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片目の中の君へ  作者: くろーばー
第1章:成長
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第9話:王女イグノランス

 生前は身なりのことでひどい目にあったものだ…


 生前の話になるが、とある王国の魔力暴走事件について報告するため、国王と女王に会う約束をしていた。

 しかしその王国では両陛下に会うときは礼服を着る決まりがあった。郷に入っては郷に従うそんな言葉を守っていれば何も起こることはなかった。

 その時私はいつもどおりのローブを身にまとい、会合に出席した。

 礼服を着るのがめんどくさいとか思っていたんだろうな。昔のことで覚えてないけれど。


 予想は的中し、会合の出席は取り消され、無礼を働いたということで賠償金を命じられた。

 あの国は王族に無礼を働くと、最高位の罰が当たる国だったし……場所が悪かったのもある

 幸いにも世に公開することはなかった。


 ということがあったから、服装については整えてほしい。

 しかし、エルシアも私もこれしか服がないというのならば、本当に仕方がない。

 今から服を調達しても昼頃になって食事を取って、歩いて向かうとなると、時間的には夕方前になる。

 この時間は王族にとって優雅にくつろぐ時間か、仕事をこなす時間になる。

 会うとなると、午前中か、昼を過ぎたあたりが理想的。

 そうなると、夕方前に面会を要求するとこんな時間になんのようだ?となり、面会は難しく、顔を覚えられ今後の面会はこれっきり難しくなってしまう。

 タイミングは重要。


「仕方ない。これ以外に服がないなら、このまま面会しに行こう。」


 王城は領土の中心に位置する。街は同心円状に発展しており、活気に満ち溢れている。いくつもの城壁が建てられている。王城の近くにはないが、外壁を含めて3つほど建っている。

 王国領土を拡張した結果だろうな。城壁を撤回している場所も存在していて、差別のためのものではないと考えて正しいだろう。


 私達が宿泊しているのは王城から北東に位置する。城壁は2つ挟んでいるが、通過は容易になっている。

 馬車は使えないので徒歩での移動になるので、王城に着くにはそれなりの時間がかかる。

 逆に王国の発展具合を象徴を表している感じだな。ありがた迷惑だ。

 現在時刻は7時と少し。王城は8時30分までには着く予定だな。エルシアがなにかしでかさない限り…


「いいですか?寄り道せず、まっすぐ向かいますよ!」


 とりあえず人前なので口調はいつも通りに。

 寄り道をし始めたら、私だって止まれない気がする。それよりも悪い奴らに巻き込まれでもしたら…対抗できるとしても、裏社会で指名手配なんてされたりしたら堪ったもんじゃない。

 それよりも8時ごろには王城に着いて、面会したい。


「わかってるわよ…王城まではまっすぐ向かいますわよ。帰り道はいいわよね?」


「それではエリスが泣いて待たせてしまいますよ」


「早く行って早く帰りますわよ!」


 これで寄り道する可能性は殆どなくなったな。


 王城を向かう途中で色んな人と出会った。

 商売目的で話してくる人とか、私が右手を持っていないことに興味を持って話しかけてくる人、エルシアがエルフで珍しく声をかけてくる人とか、エロフ目的で話しかけてきた変態野郎…など様々…


 しかし、街の風景は見事なもの。

 道は広く確保され、道の端では商売が行われている。果物、野菜、肉や魚、穀物、食事に必要なものは何でも揃う。より安いものを求めて、いくつかの店をハシゴする人がいる。

 セールとか言って、争いが起こったりしている。

 ある意味平和的だ。

 道に沿って家が立ち並び、壁はレンガ様式が多く、屋根は赤レンガでほとんど統一されている。

 オーバーハング方式で建築されていて、建築のセンスが溢れている。

 ここだけの特別な建築方式かも…生前はいろんな世界を旅したけれど、この方式はあまり見なかったな。


 王城から離れるほど個人で家を持つ人が多いが、中心に近づくと店などが増えて家が減っていく。

 店はというと、高価な服や高級レストラン、武器屋などが置かれる。家が減る、その代わり宿の数が増えている。考えれば自然的。

 でも貴族の家が中心に近づくと、大きくなっていく。

 とまあ、王国の雰囲気はこの程度かな


 街を見ながら、感想を思っていると王城の前についた。

 現在時刻は8時前、予定より少し早いかと言って問題があるわけじゃない。

 あとは面会したいと、門番に伝えて待つだけ…


「承認が出ました。どうぞお入りください。案内はあちらのメイドが行いますので、ご了承ください」


「紹介に預かりました、イグノランス様のメイドです。今日はご案内させてもらいます」


 王城内をメイドさんについて行く。

 中の装飾も素晴らしい。よくわからないけど、素晴らしい

 生前は魔法のことにしか興味がなかったという事もあるだろうが、新しい視点を持つといろんな知見が得られる。

 王城を外から眺めると、意外にも小さくも見えなくない。

 でもいざ中に入ると、広大な敷地にたくさんの部屋がある。小さい城壁があって中がよく見えないけれど、その裏には美しい庭が広がっている。

 廊下を歩いて渡り、階段を上がって少し高い位置に立つとより一層王城の大きさに感動する

 しばらく歩き、扉の前に着いた。


「…こちらです。では私はこちらで失礼させてもらいます」


 私達で扉を開けて、中に入る。


「ようこそまたいらしてくださいましたね。あら?もうひとり連れてきたようですね。なにかお困りのようですか?」


 綺麗なドレスを着て、対になっているソファーに腰掛けている。顔をよく見ると目の当たりを状態で隠している。


「そうですわね。私の方はどうでもいいのですけれど、ユアンのほうがね」


「おい…あの、エルシア…ユアンの名前はなしって」


 小声で話しているけれど、王女からはかなり怪しまれている気がする…

 ユアンの名前を出さないとエルシアと相談していたのに、声に出してユアンの名を出されて動揺してしまった……エルシア、あれだけユアンの名前は控えろって言ったのに…


「ユアン様ですね。あの偉大な魔道士と同じ名前とは珍しいですね」


「い、いや、本名はユアンではなく、ルークと申します。エルシアが…」


「いいんじゃない?ユアンの転生先ということで、本当にユアンってことで」


 エルシアがこっそり話かけてきた。ユアンの転生者なのは変わりないけれど、それを名乗るのはどうかと思う。

 実際そうでしょ?ユアンと名乗って、そうなんですね。で済む事もあれば、怪しまれることもあれば、無礼と思う人は少なからずいると思う。


「こっそり話しているみたいですけど、魔力探知で丸聞こえですよ〜それに今は人がいませんし、正直に話してもらっても構いませんよ?というか、ぜひ聞きたいですね」


 エルシアから聞いた以上にイグノランスは好奇心に満ちている人のようだ。

 それにしてもこれほどの魔力探知の精度を持つ人を見たことがない。

 音の振動を微細な魔力になる変化を探知して、会話を聞いていたのか!?


「エルシア、どういうことだよ?魔力探知で全部聞かれてるらしいが?」


「イグノランス王女は目が見えない代わりに異常なほどに魔力探知が得意になっているらしいわよ?」


「…早く言えよ……それで王女様は私がユアンであることを信じるのですか?」


「ええ、完全に信じたわけではありませんが、もし本当なら面白いなと思いまして。もちろん、口外する気はないので、私達の仲ということでよろしくお願いいたしますね」


「どうもルークと申します。よろしくお願いします。今回、面会を承認していただきありがとうございます」


「そんなかしこまられても困りますね。私は王族という立場ですが、かしこまった雰囲気は嫌いなのですよ。なので毎回、王族としてあるまじき姿を見られないために従者を退かせているのですよ」


「ですが、過去に苦い思い出がありましてね…王族と会うときはきちんとしておくと決めているのです」


「過去の苦い思い出とは、ユアン時代のことでしょうか?教えていただけます?すごい興味があります!」


「いえ違います…と言いたいですが、信じるかはあなた次第ですけれど、私はユアンの転生者です」


 口外しないとは宣言してもらったので、信じるとしよう。それにもう言い逃れはできないしさ。論破されるの早かったな…どうせ、見透かされてただろうし、どうでもいいいか

 信じるかはあなた次第ですけれどと前置きをおいたから、断言はさせない。


「とうとう、正直に話してくれましたね。しかし、あの魔道士ユアンが転生を果たしたとは…なにか魔法でも使って転生したのですか?」


「いえ、転生の魔法はこの世に存在しません。しかし、天使族と精霊族の言い伝えで転生にまつわる物があったような気がします。

 逆にこの程度しか情報がありませんけれどね。

 私の前世の話なんてくだらないですし、どうでもいいです。今回は困ったことがあって訪問しましたので要望を飲み込んでほしいのですけれど」


「何かを与えるのに、何も貰わないなんて不公平でしょう?そしてその対価を私はユアンの話を聞きたいのですから」


 対価でユアンについての話か……だけど無一文の私達にとっては好都合だな…


 それからは、イグノランスが質問したら私が答える型で話を進めていった。これ話したら喜びそうだなってことを付け足しながら話した。


 最初は、どうやって転生したのか?と聞かれて強くそう願ったら気づかぬままに転生していたと話した。


 次にエルシアとの関係性、エルシアを下げるように話を進めた。

 金銭でまだ返されていないこと、招待したのにその事自体忘れられていたこと。最期に魔王としての尊厳がないと締めくくってこの話が終わった。


 そして、転生術について聞かれた。私からもこれに関しては全くわからない。天使族と精霊族の言い伝えで、”対価を払えし者、転生の資格あり”というのがあったのを知っている程度。

 知っていることはこれ以上もこれ以下もない。


 次に、どうしてあれだけの魔法を研究し、使うことができたのか?ということ。

 これについてはあまり詳しくは話せない。イグノランスには話していない内容だが、

 実は生前は悪魔と契約していた。代償は寿命で20年分。

 ”人間にしては長生きしたな”とか話していた気がするが、恐らく20年分足し合わせての寿命を言っていたんだろうな…はっきり覚えていないけれど


 話がそれたから戻すけれど、悪魔と契約したのは本当。私の魔法の成長に限界を感じていたので、完全服従型で悪魔と契約した。だから悪魔が私に抵抗することができないように契約を結んだ。

 おかげで、人間の限界を超えた魔法を知り得ることができた。それを人間でも扱えるように魔術理論を変換し、公に公開した。


 これが、あれだけの魔法を使えた理由だ。

 しかし、これは禁忌。誰にもバレないように息を潜めて研究を進め続けた。


 これがユアンの実態だと知られたら、今からでも批判されるに違いない。私としても心が痛くなる。

 特に気になった質問がこれくらい。他にもあったが、どうでもいい感じ


「はぁ…///ユアンからいろんなことが聞けましたわ…今日はこれで満足ですわ。……それでお困りのことがあったようですね、お聞きします」


 知的好奇心に満ちている人だなと思っていたが、

 知的欲情心をお持ちのようで…


「私は今右手がないのです。なので、義手が欲しいです」


「わかりましたわ。話の方は十分に聞かせてもらいましたし、私からあなたに義手を送るのに等しいほどに価値のある話でした。

 明日は予定が空いているでしょうか?採寸などを済ませたいのですが……それとも王室で食事を取っていきますか?その後に採寸しても構いませんし」


「よろしいのですか!?」


「ええ、構いませんよ」


 その後は、王城内で昼食を食べた。久しぶりに高級な食事を取ったし、テーブルマナーを意識した瞬間だった。周りの王族や、訪問していた貴族から驚愕の目が飛んできた。


 私だって生前はテーブルマナーを学んだ。誰から見ても気にされない程には上達していた。

 エルシアはというと、うん、まあ、お察しの通りでテーブルマナーや、食事マナーには疎いようだ。

 なぜ魔王になったんだろうか……受け継ぐと言ってもある程度の人選はあっただろうに…


 食事を終えると、イグノランスから「先程の部屋にてお待ちください」と伝えられたので、さっきの部屋に戻る。

 義手の採寸はすることにもう決定している。採寸する手筈はイグノランスがしてくれるみたい。

 念願の義手…!なにか特殊効果を着けてみてもいいかもしれない。

 しばらく待っていると…


「お待たせいたしました。ルーク様。義手の採寸をしますよ」


 イグノランスが来てくれた。後ろに何人かの従者を連れている。採寸をしてくれる人たちだろうか?3人いるな…


「採寸をしてくれるのがこの二人。そしてこの人が、義手の設計をしてくれる人です」


「義手の設計を担当する、マッドだ。脳神経と魔力エネルギーの関係性について研究しているものだ。自身の意志と同じように動作するように義手を設計させてもらう」


「あ、あの…私に魔力はないのですが…」


「まだ、魔力を使うとは言ってないが、まあそのとおりなんだがな…そんなことも想定して、義手の中に魔力を貯蔵できるように設計するさ。」


 採寸が始まった。右手を採寸し、反転して設計図を作る。

 マッドがおおよその設計図を作り、機構はまだだ作れていないけれど、見た目ならもうほぼ決まっている。

 完成が楽しみだ。


「採寸は以上となります。制作から完成まで時間がかかりますけれど、大丈夫でしょうか?最低でも2週間はかかりますね。王国内の技術者を総動員した場合ですが…」


「計画の見直しが必要ですね。2週間ほどかかっても問題ありません。」


「承知いたしました。2週間後にまたこちらにいらしてください。招待状を出しておきます。」


―――王女イグノランス―――


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