ、話そうか」
とりあえずここに来た理由は、明日のことについて。出発は明日でどの様なルートで目的地に向かうか、ハウルの娘をどうやって救い出すか。
「まず確認だが、ルークたちは明日我々は出発するがついてくるんだな?」
「もちろん」
難しい言葉はいらない。ただただ誠意を見せるだけ。
「っはは!ルークらしい言葉だな。じゃあ、明日からの計画を話すぞ」
まず、明日の朝誰も起きていない時間に出発する。理由は騎士団を動かすとなると何かしらの出来事があるとわかる。となると、国民が総出で送り出そうとして、目的を口外しなければならない。
今回は口外はしてはならない。騎士団の名誉にも関わる。
それをみんなわかっているのか、顔つきが真剣。
「明日の朝5時、物音を立てず王国を旅立つ。荷物はすでに王国外にて準備してある。
半数の10名は現地で寝て過ごし、我々が合流すると同時に出発する。馬車は5台、一台辺り4人の計算だ。」
基本的な情報をまずは提示する。それがなければ話に矛盾が生じたりする。
「ルークたちの馬車は換算していない。ルークたちは先頭の一個後ろを常についてくるよう頼む。本来我々の任務だが、危険を犯してまで付いてきてくれるのだから、道中だけでも安心して過ごしてもらいたい思いだ。」
ここまで考えてくれて頼もしい。先頭はエルさんたちのようなリーダー感のある人たちで固め、後続は敵を発見できるよう注意を払う。
「当日の服装については、騎士団鎧以外なら何でも良い。ただし戦闘服にのみ限る。とする。」
この任務は王国内でもバレないように行われる。騎士団の栄光を守るためにも、多少のズルは許される。
「期間は4ヶ月だ。犯人の追走と、奴隷商売の取引内容の確認が主な内容だ。1ヶ月と半ヶ月で近くの村を経由しつつ、目的地には余裕を持ってたどり着く。その間1か月ほど調査を行い、我らの王国へ帰還する。」
「!!おい!ちょっと待て!期間が決まっているのか?冗談じゃない!俺の娘が見つからなかったらどうするってんだ!」
「話は最後まで聞け。続きを話す、我々が設けた4ヶ月間は王国外へ出ての調査期間だ。この期間を過ぎても調査は絶対に行われる。この調査は見つかるまで行われるため、我々があなたを見捨てることなど決してない。必要と非ば各国にも連絡を通しできる限りの調査を行い、あなたの元へ娘さんを戻します」
「…すまない、」
「気にすることはない。私も一人娘がいる。もし同じ状況になれば、私も同じような反応をするに違いないさ。
話はまとまった。各員、この場にいないものにこの場で話した内容を伝え、各自準備しろ」
「「「はい!」」」
エルさんが短い会議を終わらせる。実際この調査がどう動くかは誰にもわからない。失敗に終わるかもしれない、手がかりだけ見つかるかもしれない、娘さんが見つかるかもしれない、最悪なのは死んで見つかること。
「心配することはないさ、ルーク。私だって緊張してる。」
「エルさんでも緊張するんですね」
「っははは!何を言うかと思えば!そりゃもちろん私だって緊張するさ。
…どうだ?多少は気が楽になったか?そもそもだ。ルークたちは私達について行くだけ、そんなに気をはらなくていいんだよ」
「でもついていく限り、最大限役に立たないと…」
「そうやって、気を負って考えすぎるな。今回の役目は私達にある。今日は早く寝て明日に備えとけ、遅刻しても知らないからな」
「それはエルシアに言ってください。エリスは…大丈夫か」
エルさんと雑談する。エルさんたちに付いていく以上、ルークたちだって無関係ではない。だから気にしないなんて出来ない。
「ルーク、夕飯の時間ですよ〜エリスちゃんが食べたくて仕方なくて外で待ってるんだから!」
エルシアに促されるまま、エルさんの元を離れた。
―――宿にて
ここにいられるのも今日で最後なので、ちょっとだけ豪華な夕飯を注文する。らしい
「今日ここに入れるのも最後だし、ちょっと豪華なもの頼んじゃうわよ!」
「予算にも限りがあるので程々にしておいてください」
「ケーキ頼んじゃお!」
と、各々自由に頼んでいる。確かにエルさんについていくがために、エルさんたちが食費とかを出してくれてちょっと財布に余裕ができるが、計画性を持つためにも多少の節約はしてほしいところであるが、ルークも疲れ気味なので食欲で疲れを癒やすことにした。
「…僕もうお腹いっぱい…」
「私もよぉ…」
このまま満足してこの場で寝てしまいそうだが、ぐっと我慢して部屋に戻る。
「僕もう先寝るね…」
「私も…」
エリスとエルシアは先にベッドに入り寝てしまった。
(…明日の準備誰がするんだよ…)
ぐちぐち言いながらもルークは先に寝てしまった二人分の荷物をまとめる。
着替えやエリスの勉強道具を片付け、鞄にしまっていく。
買ってきた食料は馬小屋近くに止めてある馬車にしまう。氷魔法で保存できないのは致命的だが、夜の間は寒いのでなんとか持ちこたえるように願う。
食料は2週間分しか買っていない……
(…最初に計画を聞いておくべきだったな…いや、逆算してどのくらい掛かりそうかはわかったかもしれない…)
「そういえば、名前つけてなかったな……」
すでに数ヶ月をともにした相棒の馬に名前すらつけていなかった。
(…特徴……特徴、…ないな…てか馬に特徴なんて色か、毛並みしかないような…)
「無難によくある名前でいいか?」
ヒヒィンと鳴き声を発する。
「…じゃあ、いつも私達を守って連れてってくれるから、アレックスでどうだ?」
ルークの顔にアレックスが額をこすりつける
「よろしくな、アレックス。」
近くにある馬用の餌をアレックスの前に持っていき、「おやすみ」とアレックスに告げ部屋に戻ってルークはエルシアとエリスとともに寝た。
―――出発前夜―――




