~ interlude ~ 激おこお嬢様アゲイン
(マーガレット視点)
一方その頃、アーデは一人、愛らしいほっぺたをぷく~っと膨らませて怒っていた。
「最近、本当にみんな勝手ですわっ」
歴史のお勉強を終え、休憩のために三階勉強部屋から同階サロンへと移動してきた彼女は、お茶を飲みながらひたすらう~う~唸っていた。
そんな彼女を見て、本日早番となるマーガレットがきょとんとなる。
「どうかされましたか、お嬢様」
「どうかしたかではありませんわ。本当にもう。ヴィクターは私の執事ですのに、みんなでよってたかって断りもなく便利に使うのですもの。本当に嫌になってしまいますわ。あの方は便利屋ではないのですよ?」
まったく機嫌が直りそうにない主に、「そ、そうでございますね」とマーガレットが苦笑する。
若干のほほんとしている専属侍女ではあったが、さすがに気が付いてしまった。
アーデが何に苛ついているのかを。
「え、えっと……お嬢様?」
「何かしら?」
「きっと、ヴィクター様が誰よりも素晴らしい殿方だからこそにございますよ」
「それはどういう意味かしら? ヴィクターが素晴らしいのは最初からわかっていたことではありませんか」
「それはもちろんですが、ほら、ヴィクター様って、ますます素敵になられていますし、そんな方であれば誰だって頼りたくなってしまうじゃありませんか」
「それは……確かにそうですが――ですが、ヴィクターはわ・た・く・し・のっ、ヴィクターですのよ? それなのに、最近ますます私といる時間がなくなっているように思いませんこと? 昨日だって、十五時のお茶のお時間にいらしてくださらなかったですし」
「そ、それは確かにそうですが」
「マーガレット? 聞けば、昨日はお父様がおかしなことをなさり始めたせいで、お茶のお時間に来れなくなってしまったというではありませんか。ヴィクターは以前、約束してくださいました。これからは、いつも一緒にいられる時間が少なくなってしまいますが、お茶のお時間だけはお顔をお見せくださると。それなのにです!」
「そ、そういえばそうでございましたね」
「えぇ、そうですわ! どうしてこのようなことになってしまったのかしら? いったい誰のせいですの?」
「そ、それは……」
間違っても旦那様のせいだとは口が裂けてもいえないマーガレットだった。
そのようなことをすれば、アーデは必ず、復讐とばかりにシュレイザー公爵と距離を置き、当分の間口を利かなくなってしまう。
そして、その原因の真相がどこにあるのかと、公爵であれば必ずや突き止める。
そうなったらおしまいだ。
何を言われるかわかったものではない。
(はううううう~~~。どうしましょう……!? お嬢様が激おこになってしまいますぅ~~……うううう、どうして私が早番のときにぃ~~――リセルぅ~~! 早く来てぇぇ)
オロオロし始めた彼女のゆる巻き金髪ポニーが左右に揺れ動く。
ついでに大きな胸もわしゃわしゃ揺れる。
四年という歳月が経過し、二十一歳になったというのに、相変わらず彼女の内面は成長していなかった。
相変わらずの天然で、そそっかしくて、か弱い。
しかし、それに相反して、見た目だけはしっかりと大人になっている。
愛らしい面影は残っているものの、大人の色香も出始めていた。
「もういいですわ!」
「え……? え? え? え?」
突然、愛用の白い椅子から立ち上がったアーデが、何やら決意を秘めたような表情を浮かべていた。
「マーガレット!」
「は、はいぃぃ!」
「今から直談判にまいりますわ!」
「え……? じ、直談判にございますか!?」
「そうよっ。だから、マーガレット。ヴィクターやお父様が今どこにいるのか教えてくださいませ! これから会いに行きます!」
「あ、会いに行くって……そんなぁぁぁぁ~~~!」
目をぐるぐる回しながら、ホワイトブリムを被った頭を押さえて仰け反るマーガレット。
彼女の苦難は始まったばかりだった。
(ううう~~~……リセルぅ~~! 早く来てぇ~~~)




