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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第2章】禁呪魔法

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38.商談という名の脅迫?1

「本来であればあなたの取った行いは不敬罪に当たり、相当な厳しい罰を受けることとなるでしょう」


 人が変わったようにすっかり大人しくなってしまった支配人を連れ、奥の商談室へと入った私たちは、先に商談していたというお客に対して、丁重にお帰りいただき、ソファーに座った。


 どうやらお客というのは伯爵位を持つ家柄の者だったらしく、こちら側が誰なのか理解したら、すぐさま身を引いてくださった。

 さすが貴族として心得ていらっしゃる。


 現在、ソファーに腰かけているのは私と、テーブル挟んだ向かい側にいるコッポラーだけ。

 スカーレット女史とミカエラ様は私の背後、支配人の秘書のような立場らしい先程の若者は、支配人の背後に立っている。


「ま、誠に申し訳ございませんでしたぁっ……。ぞ、存じ上げなかったこととはいえ、とんだご無礼をっ……」

「そうですね。本当に無礼な態度でした。私はただの使用人ですが、公爵家の名代としてまいっております。その証しとなる印璽も持参しております。言うなれば、私は旦那様と同等の権限を有するということです」


 登録されたものしか開けることのできない魔導具製の小箱。

 そこには金のチェーンがつけられた印璽――即ちシュレイザー公爵家を現す印が収められている。

 そして、これを持つ者は全権を委任されているということでもある。

 そんな人間に無礼を働いた場合、最悪、死刑もあり得る。


「まぁよいでしょう。あなたが先程申したとおり、いつもはあなた方がお屋敷に使わした者を通じて取引しているようですからね。思慮が足らなかったことは今後、大きな課題となりますが、下手に事を荒立てても面倒です」


 教会管轄の者を裁けば自ずと教会が出てくることになる。

 この国の教会を取り仕切っているリンドヴァル正教会の教皇は大公の位を与えられているような大貴族でもある。

 そして、一応教会は教皇庁として国の傘下に入っているものの、一部治外法権も与えられている特異な組織だ。

 あまり積極的に揉め事を起こすべきではない。


「そうおっしゃっていただけると、こちらとしても助かります」


 ひたすら青い顔をしながらブルブル震えているコッポラーに、私は軽く肩をすくめたあと本題に入った。


「では早速で申し訳ありませんが、急いでいるので商談に入らせていただきますよ」

「は、はいっ……」

「実は先頃、当方の使用人からそちら側へ大口取引の依頼があったと思うのですが、少々手違いがあったようでしてね」

「手違い……でございますか?」

「えぇ」


 そこで私は最低限の情報だけを元に事情を説明した。

 最高級ワイン千本発注したはずが、安酒に銘柄がすり替わってしまったということを。


「はぁ……」


 コッポラーはよくわからないといった顔を浮かべ、背後を振り返る。

 秘書が注文書をめくっていき、その中の一枚を見せた。


「確かに。『貴婦人の溜息』千本と書かれておりますな」

「やはりですか。実は、本来であれば『溜息』ではなく、『囁き』の方を注文するはずだったのですよ。ですが、気が付いたときには注文して大分経ったあと。無理を承知でお願いに上がったのですが、注文の差し替えをお願いできませんかね?」


 コッポラーはビクッと身体を震わせ、慌てて秘書と現在の発注状況を確認し始めたのだが、その額には汗が大量に浮かび上がっていた。


「ヴァ、ヴァンドール殿。さ、さすがにそれは無茶な相談というものです。いかなシュレイザー公爵様といえども、既に足りない分も追加で醸造所に注文をかけてしまいましたし、さすがにあれだけ大量の在庫類を抱え込むのは……」


 まぁそうでしょうね。

 この店舗は店部分には直接酒類の在庫は置かず、裏の倉庫に保管するタイプの酒問屋みたいですが、さすがに千本ともなると倉庫内の在庫だけではまかなえないでしょう。

 となれば追加発注するは当然のこと。


 そして、注文の差し替えをした場合、新たに増えた在庫が倉庫を覆い尽くし、不良在庫となる危険性がある。

 安酒は庶民が飲むものだが、そもそも、一般市民はこの問屋には訪れない。

 赤字確定である。

 そうなったらおそらく、教会が動き、一級の称号が剥奪される。


「まいりましたね。ちなみに、追加発注したのはいかほどですか?」

「確か二百本ほどかと」

「二百本ですか。となると倉庫内の在庫は現在八百……ふむ。多いですね」

「は、はい……」


 少なくとも八百本は倉庫内に元々あったということでもあるから、あぶれるのは二百本ですむが。


「もしそれでも発注を差し替えるようにこちら側が指示した場合、そちら側の損失はその追加発注された二百本ということでよろしいですか?」

「そ、そうなりますが、ですが、二百本ですら、私どもにとっては死活問題となります。それに、たとえ発注ミスがなかったとしても、『囁き』を千本も準備するのは不可能だったかもしれません」

「不可能ですと? どういうことですか?」

「それは、今がお貴族様方の社交シーズンだからです」

「あぁ……心得ました」


 貴族の社交は基本的に、夏場以外年がら年中行われているが、特に多いのが過ごしやすい季節の春と秋。

 そこではふんだんに贅の凝らした料理や酒類が振る舞われる。

 当然、貴族に人気の『貴婦人の囁き』は方々から注文が殺到し品薄となってしまう。


 まぁ、おおよそ想像どおりの結果ともいえる。

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