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73.第十七章 海洋国家ダモクレス

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「あの、マリリン王女?付かぬ事をお聞きしますが今マーメイド族って一枚岩なのですか?もしかして人族との全面対決を訴える奴とかいません?」


「っ……!そ、それは……。」


 そっかー。いるよねー。当然いるよねー。

 王女の身柄一つでどうとでも転がり兼ねない状況ですか。そうですか。

 君が【闇呪縛(カースド)】で呪われると最低でも戦後、最悪二度と和解チャンスが無くなる訳かアッハッハッハッハ。


 ウチ大惨事じゃねぇか!マーメイド族が海賊化とか冗談じゃねぇぞッ!!


「マリリン王女、我々と交易を始めましょう!

 今迄のお話で国交の必要性はご理解頂けたと思います。ですがどっちかが上か下の関係にならないためには、双方が利益で繋がる必要があります!」


 この際、マリリン王女一人で白黒が決まる状況では駄目だ。

 国全体と条約以外でも繋がりを確保して、一人を捕らえたくらいでは変わらない環境を用意しないと。


「人族と交易ですか?しかし我々は生活に必要な物は全て自分達で……。」


「別に日用品に限る必要はありません。

 嗜好品や珍しい食事などでも良いんです。武具や魔導具なら何かあったら良いなと思うものもあるのでは?」


「しかしその場合対価は……。」


「先ず確実に、沈没船の財宝はありますよね?

 それにそちら独自の魔導具もある筈です。後は船舶の護衛なども可能な筈。

 いきなり聖王国と商談するのが不安というのなら、先ずはお試しにダモクレスと商談を始めてみるのは如何ですか?」


 ダモクレス王国が単独で交易する分には、現状の変更無く可能な筈だ。

 ミレイユ王女からも反対意見どころか、聖都奪還前に交易を始めるのは難しいので先に問題点を洗い出して貰えるなら是非お願いしたいと頼まれてしまった。


「分かりました。これ以上は長老方も交えてお願いします。」



 話も概ね合意が得られたので、後は会談の場所を整えるだけだ。

 流石に会談場所を船にすれば脅してくれと言ってるようなものだ。お互いに信用が無い以上、陸地に用意する必要がある。中間を取るなら無人島か。

 だが同時に安全が確認出来てる様な無人島など、ダモクレス周辺にしかない。


「ねぇ、安全な無人島って矛盾して無い?」


 会談に日数をかけて聖都奪還を疎かにする訳には行かない。連絡役は王女自身にお願いするしかないとして、水に濡れても大丈夫な書状――板削れば良いか。


「ねぇそれ突っ込み待ちかしら?」

「そうだよ水を弾く封筒に水中で書けるペン、用意出来ないと思ってるの?」


 駄目元でダモクレス海軍の要にして海竜商会長ドルゴンに確認して見ると、中継点に使っている無人島が近くにあるという話だった。

 そうか、今海上封鎖中だったか。行けるやん。


「時に王女様、人魚の味覚は人と同じで間違いないので?

 マーメイド族は生魚と海藻を食べると聞いていますが、〔マーメイドリング〕があれば地上の食事を食べられると解釈しても?」


「何であなたが私達の秘宝に詳しいんですか?ていうか会談ですよね?

 あと一応海の生き物は生で食べられる以外は人族とほぼ同じ味覚です。」



「……というのがアレス王子の現状なんですが。」


「むう、何というか逆に凄く行きたくなったな。

 ていうかそれ、儂が会談に承諾する前の話なんだよな?」


 長老ポセイドンは娘からの魔法の布で出来た書状を確認し、どこまで暴走してるかを確認したい欲求に抗えなかった。

 というか正式な話し合いではあるが、あくまで条約云々の前段階。国交を開くかどうかの段階だった筈。彼らは無人島に何をしているのか。

 駄目だ、凄く気になる。ていうか彼ら人魚を何だと思っているのか。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 会談に使う無人島は当日まではマーメイド側が好きに確認して良いと伝え、当日は準備のために関係者以外の立ち入りを禁止する方針となった。

 交渉役以外は双方護衛が五名以下、それ以外は島の外に待機。

 そこまで決まって案内されたのは、海底から陸に続く鍾乳洞窟だった。


(((流石にソコは見つけておらんよ……。)))


 泳いで入れるのは気を使ってくれた証なんだろうが、事前調査で発見出来ない様な場所へ案内しないで欲しい。

 長老ポセイドンは娘の案内に従い、揃って洞窟の中に上陸する。

 着替えるための小屋は男女別で用意されていた。中から閂がかけられる。

 コレ一日で用意したのかと戸惑いながら、準備が出来た旨を呼び鈴で伝える。

 予備の靴も用意されていたが、絨毯敷いてあるなら別に要らないと思う。


「……なあ。アレス王子は、今日の会談で何を話す気なんだ……?」

「何もかも聞いてる訳ないでしょう?

 私が知っているのは会談用の場所があのガセボだって事だけです。」


 赤い絨毯の道が伸びていたのは、白い木製の洋風東屋ことガセボだった。

 周囲の護衛達が見張り易い様に、ちゃんと柱と天井と塀と床しかない。話の内容も全て護衛達に聞こえる様に配慮されているのだろう。

 その上で近付き過ぎない様にも、だ。護衛達は周囲に自由に立つ形式らしい。


 その。ガセボの脇に。

 鎧を着たコックと給仕役侍女達と護衛一人が控えていた。


(((接待係は護衛枠に入っているのか………。)))


 まあ確かに必要だし。ケチの付けようは無い。見た目かなりアレだが。


「ようこそマーメイド族の長老方、お初にお目にかかります。

 私は聖戦軍の軍師を務める者、アレス・ダモクレス第二王子です。」


 ガセボの中で待っていた三名が立ち上がり、先頭の整った顔立ちの青年が両手を広げる形で歓迎の意を示す。

 続く二人の女性はそれぞれがヴェルーゼ・トールギスとミレイユ・ジュワユーズと名乗り、アレス王子の婚約者と説明された。

 婚約者の身分が異常に高いが、まあ義勇軍を率いる無敗の英雄だ。そういう事もあるのだろうと納得させる。

 ヴェルーゼ皇女が書記を、ミレイユ王女は聖王国視点での助言役らしい。


 長老側は代表のポセイドン以外は基本的に発言する予定はない。一応マリリンは次期女王であるため口出し自由だが、ポセイドンは先王で他の二長老は相談役。

 最終的な決定権を持つのはポセイドンだけなのだ。

 いつまでも彼のペースに呑まれている訳には行かない。この会談には種族の命運がかかっているのだから。



「それでミレイユ王女が聖王国代表では無く、助言役というのは?」


「今回の条約交渉はあくまで聖王国の同意の上で行われる、ダモクレスとの契約になります。問題点が無ければ聖王国とも同様の条約を結べば良いでしょう。

 聖王国としては、聖都奪還前の交渉では全てが口約束に成り兼ねないのと、決定権を持つ第二王子リシャール殿下が当分こちらに来られません。

 なので代理として、事前に協力関係を築ける国が交渉させて頂く形になります。

 ダモクレスとの交渉が決裂しても、聖王国と決裂した扱いにはなりません。」


 この辺の事情はマリリン王女が伝えている筈だが、アレスの口から明言して欲しかったという話だろう。

 何故か最初遠い目をしていた気がしたが、会談自体は本腰を入れている様だ。


「それでは始めようか。そちらのいう、会談とやらを。

 こちらの望みは陸の者によるマーメイド族の誘拐を止めたい。

 それに対して、我々に海での陸の者の扱いを保証させたい、だったな。

 だが元より我々は陸の者に手出しをしておらんし、何より陸の者が海に出来る事など知れている。そして陸の者が海での行いを監視する手段など無い。

 これでどうやって、そちらは我々が貴殿らの約束を守っていると証明させる心算だね?海で人族が遭難したら全て我々の責任になるのかね?」


 ふふん。様子見のジャブに、敢えて厳しい態度を取られましたな。

 だがそれは予想されていては効果が薄いのですよ。


「誤解が幾つか。一つ。今回の会談は種族全体の話ではありません。

 二つ。問題は罰則があり、責任を認めるかです。実際に誘拐した時無罪、という前提があれば約束を守る理由が無い。

 守れないから約束しないはあなた方が人族を見下し過ぎです。」


「っ!?」

「三つ。今回の話の軸は、ルール作りでは無く相互利益です。

 四つ。今回の話は、一国家ダモクレスとの相互条約です。

 つまりまあ、一枚岩ではないあなた方が、いきなり戦争中の我々全人族に共通の約束だけを強要するなど理不尽極まりないとは思いませんか?」


「「「ッ……!」」」


 要求が呑めない限り聞く耳は持たない、交渉下手ですねぇ。

 ワザとだろうけど。


「話にならんな。田舎国家一つの発言力など無視されて終わりだ。」


「では聖王国の前で、人魚の差別に関知しないと公約なされると良い。」

「っ!」


 ふふふふふふ。強い言葉の応酬じゃのう。でもコレ、()()()()()()()です。

 一見仲が険悪に見えるが、それは周囲の者にとってだけだ。そもそも前段階の話は事前に伝えてある。

 ここで問答無用で決裂させる事の意味が、双方の護衛達にも伝わった筈。


「ここに私の婚約者が聖王国の姫として参列している意味を考えて頂きたい。

 今回の決裂は聖王国との破談にはならないが、成功は聖王国に引き継がれる。

 今回の会談の意義は、双方の内情と必要を伝え合い、調整するものです。

 初めての公約で不備が見つかったら種族の命運を賭けたので終わり、とは出来ないでしょう?妥協点を定めるのが今回の目的です。」


「ふむ。」

「先程の件で言えば、単なる海難事故と人魚の襲撃を区別する法作りです。」


「成程。そもそも区別していなければ保証も罰も無い訳か。

 そこに相互条約の意義があると。」


「おっしゃる通りです。先ずは我々もあなた方もしないと決める。

 その上でどれが罰に値し、どれが無関係かと定める。その最初のルール作りから始めようと思います。」


「では、強制力はどうする?マーメイドの法はマーメイドに届く。

 人族もそうであろう。では、マーメイドの法は人族に届くのか?逆は?」


「その為の交易保証です。人族とマーメイドの間に交易という利益を生む。

 違反した場合、両者は利益を失う、又は減じるリスクを負う。

 互いに無関係であれば、違反しても痛くも痒くもない。

 先ずはその関係を崩します。」


「先ずは()()だな。用意出来るのかね、それ程の利益を。

 人族がマーメイドを攫うのは、儲かるからなのだろう?」


 さぁ()()だ。


「あなた達の本腰があれば容易く。

 そもそも商品というものは希少性があり、多くの客が求める物ほど高く売れる。

 では人の手が容易に届かず、多くの貴族が求める商品があれば良い。

――聞いた事はありませんか?〔金銀財宝〕の一つ、()()()()という名を。」


 宝石珊瑚とは即ち、宝石の如く扱われる枯死した珊瑚の死骸だ。百年千年単位で堆積して成長し、特に深海種の事を指す。

 石よりも柔らかく加工し易く、赤や白が多い。形状が樹木に似ており、原形のままで取引される事もある。


「勿論知っている。我々も装飾品として使っているからな。

 しかしあれは……。」


「こちらが我々の把握している生態です。養殖するには成長に時間がかかり過ぎ、採取数が限られる。大量に流せば直ぐに枯渇する。

 故に()()します。人魚全体で採取を独占し、販売量を管理して頂きたい。

 そしてダモクレスとの独占販売を条約に組み込んで頂きたい!たかが人魚数人を捕らえた程度では到底割に合わない、膨大な交易利益を保証しましょう!

 これこそが、人魚の人権を保障する利益です!

 我々はあなた達の珊瑚独占を認める事でその希少性を保ち、安定した高額商品を確保する!あなた達が我らの人権を保障する対価は、珊瑚の売却益となる!」


「「「なっ!」」」


(そ、そうか!人魚を上回る高額商品を、人魚の力で管理させる!

 そうすれば人魚の奴隷化を認める方が割に合わなくなるのか!)


「ま、待って下さい!それは聖王国との交易も制限されるという事ですか?!」


 ミレイユ王女が慌てて口を挟む。彼女は聖王国の利益を考える側としてこの場にいる。ダモクレスだけで利益の独占を認める条約では意味がない。


「一見するとデメリットに見えるでしょう。ですが元々聖王国は、珊瑚を安定入手出来ていますか?それに聖王国では珊瑚で足りますか?

 少なくとも同意を得る貴族達の数が多過ぎる。聖都では不可能です。」


「そ、それは確かに……。」


「逆にダモクレスなら少数商品で利益が出せます。

 そして聖都にとっては、珊瑚の価格を暴落させずに済むという形で利益になる。

 大量出荷を阻止する形で、デメリットを防ぐ仕組みになるんです。」


「理には適ってます。ですが、それだけだとダモクレスの交易を認めるだけで留まると思いますね。聖王国全体の利益としては、無いに等しい。」


「それでは我々としても意味が無いな。」


「そうですね。ここまでは寧ろ、人魚を説得するための利益です。

 これから私が提案するのは、種族全体を味方に付けるメリットのお話です。」


 懐疑的だった先程までとは違い、今回は一同が関心を寄せる空気がある。

 最初の提案は、ある意味本命の為の下地作りだと言っても良い。


「マーメイド族の人権を保障する場合、利益は高額よりも安定性、長期的なものである程良いと考えます。要はより多くの者が恩恵に預かれる利益が必要だ。

 私は人魚達を味方に付けるメリットとして、海上貿易の保護を提案します。

 具体的には、貿易船の護衛をマーメイド族に依頼したい!」


「「「っ?!」」」

「ぼ、貿易船の保護という事か?」


「はい。海での航海には危険が付きもの。例えば岩礁地帯の接近も海底からならば容易に把握出来るでしょう。海の魔物も同様です。

 無論断る権利は必要ですが、特定の紋章を描いた船をマーメイド族は襲わないという確約があるだけで、マーメイド族の協力者と違反者を区別する事が出来る。」


「紋章付きの船を襲ったマーメイドは、陸の者が裁いて良いと?」


「マーメイド族の傭兵を雇えれば互いの意見は通り易くなりましょう?」


「なるほど。紋章付きの船の船員はお前達人族が保障せねばならんのだな?」


「そしてマーメイド傭兵達はあなた達が保障して下さる。

 マーメイド達を目撃する機会が増え、皆さんの希少性も薄れます。」


 皆無にはならないだろうが、法的に規制する理由には十分だ。貴族の誘拐と百姓の誘拐では価値に差が出る。安物のために法を犯すのかという心理が生じる。


「「……。」」


「確認します。紋章の無い()()()は、マーメイド族は自由に襲って良いのかを。」


「「「……。」」」


 ヴェルーゼ皇女の指摘で、沈黙の意味合いが変わる。

 ソレ提案に含めて良いのならさ。


「……いやぶっちゃけますと聖都って、湖と小山と水堀に囲まれた都市なんすよ。

 マーメイド族が聖戦軍に傭兵として加わってくれるならさ。

 ぶっちゃけ聖王家には恩って形で、今の条約を履行する動機に出来る。」


 それなら貴族の反対とか関係無くない?とミレイユ王女に視線で確認を取る。


「…………そ、そうですね。

 条約に不備が無くて、事前に内容を精査出来る前提なら。」


 自然、全員の注目が集まる。


「こっちからお願いしたい交渉に化けると思います……。」


 両手で顔を隠す辺り、オーバーキルって奴ですね?


 そっかー。

 聖都の守りがマーメイド対策してないって、貴女も気付いちゃったかー。

「それで、我々にとって魅力的な商品は用意出来るのかね?」

「安価な物としては食材(ダモクレス産)を皆さんに試食して頂き、問題無ければコレで行こうかと。

 高額商品は金属製品は腐食し易いので魔法の武防具(職人誘致済み)、防水箱などを考えております。」

(あれ、聖王国のハードル爆上がりしてる……?)



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