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片目の中の君へ  作者: くろーばー
第2章:次の目的地へ
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第16話:役立たずの烙印

―――翌朝


今日も早起きをしたルークはいつもの広場に向かう。

そして広場にいるのはやはりリズ。


「ルーク、おはよう」


爽やかな声色でリズがルークに挨拶をしている。


「おはよう、リズ。今日も鍛錬、すごいね」


「突然で悪いけど、一回相手してほしい。」


あの日あったときと同じように、突然戦いを申し込まれる。でも、今回はリズの目が違った。覚悟を決めた、もう負けない。そんな目をしている。


「わかった」


ルークとリズ、二人とも木刀を構える。

お互い、身体強化を施し戦いが始まる。


勝負は一瞬だった。


リズ、ルーク共に踏み込んで一気に距離を詰める。

リズは間合いに入る前からすでに木刀を構え、間合いに入ってから攻撃をするように距離を詰めてくる。

一方、ルークは距離を詰める間、常にどんな攻撃にも対応できるよう構え、間合いに入ってから攻撃の姿勢に入る。


―――そしてお互いが間合いに入る。


リズは予定していたとおりに、木刀を振る。その剣先は速く、音をも置き去りにした。

しかしルークは、リズの攻撃を剣で受け流す。リズの攻撃が速かったからだ。

リズは攻撃を受け流され、体勢を崩す。

そこを見逃さず、ルークはリズの首先に剣先を向け、決着が着いた。


「……もう!!!どうして…」


リズが怒った口調で叫ぶ。でも、表情は泣いている。


「剣の動きはすごかったよ?」


ルークはリズを最大限に慰められるように声を掛ける。ルーク自身も自分がリズを打ち負かしたせいで泣かせてしまったことを理解している。


「そういうことじゃない!!!」


リズは顔を地面に伏せて泣き叫ぶ。

誰かに助けを、自分の悲痛な叫びに答えてくれることを求めているわけではないが、今の感情を地面に向かって叫ぶ。

広い広場だが、リズの泣き叫びは地面に吸収される。誰かが泣いていて、その声は響き渡り誰の耳にも入るはず。でも、響かない。


広場が静かで、広くて、そして、ここにいるのが二人きりで良かった。


―――好きなだけ泣けるから。



ルークもそっとしておけずに、リズのそばに座る。でも、なんて声をかければいいのか分からず、リズを見つめたまま黙り込む。


(自分のせいでリズが……でもあの時、どうすればよかったのか…手加減すればよかったのか…でもリズの目は覚悟で染まっていた…)


ルークはそんな事を考え、より一層どうすればいいのか分からない。

リズから理由を聞けばどうして泣いているのか、その本心を聞けるはず。

でも今は、理由を聞くことなんてできない。


しばらくの間、リズが泣き、ルークがリズのそばに座ってる。という状況が続いた。

時間が経つと、リズの声も弱々しくなりついには泣き止んだ。


「…ねぇ。なんでそばにいるの?一人にさせてよ……」


リズが重い口を開け、問いかけ、懇願する。それは本心で、誰からも否定されない言葉。


「どうしてか、それだけは聞かせてよ」


ルークは、リズの本心を受け止め、答える。でも、リズの問いかけには答えない。懇願にも答えない。

ルークにとって、リズを一人にさせる理由なんてない。


「言ったでしょ、”一人にさせて”って……」


一人にするのはできない。でも、一人にしてほしい。真反対の言葉がルークの脳内を駆け巡る。ルークは「私は一体どうすればいいのか」と葛藤する。


「……」


リズが黙り込む。ルークから話しかけなければ事が進まない事態になる。


「…どうして決闘を頼んだの?」


「……()…」


ルークの質問にリズが答えたが、声が小さくて聞こえない。

つい…


「ん?」


「……役立たずって言われたあの時からずっと悔しかったの…

あの時、ルークが役立たずなんかじゃないって言ってくれたのは嬉しかった……でも、お母さんから


  ”役立たず”


って言われたのがずっと悔しかった。

毎日朝早くから起きて、鍛錬していたのに……それに、ルークにも負けて…

こんなに頑張ってるのに、どうしてリズばっかり…リズばっかり!……こんな目に合わないといけないの」


リズが持っている感情をぶちまけた。

毎日朝起きて鍛錬しているのに、何もかも報われない。それに加えて、リズ自身が一番信頼におく、お母さんのエルから役立たずとまで言われる。


一番自分に期待してもらいたい人から裏切られたとき、人は精神を病む。そこから立ち直ったリズは称賛していい。するべき。


しかし、立ち直ったとは言えその心に負った傷は計り知れない。

認めてもらうために、ルークとの決闘を挑んだが、尽く敗れてしまう。

リズの心はもうすでに失われている。


ルークは静かに黙り込んでいるリズの横顔を見る。

目は合わないけれどリズの目を一点に見る。そして、ゆっくりと口を開け


「…私はリズがどれだけの苦労をしてきたかわからない。」


リズは唇を噛み、反対側へ向く。


「でも、私は役立たずだなんて思ってもない。それに、誰からも役立たずだなんて思われてない」


リズが、目にたくさんの涙を抱えたまま、ルークに振り向く。

右手を拳にしてルークへ殴りかかるが、ルークの左手によって阻止される。

でも、リズの顔がはっきり見える。涙が頬を伝っている


「あの時、エルさんが役立たずって言ったのは、リズ、君を守るためだ。

だから、あの時エルさんはリズのことを役立たずなんて思ってもいない。逆にあのときは役立っていたはずだ!

エルさんは、リズを絶対に守るためにあれだけのことをした。だから、役立たずなんかじゃない。


リズ、君が生きているだけで、エルさんは、きっとそれだけで幸せなはずだ」


ルークは止めていたリズの右腕を解放する。

リズが三角座りをし、膝の中に顔を埋める。


「わかった……もうどこか行って…」


最初に行った言葉とは、ちがう言い方。

そばにいてほしいとは思わせない言い方。もうリズのそばにはいらない。

ルークは静かに宿に向かって歩みを進める。


―――役立たずの烙印―――

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