第17話:ありふれた日常
―――宿に戻り、部屋を確認する。
エルシアとエリスはまだ寝ている。
今日は出発の日までに済ましておきたい準備があるので、時間早いけれどエリスとエルシアを起こす。
「エリス、エルシア、起きてください」
う、うぅ……と声を出しながらエリスはゆっくりと起き上がる。エルシアは目をこすりながら起きた。
食堂へと向かい、いつも通りに朝食を食べる。
ごちそうさまを伝え、部屋へと戻る。
「今日は、エルさんたちについていくために準備をします。」
今日は旅についていくための準備をする。詳しい旅路は聞いていないが、大まかな旅路は予想がつく。ここを出発して一番近くの町は2週間ほどかかる。ここから逆算して食料を調達する。少し多めに買いだめておこう。
「今日は一緒に行動しましょう!」
最近は別々で行動することが多かった。だからといって何か関係が崩れているわけではないが、ルークは心配している。親睦を深めるためというのも今回の目的。
「っへへ、楽しみ…」
エリスはすごく楽しみそうに喜んでいる。どこに行くの?果物いっぱい買いたいな…とか言っている。
旅の計画にかかわらない範囲では、エリスのやりたいことはしてあげるつもり。
身支度を整えて、お金を持って宿を出る。
まだ店は開いていないような時間帯だが、一部では開いている。
でもそういった店は値段が高いのが相場。
「まずはどこへ行きましょうか?」
「少し宿を出るのが早かったみたいね。果物でも食べ歩きしながら町を回ったほうが楽しいはずだから、果物屋さんに行きましょう。移動して時間が立って、その頃になったら果物屋さんもお店も開いてるはずだしね」
エリスも賛成なようで、エルシアの案で行くことになった。果物屋までは歩いて十分弱。
果物屋に着くと、2人先に並んでいた。ここは元々果物が美味しいと有名だったから、納得。
ルークたちが着こうとしたあたりで店が空いた。
りんご、ぶどうを買って、他の店を回る。
「まずは、パンなどを買いに行きましょう。」
ここは国の中心から外れた場所の果物屋。店の数が比較的少なくて、宿泊施設が多い。
いろんな店を見るなら中心へと向かわないといけない。いろんな食材を見るなら中心へ向かうべき。
ルークたちは食べ歩きをしながら中心へと向かって歩いていく。
十数分ほど歩いて水路を渡ると、宿によって遮られていた視界がひらける。
店や屋台などの数が圧倒的に増え、美味しそうな匂いが漂っている。
エルシアとエリスがあれ食べたい!これも食べたい!と騒いでいる。ルークも美味しそうなのは納得だが、流石に我慢してほしいと思っている。
「買い足しが済めば、買ってあげないことはないですよ。」
(…うまく避けて行こう)
「「ほんと!?」」
期待をした目で見ているが、財布のひもを握っているのはルークなので匙加減によっては買わない選択肢だってある。そもそも、後に昼ご飯を食べるため、今食べる必要はないと考えている。
(…でも、親睦を深めるためには、買ったほうがいいのか?)
かなり難しくルークは関係性について考えているが、実際はこうした方が楽しいかな?と関係性よりも今を楽しもうと考えている。
「エルシア、果物はどのくらい残ってる?」
「うーん…エリスちゃんがたくさん食べちゃったから、あとぶどうが2粒だけ残ってるわね」
「やっぱ、何か買ってくか」
「「やったー!!」」
ここで少し食べて休憩する。歩き食いできない物は先に選んで食べた。近くにベンチがあって、休憩するにはうってつけの場所。
1時間ほど食べて、そろそろ買い物をしに行くかとなった。
歩き食いができる食べ物を選ぶ。
エリスは焼きとうもろこしを選び、エルシアは焼きコケコ(焼き鳥)、ボア串(牛串)を選んだ。
ルークはとは言うと、焼きコケコ。無難なセンスだろう。
それぞれ貪り食いながら、街の中を歩く。
まずはパン屋へと向かう。
流石に、店内にまで食べ物を持ち込むわけには行かないので、ルークはエルシアに焼きコケコを渡してパンを買う。
「買ってきましたよ!」
買ってきた分は2週間と少し。いつも通りの逆算の量で買ってくる
「「ん?もかえひ」」
エルシアとエリスが貪り食いながらおかえりと言う。エリスは焼きとうもろこしを口に咥えていて可愛いが、エルシアは串を持ちながら口を動かしている。
「エルシア、私の分はどこです?」
「ん!」
エルシアが渡してきた焼きコケコは2本。渡したのは3本だったが帰ってきたのは2本。
食ったか、ただただ預かってた料で1本取られたのか……
「えるひあのお姉ひゃんが、ひゃっきいっほんたへてたよ!」
「ありがとう、エリス。……エルシア、覚悟はできてるんだろうな?」
ルークはエルシアの弁慶の泣き所を足で叩く。怯んだところでボア串を1本盗む。
「これで、チャラだ。食べ物の恨みを思い知れ!」
歩き食いをしながら買い物をしていると、昼ご飯の時間になった。
この時間になると飲食系の店以外はほとんど閉まる。
ルークがエリスとエルシアにごはん屋さんへ行きますか?と聞くが、もうすでにお腹いっぱいという答えが返ってくる。
しまった店は数時間は開かない。昼の休憩が入るからだ。
「一旦宿に戻って休憩しましょう」
宿に戻ると、エリスは歩き疲れたのか昼寝をするそう。エルシアも眠いみたいなのでエリスと寝る。
ルークはと言うと、することがない。
「ちょうどエルさんも暇そうだし、会いに行こう」と考えた。
なんなら稽古してもらおうかなって考えている。
―――ギルドにて
「すみません!エルさんいますか?」
「…ん?ルークか!どうしたんだ?」
ギルドのドアを開けて中に入ると、エルさんがニコニコしたような表情でカウンターに座っていた。
ルークの顔を見て驚いたような顔をしていたが、すぐに笑顔になった。
「稽古してもらおうかなって……」
「稽古か…久々だが、どのくらい成長しているのか見ものだな。」
「あまり期待しないでくださいよ……」
「っはは!この世界は自分のことを謙遜しているほど強い傾向があるだが、そういうことだな?」
久々に二人きりの場面だったので、軽く談笑をした。そのあと、エルさんがいなくなった後のルークの生活を話たりした。ここに来た理由も話した。
「そうか。あのエリスっていう子をオルヴァ・ヴェレア王国まで護衛するためなんだな。ここに来た理由は」
「まあ、旅というか護衛の途中ですけどね。」
「かなり話し込んだな…そう言えば、稽古しに来たんだったな。訓練場に場所を変えよう。話の続きは移動しながらでもいいだろう」
ギルド所有の訓練場まで移動する。その間、旅の途中で起こった出来事などを聞かせた。
稽古の方については、エルさんが快く承諾してくれた。いまのルークの実力を知るにはちょうどいい。それに新しいことも知る機会となる。
「では、ひと手合わせお願いします!」
稽古が始まる。まずは今の実力を知るための模擬戦。
ルークはエルさんとの稽古を思い出しつつ、戦う。足運び、間合い、エルさんから学んだことのすべてを思い出しながら。
一方エルさんの方は、最初はルークと遊び半分程度で模擬戦をしていたが、ルークとの成長ぶり、技量の高さに顔をしかめる。
エルさんが一段とスピードを上げ、試合に区切りをつける。
「やはり、エルさんは強いな…」
「いや、あのペースで戦いを進めていたら、私は劣勢になっていただろうし、ルークの成長を感じるよ」
エルさんがルークに対して褒める。
でも、まだ足りていないところを指摘する。しかし、ほとんど些細なことで、どちらかと言うとこうした方が良いというような言い方。
今のままでもいいし、こうしてもいい様な指摘。
「相当努力してきただろう?足運びとか、間合いの管理はほぼ完璧だが、剣筋がまだまだ甘いな。力がうまく伝わっていない。」
「具体的には?」
「一回素振りしてみろ。剣先の軌道を見れば分かるはずだ」
エルさんに言われたとおりに、木刀を持ち、正しい姿勢を取って、振るう。
「…曲がっている……」
「そうだ。片手のせいだろうな。木刀だから今は軽くて制御しやすいだろうが、真剣となるともっと難しくなるだろうな……」
ここにて、不利的要素を突きつけられる、ルーク。しかし、ルークはエルさんの行動一つ一つを観察していた。
足運び、攻撃のタイミング、剣筋…
「治す方法はあるはずですよね?」
「まあな。まずは筋力をあげることだ。剣筋を制御するためには絶対必要。
次は筋肉の動かし方だ。ゆっくりと剣を振ってみると、分かると思うがかなり筋肉の動かし方というのは精密だ。これは体に慣らすしかない。
どれも対人で身に付くものではないが、これができればもう技量的には私と同等だ。」
エルさんが、剣筋の改善方法を教えてくれた。朝の鍛錬に加えることになる。
「他にも、秘密があったりしますか?」
「まあ、一応ないというわけではないが、あるにはあるぞ」
エルさんが教えてくれたのは身体強化と、動体視力について。
身体強化については知ってのとおりだが、動体視力については興味深い。
動体視力:動いている対象物を正確に識別する能力。基準はないが、その能力が優れているほど相手の動きがよく見え、遅く見える。(見える速度は人による)
「自分の身体能力をあげるのは身体強化だが、代償がある。だが、動体視力の方は訓練方法はよくわからないが、優れている分には申し分ない。
ただ、動体視力が良くなったからと言って自分の行動が早くなるわけじゃない。反応が早くなるだけだ。勘違いするやつがたまにいてな…念の為に言っておく」
「わかりました!ありがとうございます。」
模擬戦をし、エルさんからアドバイスを貰って、稽古は終わった。
談笑してから今に至るまでおおよそ1時間半は経っているので、そろそろエリスとエルシアが起きている頃だろうし、ルークは宿に戻った。
―――ありふれた日常―――




