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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第3章】お嬢様のお誕生日会

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55.途絶2

「わわわっ……」


 大慌てで前庭テラスの方へと逃げていかれる一人の女性。


「お待ちなさい」


 その独特の紫色をしたローブ姿に見覚えのあった私は、彼女の背中に声をかけていた。

 ピタッと動きが止まり、ゆったりとこちらを振り向かれる茶髪の女性。


「あ、あらら~~。こ、これはヴィクター様ではありませんこと。ごきげんよう」

「ごきげんようではございませんよ、ミカエラ様。あなたはいったいこのような場所で何をしておられるのですか」


 頬を引きつらせながら気まずそうに笑っておられるご令嬢のもとへと、ゆっくりと近づいていく。


「あなたには確か、不穏分子がお屋敷内へと紛れ込まないようにするための、結界魔法の準備という大切な任務があったはず。それがどうしてこのような場所に?」


 それに、どうも様子がおかしい。


「そ、それはその。少々息抜きにと思いまして。ジゼルとは交代で休憩を取っておりましたの」

「ほほ~……休憩でございますか。確かに根を詰め過ぎてはかえって失敗を誘発する危険性がございますし、段取りどおりの時間であればそれもやぶさかではございませんが。ですが今この時間帯は確か、魔導具の最終調整を行っておられるはずでは?」


 ミカエラ様方が普段詰めておられる医療棟の魔導研究所には、公爵家の敷地を囲む四隅に建てられたポールと連動する形で、半球状に展開する結界魔導具の本体が置かれている。

 あと一時間後の十七時になったらそちらを作動させ、塀をよじ登って外部から賊が侵入しないように、あるいは外部からの遠隔攻撃を弾くための障壁魔法を展開する予定だった。

 そしてパーティー中にその任務を請け負っているのがミカエラ様とジゼル殿だった。


「はぁ……あぁもう。わかりましたわ。素直に白状いたします!」


 じ~っと見つめる私の視線に耐えられなくなったのでしょう。

 ミカエラ様は大きく肩をすくめられた。


「ほら、私とジゼルって、パーティー中はずっと研究所に詰めていなくてはならないでしょう? ですから、少しでもこの雰囲気を楽しみたいと思いまして、始まる前に少し様子を見に来たのです。本当にただそれだけなのです」

「ほう? 本当にそれだけにございますか?」

「う……し、信じてくださらないのですか? あなたのお命をお救いしたこの私のことを!」


 そうおっしゃりながらにじり寄ってこられると、ミカエラ様は私にぴったりと張り付くようにしながら、人差し指でくりくりと、私の胸に円を描き始める。


「……ミカエラ様。正直に白状なさってくだされば、職務怠慢には目を瞑ります。ですが――」


 上目遣いでちらちらと私を見上げられていた彼女をギロリと見下ろす。

 ミカエラ様は「うっ……」と、冷や汗を流されながらもすっと離れられて、両手を左右に振り始めた。


「わ、わかりましたっ。わかりましたわっ。全部白状します! 実は――」


 私はオロオロしながら話されたミカエラ様の申し開きに、思わず溜息を吐いてしまった。


 先程おっしゃっていたとおり、結界維持の任務についている間外に出られないのがつまらないからと、せめてパーティーが始まる時間まで雰囲気だけでも楽しもうと、お屋敷内をうろついておられたらしい。


 そうして大ホールへと来たところ、おかしな気配を感じたとかで、観葉植物の壺の中を覗き込んだら人型の変なものを発見した。


 それを一目見て私が禁術を使って作り上げた『おかしな物体』と判断して狂喜乱舞。

 分解して調べようと思って手に取ったらいきなり壊れてしまった。


 それでやばいと思って逃げたとのこと。

 つまり、私がお屋敷警戒用にとせっかく準備したものを破壊した張本人がミカエラ様だったというわけだ。


「はぁ……やはりというべきか。あなたというお人は……」


 やはり魔導狂いは伊達ではない。


「し、仕方がないじゃありませんの! ヴィクター様が全然、あのおかしな秘術の正体を教えてくださらないからですわっ」

「おや? 開き直りでございますか? 感心いたしませんね。これは旦那様にご報告するしかありませんね」

「ちょ、ちょっと待ってっ。それだけはやめてくださいましっ。お父様に殺されてしまいますわっ」


 ミカエラ様はエスペランツァー男爵家の四女でいらっしゃる、公爵家派閥の貴族子女のようだ。

 そして、ただでさえ娘の魔導狂いに手を焼いておられる可能性があるというのに、そのうえ、旦那様のご不興まで買ってしまったら、いったいどうなってしまうことやら。

 どうやらそのぐらいの計算はできるようです。


「でしたら、もう二度と、余計な真似はしないで大人しく職務を全うなさってください」

「わ、わかっていますわっ……」


 ミカエラ様はそう叫ばれて、逃げるように走っていってしまわれた。


「はぁ……まったく……」


 私は一抹の不安を感じながらも空を見上げた。

 薄雲が大空のそこかしこにかかる美しい夕焼け。

 あと数時間もすれば、一気に夜の帳が下りることでしょう。


 いよいよ、パーティーが始まる。

 何事も起こらなければよいのですが。

 そう願わずにはいられない夕空だった。

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