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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第2章】禁呪魔法

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44.平民街の大衆レストラン2

 声を裏返して悲鳴に近い叫び声を上げる支配人。

 血相を変えながら今しも逃げ出しかねないご様子。

 これはまさか……。


「も、ももも、申し訳ございませんでしたぁっ。あ、あの石にございますがっ……今は手元にもうないのでございます……!」

「ない……? ないですと? どういうことですか?」

「は、はいぃっ。そ、それがですねっ……料理長が申すには、とてもいい石だからと張り切って仕事をしていたところ、真っ二つに割れてしまったとのことにございますっ」

「割れた……?」


 私が求めている魔鉱石がどれほど頑強なのかがわからないため、叩いたら割れてしまったといわれても、それが本物なのかどうか判断することはできない。しかし、


「なるほど。割れましたか」

「は、はいぃっ。も、申し訳ございませんでしたぁぁ!」

「いえ、あなたが謝る必要はございませんよ。ただ興味があって、その石を見てみたかっただけですから」

「そ、そうなのでございますか……?」

「えぇ。それで、その石ですが、割ったとき、断面はどうなっておりましたか?」

「は、はいっ。確か私も確認しましたが、青い縦筋が何本も入っていたかと思われます」

「なんですと!?」

「ぅひぃぃ~~っ」


 探し求めている石とよく似た特徴を耳にし、私は思わず立ち上がってしまった。

 腰を抜かしたようにソファーからずり落ち床に尻餅をつく支配人へ、ズカズカ歩み寄っていく。

 今しも泡を吹いて気絶しそうなほど怯えきってしまっている支配人の肩を揺さぶる。


「支配人殿! 誠に縦縞が入っておられたのか!?」

「は、はいっ。す、透き通ったとても綺麗な青だったと記憶しております!」

「なんとっ。それは僥倖(ぎょうこう)! 実に素晴らしい!」


 私は天に向かって叫んでしまった。

 本物かどうかはわからない。

 だが、まるでなかった手がかりがようやく手に入った。

 これでその肉叩き石にされてしまった哀れな石が、かの貴重な魔鉱石セレアルであったならば、これほど喜ばしいことはありません!


「支配人殿!」

「は、はひぃっ」

「して、その石は今どこに? 是非拝見させていただきたいのですが?」

「そ、そそそ、それがそのっ……先程も申しましたが、今はもう、私どもの手元にないのですっ……」


 そういえば、そのようなことをおっしゃっていたような気がしますね。

 ですが、私の理性は既にぷっつんしていた。


「なんですと!?」

「ひぃっ~~」

「ないとはどういうことにございますか!? どこへやったと!?」

「そ、そそそ、それがっ……このような柔らかい石など肉叩き台には向いていないと料理長が申しまして、産廃業者に捨てるよう引き渡してしまいましたっ」

「なんということをっ」

「ひぃ~~~!」

「なんという愚かなことをなさったのか、あなた方は!」

「あわわわわっ……」


 せっかく苦労して見つけた手がかりが闇に葬り去られようとしている。

 あまりにも酷い結末に失望して絶叫してしまった私に、支配人は気絶寸前といった感じで目を回してしまった。

 しかし、気を失ってもらっては困るのです。

 すべてを白状してもらわなければ!


「支配人! その業者とはどの者にございますか!? 集配業者が廃棄する場は西か、それとも東か南か!? いつ頃お捨てになった!?」


 聖都の外には(みやこ)内を流れる下水の集積地や、ゴミの焼却施設などがいくつか作られている。

 川から引っ張ってきた水を濾過(ろか)して浄水する施設も作られているため、金はかかるが貴族も平民も皆平等に、上下水道の恩恵にあずかれる。


「お、おそらく、西の廃棄場かと思われます! 昨日業者が当店を訪れたばかりですので、今から向かえばまだ燃やされていないかと存じます……!」


 私はそれだけを聞き、部屋を飛び出していった。

 恐ろしいほどの興奮と焦りばかりが募ってきている。

 この機会を逃したら、もしかしたら今後いっさい、お目当ての魔鉱石には出会えないかもしれない。

 それ以前に、魔鉱石がゴミと一緒に燃やされでもしたら、集積場は爆発するのではないか?


「予定を……変更いたします。西のゴミ集積場へと向かってください……!」


 馬車の中へと戻った私は、激しい息切れと目眩に襲われながらも、小窓から御者へと指示を出した。

 すぐさま動き出す。

 私の雰囲気が尋常ではないと肌で感じたのでしょう。


「ヴィクター様っ、お顔色が優れません。いったい何があったというのですか?」

「とにかく治癒魔法をおかけいたしますわ。少し、安静にしていてくださいまし」

「……すみません」


 額に浮かんだ冷や汗を、スカーレット女史が甲斐甲斐しくも拭ってくださる。

 横からは魔法の詠唱に入られたミカエラ様から温かな光が伝わってくる。

 それらの優しさに包まれながら、私は深く深呼吸した。

 どうやら少々無茶をし過ぎたようです。

 動けるようになったとはいえ、相変わらず身体は万全ではない。

 それなのに、少しばかり興奮し過ぎましたか。

 ですが今は一刻を争います。


「着きました」


 街中から西城塞門の外へと続く街路と魔導列車用の線路。

 その主要街道はひたすら西へと続いていったが、途中で南へと下る脇道を少し行ったところに、工場のような大きな建物がある。

 その屋根にある煙突からは絶えず黒い煙が立ち上り、南東の空へと流れている。


 何台もの荷車を引いた馬車が建物内へと消えていた。

 周囲は草原地帯で畑などはいっさいない。

 そんな場所。

 本来であれば、このような場所に貴族やその関係者が訪れることなどあり得ない。

 そんな場所に横付けした私たちに、やはり、周辺を行き交う者たちがぎょっとなる。


「この臭い、たまりませんわ」

「は、はい……」


 さすがにここはゴミ集積場だけあり、悪臭が酷かった。

 思わず、貧民街の路地裏を思い出す。


「申し訳ございませんが、皆様はここでお待ちください。もし我慢できないようでございましたら、しばらく避難されるとよろしいでしょう」

「で、ですが、ヴィクター様の――」

「私の体調ならご心配なく。今はもうお二方のお陰で随分と楽になりましたから」


 にっこりと笑う私に、二人は顔を見合わせる。

 そして、


「では。誠に申し訳ございませんが、そうさせていただきますわ」


 代表してミカエラ様がそうおっしゃると、馬車は聖都の城壁に向かって街道を走り去っていった。

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