表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢の手下として処刑された黒公子、禁呪を手に入れすべてを覆す  作者: 汐柳伊織
【第3章】苦悩と絶望、そして照らす、明けの光

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/69

20.示される光明への糸口

「たくっ……お前という奴は……ほんっと~に、犬みたいな奴だなっ。だが、お前のその心意気、大変嬉しく思うぞ。母上には俺の方からうまく言っておく。おそらくお前が申したとおり、母上はお前のことを思ってああ命じなさったはずだ。だったら、本人がそれを望まず最後までやり遂げたいと申していたと進言すれば、むげにはなさらないはずだ」


「お心遣いに感謝いたします」


「いや何。気にするな。本来であれば、俺の方がお前に続けてくれと、頭を下げて頼み込まなければならないところだからな」


 旦那様はそこで、難しいお顔をされる。


「しかし、業務をそのまま続けてもらうのはいいが、正直どうなのだ? 復帰してよりちょいちょい様子を見てきたが、とても辛そうではないか。重いものもろくすっぽ持てなくなっておるわけだしな」


「そうですね。相変わらず、分厚い本一冊すら持てませんからね」


「だろう?」


「はい。時折襲い来る激しい発作に関してはだいぶ頻度も軽くはなっておりますので、そちらの方は改善されているとは存じますが、体力や筋力が全盛期の頃まで戻るかどうかは……」


「やはり難しいか」


「面目次第もございません」


「いや、お前が謝る必要はない。しかし、となると軽い執事業くらいはなんとかなるとしても、護衛は無理であろうな。誰か選りすぐりを引っ張ってきて、護衛騎士に任ずるしかないか」


 お嬢様の今後のことを考えると、その方がいいように思われた。拉致事件の実行犯はすべて死亡したが、それを主導した者たちが依然誰なのかわかっていないからだ。


 おそらくシュレイザー公爵家に泥を塗り、派閥の旗をへし折るための前段階として仕組まれた計画の一端なのだろうが、問題は、敵対派閥の誰が直接絡んでいるのかわからないことにある。


 最悪、もし本当に宰相派閥が仕組んだことであるならば、今回の一件の首謀者云々にこだわらず、敵を根こそぎ失脚させればいいだけの話だが、物事には順序というものがある。


 それをするにも汚職などの材料を大量にかき集めなければならないうえに、一歩間違えればクーデターを早めるきっかけにも繋がってしまう。だからどうしても慎重にならざるを得ない。


 せめて、中立派閥を取り込めさえすればバランスも崩れるのかもしれないが、それでも、お嬢様に迫る危険を完全に駆逐できるとは言い難い。


「やはり、護衛を増やしていただいた方がよろしいかと。私の方でも善処はいたしますが、この身体がなんとかならない限りは無理でございましょうし」


「そうか……」


「はい。何か、新しい治療法でも見つかればよろしいのですが」


「新しい治療法だと? たとえばどんなだ?」


「そうですね。魔導医療がさらに進歩し、完全に欠損した肉体すらも再生させてしまうような再生医療とかですかね」


「まるで夢のような話だな」


「えぇ、そうですね」


 ……ですが旦那様? 三十年後の未来では、似たような治療法はすでに確立されているのですよ?


 無から有を生み出すのは不可能だが、切断された腕が残ってさえすれば、それを元に新品のパーツを作り出し、腕を繋ぎ合わせてしまうことも可能となっていた。


 しかし、その技術が誕生するのは今から二十五年後のことである。


「あとはそうですね。失われた禁忌魔法などでしょうか」


「禁忌魔法だと? それってあれか? 古代人か何かが大昔に使っていたとかなんとかいわれているあれか?」


「左様にございます。現代では解読不可能な意味不明な言語でつづられた、古の書物にそれらが載っているのではないかと、まことしやかに囁かれておりますが、真相は藪の中。もしかしたらその中に、私の身体を癒やせる秘術が隠されておるやもしれません。もしくは、以前と同じくらいの水準で、お嬢様をお守りすることができるようになるかもしれない、未知なる強大な力が」


 古の時代に書かれた古い本。それらが世界中の禁書庫などに眠っているとされている。


 世界各国の言語学者や魔導研究家たちが日夜、解読に(いそ)しんでいるが、この時代ではまるっきり成果が上がっていない。


 なぜなら、古代語とは暗号文字だからだ。そして、それが解読できていないのは()()()()()()()()()である。


 そう。つまり、三十年後の未来では、すでに解読方法が見つかっているのだ。しかも、この時代でも普通に紐解くことが可能な者たちが()()()いる。


「そういえば……思い出したぞ」


「はい?」


「爺さんの時代だったか、それとも父上の時代だったかわからんが、大賢者とか抜かすおかしなエルフの女が屋敷にやってきたことがあってな。そいつらエルフどもとは昔から何かと懇意にしていたとかで、何冊か、見たこともない封印が施された立派な本を置いていったことがあったのだ」


「封印された本……ですか。しかも、エルフの大賢者……」


 私の背中にぞくりと、何か冷たいものが走っていくのが感じられた。


 このリヒテンアーグ聖王国は人族の国で、この国で市民権を持って定住することが許されているのは人族だけである。


 世界には獣人種やエルフなどの種族も普通に住んでいるものの、どちらかといえば、彼らは人族に差別される側の立場だった。


 旅人としてときどき(ラウ)族や(ニャオ)族などが街を訪れ、冒険者ギルドで仕事をこなしたり、街の観光を楽しんだりしているようだが、あまり歓迎されているとは言いきれない。そして、その最たる存在が、エルフと狐族である。


 彼らは古の時代から生きる長命種であり、その持てる魔力量も桁外れに高い。だから、もし心ない者たちに見つかったら、即刻拉致されて研究材料にされてしまうだろう。


「つまり、エルフたちの里となんらかの繋がりを持っていて、あるいは彼らを保護していたということですか?」


「おそらくな。それで、定期的に近況を報告に来ていたのかもしれんな。あるいは何かしら父上たちが取引をしていたかだ」


「なるほど」


 可能性としてはいくらでも考えられる。保護し、物資を融通する代わりに、エルフたちだけが持つ何かしらの技術や材料を流してもらっていたとか。


「しかし、よもや大賢者が絡んでいようとは……」


「ん? 知り合いなのか?」


「いえ、そういうわけではございませんが、名前くらいなら存じ上げております」


 未来で私におかしな術をかけたエルフの魔女。大賢者エスメラルダ。


 何歳なのかは知らないが、王妃となられたお嬢様のもとをこっそり訪れているのを何度か見かけて知っている。


 あのときはただ、どこの馬の骨と胡乱(うろん)げに認識していただけだったが、よもやこのような関わりがあったとは。もしかしたら、私が存じ上げないところで、幼少期のお嬢様とも繋がりがあったのかもしれない。


「これも運命ということなのかもしれませんね」


「運命か……そうかもしれんな」


「はい?」


 私の言葉に反応した旦那様が何をもってそのようなことをおっしゃったのかわからず、首を傾げていると、おもむろにニヤリとされた。


「よし、決めたぞ、ヴィクターよ!」


「はい?」


 椅子から勢いよく立ち上がって見下ろされる旦那様。


「お前に禁書庫への立ち入りを許す! そこで存分に、禁書を読みあさり、見事、不死鳥のように復活を遂げてみせよっ」


 ……まったく。親子揃って、本当に無茶なことばかりおっしゃっる。


 私は呆れてぽかんとしていたが、旦那様はこれ以上ないと言わんばかりの会心の笑みをお見せになった。


 あぁ。


 それを拝見した私はこの日をもって完全に理解した。奥様がおっしゃっていたとおり、旦那様のこの性格がお嬢様の傍若無人な振る舞いを誘発したのだということを。


「まいりましたね」


 しかし――これは最大のチャンスでもある。未来では政争に敗れてこのお屋敷ごと宰相派閥に接収されてしまったため、禁書を閲覧する機会が得られなかったが、今回は違う。奪われる前に、禁書の数々を拝見できるのだから。


 もしかしたらそこに、私の身体を治す秘術や古の時代に失われてしまった古代魔法の数々が眠っているかもしれない。


 もしそうであるならば、私は以前の自分を超えて、お嬢様をお守りすることすら可能となるやもしれない。


 なぜならば、私は知っているからだ。この時代では解読不可能といわれている古代文字。その()()()()を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★ 以下作品も好評掲載中です。ご愛読くださると嬉しいです ★

【転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語】

理不尽な大人たちに翻弄されながらも、最強の力と固い絆で彼らを退け、やがては厳しくも優しい外の世界へと羽ばたいていく少女二人の物語です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ