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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第2章】禁呪魔法

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42.失われた素材を求めて2

「これはシュレイザー公爵家の皆様方、このようなところへおいでとは、珍しいことにございますね」


 おそらく年の頃は六十を過ぎていそうな白髪の老人が顔を見せた。

 どうやらこの商会の支配人らしい。


「いえ。こちらが聖都では一番大きな石材店と伺いましてね。それで、足を運ばせていただいたのですよ」

「それはそれは。当商会といたしましては、ご高名であらせられるシュレイザー公爵家の方々に名を存じ上げていただけただけでなく、わざわざご来店までしていただけるとは。これ以上ない栄誉にございます」


 ひたすら慇懃に相対する支配人に私の方も同じように腰を折る。

 ひととおりの社交辞令がすんだあと、早速本題に入った。


「それで、本日はどういった御用向きで?」

「えぇ。実は石を探しておりましてね」


 宝飾店で説明したのと同じことをもう一度支配人に説明する。


「ふむ……割ると縦縞が入っている灰色の鉱石ですか。あまり聞いたことはございませんが、紋様が入っている石でしたら確かに、ときどき見かけますな。黒とか、白とか」

「えぇ。そうですね。そのような石はよくあると当方も伺っております。ですが、探しているのは透き通った青い縦縞なのですよ」

「う~ん……」


 支配人はひたすら腕組みして何事か考えているようでしたが、おもむろに、背後に控えていた若い秘書を振り返った。


「お前は何か、聞いたことはあるかね?」

「いえ。ですが、灰色の石でしたら、つい先日、平民街で飲食店を経営されているというお客様がお買い上げになったと記憶しております」

「それは、ヴァンドール殿が探しておられるものか?」

「それはわかりかねます。割って内部を調べるといったことはいたしませんでしたゆえ。ただ、お買い上げいただいたお客様が大変驚かれていたことだけは確かです」

「驚いていたですと?」


 私は彼らの会話を耳にし、思わず口を挟んでいた。

 秘書が私に一礼をしたあとで、「えぇ」と相槌を打つ。


「中身まではわかりませんが、その石は人の頭ほどある大きなものでして。表面はざらざらしており、更にはどこかキラキラと、細かい光の粒子が表面に混ざり合っているかのようでとても美しい光沢を放っておりました。何より、木槌で叩いても非常に頑丈で、料理の際にとても重宝しそうとおっしゃっておりました」

「なるほど」


 私が知る特徴とは微妙に異なっているが、妙に気になる。

 もう少し大きければ墓石に使われていてもおかしくないような、そういった石材と特徴が似ている。

 しかし、ざらざらしているのに光沢があるという点が引っかかった。

 凹凸部分がなんらかの熱や力によって溶けて金属の光沢を放っているということだろうか?


「ふむ。承知いたしました。他に当てはなさそうですし、その購入されたお客さんという方をご紹介いただけますかな。直接確かめたくございますので」

「わかりました。ではこちらを」


 支配人の了承を得た秘書が、一枚のメモを渡してくれる。

 そこに、販売した店舗名と住所が記載されていた。


「お手数をおかけしました。ではこれにて」


 再び馬車の人となった私たちは早速購入者のもとへと向かった。

 聖都西大通りを南側へと渡った平民街。

 その通りに居を構えるかなり大きな大衆食堂(レストラン)が販売先とのことだった。


「ヴィクター様、お探しの鉱石というものは、それほど希少価値が高いものなのでございましょうか?」


 看護師のスカーレット女史が難しい顔をしながら、聞いてこられる。


「そうですね。今となっては、ですが。ただ、世間一般的にはその辺に転がっているただの石ころ程度の認識しかないようですよ?」

「そうなのですか?」


 私の答えに、あまりピンときていないようだ。

 それはそうでしょうね。

 希少価値が高いのに、ゴミ同然といわれても意味がわからないでしょう。

 希少価値が高ければ、当然、宝飾店や石材店などで、高値で取引されるべき品だ。


「ですが、よくわからないのは、なぜヴィクター様がそのようなものをお求めになっているのかということですわね」


 隣から意味深な視線を向けてこられるミカエラ様。

 ふむ。

 その何かを探ろうとするかのような視線。

 やはり侮れませんね。

 魔導研究家としての勘が何かを察知なされたということでしょうか。


「なに。特に他意はございませんよ。少々漬物石に丁度いいという話を小耳に挟みましてね」

「漬物石でございますか? 確か西の自由都市連合で流行っているという謎の食べ物に、それと似た名前がございましたわね」


 海を挟んだ西大陸北東にノーザングリーグ自由都市連合国という小国家が存在する。

 そこでは海産物や山の幸などを塩や香辛料、味噌などで漬け込み、保存食にして食べている。

 そういった話が噂となって、この国にも流れてきている。


「えぇ。それを製造する過程でとても良質な石が好まれると伺ったことがあるのですよ」

「なるほど。そうでらっしゃいましたか」


 おそらくこのような理由では聡いミカエラ様はご納得されないでしょう。

 ですが今はこれでいい。

 いずれ、工房を本格的に始動するときには、おそらく旦那様を始めとして、万が一再生術が失敗したときのことを考慮し、スカーレット女史もミカエラ様もお立ち会いになることでしょうから。

 そのときに、おそらく知ることになるでしょう。

 私が探している『セレアル』がなんなのかを。

 ですがそれまでは秘匿しておくに越したことはない。


「――まもなく到着されます」


 そのとき、御者が小窓から顔を覗かせ声をかけてきた。


「わかりました」


 短く答え、私は応じた。

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