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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第2章】禁呪魔法

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46.西のゴミ集積場2

 工場内外に騒然とした人の流れができ始めている。

 そんな彼らを巧みにかわしながら、私は一度振り返って、焼却釜を脳裏に描く。


 火トカゲがいた先程の釜。

 やはり、先刻発生したあの爆発は、火トカゲが(かえ)ったときに生じた爆発か何かだったのでしょう。


 本来はそのような現象は起こらないが、生まれた場所が燃えさかる焼却釜の中。

 周囲の熱エネルギーを吸収して、急激に膨れ上がった熱量に耐えきれなくなり、無理やり卵から外へとはじき出された。


 そういうことなのでしょう。


 一瞬、探していた魔鉱石が爆発したのではないかと気が気ではありませんでしたが、結果としてイレギュラーではありましたが、火トカゲによって引き起こされた爆発程度でよかった、ということなのかもしれない。


 魔鉱石爆発など起きたら、いかな頑丈な焼却炉といえど、無事ではすまなかったでしょうから。

 しかし、やはり残念でならないのは中身を確かめられなかったこと。


 火トカゲが中にいる状態で、釜を開けることなどできない。

 昔の私であれば、あの程度の小者、成体でもない限りはあっさりと倒せたでしょうが、今の私はスライムですら相手をするのは不可能。


 それに、あれはもはや一個人で対処していいレベルの話ではない。

 国家レベルでの懸案事項だ。

 勝手なことをしたら越権行為となり、それこそ一大事。

 私の個人的なことで、旦那様にご迷惑おかけすることはできなかった。


「はぁ……これも運命(さだめ)ですか」


 焼却場から外に出た私は、街の付近で待機している公爵家の馬車の方へと歩いていった。

 せっかく人生をやり直すことができて、お嬢様をお救いすること叶ったというのに、このような身体になってしまうとは。

 もしかしたら、別のうまいやり方があったのだろうか?

 あのとき、一階まで階段を使わず、四階の窓から飛び降りていればもう少し違った結末が待っていたのでしょうか。

 あるいは、もっと周囲に気を配っていれば……。


「いえ……私の実力では、所詮あれが限界だったということなのでしょう。何しろ、私は世界に名だたる英雄たちではないのですから」


 ――所詮はただのモブ。

 一流になれない二流、三流程度の実力しかない中途半端な人間。


「はぁ……しかし、まいりましたね」


 私は俯き加減となりながら、痛む身体に鞭打って街道を歩き続けた。

 遙か前方から何かが近づいてくる車輪の音が聞こえてくる。

 どうやら私の姿を認めて、迎えに来てくれたようです。

 私はシュレイザー公爵家の筆頭執事。

 そのような立場の人間がいつまでも落ち込んでいていいはずがありませんね。

 彼らにこのような恥さらしな姿など、お見せするわけにはまいりません。

 気分を切り替えながら、わたしはふと、視線を上げた。

 そのときである。


「おや……?」


 街道横の草むらの中で、何かが光ったような気がした。

 私は自分自身でも理解できないぐらい、身体の奥底から沸き上がってくるはやる気持ちを抑えきれず、知らず知らずのうちに早足となっていた。

 そして――


「これは……!」


 そこへと辿り着き、上から見下ろし絶句してしまった。

 視線の先、そこには真っ二つに割れた、大きな石が転がっていたのである。

 薄汚れて赤黒くなってしまっていたが、綺麗に割れた断面からははっきりと、青白い縦縞がところどころ見え隠れしていた。


「ヴィクター様、お待たせいたしました」


 すぐ目の前で停車した馬車の扉が開き、スカーレット女史が顔を覗かせてくる。

 しかし、私はそれを一瞥しただけでそれ以上彼女に興味を抱くことはなかった。

 気が付いたときには、持っていたハンカチで断面を磨いていた。


「間違いない……! これだっ。これこそ、探し求めていたセレアル!」


 禁書の解釈が間違っていない限り、目の前にあるのは確かに歴史から消滅して久しい、古の時代に重宝されていた魔鉱石だった。

 なぜ、大衆レストランから運ばれていった石がこんなところに打ち捨てられていたのかはわからないが――ともかく。


「これで私は前に進むことができますぞ。待っていてくだされ、お嬢様っ……」


 一人興奮のるつぼにいた私へと近寄ってくるご婦人方。

 彼女たちと目が合った私は、ニヤリと笑った。





 ようやく目的のものを見つけたときには大分、日も傾いていた。


 ミカエラ様にお願いして軽く水魔法で洗ってから大切に布で包み、馬車の中へと運び入れた。

 その後、私たちはゆったりと帰路についていった。


 大奥様には既に、ミカエラ様の通信魔法によって万事滞りなく問題は解決しているとお伝えしてあるので、急いで戻る必要はない。

 それでも長い時間お屋敷を開けてしまったので、少しお嬢様の周辺がどうなっているのか気になっていた。


「早く帰ってさしあげねば」


 先程のゴミ集積場での出来事が騎士団にも伝わったのか、西街道と聖都内の大通りは慌ただしくなっていた。

 そんな中、私たちの馬車は大商業地区を通って貴族街へと向かっていたのだが、


「……あれは……?」


 窓からぼ~っと外を眺めていたら、建ち並ぶ商会のショーウィンドウに並べられていた商品に目が留まった。


「いかがされましたか?」


 ミカエラ様が私にぴったり張り付くようにされながら、同じように窓の外を眺めようとなさる。


 ……この方は相変わらず距離感がお近い……。


 若干頬が引きつりそうになるのを堪えながらも、私は目の中に飛び込んできたあの商品のことを考えた。

 もしも、私があれを買ったとしたら。

 そしてそのあと、あれがどのような経緯を経てどうなっていくのか。

 ひたすら妄想していたら、知らない間にニヤけてしまっていたようだ。


「ふふ。いいですね。()()()()()()()はあれといたしましょうか」


 ぼそっと呟く私に、すぐ真横にあったミカエラ様のお美しいお顔がきょとんとなされた。

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