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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第2章】禁呪魔法

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50.マギアプロトコル4

「う……ぐ……ここは……」


 薄暗い室内だった。

 どうやらうつ伏せに倒れているらしい。

 私は上体を起こそうとしたが、敢えなく失敗した。

 右手で持ち上げていた身体が再び床に激突する。


「ヴィクター様! 大丈夫なのでございますか!?」


 可憐な声で心配そうに声をかけてくる女性がいた。

 おそらくスカーレット女史でしょう。


「どうしていいかわかりませんでしたので、治癒魔法すらかけられませんでしたけれど、大丈夫ですの?」


 まるで実験動物にでも声をかけているかのような声色が頭上から降ってきた。

 こちらはミカエラ様でしょうね。


「まったくっ。はらはらさせるでないわっ」


 心底不機嫌そうな声色が背後からした。

 確認するまでもない。

 旦那様でしょう。

 どうやら私は魔法金属生命体を取り込んだあと、激痛に耐えきれず、気絶してしまったようです。

 実験に失敗して死んだわけではなかったようですね。

 本当によかった。


「私は……どれぐらい気を失っておりましたか?」

「大した時間ではない。数分とかそのぐらいではないか?」

「そう……ですか」


 なるほど。

 永劫の闇に囚われていたわけではないらしい。


「それで、どうなのだ? 体調の方は問題ないのか? 禁術とやらは? 成功したのか?」

「どう……でしょうか……? 先程まで感じていた激痛もおぞましさも今はまるで感じられませんが。……一応、身体中に気だるさと悪寒、痛みはありますが、なんといいますか。温泉やサウナにでも入ったあとの気だるさ、とでも申せばよろしいでしょうか。身体中がすっきりとしているようにも感じられます」

「そうなのか……?」

「はい……」


 ともあれ、自分の身体がどうなっているのか、確かめようがない。

 医務室へと行けば医療設備が整っているので、肉体の状態をある程度は確認できるでしょうが。

 私は右手を使って、なんとか上体を起こした。

 そして、それに気が付く。

 先程まで私の左肘があった床の上。

 そこに、固まりかけている銀色の金属がべったりと張り付いていた。


「これは……まさか、私が取り込んでいたものですか?」


 誰に言うでもなく呟くと、


「あぁ、それか。なんだかよくわからんが、お前が目を覚ます直前に、吸い込まれていったときと逆の動きで、左肘からドロドロ出てきたぞ――なんというか、あまり気持ちのいい光景ではなかったがな」


 言葉どおり、眉をひそめておられる。


「本当にそうですわね」

「はい。ですが、本当によかったです。私、ヴィクター様にもしものことがあったらどうしようかと……」


 スカーレット女史は今しも泣き出してしまいそうな表情をしておられた。


「いろいろとご心配おかけいたしました。身体の状態がどうなっているのかわかりませんが、とりあえず、生きて無事生還できましたので、実験は成功したとみて間違いないでしょう」


 魔核によって命を与えられた魔法金属生命体は、役目を終えるとただの金属となり、魔力もすべて失せて固まってしまう。

 私が与えた命令を確実に遂行したのだとしたら、そのあとは体外に排出されて、固形金属となるだけである。

 結果がすべてを物語っていた。


「すみませんがスカーレット女史。肩をお貸し願えませんか?」


 身体に力がまったく入らない。


「は、はいっ。ただいま!」


 慌てて私の上体を支えてくださる彼女に肩を借りながら立ち上がったところへ、すぐ側にいたミカエラ様が近寄ってきて、何やら潤んだ瞳を向けてこられた。


「さぁ、ヴィクター様? そのようなお身体になってしまわれては、もはや再び医務室の人となるしかありませんわね? うっふふ。楽しみですわねぇ。ヴィクター様のお身体が今現在、どうなってしまわれておいでなのか。そして、先程のあれがなんなのか。それをあなた様のお口から聞かせていただける日がすぐにでも来ることを、切に願っておりますわぁ」


 そうおっしゃりながら、しなだれかかってくる。

 よく見ると、艶やかな唇を舌なめずりしておられるようにも見受けられた。


魔導狂いの鬼女マギア・ドナ・デモーリア


 思わずそのような言葉が脳裏をかすめ、ぶるっと震えた。

 疲れ切っていて抵抗ができなかった私は、旦那様に助けを求めようと首だけ振り返ったのだが、


「やれやれ……」


 そう肩をすくめられるだけだった。

 いや、あのちょっと……。

 呆れておられないで、助けていただけませんかね?


 しかし、私の嘆願が聞き入れられることはなかった。

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