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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第5章】お嬢様の定期視察

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75.使用人たるもの1

「脇が甘いですよ。ほら、そこ。しっかり背筋を伸ばして歩きなさい」


 数日後。

 私の姿は例によって地下練武場にあった。


 ここ最近は、旦那様のせいで『蒼天の禍つ蛇』の組織運用をしなければならなくなってしまったため、本当に大忙しだった。


 朝早くに起床し、他の執事らとのミーティングを終えてから、お嬢様へのご挨拶と本日のご予定のご連絡。

 ここまでは以前と同じだが、そのあとが大幅に変わってしまった。


 今までは新設した魔導工房で禁書絡みの魔導研究と自己鍛錬に時間のほとんどを費やし、十五時のお茶のお時間と夕時以降の執事業を済ませれば、その日の業務は無事終了、ということになっていた。


 けれど、現在はこの自己鍛錬と魔導研究の時間をそっくりそのまま、部下たちの訓練に当てなければならなくなってしまったという。


 何しろ、約一ヶ月後に開催予定となっているお嬢様主催のお茶会までに、ある程度形にしなければならないからだ。


 今までどおり陰は陰として使い、それ以外の警備はすべてお抱えの騎士らに任せればよいのだが、どうも旦那様は生来お持ちの鋭い嗅覚で何かを感じておられるようだ。


 未来の歴史を知っている私ですら、読めないことも多々ある。

 何しろ、既に大幅に歴史が変わってしまっているわけだし。

 何が起こってもおかしくないのが今の世の中。


 もしかしたら、もっとあとになって解読されるはずの古代文字が数年後には読み解かれてしまう、なんてことも起こるかもしれない。


 ――用心に越したことはないということなのでしょうね。


 そんなわけで、旦那様ではありませんが、不測の事態を想定して急ぎ組織のメンバーである陰たちを鬼のようにしごいていたのである。


「ヴィ、ヴィクター様……少し休憩を……」


 陰の副隊長であるエルフリーデの補佐官に任命した黒髪の青年コンラートが、引きつった笑みを浮かべながら音を上げた。

 そんな彼に、私ではなく、この場に同席してくださっている、私の師匠でもある侍女頭のメアリー様が(げき)を飛ばされた。


「なりません。そのようなことでどうするのですか。あなた方はこれから、この公爵家の正統な使用人として働かなければならないのですよ? それなのになんですか、その口の利き方は! それに、全然なっていません! もっと背筋を伸ばして歩きなさい!」


 ……相変わらず恐ろしいお方だ。


 久しぶりに見る使用人教育を前に、私は若かりし頃に経験した黒歴史を思い出し、背筋が寒くなってしまった。

 目の前でひぃひぃ悲鳴を上げている彼らには同情を禁じ得ない。

 おそらく、私と一緒で、一生消えない恐怖の記憶が脳裏に刻み込まれることでしょう。


 ――やれやれ。


 そんな可哀想な陰たちの一日のスケジュールですが。


 まず、午前の三時間ほどは使用人教育に費やし、昼食や休憩を挟んだのち、午後から筋力体力トレーニング、それから剣術武術の訓練という流れとなっている。


 おそらく、メアリー様だけでなく、既に私の顔も鬼にしか見えなくなっていることでしょう。

 ですがそれも仕方がありません。

 何しろ、旦那様のご命令なのですから。


 そして、これがゆくゆくはお嬢様の御為(おんため)になる。

 そう思えばこそ、手を抜くことなどできないのでございます。


「ていうか、クラリスばかりずるくないっすか?」


 そうげっそりしながら訴えてきたのは、私の腰ほどの背丈しかない小人族の男性フィンクだ。

 彼は現在三十二歳という最年長クラスだが、そもそも人族とは寿命が異なる。


 人族の寿命が大体六~八十年といわれる中、小人族は百六十~二百年は生きるといわれている。

 そこから考えるに、フィンクはまだまだ年若いと言えるだろう。


「何をおっしゃっているのですか、あなたは。クラリス嬢はまだ五歳という幼い身。あなた方と同じ使用人教育など、受けさせるはずがないでしょうに」


 すかさずメアリー様の檄が飛び、フィンクが「うへ~」と、げっそりする。

 朝からひたすら歩行訓練させられ、さすがに飽きが来ているのでしょうね。


 私も最初の頃は本当に、「このクソばばぁっ」と思ったものです。


 その気持ち、わからなくはありません。

 ですがメアリー様がおっしゃることはごもっとも。


 最年少のあの五歳の幼女クラリス・メイヤーさんを、大人たちと同じようにしごくわけにはいかないですからね。


 ですのでそう思って、彼女だけは自由にその場で遊んでいるように指示を出してあったのですが、どうやら彼女は周りの大人たちの真似ごとをしたかったようで、結局は一緒になってひょこひょこ歩いていましたが。


 私は改めて、眼前の若者たちを見渡した。

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