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つなぎ水

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 む、つぶらやくん、見たまえ。あの指の先にある学校の校庭だ。

 こうして高いところに登らないと、ちょっと目立ちづらかったかもな……つぶらやくんは、視力に自信があるかい? あの校庭に並んでいるのはもしやと思うんだが。

 ……うん、やはりバケツか。数として何十、いや三ケタに及ぶかな?

 珍しいな。ああも「つなぎ水」の用意をするなんて。ここの土地柄みたいなものか。


 ――む、「つなぎ水」とはなんぞや、と?


 つぶらやくんの住んでいるところでは、あまり行わないかな? ならば、ちょうどいい。

 そこらへんに腰掛けようか。「つなぎ水」の話をしよう。


 私たちの世には、排出されたものが多く混じっているのはご存じだろう。

 酸素、二酸化炭素をはじめとしたガス状のものから、水などの液状のもの、生き物の排泄物など固体のものまでさまざまだ。

 これらは自然にあるものたちが分解をしてくれることで循環するが、中には時間がかかりすぎるものもある。

 有名な例としてはプラスチックだろう。教科書などでは自然で分解できないものと紹介されることもあるが、実際には400年から1000年で分解される。まあ、我々が生きてその経過を最後まで見守れない、という意味では分解不可も的外れではないかもね。

 ほか、紙おむつでも450年、アルミ缶で200年、ゴムでも50年……など、人間の生涯で見たら、一世代でケリをつけられるものばかりではない。

 いずれはこれらの分解が追い付かなくなり、世界の土地はゴミだらけになってしまうのではないか、という懸念も分からなくはない。そのため、焼却をはじめとしたさまざまな処理方法を行っているわけだが、そのレアケースがあの「つなぎ水」というわけだ。


 くわしい原理は、私も分からない。

 だがつぶらやくん好みの表現をするならば……異世界からの召喚、といったところか。

 あのつなぎ水は、こちら側と向こう側をつなぐ鏡のごとき面の役割を果たすという。無数に注いだ水たちが映す、多数の面。そのうちのいずれかが、ふとした拍子に向こう側とつながることがあるのだとか。


 ――向こう側には、なにがあるのかと?


 さて、すまないが私も不明だ。

 なんでもつながる世界はひとつとは限らないらしくってね。そのときどきによってつながってくれる場所は異なり、もたらされるものも違うのだとか。

 こちらと理が異なる世界だ。先にあげた、この世界で分解に苦労するものたちが向こうではたやすく行えるかもしれない。それを期待し、処理方法に頭を悩ませるものが出た場合は、ああして「つなぎ水」を用意し、待つというわけだ。

 今日は学校も休みの曜日のはず。ああして、普段の運営の邪魔にならない範囲で……。


 む……つぶらやくん、双眼鏡をのぞいてみろ。

 どうやら、今回のこの時間で「つながった」らしい。君も、なかなかもっているな。

 並んでいるバケツの水面の色をよく見たまえ。あれの色の染まり具合によって、どこの世界とつながったかの判断がつく。とはいえ、詳細は慣れた人じゃあないと判断しきれないようだがね。

 私の知識で分かるものだといいが……て。

 おい、ヤバそうだぞ、つぶらやくん。君の目にもバケツたちが皆、真っ黒になって泡立っている状態なのが分かるか?

 どうやら、最高レベルに効率がいい世界を引いたらしい。おそらくこの世界のどこかしらにある分解困難なゴミは、まもなく消え去るようだぞ。

 しかし、でっかいエネルギーを使うと、でっかい廃棄物が出るというのは、向こうの世界も同じらしい。


 来るんだよ、こちらに。

 向こうの世界じゃ処理が難しく、こちらの世界じゃあっという間に片付く。そんなものがな。

 つぶらやくん、折り畳み傘があるなら、速やかに出せ。このあたりなら……あそこ。でっかい木の下がいいだろう。「盾」がいっぱいある。

 傘を差したら、あそこの幹に身を寄せて……よし、そうだ。

 見えるかい? 学校のほうだ。目を凝らしてみるといい。

 あのバケツたちから、無数に飛沫が飛んでいるのを確認できるはずだ。横に飛ぶんじゃない。奴らは縦に飛ぶ。

 学校も、そこらのビルもあっという間に凌駕して、舞い上がったそいつらは、やがてこちらの世界の重力によって降り注ぐ。

 やっぱり来たよ……ここにね!


 ふうう……とんだどしゃ降りだったね、つぶらやくん。

 もうあと2秒くらい長引いていたら、直撃をもらうところだった。

 参ったねえ、私も君ももうこのありさまじゃあ、誰も「傘」だなんて言い分は信じちゃくれないだろう。ほとんど、取っ手と柄の根本しか残っていないようなものをさ。

 この樹に関しても同じ。たっぷり茂った葉は枯れるどころか、黒く落ちてもはや何も残さない。季節外れの丸裸の姿が残るのみだ、この一帯も。

 先にも話しただろう。彼らは着地と同時にたちまち分解されて、もはや痕跡も残さない。

 伝聞だが、まだこいつらをこの世に残すすべは開発されていないようだ。正体を探ることもできない。

 いずれ、向こうにたくさん頼むことになったら、こちらも相応のものを引き受けることになろう。

 ブレイクスルーはなかなか起きないもの。いまは地道に続けるしかないかもね。

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