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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第2章】禁呪魔法

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47.マギアプロトコル1

 発注ミスなどのゴタゴタがあってから一週間ほどが過ぎていた。


 着々とお誕生日会の準備が整う中、私が陣頭指揮していた新しい酒類に関する内輪での品評会も進み、カクテルの評判は上々だった。

 旦那様も大奥様も奥様も、真新しい見た目と味に舌鼓(したつづみ)を打たれ、大変ご満足なされた。

 これだったらパーティーにお出ししてもまったく問題ないばかりか、新しい流行すら生み出せると太鼓判を押してくださった。


 料理長を始め、料理人たちも皆呆けたような顔をしておられた。

 どうやら相当気に入ってくださったらしい。

 同時に、今回の一件の始末をつけた私に、大層感謝してくださった。

 一時的に留置場に拘留されていた新米君も無事釈放され、泣いて喜び、なぜか私に絶対の忠誠を誓うとおかしなことまで言い始めた。

 旦那様に救いを求めましたが、笑ってからかわれるのみ。


 まったく。

 相変わらず私をおもちゃにして遊んでおられるようだ。


 一人溜息を吐きながらもとりあえず、それらを軽くかわし、次に私は新しい料理の提案もしておいた。


 この国はワインやブランデーの消費量はかなり多いが、ビールの消費はほぼない。

 そのため、料理にワインを使うことは割と多いが、ビールを使うことはほとんどなかった。


 そこで、牛肉や羊肉、ドラゴン肉などをビールで煮込むとおいしくなると、勧めておいた。

 未来では当たり前のように使われている調理法だが、今の時代では極一部の地域でしか使用されていない。

 だからこそ意味がある。

 この味を知れば、きっと新しいムーブメントを起こせるでしょう。


 同様に、デザートにラム酒やリキュール、ブランデーなどの酒類を使ったものも勧めておいた。

 こちらも未来では貴族庶民ともに人気の、大人のデザートとなっている。

 宮廷御用達になっている料理まであるほどだ。


 そんな感じで、パーティーの準備は滞りなく行われていった。

 そして、肝心の私個人の問題。

 地下一階に作られた魔導工房もなんとか形になった。


 始めはなかったパーティションと扉も完成し、ちゃんとした個室の形をなしている。

 内装も、普通の鍛冶工房で使われる釜を始め、冷却装置、防音防熱対策、換気設備、研究で使用される様々な器具も揃っている。


 一番の問題だった魔導高炉も完成した。


 苦労して手に入れたセレアルは鉄鉱石とともに通常の高炉で溶かし込み、そこへ錬金術で作り上げた特殊溶液を混ぜ込み魔法金属として完成させた。

 あとはそれを型の中へと流し込み、固まるのを待っていれば、晴れて魔導高炉のできあがりというわけだ。


 ちなみに、特殊溶液の中には魔物の素材が数多く使われている。

 世界中には魔物や魔獣と呼ばれる生き物があふれ返っている。


 魔獣は先日の火トカゲのように、野生動物がより危険な生物へと進化した者たちの総称だが、魔物は魔法や魔導具から漏れ出た魔力の残滓(ざんし)が寄せ集まってできた魔法生物の総称といわれている。


 そのため、生命体としてまるで別物。

 魔獣は死んでもそのまま死体が残るが、魔物は死ぬと木っ端微塵に弾けて、気化して消えてしまう。

 ただ、その際に落とすものがあり、それが魔結晶といわれる魔力の塊だった。


 今回使われた特殊溶液の中にはその魔結晶の粉末が含まれている。

 デススパイダー、ゴールデンスライム、デス・ビジョンアイという巨大な目玉の魔物などなど。

 それ以外にも魔物ではないが飛竜の爪や火炎魚の心臓なども混ぜられているらしい。


 中身に何を使うかはあまり関係ないようで、要は高密度高濃度の魔力溶液が必要とのことだった。

 それが繋ぎとなり、また、魔導高炉を崩壊させないようにするための強化剤となるらしい。


「さて、いよいよですね」


 そうしてようやくの思いで作り上げた魔導高炉の中には、現在、冷えてもなぜか固まらない液体状の魔法金属が入っていた。

 しかも、その色。

 とても金属とは思えないほど透き通っていて、そのうえ、キラキラと光り輝いている。


 これこそがまさしく、禁術によって生み出された『流体魔法金属(ステラリウム)』と呼ばれる物質だった。


 そして、ここにあと一つ、魔核と呼ばれるものを入れると、『傀儡魔法(マギアクローム)』として禁呪指定された魔法の一つ、『擬態兵装魔法(マギアプロトコル)』の応用技となる『流体魔法金属生命体(フリッツクローム)』が完成する。


 擬態兵装魔法とは、『魔核の入っていない流体魔法金属』をあたかも生命体のように意のままに操ってしまう禁術のことだ。


 傀儡魔法に分類されるこの禁術は、非常に高度で高密度な魔力操作が要求されるが、使用者のインスピレーション次第では変形できない形状はないとされている。


 金属の質量にもよるが、単純な内部構造であれば武器や防具、建物、人間、動物、ありとあらゆる形状へと変化させられるらしい。


 強度に関しても、使用された金属や使用者の魔力純度によっては、結構な違いが見られるとか。


 更に、今現在私がやろうとしている、『()()()()()()()()()()()()()()()、それを流体魔法金属に組み込むこと』でも、使用者が直接操作せず、なおかつ魔力も必要としない流体魔法金属生命体すら生み出せるとのこと。


 金属ではないものの、魔法造物生命体であるガーゴイルやゴーレムが単純な命令しか受け付けないのに対して、こちらはやりようによっては人間レベルの複雑な命令すら実行に移せるといわれている。


 そして、使われた魔法金属の魔力量によってはとても危険な戦闘マシーンと化す。


 太古の時代にはこれらを大量に使役して戦う戦闘スタイルが確立されたそうだが、戦争終結後、その場には何も残らず、魔力汚染された人の住めない大地だけがその場の支配者となってしまったらしい。


 瘴気が立ち込め、凶悪な魔物がわんさか生まれ、とてもではないが誰も近寄れない。


 それゆえ、禁術指定される要因の一つとなったのだそうだ。

 だからこそ、禁術(これ)の使用方法は誰にも明かすことはできない。


 私は魔導高炉から壺の中へと流体魔法金属を移した。


 暗記してある禁書の内容に従い、高純度の魔結晶と黒水晶、それからセレスティナイトと呼ばれる魔力を帯びた宝石など、それらすべてを砕いて固めた小さな球体に、やはり禁書に載っていた製造方法で作り上げた魔法ペンで禁術を記していった。


 そうしてすべてを書き上げたとき、直径五セトラル(五センチ)ほどの、黒真珠のような魔核(それ)が淡く光り始める。


「ではまいります」


 私の周囲には今、もしもの事態を想定して旦那様やスカーレット女史、それからミカエラ様がおられる。


 私がやっていることの意味はおそらく、何一つご理解してはおられないでしょうが、それでも邪魔にならないようにと、固唾を飲んで見守ってくださっている。


 そんな彼らの視線を感じながら、私はゆっくりと、流体魔法金属の中に魔核を落としていった。

 その瞬間、あれだけ静かに揺れていただけの壺の中身が眩しいまでに光り輝いた。

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