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片目の中の君へ  作者: くろーばー
第1章:成長
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第12話:おかえり

中に入っていくと、30人ほどの子どもたち、エリスに大人が4人。


「ルーク!」


「ごめんなさい、エリス。こんな目に合わせてしまって……護衛として失格です」


ルークは気付いた。本来の役割はエリスを護衛するためにこの旅についてきたのだと。でも、エリスを危険な目に合わせてしまった。これは護衛としてはしてはいけないこと。


「ううん、そんなことないよ。みんな無事じゃん?この状況には護衛が必要なかったって思い込めばいいよ。」


そう思い込んでおいて、と言われてもルークは気にしてならない。自分の行動のせいでエリスが人質に捉えられてしまったという事実は変わらないから。

それに今まで護衛という役割を忘れていたというルーク自身にも非があり、簡単にはそう思い込むことなんてできなかった。

でも、そう思い込んでいいとエリスが言っている。これからの作戦を進めるには心を少しでも落ち着かせるためにも、思い込んでおいたほうがいい


「エリスがそう言うなら………ありがとう。」


「ありがとう?」


「…そう。ありがとう。」


…っ、なんかうまく言えないな……


「エリス、近くに城壁があるからそこに人質を避難させる。エルさんもここにいるみたいだから、協力を仰いで避難を進める。」


「じゃあ、僕は下の階から入ってこないように4人の大人たちと協力して塞いでおくよ」


「お願い」


エルシアは先に避難を進めてもらう。魔法を使っての避難が行われている。

一方、ルークはエルに避難を進めると伝える。


「確かに、その案は合理的だな。避難は2人で事足りるか?」


「少し時間はかかります。ですが、私の友人のエリスが敵の侵入を防いでいるので、事足りると思います。」


「事足りる理由としては十分だが、もしものことがあってはいけない。避難を進めるのに的にバレるわけにも行かない。難しい判断だが、バレる前に避難が完了していれば、問題ない。だからこちらから一人派遣しよう……」


「ーおかぁさあん!!」


「リズ!?どうしてここに?」


「ギルドからお母さんがここに派遣されているって聞いて……」


「ここにいちゃ危ない!家に帰って帰りを待ってなさい」


「いやだ!…ルークだって手伝ってるじゃん!」


「!?ルークと知り合いなのか?いや、今はどうでもいい。とにかくだ、ルークはリズよりも合理的に考えることができる。断言するがリズよりも頭が良い。剣だけではどうにでもならないことだってある。今回がそれだ。だから、今日は家に帰って休んでいろ」


「エルさん、リズが心配なのは理解します。私は一度手合わせし、確かな実力者と知っています。決して今回は役立たずというわけではないですよ」


「どういうことだ?今回は人の命までかかっている、容易く触れていい件ではないはずだろ?」


「魔力探知でもう一度敵の配置を確認してください、2階で人が溜まっているでしょう?それに今はエリスが2階からの敵の侵入を防いでいる状況です。それについで、避難が行われています。人質の安全は大半が締めています。逆に、時間が経過するほどに危険性は高まっていきます。」


「それでは十分な理由にはなっていないだろう?危険になっていくならルークも早く行動してくれ」


「話は最後まで聞け!敵にバレにくいという点では子供が有利です。

子供のことが心配になるというのは子供の私からしてもわかります。だからといって、子供の行動を縛るというのはまた違うと思います。

リズのために、やりたいことをさせるのか…リズのために、行動を制限するのか…

件が済んだら考えてみてください。

リズ、人質の避難を手伝ってくれるか?」


「ええ、もちろんよ!」


…少し言い過ぎたかな…私自身の意見で、人の行動を止めることはあまり良くないって考えている。でも、人が自決しようとかなら話は別だけど…


”いいてことよ。私懐かれすぎちゃって、パパ嫌いなのさ。これは私に依存している娘のためでもあって私が選択したことさ。”といっていたエルだが、実態はエルがリズに依存している形だった。

どうしてあの時にあの言動を取ったのかは不明ではある。ただただ、娘依存ということが知られたくなかったのだろうか?

しかし、なぜエルがあれだけ依存しているリズの元を離れてルークの稽古をしたのかは謎である。


一方、避難させる組では

エリスが大人たちと協力し、3階への入口のドアを見張っているところである。見張っているけれど、目的は敵の侵入を防ぐため。

エルシアは人質の子どもたちを壁の上へと避難させている。すでに8人ほど避難が完了しており、ルークとリズが参加すればあと数分で全員の避難が完了する。


「エリス…そっちの状況はどうだ?」


「問題ないよ!早く避難させてね。もしかしたらがあるから!」


「エルシアは問題なさそうだね」


「ええ、確認してないで早く手伝って?」


エルシアが多少キレ口調だが、気にしない。気にしていたら避難に支障をきたす。

まずは人質の安全の確保から、敵の制圧をする。


「リズ、3階に人質が捉えられている。近くに城壁があるから、そこの上へ人質たちを避難させる。私達がすることは、これだけだ。後のことはエルさんたちに任せる。」


「ええ、わかったわ。」


ルークとリズが避難活動に参加したことでペースがアップした。エルさんたちはできるだけ敵が3階に向かわないように、下から圧力をかけている。

そうこうしているうちに、十数分で子どもたちの避難活動が終わった。

あとは大人4人とエリスだけ。エリスに関しては問題なく避難ができるが、大人となると体重も増加するためそれ相応の力が必要となる。


「大人については私に任せておいてちょうだい。これでも魔王なのよ?」


エルシアが大人は任せておいてと言ってくれた。たまには頼もしい限りである。

気づかなかったのが不思議ではあるが、大人の中にも実力者がいた。種属での決めつけに放ってしまうが、獣人族が1人紛れていた。人間の数倍の力は生まれた時点で持っている。

正体まで隠していたのだからそれなりに力は隠していたんだろう……

エルシアが大人4人を無事に避難させることができ、敵に気づかれずに避難を完了することができた。


「エルさん!全員の避難が完了しました!敵の制圧をしてください!」


「おう!任された!―――全員突撃!!!!」


今目の前では王国警備隊による制圧が行われている。

彼らの教訓はただ一つ。


―――王国に害をなす者へ制裁を―――


その教訓が正しいと、従ってきたと言わんばかりの勢いで制圧していく。数分と満たずに敵を拘束し、制圧が完了した。

ルークたちは遠くから見守っていた。


「…エルシア、わかったか?」


「ええ、一人逃げ出したわね。魔力探知をかいくぐって逃げていったわ……」


「でも、逆に気配を隠しすぎて空間に穴が空いていったように感じた…気づけたのが奇跡…どんなやつかわかったか?」


「いいや、気配がなかっただけ感じたわ…それだけね。エルちゃんも中にいたからわからなかったんじゃないかしら?後で報告しておいたほうがいいかもね」


「そうだな…結構重めな話になりそうだけど……」


「ねぇー僕も会話に入れてよ!なんのことか全然わかんないんだけど?」


「エリスちゃんは何も気にすることなんてないわよ?」


敵の制圧が完了し、エルは現場の指揮を取り拘束した敵を牢屋に入れるなどの処置をしている。

ルークが近寄って……


「…エルさん…」


「ああ、ルークか…」


「いや、その……」


「私なりに考えてみたんだ…戦いの最中ではあったが、ルークの言葉がかなり心に響いてしまってな……

それでだ、私なりの答えは……」


「そこから先はリズさんと2人きりで話してください。心に決まったのなら、後は自信を持って話すだけです……」


「……っもう!僕はどうなのよ?捕らえられてて帰ってこれたのに”おかえり”もないの?」


「んもう!エリスちゃんったら可愛いんだから!捕まって怖かったわよね?でももう大丈夫!このエルシアお姉ちゃんがいるから!安心してね?」


「ちがう!ルークから”おかえり”って聞きたいの!」


「…ったく、おかえり」



◆◆◆エルとリズの会話◆◆◆


私なりの答えは……」のあと、エリスの参入により、伝えることができなかった。

エル自信でもここで言うべきではなかったと感じていた。事が済んですぐのことで、まだやるべきことが残っている状態。落ち着いて話せる状況じゃなかった。

ルークたちが宿に帰っていって、エルの最後の仕事でギルドに報告を済まし家に帰る。

家の中に入ると、リズがリビングのテーブルの椅子に腰掛けている。


「……リズ」


エルがリズの名を呼んでも黙ったまま……


「なぁ……掘り返すみたいで悪いけど、あの頃覚えてるか…?」


エルが重い口を開けて語りだす。それに答えるようにリズが静かに頷き返す


―――6年前…

エルがアレンとともにパーティーを組んでギルドからの依頼をこなしていた。

普段と違って、上流貴族の護衛でしかも全然弱い魔物しか出現しないエリア間の護衛を任されていた。パーティーでの依頼で、それに弱い魔物の出現エリアだったので、エルの娘を連れて行った。

普通ならいくら安全だと言っても自分の娘を依頼に連れて行くことなんて絶対にない。

でも連れて行く理由があった。理由としては少し複雑で、まずこの依頼が安全であること、家にリズ一人で暮らさせてしまうこと、どこにも預けることができなかったため。それに、自分の娘を最強の剣士に育てたくて、できる限り経験させたかったから。見る限定だが

依頼の期間は1週間。本当なら何事もなく依頼を完遂するはずだった…


でも、悲劇が起こるのはいつも突然―――


アレンのパーティーの魔道士が早く気づいたのが幸いだった。

でも、まだ余韻でしかない…


「なあ、なんかおかしくないか?嫌な予感がする」


「俺はどうも感じないが、ほかはどうだ?」


アレンがパーティーメンバー全員に問いかけるが、パーティーの全員が違和感無しで一致。


「俺は魔法専門外だ。魔力探知で異変を感じているなら、お前を信じたほうが良さそうだ…しばらくあの貴族たちは避難させておこう。万が一のためにな…」


アレンが状況を処理してスムーズに事を進める。貴族の避難を済まし、パーティーメンバー全員でその”違和感”を探す。


「俺らもう1時間くらい探してるけど、なにか見つかったか?」


「変な感じは薄まったが、まだ気は引けないな……生命反応がないのに何かがそこにいる感じ。かなり知性のある魔物かもしれない…油断しているところを狙ってくるはずだ……」


魔道士がそんな事を言う。魔道士が言っていることは正しいはずだ。もう5年以上の付き合いだからだ。でもその違和感をどのくらいの危機感で感じ取っているかは共有できない。

その危機感の食い違いがだめだった。


「じゃあ、これからは交代制で見張るんじゃなくて、全員で全方向警戒しながら護衛していこう」


そうアレンが言って護衛がまた始まった。

時刻は午後5時。もう日が沈みかけている頃―――


「違和感はどうだ?まだ感じているか?」


「ああ、まだ少し。殺意とかは感じないんだがな…何度も言っているようで悪いが、警戒は解かないでおいてほしい」


アレンがずーっと気にかけている。小さな気がかりは必ず取り除くと決めている男だからだ。


―――カカカカカカ……ズーズー……


骨が当たる音、擦れるが響き渡る。

パーティーメンバー全員が戦闘体制になる。でも敵の姿が見えない……

構えたまま敵が現れるまで待っていると、段々と霧がかかっていく。


霧の奥からゆっくり現れて来たのは


「ドール・リーパーだ!」


ドール・リーパー:人形の骸骨。大鎌を持ち、人形のように動く。アンデッド系モンスターなので、自身の死を恐れずに攻撃を仕掛けてくるので、ひどい残虐性を持ち合わせている。

殺しを楽しんでいると過去に対峙した人から言われていて、別名サイコパス。


エルはリズを抱えたまま戦闘が始まってしまった。霧がかかって現れるまでほんの数秒。


ドール・リーパーがエルの方を見る。でも見ているのはエルじゃない。ドール・リーパーにはない目から感じる視線をエルは感じ取る。不気味にも笑っているように見える

このときエルはまだ両手を持っていた。右手には剣。左手には盾。軽装備とはいえ防御力はそれなりにあった。

ドール・リーパーがエルの背後を狙って行動する。

気づいた頃にはすでに背後を取られている。大鎌を振り上げて攻撃モーションを取っている。リズを連れて逃げるには時間が足りない……防御!

リズをエルの背後に逃がし、自分はもうどうでもいい…リズを守るために……


大鎌の先が盾を貫通する。物理的に貫通するのではなく、大鎌が幻影となって盾を貫通する。

左腕を構えて防御したわけだが、貫通したのは盾だけ。つまり…左腕は大鎌によって切断されてしまう。


「エル!」


―――ソウル・リリーフ


魔道士が神聖魔法を使ってドール・リーパーを消し飛ばす。

ドール・リーパー自体、小さな村なら単体で壊滅させれるほどの力を持つ。しかし、神聖魔法にはめっぽう弱い弱点があるため、なんとかなった……


「…お母さん…」


「エル!」


「大丈夫ではないが、ドール・リーパーに片腕だけは奇跡だろ?」


「おい!神聖魔法でどうにかならないのか?」


「やつの攻撃は特殊で、神聖魔法を打ち消す効果がある。賭けで魔法を打ったが……」


「当たって良かっただろ?あんま気にすんなよ!それでこの腕はもう治んないんだろ?治んないものを直そうとしても無駄だろ」


片腕を失ってしまったエルだがその調子は良かった。

理由は単純。リズを怖がらせないため。

ここからエルの気持ちは変わっていった…


その後、リズがなにかしようとするたびにエルが確認を取るようになった。

殆どは許してくれたが、危険なこととなると決して許してくれなかった。


「…」


「…」


エルが語り終えた後、お互い黙ったまま…

エルがリズをどうしたかったか、どんな気持ちであの時調子を上げていたのか話している。

リズはずっと下を向いたまま……

エルがなにか言いたげに、顔を上げては下げて考える。口は開くが、声が出てこない……


「リズを守りたかったんでしょ?」


先に口を開いたのはリズ。


「毎日鍛錬してたのも、リズから危険を遠ざけてたのも。全部……

でも嬉しかった。全部リズのためだって」


「…」


リズが口を開いたのにもかかわらず、エルは口を閉ざしてしまう……

リズから言われた言葉から色々考えてしまう。

”私はリズの完璧な親じゃなかった…”、”私の弱みを知られた…”

顔を上げてみるが、リズが私のことを見ている。目があってもなぜか目線が右下に向いてしまう。


「お母さん、ルークに話そうとしてたこと話してよ」


エルはルークからあの言葉を聞いたとき、最初はなんのことかわからなかったがなにか突っかかりがあると感じていた。

大事なことなのは分かる。でも何が問題なのかがわからない。

だからあの状況の中でも考えてしまった…


「……私は…私はリズを守りたかった。これが私のすべてだった。もしあの時リズを失ってたらもう立ち直れなかった気がする。

私は気づけばリズに依存してたんだなって…守るために縛ってたんだなって…

こんなことしておいて、私は満足してなかった。私のリズが本当のリズじゃないって…

でも、リズを失うよりはマシだって、リズの行動を縛ってたんだ。

でもルークの話を聞いてようやくわかった……













―――ごめんなさい、リズ―――


―――おかえり、エルお母さん―――














―――ただいま。


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