表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第4章】蒼天の禍つ蛇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/122

69.新設された魔導工房

「旦那様は相変わらず無茶ばかりおっしゃる」


 朝の打ち合わせを終え、私は一人、西兵舎北に新たに増設された三階建ての塔のような建物へと移動していた。


 私は四年前と変わらずいまだに特殊な立ち位置にいるため、朝晩、それからお茶のお時間以外は基本筋トレなどの自主練をしているか、工房にこもって研究しているかのどちらかだ。


 一見、礼拝堂にしか見えないこの建物は、私が本格的に地下の工房で禁呪の研究をし始めるようになった三年ほど前に建てられた新しい工房である。


 かつて使用していた工房は規模が小さく大した研究ができなかったということもあり、あちらはもしものときの備えとして地下シェルターに改造し、こちらに研究機関のすべてを移設したのだ。


 お陰で大がかりな研究も自在にできるようになっている。

 本当にありがたいことだった。


 というのも、禁呪の一つである闇魔法『傀儡魔法(マギアクローム)』には、『擬態兵装魔法(マギアプロトコル)』以外にも様々な禁術が存在しているらしく、それらを研究するためにはまったくもって用足りなかったからだ。


 だからこれほどに広い工房を用意してくださった旦那様には感謝しかない。


「もっとも、『傀儡魔法』がなぜ『傀儡魔法』と呼ばれているかの最たる所以(ゆえん)である禁術の一つ『人形操術(マリオネート)』などは、今の私ではまったく使えませんがね」


 特殊な(じゅ)を施して呪物化した魔力の塊を対象に注ぎ込むことで、相手を意のままに操ってしまうという禁じ手。


 この禁呪は相手が人であれ動物であれ、魔獣、魔物、単なる人形であれ、なんでも思うがままに操ってしまうらしく、その危険性は考えるまでもない。


 対象が物体であれば問題ないが、魔物や人間などを操ったら世界がどうなってしまうかわかったものではない。

 それゆえ禁呪指定されたが、これを行使するためにはやはり膨大な魔力と魔法技能(センス)が必要となってくる。

 そのため、残念ながら今の私では使えないのだ。


 一応四年前に比べたら筋力や体力だけでなく、魔力も格段に向上しているから、ある程度の基本魔法は使えるようになっているし、あるいは現代人の誰も使えない『失われた属性(ロストアトリビュート)』と呼ばれる時幻属性の、ちょっとした禁呪も使えるようにはなっている。


 しかし、それでも正真正銘の『傀儡魔法』を始め、いわゆる戦略級魔法の類いはまったく扱えなかった。


「――ですが、()()()()()()()()()()()身体強化系魔導具の開発にさえ成功すれば、潜在能力を底上げできるようになるかもしれませんがね」


 残念ながら、その手の記述は()()()()ものの、材料がない。


「おそらく、今はまだそのときではないということなのでしょう」


 禁呪に関してはとりあえず、『擬態兵装魔法』の基礎と応用だけで我慢していろということなのでしょうね。

 今すぐ神や悪魔並みの力が必要というわけでもありませんし、焦らず着実に力を付けていきますか。


「あら? ヴィクター様ではありませんか。おはようございます」


 一階入口から中に入ると、既に仕事に取りかかっていた一人の茶髪美女がそう声をかけてきた。

 ミカエラ・ゼーレ・エスペランツァー様である。

 彼女も当然のように年を重ねておられるので、現在は二十三歳だ。


 ミカエラ様は貴族のご令嬢とは思えぬような言動を取ることで有名だが、その見た目だけは『これぞまさしく貴族子女』と断言できるような品性を兼ね備えている。


 十代だった頃はまだ多少幼さが残っていたものの、今は完全に大人のそれである。

 ただし――

 見た目は成長しているのに、中身は相変わらずの『魔導狂い』なままだった。


「朝から精が出ますね」

「えぇ。もちろんですわ。何しろ、古代の叡智に触れられるのですもの。これほど心躍るものはございません」


 ミカエラ様はそのようにおっしゃりながら、神に祈りを捧げるような格好となる。


 旦那様がこの新工房を新設してくださるという話になった折、ここで働く研究員も必要だろうと気遣ってくださったことがあった。


 そこで、事情を知っているミカエラ様と看護師のスカーレット女史をこの魔導工房専属スタッフとして手配してくださったのだ。


 そしてその代わりといってはなんだが、元々彼女たちがいた職場には別のスタッフが何名か常駐することになった。

 まぁ、個人的にはスカーレット女史はいいとして、ミカエラ様を引き入れるのは少し危険な気がしないでもなかったが。


「これもすべては旦那様とヴィクター様のお計らいのお陰でございます。どのようにお礼すればよろしいやら」


 そう言葉を結び、ツツツと近寄って来られるなり、私にべったりと張り付こうとなさったため、私は軽くそれをかわして奥へと歩いていった。


 後ろからとても残念そうな舌打ち音が聞こえてきたような気がしましたが、聞こえない振りをした。

 そうして、二階まで吹き抜けとなっている奥の部屋まで歩を進めたとき、歩みを止めた。


 上を見上げる。

 巨大構造物。

 そこには、人型の物体が静かに鎮座していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★ 以下作品も好評連載中です。ご愛読くださると幸いです ★

【国を追われた元最強聖騎士、世界の果てで天使と出会う ~辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし】

故郷を追われた元聖騎士の男が、片田舎の農村で可愛い娘たちと一緒にスローライフしていくお話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ