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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第5章】お嬢様の定期視察

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84.お手柄お嬢様1

「お、お待ちください! 商会内すべてですと!? そんなご無体な!」


 悲鳴を上げる支配人。

 少々半狂乱になりかけておられるようですな。

 さすがにこのような状態の御仁の相手をしていただくのは危険極まりない。

 私はお嬢様に代わって、彼の相手をすることにした。


「おやおや。支配人殿、何を驚かれておられるのですか? 今回は視察という名目でお邪魔しましたが、そもそも公爵家が行う視察とは、査察の意味も兼ねた監督業の一環にございます。であれば、建物内すべてを調査したとしてもなんら問題にはあたりません。何しろ、先方が提出された帳簿類だけがすべてではないでしょうしね」


「ま、まさか。私が裏帳簿を付けていると、そうおっしゃりたいのですか?」

「おや? 私は別に裏帳簿などとは申しておりませんが?」

「なっ……」


 ニヤッと笑う私に絶句してしまう支配人。

 やはりこの反応。

 この商会には何か裏があるのでしょうな。


 本来であればお嬢様の社会勉強という名目での抜き打ち調査でしたから、そこまでやる必要もなかったのですがね。

 あまりにも経営がずさんなうえ、言動が怪し過ぎる。

 これでは調べてくださいと言っているようなものです。


 それに。


 もし本当にこの商会が悪事に手を染めているのであれば、このまま放置しておくことなどできはしない。


 単なる不正程度であれば、今ならまだ『不祥事を働いた商会が公爵家管轄の宝石商の中にいた』程度で済むが、もし強大な裏マーケットを形成するまでに至ったときには、確実に監督責任を取らされるだろう。


 そうなったら最後だ。

 一歩間違えば既得権益を剥奪されかねない。

 たとえ王家の片腕のような立場であったとしてもだ。

 当然、そのようなことがあっていいはずがない。

 お嬢様の明るい未来が奪われてしまう。


「お嬢様、これに関しましては一使用人である私の勝手な一存では決められない案件にございます。どうなさるかはお嬢様次第にございます」


 既に調査の方向で動くとお嬢様のお心は決まっておりますが、私の独断専行で勝手に進めていいことではない。

 最終的な号令は、やはり主であらせられるお嬢様が行う必要がある。


「そうですか――えぇ、わかりましたわ」


 お嬢様は私ににっこりと微笑まれたあと、いきなりお嬢様のお母上であらせられるアナマリア様を彷彿とさせる氷の微笑へとお顔を変化なされた。


「グラディエール殿。ヴィクターの提案を受け入れ、これよりその方らの商会すべてを緊急調査させていただきます」


 そう静かにおっしゃったお嬢様に支配人殿はただただ茫然となるだけだった。





 こうして私とお嬢様はリセルやマーガレット、それからエルフリーデや護衛のガブリエラ女史らを呼び寄せて商会内すべてを引っかき回すこととなった。


 いきなり騒然となり始める建物内だったが、幸い、客の類いは一人もおられなかったため、いっさいの遠慮はしなかった。

 出入口もすべて封鎖し、悪事の証拠などが外へ持ち出されないように細心の注意を払った。


 この間、馬車の御者と執事に扮するコンラートはそのまま外で待機してもらった。

 クラリス嬢にも事情を説明し、理解しているかどうかわかりませんが、馬車の中で待機してもらうことにした。


 御者も公爵家の人間であるし、一応は剣術や魔法も使える。

 コンラートは私が見たところ、エルフリーデや公爵家が抱える騎士隊隊長の次に戦闘能力が高い。

 おまけに密偵として鍛えた俊敏さも中々のものだ。


 店の外で何かあればすぐにそれと気付いて対処できるだろう。

 そう思っての差配である。

 そうして引っかき回すこと数時間。


「ヴィクター様。それっぽいものは何も出てきませんでした」

「わ、私の方もありませんでしたぁ」


 一階部分にあたる店舗や奥の応接室、支配人の部屋などを探させていたリセルやマーガレット、エルフリーデが戻ってきて、首を横に振った。


「ヴィクター殿。こちらもありませんでした」


 二階の資料室や倉庫、従業員の居室などを捜査していたガブリエラ女史、シファー女史も収穫なしを告げてくる。


「そうですか。となるとあとはこの部屋だけですか」


 私は周囲を見渡した。

 今いる場所は三階サロンである。

 作りは応接室と同じだが、微妙に書斎のような作りとなっている他、階層(フロア)すべてが一つの部屋となっているような広々とした場所だった。


「しかし、見取図的にどうも()に落ちない点があるのですがね」


 私の呟きを耳にされたのでしょう。

 妙な動きをされると面倒なので、一緒に行動してもらっていた支配人が冷や汗をかきながらにじり寄ってくる。


「ヴァンドール殿。当商会にやましいところなど何もございません。考え過ぎではありませんか?」

「本当にそうでしょうかね? ご自身の胸に手を当て、しっかりと考えてみてはいかがでしょうか?」


 じっと見つめる私に支配人はただただ頬をひくつかせるのみ。

 やれやれ。

 本当に嘘を()くのが下手ですね。


 なんだかこのような小者を相手にしているのがバカバカしく思えてきましたよ。

 いっそのこと、怪しい場所すべてを魔法で吹き飛ばしてしまいましょうかね?


 私は禁呪指定された時幻魔法以外にも、通常魔法も今は一部使えるようになっている。

 魔導工房内に作った魔法演習場内で何度か試し打ちしているが、いまだに実戦で使ったことはない。


 丁度いい機会ですし、今ここでイグニスバーストという爆破魔法を使ってこの部屋の壁を破壊してみるのも悪くありませんね。

 思わずニヤッと笑いそうになってしまいましたが、


「おや?」


 何やらお嬢様が床の一点を見つめたまま、動かなくなってしまっていることに気が付いた。

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