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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第1章】モブ執事のやり直し

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12.相変わらずのお嬢様と、リハビリと

 そんなこんなで、いいのか悪いのか、特に大きな問題も起こらず、平穏な日常が更に何日も過ぎ去っていった。


 私の身体も少しずつ回復の兆しが見え始めてきた。

 さすが、最先端の魔導医療器具なだけある。


 部位欠損といった大きな怪我は治せないものの、小規模な再生医療程度ならこなしてしまうようだ。

 その分非常に高価とも伺うが、値段に釣り合うだけの価値はある、といったところか。


 ――ただ……。


 順調に回復してきているのはいいのですが、お嬢様の方は相変わらず言動が一致していなかった。


 一見すると以前のお転婆は完全に鳴りを潜め、高貴な家柄のご息女に相応しい振る舞いをなさっているように見えるのですが、私の看病が絡むと途端にボロを出すようになってしまった。


 強いていえば、わがままっぷりがエスカレートしたと申し上げればよろしいか。

 今では普通に食事も取れるというのにもかかわらず、


「こっそり抜け出してきましたわっ。さぁ、召し上がってくださいませっ」


 そうおっしゃりながら、昼食を口に運んでいた私からフォークを奪われると、プレートの上の小皿に盛り付けられていた、『ホロホロ雷鳥の照り焼きもも肉』を無理やり口の中へと放り込もうとなされたことがあったのだ。


「貴族のご令嬢が使用人にそのようなことをなさってはなりません」


 似たようなことが何度も続いたため、その都度、何度もお諫めしたのだが、


「大丈夫ですわっ。ヴィクターは今、病床に耽っておられるのですもの。私が看病しても何も問題ありませんわっ」


 そうおっしゃって、聞き入れてくださらなかった。

 そのお転婆振りを拝見した私が、非常に懐かしい気分にさせられたことはいうまでもありません。


 本来の歴史でも、お嬢様は人のいうことをお聞きにならなかったものです。

 本当に懐かしいやら残念やらで、胸中複雑です。


 私は例によって軽く溜息を吐きながらも、仕方なく頂戴しようと口を開くと、お嬢様はひな鳥に餌をあげるがごとき様相で大変喜ばれる。


 時折どこからか庭園へとやってくる小鳥やリスなどに餌をお与えになるぐらい、お嬢様は動物好きであらせられるし、まだ五歳という幼さ。


 無意識のうちに、同じような感覚で私に給餌して喜んでおられるだけなのかもしれませんが、ともかく、そういったとき、決まってご登場あそばされるのが奥様。


「アーデっ」

「ひ~~~!」


 二人は追いかけっこの末に、部屋を飛び出していかれるのでした。





 更に数日後。

 お嬢様と奥様、ときどきそこに旦那様交えての大運動会は相変わらずでしたが、壊死した細胞の修復が大分整い、私は歩行練習へと移行していた。


「今日も平和ですね」


 そう呟く私に、


「えぇ。もう季節は夏本番ですが、この都は比較的過ごしやすいですし、本当にいいお天気です。こんな日はずっと、ひなたぼっこしていたい気分です――暑くなければですが」


 昼下がりの澄み渡る青空のもと、リハビリのために屋外へと出ていた私に、スカーレット女史がクスッと笑いながら、やわらかな口調でそう応じた。


 私は彼女に車椅子を押してもらいながら、広大な広さを誇る前庭へとゆっくり移動していく。

 歩行練習に入ったとはいっても、私の移動手段は基本、車椅子のままである。


 この時代の車椅子は、平民が使うものは普通に手動で動かすタイプのものでしたが、貴族や富裕層の間では魔導機関が搭載されたものが主流となっている。


 魔導機関というのは大体どの魔導具にも搭載されている心臓部のこと。

 いくつか種類があるが、有名なのは魔導核を組み込んだものだろうか。


 核の形状は宝玉に似ていて、ここに魔法を付与することで、初めて保冷庫のような魔導具として機能する。

 ただし、これだけで稼働させることはできず、別途エネルギー源が必要となってくる。


 魔導具タイプの車椅子も仕組みは同じ。


 魔導カートリッジと呼ばれる筒状のものを組み込んで、内部の魔力をエネルギー源として動かすタイプや、直接人間が魔力を送り込んで動かすタイプの二種類がある。


 魔法適性がある者たちは後者のものを使用するが、私のように適性が低い者はカートリッジ製のものを使うしかない。


「それではまいりましょうか。あまりお嬢様をお待たせしては申し訳ありませんので――スカーレット女史、少々お手をお貸し願えますか?」


 本日はリハビリも兼ねて、前庭中央庭園でくつろがれているお嬢様と、お茶のお時間をご一緒することになっていたのだ。


「えぇ、畏まりました」


 庭園入口へと差しかかった私は車椅子を止めてもらい、杖を片手に立ち上がろうとする。

 彼女はやや頬を桜色に染めながらも、そっと私の身体を支えてくれる。


 その恥じらうような表情。

 なるほど。

 どうやらあまり男性に慣れてはおられないようですね。

 貴族子女にはよくあることですが、彼女もまた乙女ということなのでしょう。


 私は杖を支えになんとか立ち上がると、一歩を踏み出した。

 目線が高くなったことで、目の前に広がる広大な庭園の全景が視界に飛び込んでくる。  


 中央に作られた円形の大庭園を始め、複数の小庭園、園遊会用の大庭園から漂ってくる青草の香りが鼻腔をくすぐった。


 庭園外周に敷設(ふせつ)された、大門前ロータリーからお屋敷入口まで続く石畳の車道からも、焼けた土のような匂いが流れてくる。


「景色や気温だけでなく、香りからも夏の気配を感じられる。風情がありますね」

「そうですね。私、暑いのは苦手ですが、それでも夏は好きな季節なんですよ?」

「そうなのですか?」

「えぇ」


 スカーレット女史は頭一つ分ほど低い位置からそう答え、クスッと笑った。


 ――本当にお可愛らしい女性だ。


 私はそんなことを考えながら、一歩、また一歩と階段を降りていく。


 魔導馬車や魔導車のために舗装された、石畳の馬車道とを隔てるように植えられた生垣。

 中央テラスを囲む花壇。


 そこには、バラのような大輪の花や可憐な花々が、この世の春を謳歌するように咲き誇っていた。

 まさしく、天上の楽園と呼ぶに相応しい大庭園。


 そして、そんな場所――大理石作りの屋根付きテラスにて、私の到着を待ちわびたかのように、専属侍女たちを引き連れたお嬢様が立っておられた。

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