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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第2章】禁呪魔法

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34.リセルとの面談2

 たらりと、額や背中に冷や汗が伝っていく。

 お嬢様が誰にどのようなお気持ちを抱かれても構いませんが、確たる証拠もなしに滅多なことを言うべきではない。


「おほんっ。私には無縁な話なのでよくわかりませんが――ともかく、いったんその話は置いておきましょう」

「そう……ですか?」


 リセル……なぜそのような、残念そうな顔をなさるのですか?

 やめてください。

 怒られた幼子がしゅんとなっているような表情を浮かべるのは。

 あなたのキャラではないでしょうし、なんだか私が虐めているみたいではありませんか。


 私は、もう一度咳払いしてから続けた。


「いいですか、リセル。あなたのお嬢様をお思いになるお気持ち、大変立派ですが、今話したいのは別のことです。お嬢様の身辺で、何か不穏な動きはございませんでしたか?」


 私がピリついた空気を放出したせいか、リセルもはっとしたような表情を浮かべた。


「特にそのようなことはなかったように思われます。護衛の騎士様たちも、別段、特に変わったご様子はありませんでしたし」

「そうですか。ならばよいのですが」


 禁書庫にこもるようになってから半年近く、お嬢様の身辺にいられなくなった時間が長かったため、自分の目で確かめられなかったことが悔やまれてならない。

 ただ、旦那様との定期報告や護衛騎士たちとの業務連絡においても、特に問題になりそうなことはなかったようなので、リセルの言うとおり、今のところは安泰なのでしょう。


「わかりました。ではもう一つ。お嬢様のお誕生日会の準備は滞りなく進んでおりますか?」

「そのことですか。とりあえず、毎年のことですのでみなさん慣れたものです。お客様への招待状や会場の準備、段取り、お料理のメニューなど、すべて順調とのことです」

「そうですか。では警備の方はどうなっておりますか?」

「そちらの方は旦那様やエヴァルト様が直接陣頭指揮しておられるとのことですので、おそらくは」

「なるほど」


 旦那様や旦那様付き執事であらせられるエヴァルト様主導であれば問題ないでしょう。

 お嬢様絡みの事情はよくおわかりでしょうし、普段から政敵などのお相手をしてらっしゃるでしょうから。


 ただ、もしお嬢様を拉致しようとした相手がそれらもすべて織り込みずみで何かをしかけてくるのだとしたら、話は違ってくる。


 警備の目をかいくぐって、計画を実行に移せる何か決定的な手段を持っているのかもしれないし、もしくは、失敗するのを前提でしかけてこられたらそれも厄介だ。


 今回のパーティーにはおそらく陛下もお越しになるはず。

 もしそのような席で、お嬢様や公爵家ではなく陛下がターゲットになってお命が狙われるようなことにでもなろうものなら、とんでもないことになる。


 敵が何を目的としているかしれないが、暗殺が成功しても失敗しても、公爵家は致命的なダメージを被ることになってしまうからだ。


 このような晴れの席に賊の侵入を許し、あまつさえ、陛下がお命を狙われることを阻止できなかったとしたら、確実に、それを理由に敵対勢力から責を問われる。


 あるいは、もし仮に、そこまでの大事に至らず、会場の外で小競り合いが起こった程度であったとしても、政治生命が脅かされる危険性がある。

 賊に狙われるような、何かしら問題を抱えているような貴族の屋敷で催し物が開けるはずがないからだ。


 社交の場を最も大切にする貴族にとってはこれほど致命的なものはない。

 二度と公爵家主催の夜会などが開けなくなったら、他家との繋がりも築き難くなってしまうし、そうなったら政治的発言力も失ってしまうことだろう。


 まさに失墜。

 やはり、敵や旦那様が思いつかないような方法まで考慮した方がいいのかもしれませんね。


「その方が奇想天外な状態にも対処できるというもの」

「はい?」

「いえ。なんでもありません。他に気付かれたことはありませんか?」

「あ、はい。そうですね……そういえば、今日の朝食のお時間が終わったあと、何やら厨房の方が騒がしかったように存じます」

「騒がしい?」

「はい。なんだか、料理長が大騒ぎしていたような気が」

「ふむ……そうですか。わかりました。今から少し見に行ってみましょう」


 私は椅子から立ち上がったあと、


「それではリセル、本日はお忙しいところ誠にありがとうございました」

「いえ、滅相もありません」

「これからもお嬢様のこと、よろしくお願いしますね」

「は、はいっ。心得ております」


 にっこりと笑う私に、リセルも慌てて席を立つと、どこかぼ~っとしたような視線を私に向け、そう応じていた。

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