第15話:何をしたかったのか
部屋にハウルを一人残して、ルーク達は部屋を出る。
男というのはこういう時は一人にして欲しいものだ。ただただ、一人で嘆いていたい
また別の部屋へと移ってエルと話を進める。
「それで、ルーク?あの正体がわからないやつはオルヴァ・ヴェレア王国に向かったんだよな?」
エルが確認するようにルークへ聞く。
「方角としては合っていますが、逃走する場合、不適かと思われます。
理由は、ここからオルヴァ・ヴェレア王国までの道のりに村があまりにも少ないからです。」
「途中で進行方向を変える可能性が高いということか…」
ルークはその通りとエルに言い、話を続ける
「私たちの本来の目的地はオルヴァ・ヴェレア王国です。旅のついでで奴の存在について調査します。情報が入り次第、ここのギルドへと手紙を送ります」
「いや、その必要はないな。私達も調査に乗り出るつもりだ。王国の警備隊が黙っていないようでな。さっきの話はもうすでに国の軍の耳に入っている。」
エルさんが詳しく話してくれた。
敵が逃げたということはもうすでに国の軍の耳に入っているそう。最悪なことに新聞には”全員捕らえた”と書かれており、国民は安心しきっていると。
でも、今となって敵を逃していると言えば、国民の不安を煽る様になってしまう。
それに王国の警備隊の誇りにも傷がついてしまう。
それに起こった事件は早めに処理しなければ、捕らえることは難しくなってしまう。
「ということだ。ルークたちに協力を強要するつもりはないが、できれば協力してほしい。出発は3日後になりそうだ。警備隊を王国外へ動かすとなるとかなりの準備が必要でな…」
「わかりました。ですが、こちらにも用事があります。協力させて欲しい心はありますが、それよりも重要なことがあります。……マッドという科学者をご存知でしょうか?ギルドを通して彼に会うことはできますか?彼のいる場所でも構いませんが…」
エルさんがマッドの居場所を教えてくれた。流石にギルドを通してのことではない。ルークは少し自分の発言にしおれた。
そして午後にすることも決まった。
本来2週間後に義手を受け取る予定だったが、エルさんと予定を合わせるとなると、受け取っている時間はない。
義手はあった方が有利ではあるが、エルさんという強力な助っ人についていけるとなると、天秤にかけた時、ついていく方に軍配が上がる。
マッドの居場所は王国の中心から少し離れた場所に位置していた。徒歩での移動となると遠い。
エリスとエルシアはついて行く意味もないし、行く気もないと言っていたので二人でどこかに行ってもらった。図書館とかその辺だろうね
十数分ほど歩いた先にごく普通な家がある。
軽くノックするが、返事はない。入ってもいいのだろうか…『エルさんからあいつは常に家に引きこもっているから、いつ入っても問題ないだろう。』とは言っていた。
「…おじゃまします」
ゆっくりとドアを開け、中にはいっていく。ドアを開ける時にキィーって音がなった。かなり古い。
1階は至って普通だが、2階から物音がしてくる。
恐る恐る2階へと登っていき、一番物音がする部屋をノックする。
部屋の奥から、「ん?誰だ?」という声が聞こえる。
すかさずルークが、「ルークです!ちょっとお話があってきました」
嬉々とした声で、入っていいぞ!と言われ、ルークは部屋の中に入る。
「あの…大変話しにく……」
「よお、ルーク。義手の設計図はもう仕上げに入っていてな、そろそろ制作に入るところだ。」
(……研究者は人の話を聞かないって本当だったんだな…前世の私もこんな感じだったのだろうか…
とあるユアンの友人より―――
「よお!ユアン!この前さ…」
「…ここはホモトピー型理論を組み込めばいいか…?…いや違うな…」
……鮮明すぎる…)
そこからはマッドによるマシンガントークが始まった。
ルーク(ユアン)にとっては簡単な話で、流石だと思うところも多々ある。凡人が聞いていれば、目が閉じてしまうだろう。
「我ながら頑張ったんだ」
「……今言うのも大変申し訳ないんですけど、義手を諦めます。明日にはイグノランス王女に話を通しておきます。何かしらの報酬は王女から出ると思います。すみません……」
「は?」
また、マッドによるマシンガントークが始まった。
ルーク(ユアン)にとっても退屈な話で、マッドがこの義手にどれだけの思いを込めて作ろうとしているか、どれだけの技術を詰め込んだか話し込まれた。
「というわけだが、本来研究費が足りなくて名乗り出たわけだ。義手の件が撤回となれば、他の報酬はあって当然なはず。なかったら恨むからな。義手の制作を取り消したこと受理する。
イグノランスにも通しておく。さっさとどっか行け」
マッドに勧められ、部屋から出ていく。ドアを閉めて、明らかに聞こえるように嫌味を言い続けている。
より一層、申し訳なさが募った。
来た道を通って帰り、宿に戻る。
「おかえり、ルーク!イグちゃんって人から手紙が来てるよ」
「イグちゃんって……エリス、読ませてくれ」
イグノランスからの手紙はこうだ。
ユアン殿。先日はあなたの英雄譚を聞かせてもらい光栄です。
義手の件ですが、取り消したそうですね。そうなると対価の件をどうするかという問題になります。
あなたの方から、いらないと申せば何も手配いたしません。午後は時間を開けているので、いつでもいらしてください。赤い服を着た門番に ”ルークとイグ” といえばすぐに通してもらえます。
エリスには手紙の内容は見せずに、エリスとエルシアとルークでどうするか話し合う。
エリスはイグちゃんに会ってみたいということで行く意見に賛成
エルシアはというと、エリスが行くなら私もということで賛成
ルークは今欲しいものがあるかと言うと、ないので行っても無駄。という判断で反対。
エルシアが口を開く。
「イグちゃんって魔力探知が得意でしょ?昨日のあの件でなにか知っている情報があるかもしれないわね」
そう言われるとルークは納得する。これからエルさんと調査を進めながら、オルヴァ・ヴェレア王国へ目指すとなる。ただついていくだけにならないためにも、エルさんたちに少しでも貢献できるように情報を仕入れる方が気分としてもいい。
「なるほどな…確かに盲点だった。…わかった。行こう」
現在時刻午後4時。王城まで1時間ほどかかる。帰りはいつ頃になるか…
3人で街を眺めながら、進んでいく。
ちょうど夕方ということもあってか、日が当たって綺麗。
そうやって歩いているうちに王城に着いた。
イグノランスが手紙に残していたように、赤い服を着た門番がひとり立っている
ルークは赤い服を着た門番の人に近づき、
「ルークとイグ」
と小声で伝える。
すると赤い服を着た門番が右手を上げる。すると扉が開き、右手を空いた扉の方へと向け、「お入りください」と一言だけ告げる。
あの時のメイドさんも待ち構えていて、「付いて来てください」と一言だけ告げ、ルークたちを王城の中へと案内する。
前回とおなじ道を通り、扉の前へと着くと扉を開け「お入りください」とだけ告げてその場を退いていく。
「久しいね。でも、2日ぶりか!」
イグノランスが陽気に挨拶をする。
エルシアが、自身の魔力を揺らして音に変換する。常人には聞こえないほどに。
”ユアンという名は避けてルークと呼べ”
エルシアが変換した言葉。
イグノランスの方を見る。
軽く右手を上げ、仕草でわかったと伝える。
「それで、ルークくん?義手の件を取り消したんだってね?いい度胸じゃないか!」
「あの…深いわけがありまして」
ルークがエルの調査に同行すると伝える。
「まあ、王城内にそのくらいの情報は入ってくるし、魔力探知でそのくらい聞き取れるね。それで対価はどうする?」
「昨日の件をご存知でしょうか?人質の事件についてです…昨晩一人敵を逃してしまったようで、その情報を知っている限りでいいので教えてほしいです」
「うーん…一応感知していたが、圏外だったみたいでね…獣人族の子供が一人連れ去られているのを感じたね。相手の方は、体の魔力をすべて空気中に放出して体の中の魔力をゼロにして逃げたような状態が感じ取れたね。だって現場の空気中の周りの魔力濃度が濃かったし、体内にある魔力を全部放出して逃げんだろうね。まあ、私がわかったのはこれくらいかな。」
イグノランスが知っている情報を話す。これ以上なにか知っているようにも見えないし、イグノランスに感謝伝えて帰ろう。
「ありがとうございます。出発の日までに準備を済ますのでこれにて失礼いたします」
イグノランスに感謝を伝え、宿に戻る。
すでに日は落ちているので、食堂で夕飯を食べ今日は就寝した。
―――何をしたかったのか―――




