66.宴のあとのティータイム、そして大団円1
二十一時を回り、大盛況のうちに夜会はお開きとなった。
お迎えの馬車が大行列となって敷地の外、それからロータリー内に止まっている。
最高級ワインと新作お菓子のお土産を手にされたお客人たちが、とても満ち足りた笑顔で帰っていかれる。
どのお顔もすべて満足げだ。
それらがすべてを物語ってくれている。
今回のお誕生日会が、見事、大成功を収めることができたのだと。
ちなみに、陛下や王妃様、王太子殿下らは一足先に王宮へと帰られている。
連絡を受けた近衛騎士団が数百人規模にわたって参集され、彼らに守られる形でお帰りあそばされたからだ。
「これで、ひとまずは肩の荷が下りたといったところでしょうか」
あれだけ大勢いたお客人らの姿はもうない。
最後の一人となっておられた男爵殿の馬車も、つい今し方、公爵邸より去っていかれたばかりだ。
華やかな夜会の喧噪と予期せぬ襲撃事件の斬撃音が、今もまだ耳の奥に残っている。
宴のあとの静けさは、妙な物悲しさを心に残していくものだ。
「やれやれ」
お見送りを終えた私たちは、お屋敷外の見回りと確認作業をする者だけ残して中へと入っていった。
しかし――
「やはり、何度思い直しても、あの方だけは妙に引っかかりますね」
笑顔で帰られるお客人たちの中で、ただ一人、浮いている方がおられた。
ロンド・ゼーレ・ロメルト子爵。
酔い潰れて医務室へと運ばれていったあの御仁だけは、どこか不愉快そうに顔を歪め、帰られていったのだ。
そのことに気が付いたのはおそらく私だけだろう。
「宰相派閥でもなく、公爵派閥でもない中立に位置する御仁」
妙に気にはなったが、あの方の情報は何も持っていないので、憶測することすらできない。
あとで旦那様にご報告し、情報を仕入れておく必要があるようです。
すべてのお客人が帰られた現在の時刻は、既に二十二時を回っている。
もうそろそろ、本来であればお嬢様はご就寝なさっていてもおかしくない時間帯。
本日はお疲れのことでしょう。
「皆様方、後片付け、よろしくお願いしますね」
「畏まりました」
ホールを去っていく私に、その場を片付けていた料理人や侍女たちが一斉に返事をした。
(監視の皆様もお疲れ様でした。あとは交代の方に業務を引継ぎ、お休みください)
再びお屋敷中の監視の任に戻っていた特殊部隊にそう声をかけた。
彼らは「了解」と応じ、夜勤任務の者たちと交代する。
本日は先程の襲撃事件のこともあり、夜通し警戒態勢を敷くことになったのだ。
大ホールをあとにした私は、その足で自室のある四階へと上がっていった。
このあと、予定どおり、アレをやるらしい。
あんなこともあったばかりだし、相当にお疲れだと思い、本日は中止にして別の日にやりませんかと提案したのですが、
「ダメぇっ。絶対にやりますの! これだけは何がなんでも譲れませんわっ。そのために、今日はいろいろがんばったのですから! ですので、ヴィクター? どうか、がんばった私にご褒美をくださいませっ」
と、久しぶりの駄々っ子振りを見せつけられたのでした。
旦那様方も肩をすくめられ、結局、ちょっとした、夜会のあとのお茶会を開くことになってしまったのである。
合同お誕生日会という名の。
「やれやれ。お嬢様にも困ったものです」
私も魔力や肉体を酷使し過ぎて相当に疲れていたので正直、今日は早めに横になりたいところでしたが。
「ふふ……」
ですが自室に戻り、それを手にした私は一人、心とは裏腹に自然と笑みが浮かんできてしまった。




