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片目の中の君へ  作者: くろーばー
第2章:次の目的地へ
14/23

第13話:恩返し

 あの事件の後、すぐに宿に戻り寝てその日は終えた。

 ルークは今日も早起き。しかし、前日の夕飯は疲労感で押しつぶされて食べなかった。

 いつもより早く寝たせいか、いつもより早く起きてしまっている。エルシアもエリスも前日からお疲れの様子で、朝になっている今でも爆睡状態。


(…まだ体が痛むな……疲れもまだ完全に取れているわけじゃないし…でもお腹すいたな…)


 現在朝の四時半頃、日はまだ昇っていないが街は息づいている。

 ルークは馬車に乗せていた食料(干し肉)をつまみ食いし、朝の鍛錬をするため、外へ出る。

 運が良ければまたリズと鍛錬したいな。とか思いつつ。


 ―――宿の外へ出る。


 木刀片手にルークは近くの広間へと走って向かう。

 その広間はかつてリズと出会った広場。

 一面芝が広がっており、周りには木が生えている。よく見た草原のよう。出会ったときと何も変わらない景色。

 関係子の力を手に入れたルーク、その力をものにするべくして昨日のことを思い出す。


 ―――身体強化


(…やっぱり、からだが軽くなった気がする。原理は魔法と全く同じ…なんだけどな)


 なんだけどな、身体強化はうまくいく。でも炎系の魔法などを放とうとしても打てない。魔法と同じ原理で動くなら、正しい手順を踏んでいるにも関わらずだ。

 しかし、ルークにとってはそれだけで十分。身体強化さえあれば大人でさえも体格の見た目は違えども、そのうちに秘めた力は同等かそれ以上の力を持つ。

 片手という不利てき要因を克服できる要素として役立つ。


 身体強化を施した今、エルさんとの模擬戦をイメージトレーニングする。

 エルさんとの模擬戦で培った足運びは未だに健在。身体強化によってその足運びは更に磨きがかかっている。

 しかし、イメージはここで途絶えてしまう。

 イメージは自分の知っているレベルでしかできない。想像したって、それは自分の都合通りにしか動かない。

 ルークが最期にイメージしていたのはアレンとエルの軽い模擬戦。

 これがルークの知っている最大の対人戦。


「…どうしたの?ルーク?」


「リズ、私の知っている私の父とエルの模擬戦をイメージして鍛錬していたのですが、それを超えてしまったようで…それからどうしようか考えてて…」


 まだ村にいた頃は軽い模擬戦だと言っていたが、その模擬戦に詰め込まれているものがすべて遠く感じていて、あの足運び、剣筋、間合い、全部が。

 あのころはあれだけ遠くに感じていたけれど、いまではもう手に届くほどに自分が成長したんだとルークは感じている。


「…そうなの?…えっと、お母さんがルークと話したいって言ってた。もしルークとあったら伝えてって」


「わかりました。こちらからも話しておきたいことがあると伝えておいてください。」


 リズに”ちょっと付いてきて”と言われて、リズと広場で、長椅子に一緒に座った。


「昨日は……本当は怖かったんだ…」


 リズが昨日のことについて語り始めた。

 本当は怖かったんだ…リズがそんなことを言う。

 怖いと言う割には嬉しそうな声色だ。


「昨日はさ、あんなことになってそれからさ、お母さんに言いたいこと言って…」


 それからはリズが昨日起こったことについての想いを淡々と語っていった

 リズ自身、エルさんの過保護な環境には嫌じゃなかったそうで、自分のことを必死になって守っていることに嬉しさを感じていた。

 でも、リズが本当にやりたかったことを否定されたときは嫌だった。昨日の件だってそうだ。リズだって母親の役に立ちたい。リズもできるんだって。

 でも、エルさんは危険を感じてそれらを拒否していた。

 リズを守ってくれるためならリズ自身だって嬉しい。でも、リズの心までは守ってくれていないような気がして寂しかった。


 でも、ルークがあの時”エル”にはっきり言ってくれて嬉しいような困ったような気持ちになった。

 やっと、リズがしたいことをさせてくれるようになるのかな…?でも、もうリズのことを守ってくれないんじゃないか…?って

 もう守ってくれないかも…これが一番怖かった。だって、リズのやりたいことをやらせてあげて!って、もうリズの下から離れて!って言っているみたいに聞こえたから…

 家帰った後にもお母さんと話したんだ……ほんとにもう別れることになっちゃうのかなって怖くなって最初は何も話せなかった。

 でも、お母さんが話してくれた。

 ほんとに、ほんとにリズのことが大好きなんだなって。私のためなら無茶だってするし、自分の犠牲だって厭わないんだなって……知ってさ…


 ここからリズの言葉が詰まってきた。リズの話を聞いてルークはリズをこんな気持にして申し訳なくなった。


「……ごめんね」


 ルークは自分が言ったあの言葉で、リズの心を揺らしていたと思っていなかった。だから、心が痛くなって謝った。


「ううん、謝らなくていいよ。…ルークがあの時言ってくれたから、……今のリズがいるんだから…」


 だんだんリズの表情が良くなっていった。いや、元から良かったのかもしれない。

 自分の心の内に秘めていた感情を全部話せたんだろう。


「ありがとう。でもやっぱ、謝るべきかな?えっへへ…」


 リズがニコッと輝いた笑顔を見せながら、そう言う。朝日も丁度上りはじめ、それも相まってより綺麗。


「どうして?」


「リズの話を聞いてもらってばかりでさ…こんなにも聞いてもらっちゃっていいのかなって…」


「気にしないで。私もエルさんにあんなこと言って、どうしようって思って困ってた。でも、役に立てたみたいで良かった…」


「今のルークなんかかわいい。口調もちょっと違うし、仲良くなれたのかな?」


「元から、友達じゃないの?」


「そ、そう?と、友達ね…(初めての友達…)」


「そうだ!朝食食べるんだけど、一緒に食べる?」


 リズがすんごい乗り気で朝ごはんを一緒に食べることになった。もちろんエリスとエルシアは起きていないので起こしにいく。

 宿に着き部屋の中を確認すると、ルークが宿から出ていった状態と変わらないままでエリスとエルシアが爆睡している。

 寝る子は育つというが、これは逆に良くない気がしてくる。エルシアに関してはもう関係ないと思う。

 ルーク、リズももう空腹で仕方がない。


「先に食べちゃいましょう。エリスとエルシアは時期に起きるでしょうし、お腹が空いてるなら食堂に行って朝食を食べるだろうし」


 ルークがそう言って、リズと2人きりで食堂に向かう。まだ朝早くだが、食堂が空いている。準備もすでに済んでおり、食堂内にいい匂いが漂っている。


 ルークとリズで一つの机を共有して席に座る。

 ルークは、パンにジャム、スープと牛乳。リズはパンと目玉焼きベーコン、スープに水。至ってシンプルな朝食。

 ルークが食べているとリズがルークの様子をうかがいながら食べている。


「…どうしたの?私の朝食を狙ってるのですか?」


「んー…、って、そうじゃなくて!朝ごはんそれだけで足りるのかなって…だって昨日あれだけ動いて、夕飯だって食べる時間すらなかっただろうし、ほんとにそれだけで大丈夫かなって…」


 リズが口に含んでいた目玉焼きを飲み込んで、心配そうな表情でルークに言う。


「お腹は空いているけど、量的にはこれだけで大丈夫かな。それに、まだ体が完全に疲れが取れてなくてさ。まあ、エリスが朝食を残すかもしれないし、残すと勿体ないでしょ?」


 ルークが言い終えると、エリスとエルシアが食堂内に入ってきた。ルークとリズが一緒に朝ごはんを食べているのを見て驚いた様子を見せている。

 エリスとエルシアがルークとリズが座っている席に座ってリズが言う。


「エルシアさん、エリスさん、昨日はありがとうございました」


「気にしなくていいわよ。私達の目的はエリスちゃんを助けることだったんだから」


「エリスは…パンとハム…とスープでいいです…よ」


 エリスはまだ寝ぼけているみたいで聞き間違えている。

 昨日の件での一番の功労者はエリスだろう。捕まりながらも、あれだけの緊張感の中冷静さを保って、状況判断をして行動したのだから。

 エリスがいなかったらあの爆発はなかったし、人質は奴隷として売られていただろう。


「リズ、エルさんに会いたいと今朝言いましたけど、いつ会いに行けばいいでしょうか?」


「昼過ぎ頃かな?人のが来る回数も減るし、お母さんも暇そうにしてる時間帯だよ」


「じゃあ、また昼過ぎにそちらに向かわせてもらいます」


 リズにエルさんと合う約束と、いつそっちへ向かうか相談した。

 ルークはエルさんから感謝される予定ではあるが、それよりも重い話を持ち込む。今後の旅の予定にも絡みそうな件ではある。

 しかし、会う約束の時間が昼過ぎとなるとまだ全然時間がある。


(…そういえば服屋でローブにフードを付ける約束をしていたな)


 そうして、ルークが午前中にすることが決まった。

 ルークはそのとおりで服屋へ行き、代金を支払ってローブを手に入れる。

 一方、エリスとエルシアはエリスが図書館へまた行きたいと言っているので、また昨日の件みたいにならないようにエルシアが同行する。

 エルシアは何もすることがないので同行する。することがあればなにかしていただろな。

 それにエルシアがいればエリスの勉強も進むだろうし、結局は結果オーライ


 一度部屋に戻り、各自準備して目的の場所へと向かう。

 ルークはローブの代金。少し多めに。

 エリスとエルシアは勉強道具と昼飯代。

 一応、昼頃になったら返ってくるように伝える。エリスはありえないだろうが、エルシアが心配。いつまで経っても帰ってこないとかになったら最悪だ。


 ―――ルークは服屋へ行った経路を思い出しつつ、向かっていく。

 ルークは昨日の件があってか、街の中の景色がよりきれいに映る。しばらく歩いて服屋を見つける。

 中に入ると2日前に見た、服屋の店員さんがいた。


「んー……?ん?ちょっと顔をよく見せてくれ?」


「…?」


「やっぱりそうだ!今朝の新聞に載ってたよ!”人質を救った少年少女”ってな!どうにも顔が似ているわけだよ。

 人質で囚われてて帰ってきた家族を見たけど、すんごい安心してた顔してたよ?お前にも見せてやりたかったよ。ほんとにな

 ま、とりあえずだ。ローブにフード付け終わったよ。代金は1万3000ゼニーってとこだが、いつも家が生地仕入れているところのお得意さんが人質で捕らえられていたみたいでな、本人じゃないが代わりで私が恩返しさせてもらうよ

 だからお代は結構さ。」


「!?だめですよ!もし人違いだったとか考えないんですか?」


「だって、服装全く同じじゃないかwそれにその汚れから昨日のものだろうし。私が何年この服屋をやってきたと思ってるんだいw」


「いや、でも、少しだけでも…」


「ほら!もういい!はい!出てった出てった!」


 仕上がったローブを強引に手渡し、体を無理やりドアの方向へ向けられ服屋から追い出されてしまう。

 ガチャ!

 鍵がかかる音がして、本当に払わなくていい雰囲気。

 服屋から声が聞こえる。泣いている声だ。


「本当は私の娘が助けられたなんて言えないよ……せっかく助けてもらって、言い出したらまた迷惑かけちゃいそうじゃない…」


 ドアを挟んだ奥から聞こえてくる。声は小さいが、こもっている感情は大きい。


「おかぁさあん!…どうしたの?」


 子供の”ん?”という声が聞こえた後、服屋が静かになった。何も聞こえないが、その静けさの理由をゆっくりとルークの心に重く響く。

 今はもう2人だけの時間。邪魔してはいけない。

 そうしてルークは静かに宿へ戻っていった。


―――恩返し―――


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