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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第2章】禁呪魔法

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32.魔導工房

「それでは失礼いたします」


 翌日。

 その日も私は定時に業務連絡をお伝えしたあと、お嬢様のもとをあとにした。

 その際、


「リセル」

「はい……」

「お誕生日会のことで話があります。昼休憩でマーガレットと交代したとき、私のところに来てください。三階控えの間にいます」

「畏まりました」


 深々と礼をする彼女を置いて、私はお屋敷母屋の地下練武場へと足を運んだ。

 まだ一日二日しか経っていないが、やはり、旦那様は仕事がお早い。

 私が工房を必要としていると進言したら、次の日の朝から早速動いてくださった。


 必要なものすべてをリストアップした紙を提出すると、次から次へといろいろなものが地下へと運ばれていった。

 この地下練武場の隅を、仮の工房として用意してくださったとのこと。

 事が事だ。

 私がやろうとしていることは禁書に書かれてあったこと。

 当然、人目につく場所に工房を作るわけにはいかない。


 本当であれば、隠し部屋の先にある地下二階に作るべきなのだが、さすがにあそこに人を入れるわけにはいかないし、新たに工房を増設するほど広くもない。


 実は、禁書庫の向かいには宝物殿などがあるそうだが、それぐらいしかあの場所は空きスペースがないとのこと。

 いかな私とはいえど、宝物殿に出入りするのははばかられるため、一度も入ったことはない。


 入ろうとしても、大奥様しかご存じない魔導ロックがかかっているそうなので、物理的に不可能なのだが。

 そういったわけで、練武場の片隅が工房候補地となったのだ。


「一応外へと繋がる換気口もあるとのこと。ここへは公爵家の方々が自由に出入りなさるが、特に許可がない限りは使用人や兵士が出入りすることもない。絶好の条件ということですか」


 最終的には防音防熱対策も施したうえ、パーティションも組んでちゃんとした工房へと仕上げてくださるそうだが、今はとにかく時間が欲しい。

 最低限必要な機材と魔導具生成資材、作業机、研究素材の一部などが既に運び込まれていた。

 これだけあれば、簡単なものなら作れるだろう。


「しかし、流体魔法金属(ステラリウム)ですか。あれを作り出すためには専用の魔導高炉が必要となる」


 この時代にも普通に魔法金属と呼ばれるものは存在する。

 魔法金属が通常の金属と違うのは、文字どおり魔力を帯びているところにある。


 私は魔導鍛冶屋ではないから詳しい製造方法は知らないが、魔力が宿った鉱石として有名な魔鉱石を特殊な製法で加工し、一般の鉱物資源と混ぜ合わせて魔力を固着化させたものが魔法金属とのこと。


 一度魔力が定着すると、あとは溶かして形を変えても魔力が逃げたり爆発したりしないらしいので、魔法金属を専門に加工する魔導鍛冶士でなくても普通に加工できるのだとか。


 そうしてできあがった魔法金属製の製品は、そのほとんどが武器や防具、あるいは魔導具に使われるといわれている。

 当然、魔鉱石は貴重品であり、ここまでの過程が時間も技術も必要となるからそれが原因でどれもこれも高級品となる。


 そして、一般的に知られている魔法金属はすべて固体――つまり、カチカチに固まっているのが普通だ。

 しかし、禁書庫で見つけた禁術には、それを流動体で保つ方法が記されていた。


 それこそがまさしく流体魔法金属であり、その禁術の章に載せられていた数多くの禁じ手を実行に移すために必要不可欠となる素材が、まさにそれらしい。


『人体の再構築』という、私の肉体を元に戻せそうな禁術も、当然のようにこれが必要とのこと。


 あるいは、『傀儡魔法(マギアクローム)』や『擬態兵装魔法(マギアプロトコル)』と呼ばれる禁呪や禁術も、これなくしては当然成立しないし、『魔導機兵(マギアソルダート)』や飛行戦艦である『魔導戦艦(マギアグリューエ)』も作れないのだとか。


「もっとも、世界を破滅に追いやりかねないオーバーテクノロジーの極みである魔導機兵も魔導戦艦も、材料がまったく足りないから今の時代ではどうあがいても作れないのですがね」


 それだけが唯一の救いだった。

 もし万が一、そんなものがそこら中で作られたら世界が終わる。


「さて、魔導高炉の材料は……と、やはり、すべて揃えるのは不可能でしたか。一つ足りないものがありますね」


 禁書によると、大昔には有り余るほど産出されていた『セレアル』という名の魔鉱石が、世界のどこかに存在しているという。

 記録によると、かつての主要魔法金属の一つで、そこら中でよく使われていたとか。

 しかし、やがて産出量も少なくなり、希少価値が上がっていってしまったらしい。


 更に、いいのか悪いのかわからないが、相反するように、かつての人々の生活様式も変わり、あるいは現代に繋がる我々人間の台頭によって、古代の文明が廃れていったのだとか。

 そうして、セレアルは時代に忘れ去られた鉱物資源となってしまったのだという。

 禁書庫に保管されていた世界の歴史や禁術に関する文献にはそう書かれていた。


 そう。

 つまり、現代人の多くは知らないが、かつてこの世界を支配していたのは人間ではなく、エルフや獣人たちだったというわけだ。

 しかし、なぜ急激に人類が力をつけ、高度な文明を持っていたはずのエルフたちが隅に追いやられてしまったのか。

 その辺の理由については書かれていなかったが――ともかく。


「魔導高炉の材料となる魔鉱石自体は存在するはず。ただ、今の時代の人間には、それが貴重な魔法金属の材料になると認識されていないということが問題なのです」


 無価値なだけの、ただの石ころとしてしか認識されていない。

 さて、どこに行けば手に入るのやら。

 旦那様が入手してくださるのを悠長に待っている時間などありません。

 私の手で、早急に手に入れなければ。

 私は仮工房に置かれた資材をもう一度眺めた。


 タイムリミットは二週間。

 その間にある程度、悪意を跳ね返せるだけの力を手に入れなければ、ゲームオーバーとなってしまうかもしれない。


 改めて気を引き締めると、その場をあとにした。

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