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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第2章】禁呪魔法

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30.未来を切り開くための力2

 私はとうとうとご説明させていただいた。

 禁書庫に引きこもる日々の中で、いろいろなことを学ばせていただいたこと。


 この半年の間に、何度か行われた近況報告の中で、めぼしい古文書の類いが十冊ほど存在しているとご説明させていただいたが、既にそれらすべてを読破していること。


 そして、その中に気になる文献があったということを。


「――それは誠なのか!?」

「はっ。古代文字で書かれた文献以外にもある程度目を通させていただき、我が肉体の再生を促す秘術が書かれていないかどうか、ひたすら読みあさり続けました。しかし、現時点で私が目算した限りですと、やはり肉体再生の糸口になりそうな禁書はただの二冊。大賢者殿が持ち込まれたもののみにございます」

「ということはつまり、そいつをなんとか実践すれば、お前の身体は元に戻るということなのか!?」


 酷く興奮されたように、私の肩を両手で掴み揺さぶられる旦那様。


「確約はできかねます。ですが、もしあの禁書の内容すべてを現代に再現することが可能ならば――」

「よいっ。皆まで申すな! ――あい、わかったっ。なんでもしてやるぞっ。お前が元の身体に戻るのであれば、工房でも城でもなんでも建ててくれるわ!」

「し、城でございますか? それはいささか大げさというものです」


 背筋を伸ばし、両拳を胸の高さに持ち上げられながら、天を仰いでおられる旦那様の姿に苦笑していると、


「何を言うか! 我が友の快気のためならば、城の一つや二つ、惜しくはないわ!」


 あぁ……。

 やはりか。

 私はよき主を持ったものだ。

 しかし――


 どうも、この思い込んだらどこまでも突っ走ってしまわれる熱狂振りは、相変わらずの旦那様の悪いところといわざるを得ません。


 既に三十を超えられているゆえ、今更手遅れでしょうが、さっさと直していただかなければお嬢様の教育にも悪うございます。

 万が一再び、『お~っほっほっ』などと高笑いでもされようものなら目も当てられない。


「それで!?」

「は、はい?」

「他には!? 他にも必要なものがあるのであろう?」

「あ、はい。もちろんにございます。できましたら情報と、機材、研究に必要な素材を頂きたく存じます」

「情報だと?」

「左様にございます」


「ふむ。工房というからには何かを作るのだろうし、機材などはわかるが情報とはなんだ? わかるように説明せよ」

「はっ。実は、禁書の中には肉体を再生させる技術というものが描かれておりまして、それに必要となる魔導具を自分で組み上げねばならないのです。ですので――」


「なるほど。つまり、それに必要となる材料を手に入れるための情報が欲しいと」

「おっしゃるとおりにございます。製造に必要な設計図などは禁書にすべて載っておりますが、見たことも聞いたこともない材料もありまして。他にも、この時代ではとても高価な品の数々が魔導具製造以外にも必要になるとのこと」


「なるほど。つまり資材調達のための情報と、それらを買うための資金が欲しいというわけか」

「はい。ついでに研究素材を安価で仕入れるための情報も」

「ふむ。わかった。その程度のことならば許容範囲内だ。あとでリストを持ってこい。すべて調べておいてやる」

「ありがとうございます」


 立ち上がって腰を折る私に、


「よい。気にするなと申しておる」


 旦那様はそう快く引き受けてくださった――はずだったのだが、次の瞬間には表情のいっさいが消えていた。

 雰囲気までがらりと変わられている。


「……だが、ヴィクターよ。一つ聞いておきたいことがある。傷を治す術を見つけ、それを確立するための工房を建てなければならんということまでは理解した。しかし実際のところ、お前がやろうとしているその術とはなんだ? 禁書で何を見つけて何をなそうとしておる? お前が見つけた術の正体とはなんなのだ?」


 そう問いかけてこられた旦那様からは、友に対する友好的な雰囲気はまったく感じられなかった。

 あるのはただ、王者の風格一点のみ。


 さすが公爵家を率いるだけのことはある。

 赤き髪と勇ましい獅子のような戦い振りから、赤髪の獅子公(レオンハルト)や鮮血将軍の異名を持ってらっしゃる旦那様。

 私はそんな旦那様に臆することなくこう述べた。


「世界を変える力にございます」

「何?」

「我らがシュレイザー公爵家の未来のため。何より、敬愛するお嬢様が幸せとなられる未来をこの世界に築き上げるための力。それを私は手に入れる所存にございます」


 禁書の内容は相手がたとえ旦那様であろうとも、軽々しく口にすることはできない。

 明らかなオーバーテクノロジーは世界だけでなく、それを知る自身をも滅ぼしかねない。

 ならば、将来、何かあったときに滅びるのは使用人である私だけでいい。

 片膝ついてひたすら低頭する私に、旦那様はしばらく微動だにされなかった。しかし――


「は……はは……あっはっはっ……! なんと剛毅な男よ! 俺よりも大それたことを考えておるではないかっ。お前まさか。この俺に謀反を起こせとそう申すかっ」

「滅相もございません。そのような面倒事に巻き込まれては、たまったものではございませんゆえ」


「なんだと、こいつめ。いいよるわっ。この俺とともに歩むことが面倒と申すか」

「さぁ? どうでしょうか? これまで散々、旦那様やお嬢様の暴走に振り回されてきたのも事実でございますからな」

「抜かせっ。その一端を担っておるのはお前だろうが」


 旦那様はさも愉快そうに笑われる。

 私も片膝ついた姿勢のまま、面を上げてニヤッと笑った。

 大昔に返ったような気分だった。

 私が旦那様を振り回した記憶はついぞなかったが、一緒にバカをやらかし、大奥様に叱られた経験は確かにあった。


 本当に懐かしくもあり、愉快でもある。

 旦那様と二人三脚で日々、奮闘していたあの頃が昨日のように思い起こされる。

 しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。

 もう一つ、お伺いしなければならないことがある。


「旦那様」

「なんだ?」

「丁度よい機会ですので、一つお伺いしたいことがございます」

「申してみよ」

「はっ。大賢者のことにございます」

「ん? あのエルフ女のことか?」


「はい。旦那様によれば、私があたりをつけた禁書を持ち込んだのはその者とのこと。何故(なにゆえ)かの大賢者があのようなものをお預けになったのか、ずっと気になっておりました。かの者は何者なのか、と」


「ふむ。そういうことか。以前にも申したが、俺も幼少の頃だったゆえ詳しいことはよくわからん。だが、あの女がかつて帝国に滅ぼされた東の集落の方から流れてきたことだけは確かなようだ」


「滅ぼされた集落、でございますか?」


「あぁ。なんでも、かつて我が国との国境線上に小さな森があったらしくてな。そこに当時はまだ独立部族として存在していた集落があったらしいのだが、そこを支配地域拡充のため、隣国のランヴァルシア帝国が強襲したらしいのだ。そのせいで、森も集落もすべて焼け落ち、小国家としてのエルフの村は地図から消えた」


「ということはつまり、大賢者はその村の生き残りということでございましょうか?」


「それはわからん。ただ、我が国へと逃げてきた生き残りのエルフが何十人かおったらしくてな。たまたまきな臭い国境の様子を偵察しに行っていた爺さん率いる小隊が、避難民を見つけて保護したらしいのだ。以来、奴らとの交流は続いておるが――もしかしたらそのときに作ってやったといわれる隠れ里に、あの女も住み着いておるのやもしれんな」


「なるほど。そうでしたか」

「参考になったか?」

「はい。存分に」


 私は再び頭を垂れて、礼を尽くした。

 以前に旦那様から似たような話を伺っていたことを思い出す。


 やはり、彼らエルフを助けた折、何か密約をかわして、公爵家に危険な禁書を預けたという線が濃厚だろう。

 単純に村を保護してくれている公爵家への代価として、一時的に預けるつもりで手放しただけなのかもしれないが。


 いずれにしろ、このお屋敷の禁書庫にある書物はもちろんのこと、今もまだ危険極まりない数々の禁書を保有している可能性のある大賢者の動向には気をつけなければならない。


 もし彼女が他国や敵対勢力と癒着して、急激な軍事力拡大を促したら。

 あるいは、本来の歴史同様、敵に捕まりでもしたら――


 いつかどこかのタイミングで、都合をつけて彼女と会った方がいいのかもしれませんね。

 そうすれば、なぜ私にあのような術を施したのか知ることもできましょう。

 あるいは、彼女もまた未来の記憶を――

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