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転生モブ執事のやり直し ~元悪役令嬢な王妃様の手下として処刑される悪役モブ執事に転生してしまったので、お嬢様が闇堕ちしないよう未来改変に挑みたいと思います  作者: 鳴神衣織
【第6章】初めてのお茶会、本気の仕合

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88.うまい食事に舌鼓を打つ

 頬をぷく~っと不満げに膨らませておられるお嬢様は、明らかにご立腹のご様子だった――というより、お嬢様……ジョンて……。


 以前、そのジョンと私を同列に扱われたのはどなたでしたかな?


 お嬢様の愛犬の真っ白い大型犬を思い出しつつも、どうしたものかと考えあぐねた。


 年々、お嬢様は本当に精神面がお強くなっておられる。

 旦那様が気圧されてしまわれるお気持ちがよくわかるほどに。


 ですがそれは、本来の歴史――正史で拝見した悪女としてのそれではなく、むしろ、曲がったことが大嫌いな大真面目な性格ゆえのもの。


 他人を虐げることはなく、むしろ身分関係なく、このようにお優しさを振りまいてくださるわけですから。

 そういった意味では悪女というより聖女に近いのかもしれない。


 しかも、知らない間に恐ろしいほどの身内びいきになってしまったようで、最近は特にその傾向がお強い。

 お嬢様に直接お仕えする私含めた使用人との距離が近くなり過ぎているように思われる。


 臣下としてはこれほどに嬉しいことは他にないのですが、やはり貴族社会はそれをよしとしない。

 さて、どうしたものか。


「お嬢様、ではこういうのはいかがでございましょうか?」


 困っていると、隣のリセルが無表情のまま具申(ぐしん)した。


「何かしら?」

「お食事が終わりましたら、そのあと、お買い物へと向かわれるはずです。そのときに市場も見て回り、試食などをされてはいかがでしょうか?」

「試食?」


 きょとんとされるお嬢様のあとに続き、私が口を挟む。


「リセル……あなたは何を申しているのですか? それはつまり、平民同様つまみ食いしながら各店舗を見て回るということですか?」

「いえ、そうではありません。お嬢様ともお話しておりましたが、今度のお茶会でお出しするお茶菓子に創意工夫を施し、真新しいものをお作りしたいと、そうお嬢様が仰せになったのです。ですのでそのための試食にございます」

「お茶菓子ですか?」


 私の疑問に、「そういえばそうでしたわね」とお嬢様の雰囲気が和らぐ。


「茶器などを見て回りたいと思っておりましたが、他の貴族の方々がよくお顔をお出しになる巨大市場(マーケット)なるものが存在すると小耳に挟みまして。できましたら本日はそこも見て回り、新作のお茶菓子についてのヒントになりそうなものがないかどうか探したいと思っておりましたの」


「なるほど。そういうことにございますか」


 つまり、いろいろなお茶菓子が売られている店舗を見て回り、お嬢様だけでなく、そこで出された試食品を私どもも食し、そのうえで意見が欲しいと、そういうことにございますか。


 そして同時に、空腹も満たされる。

 私は目を細めてリセルを凝視した。

 本当にあなたはおかしなことをお考えになりますね。

 確かにそれならば問題ありませんが。


 各店舗の応接室にて商談という形を取れば、貴族としての品位も疑われることはございませんからね。

 しかし、それにしても。


 お嬢様同様、年々余計な知恵を付けるようになってきたものです。

 彼女はそんな私の視線に気が付いたのでしょう。

「ふふ」と、滅多に笑わない顔に笑みを浮かべた。





 結局、リセルの案を採用することになってしまった私たちは、どうやらご機嫌を直してくださったお嬢様のお食事が済むまで予定どおり待機した。


 いざ料理が運ばれてくると、お嬢様はそれまでのご機嫌斜めが嘘だったかのように笑みをこぼされた。


「こちらが本日のメインディッシュとなります若鶏のサラダパスタ、オレグ産チーズのクリームソース和えにございます」

「まぁ、本当においしそうですわね。先程頂いたスープもハーブの芳醇な香りが食欲をそそりましたが、こちらもまたいい香りです」

「お褒めいただき、ありがとうございます。のちほどデザートも運んでまいりますので、ご笑味ください」

「えぇ。よろしくお願いいたしますね」


 支配人が運んできたパスタは、ホワイトソースに濃厚な味わいで有名なオレグ産チーズを溶かし込んで作り上げたものだ。

 若鶏も最高級品にあたる、グラスランナーと呼ばれるおそろしく足の速い大型鳥の胸肉を蒸してほぐしたものを使用している。

 そしてそこに秋野菜をトッピングして提供されたものが、今お嬢様がお召し上がりになっている料理だった。

 もちろんですが、お口にされる前に一つ一つ、魔法で毒物鑑定させていただいているのはいうまでもありません。


「お屋敷でもこのようなものは食べたことがありません。本当においしい――クラリスもそう思いませんか?」

「うん~~! これ、おいしい、です! こんなの、今まで食べたことない……もぐもぐ……です!」


 ご満足そうに微笑まれているお嬢様と同じく、ややフォークの扱いに難儀している様子のクラリス嬢も、口の周りを白くさせながら一生懸命嬉しそうに食べている。

 お嬢様はさすがといったところですが、クラリス嬢はまだまだのようですね。

 今後はしっかりと、行儀見習いも行っていかなければならないようです。


「お嬢様。そちらのお料理なのでございますが、近年考案された新しいメニューと伺っております」


 私の説明に、


「そうなのですか?」

「えぇ。実は数年前に開かれたお嬢様のお誕生日会で刺激を受けた他家が、使用人にいくつか新メニューを作らせたとのこと。そこから様々な料理が派生したと伺っております。おそらくこの品も、その一つなのでございましょう」

「まぁ。そうでしたのね。私のお誕生日会が」


 お嬢様はどこか恥ずかしそうにされながらも、嬉しそうに微笑まれた。


 四年前のあのお誕生日会は、本当にいろいろな流行を世に送り出した。


 私の目論みどおり、酒類の新しい飲み方のみならず、調理法の見直しや材料の組み合わせなど、実に様々な方向で調整が行われていったという。


 上流階級のみならず、平民の間にまで、そのムーブメントは否が応にも広まっていった。

 そしてその起爆剤となったのがお嬢様である。


 おそらく、一部地域を除いて、今ではお嬢様のお名前を知らぬ者はこの聖都内にいないのではないかと思われる。

 それほどに、食の流行が絶大的な影響力を及ぼしたということだ。


 そういった意味合いでも、あの夜会――お誕生日会は大成功を収めたといっても過言ではないだろう。


 私は楽しげに食事をされ続けているお嬢様とクラリス嬢を眺めた。


 一躍ときの人となられたお嬢様とは対照的に、無名であり、無邪気な笑顔を振りまいている幼子。

 立場も知名度も違えど、お二方は本当に血の繋がった姉妹のように見えた。


 事情を知らない者ならば、彼女のことを公爵家の縁戚の子か何かと勘違いしてもおかしくはない。


 おそらく支配人もそのように解釈しているのでしょう。

 お嬢様と同じぐらい丁寧に扱ってくださっているのが何よりの証。


 ある意味、他家への目くらましに丁度いいのかもしれませんね。

 今後どうなるかわからないのが世界情勢。

 いろいろな形で策や仕掛けを用意しておいて損はないといったところでしょうか。


 これは、クラリス嬢の今後の育て方を吟味するうえで、とてもいい一日になったのかもしれませんね。

 視察の件といい、お嬢様には重ね重ね、感謝申し上げなければなりません。


 そう感じ、一人にっこりする私だった。

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