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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第6章】初めてのお茶会、本気の仕合

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101.上空より飛来した魔

 巨大な影ですと?


(いったいどういうことにございますか?)


(それが俺――私にもよくわからないんですよ。お屋敷の遙か上空に巨大な魔力反応が三つ確認されたらしいんです。現在、その正体の確認作業をしているところなのですが、どうやら上空をぐるぐる旋回(せんかい)しているらしいのです)


(なるほど)


 お茶会が始まる前までは、コンラートはお客様の誘導係として、中央庭園からこの大庭園へと続く遊歩道付近で待機、及び周辺警戒にあたってもらっていたが、現在は他の警備にあたっている陰たちをとりまとめる役に徹してもらっている。


 私がお嬢様のサポートで忙しいということと、今後の組織運営でメンバーそれぞれに役割を持たせようと思っていたがゆえの、訓練の一環だった。


 そういったこともあり、おそらく結界の管理や、新しく導入した魔力探知及び周辺索敵で敵を捉えたミカエラ様から通信がいったのでしょう。


(――ヴィクター様)


 再びコンラートから通信が入った。


(どうしましたか?)

(未確認飛行物体の正体が判明しました――ケツァールカトラスだそうです!)

(なんですと?)


 ケツァールカトラスとは、翼竜のような見た目をした、頭や首、くちばしだけが長い大型原生魔鳥のことだ。

 つまり、魔物。

 しかも確か、ギルドで設定されている危険度ランクはAかSだったはず。


(なぜそのような危険な魔物が聖都上空に現れたのですか?)


(それについてはなんとも申し上げられません。ですが、奴らは確実にこのお屋敷の上空を旋回しているとのことです。いずれも成獣で、かなりの魔力量を有しているとのこと。いかがなさいますか?)


(そうですね……)


 あの魔物は非常に獰猛で危険極まりない生物だ。

 巨大な翼は鋭利な刃となり大抵のものは引き裂いてしまうし、二本の足の先に伸びた爪も、建物を簡単に破壊してしまう。

 当然魔物ゆえ、生き物すべてに襲いかかり捕食する。

 そういった生物だ。

 しかし――


(妙に引っかかりますね。確かあの魔物の生息域は、ここから遙か東にあるランヴァルシア帝国領内の山脈だったはず。しかも、人が多い聖都上空を旋回しているのに、まったく襲ってくる気配がない)


(はい)

(もっと言えば、敵はまるでこのお屋敷に狙いを定めているかのような動き)


(どうされますか? あのような化け物、さすがに私たちでも少々手にあまりますよ? 襲われたらひとたまりもありません)

(まぁそうでしょうね。何しろ、S級冒険者やA級が束になってかからなければ倒せないような難敵ですからね)


 私はそう応じたあと、相変わらず睨み合っておられる旦那様と陛下のもとへと歩いていき、事の次第を耳打ちした。


「なんだと!?」

「バカなっ。どうしてそのようなものがこんなところにおるのだ!」


 旦那様と陛下のお二方は先程までの剣呑(けんのん)とした雰囲気もどこ吹く風といわんばかりに、茫然となさった。


「どうしたのですか?」


 そんな私たちに気付かれたようで、お嬢様が近寄ってこられる。


「いえ、少々面倒事が起こりましてね。ですが心配はご無用にございますよ。このヴィクターがなんとかしてみせましょう」


 にっこり笑って慇懃に腰を折る私に、


「そうなのですか?」


 きょとんとされるお嬢様。

 それとは対照的に、


「おい、ヴィクターよ! なんとかすると申しても、いったいどうする気だ? 奴がなぜ、()()()()に指定されているのか、お前だってわかっておろう」


 旦那様が渋いお顔をされている。


「えぇ、もちろんにございます。ケツァールカトラスは決して地上には下りてこず、捕食対象が動けなくなるまで常に上空から風魔法にて攻撃してきます。それゆえに、対空兵器でも事前に準備しておかなければまず倒せますまい」


「それがわかっていながらどうしてそうも余裕なのだ? この屋敷にはそんなもの、備えておらんのだぞ?」

「ご心配には及びません。丁度いろいろ実験したいと思っておりましたので、かえって都合のいい手頃な獲物かと」


 私は終始笑みを絶やさず、慇懃に腰を折る。


「実験だと? お前いったい何を――」


 しかし、旦那様が最後まで言葉を紡がれることはなかった。


(ヴィクター様! 来ます! 今すぐご指示を……!)


 やや混乱したように、切羽詰まった声でコンラートが通信を飛ばしてきた。

 しかし私は、


(陰全員に告げる! そのまま全員待機せよ。何もせんでよい!)

(は……? はぁ~~~!?)


 すぐ側にいたエルフリーデ含めて、そこら中から一斉に陰たちの()頓狂(とんきょう)な声色が飛んできた。

 そしてその直後だった。


 テラスの屋根から外に出て、大庭園上空を見つめた私の視界を覆い隠すように、ただの黒い点だったそれが急降下してきて、一瞬にして巨大な魔鳥へと姿を変じていた。


 が――


 バチィ~~ンッと、耳障りな共鳴音のような強烈な雑音(ノイズ)耳朶(じだ)を打ち、次の瞬間にはどす黒い魔鳥三体が元来た空へと弾き飛ばされていたのである。


「おいっ……なんなのだ今のは……!」


 陛下が不快そうに顔を歪められ、旦那様とご一緒に私のもとまで飛び出してこられた。

 お客人方は全員、耳を押さえて悲鳴を上げておられる。

 そんな中、エルフリーデを始め、お嬢様や王太子殿下までもが近寄ってこられた。


「ヴィクター!」

「大丈夫にございますよ。まぁ、見ていてくださいませ」


 私は不安そうにされているお嬢様に微笑みを返したのだが、


「おい、ヴィクターっ。まさかあれは、結界による効果なのか!?」

「えぇ、もちろんにございます。私の想定どおりであれば、あの程度の魔物では破ることなどできますまい」

「しかし、奴らは相当な魔力量を有する化け物中の化け物なのだぞ? いくらなんでも攻撃を防ぎきることなど――」


 胡乱(うろん)げな視線を送ってこられる旦那様に、私はただただ腰を折るのみ。

 そうこうしているうちに、魔法効果範囲内に入れなかったばかりか結界すら破れなかったことに激怒したのか、ケツァールカトラスがけたたましい咆哮を上げた。


 そして再び巨大な翼を激しく羽ばたくと、ドリルのように回転しながら頭から突っ込んできた。

 しかし、彼らがもう一度結界に触れることはなかった。

 なぜならば、そのすべてがお屋敷に設置した迎撃システムによって打ち落とされていたからだ。


「なっ……バカなっ。なんだあれは!?」


 ソレを目撃し、陛下が口をあんぐりと開けたまま茫然と固まった。


「なんだあれ! メチャクチャかっけぇぇっ」


 私のすぐ側にいたフィリップ殿下が瞳を輝かせながら興奮してその場を飛び跳ねた。


「おい、ヴィクター……お前、アレはやりすぎなのではないか……? というか……はぁ……。お前という奴は。俺たちがどれだけ苦心してお前の存在(ちから)のことを隠そうとしておったか理解しておるのか? ――たく、これではすべてが水の泡だ」


 私が何をしたのかある程度事情をご存じの旦那様が、先程までの焦りをすべて払拭され、呆れの一点のみとなっておられた。

 が、私はどこ吹く風。


「素晴らしい! ちゃんと想定どおり機能してくれたようですね。ご苦労様でした、ガーディアンたち」


 そう。


 私たちの目の前で、上空から突っ込んできた魔鳥すべてを蹴散らしたのは、お屋敷母屋の屋根四隅にそれとわからなく設置したガーディアンたちだったのだ。


 ぱっと見はただの獅子の彫像四体。

 されど、いざ敵を感知し迎撃態勢に入ったが最後、彼らは凶悪な番犬と化す。


 ただのどす黒い流体へと戻った彼らは、それぞれが鋭い槍となって、見事敵を一体残らず串刺しにしてしまったのである。


「ふふ。実験は成功といったところですかな」


 私は、ただの巨大な魔結晶へと姿を変じて木っ端微塵に弾け飛んだそれを眺めながら、ニヤリと笑う。

 しかし、いいことばかりではなかった。


「おい、ヴィクター! なんだあれは! あのようなものが存在しているなどという話は、ただの一度たりとも報告に上がってきておらんぞ!? これはいったいどういうことだ!」


 こめかみと頬をヒクヒクさせながら怒ってらっしゃる陛下。

 旦那様はただ額を押さえて呆れるばかり。


「ちょっと来い! ――ラファエル! 貴様もだ! 今からお前らにたっぷりと説教してやるっ」


 え……?

 なぜそうなりますか?


「どうして私までぇ!?」


 テラス周辺で壁の人となっていたラファエル――グラスナー殿が天に轟かんばかりの悲鳴を上げられる。

 しかし、そんな彼に微笑む慈愛の女神は誰もいなかった。

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