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71.第十七章 闇組織ブラッドロア

※成人の日休みによる三日連続投稿、二日目です。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 率直に言って、非常時の脱出先に見張りを付けておくとか馬鹿の所業だ。

 何故なら非常用の脱出先はバレていないから安全に逃げられるのであって、先にバレていたら待ち伏せされるに決まっている。


 だから最善は出入り口を隠し、普段は塞いで罠を設置しておく。

 急いでいる時に罠を解除するのは手間だと思うかも知れないが、罠は足止めにも使える。そんな一刻を争う状況に追い込まれる前に逃げるのが最善だ。

 そして近くに馬車を用意してある場所だと更に良い。


 つまりはあれだ。街中の敵の逃走経路を探るには、一つは近隣の建物と地下。

 そして馬車のある建物だ。後は分かるな?


 ()()調()()()所有者を特定出来るんだ。


「制圧完了しました。」


「よし、オークション側にも動き無し。

 準備が出来次第、作戦開始だ。」


 オークション会場には既に十分な顧客が集まっている。中には不測の事態に備え既にダモクレスの密偵が顧客と警備員側の両方に紛れ込んでいる。

 取り立てられるには犯罪に手を染める必要が出るので本末転倒だから、外回りの者に紛れる程度で済ませ、潜入班の手引き程度に留めてある。


 そもそも本当に重要な場所は《治世の紋章》で調べた方が安全確実なのだ。

 並の魔術師には察知出来ないし密偵には不可能、そもそも透視や盗聴可能な魔法など無いのだから、そちらに対して警戒する筈も無い。

 侵入者さえ防げば何も心配は要らない。

 それがこの世界の一般的防諜手段だ。


「そう、だから《治世の紋章》持ちは厳密に管理される。

 聖都にこの手の防諜手段が存在している事も、《治世》を知らない者には想像の余地すらないのだよ。」


 くぇ~~~っけっけっけっけ!まさに笑いが止まらないとはこの事よ!

 奴らは鍵の場所も金庫の開け方も全て把握されているとは全く知らずに、今日の警備は万全だと高を括っている!勝利を確信している!


「何て楽しい!勝利を確信した罪人共が、絶望の淵に沈む様は最高だよ!

 この快楽はそう、強者に弱い者虐めをして初めて可能となる最高の悦楽だ!」


 全力でゲス顔をしながら誰も居なくなった金庫の鍵を開ける。大きな声を出せないのが本当に残念でならない。隙がある方が悪いよね!

 ほぅら《王家の紋章》!君達の隠し財産と証拠全部没収っ!


 アレスは待っている間に逃走経路の二階にある今オークション会場にいる闇組織のボスの財産を徴収し終え、ホクホク顔で階下に戻る。


「本当に楽しそうですねアレス王子……。」


「とても楽しいよ!だって闇組織のボス様が一番見られたくないであろう、顧客名簿が真っ先に手に入ったんだもん!

 ボスを捕まえたら絶対にこの鍵見せびらかしてやるんだぁ~☆」


 勿論ボスのセーフハウスが一つだとは思ってない。だが顧客名簿を抑えた時点でこの街に居られなくなるのは確実だ。何せパトロンが捕まるのだから。


 それにココに隠していた額は結構大きい。

 更に暗殺者と忍術の使い手が使う特殊なアイテムを買える〔秘密の符丁〕。

 〔呪われた店〕と〔錬金術師の店〕に入れる魔法のカード〔会員証〕。

 この二つを隠していた辺り、かなり重要度の高い場所だとみて間違いない。


 正直少しドン引くかと思っていたミレイユ王女だが、意外にもそういうものかと素直に感心していたのは少し将来が不安だ。

 視線でドン引いていた方の姫に、常識のフォローをお願いしよう。

……ハイ、貸し一つですね。


「アレス王子、準備が整いました。」


「よし。それじゃギリギリまで裏工作を続けようか。」


 獲物を前に舌舐めずりするのは二流の所業だ。

 獲物を味わうのは仕留めてからで良い。


「「「はっ!」」」


 密偵隊一同は、悪い笑みを浮かべて散開した。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 最初の突入は音も無く静かに始まり、見張りの者達が一斉に討ち取られる。

 本来であれば見張りの方が先に気付く事もあった筈だが、そこは全員が彼らの側の人間だった場合だ。

 些細な不信感は仲間を装った悪意が彼らの監視を煙に巻く。


 見張りが失われて出入口が開けば、流石に沈黙を保つ事は出来ない。ならば次は部隊の突入、強襲隊の出番となる。

 無論多少の警戒は当然していた。門外の兵馬は後ろ暗い者に沈黙を強いる。

 街中に大量の兵馬が宿を取れば、オークションなど開かれまい。


 だから事前に輸送隊が忍び込んでいた。

 第二段階として、外の軍隊に商品を売るという名目で大量の馬車を外に出す。

 荷物を降ろした二重底の荷台と共に、兵を隠した馬車が町に帰還する。

 武装の類は武装を売り出した商店の倉庫がある。一度に在庫全てを売り出す商館など有り得ないので、後は荷台を片付けた倉庫の地下から商館に潜むだけだ。

 商館のトップは勿論ダモクレス王国である。


 斯くして彼らは敵戦力に気付かず、物量と兵の質によって蹂躙される。

 そもそも一都市の闇組織にハイクラス部隊が大勢いる筈も無い。ハイクラスとは基本貴族なのだ、王国が褒賞として任命するエリートなのだ。

 バルバロイで部隊を作るなど非現実的で、実際にはバルバロイへの転職を大幹部の条件に出来れば大組織の証だろう。


「貴様ら!我々〔ブラッドロア〕を敵に回して生きて帰れると思うな!」


 基礎クラス五百による厳重な警備で、百のアサシン部隊に勝算がある筈もない。

 あと突入部隊は魔騎士団百と同傭兵団百、計三百だ。


「我々は聖戦軍である!犯罪者共を確実に殲滅せよ!」


(((あ。これマジもんの討伐案件だ。)))


 数分で建物に火が付いた。建物に突入し慣れた精鋭部隊が斬る。

 阿鼻叫喚の悲鳴が上がり、そこら中で観客が捕縛されて運び出される。

 身分を振りかざした者は、優先して念入りに捕縛されて檻に詰められた。


 痛いや非人道的は通じない。そもそも高LV相手に鉄の檻は心許無いのだ、如何に力めない休めない姿勢で拘束するかが鍵になる。

 建物内に居た時点で人質以外黒認定だ、罪人に手加減など無い。


 だが。逆に言えば大幹部であれば、一人くらいはこの状況で精鋭の極みたる英雄達と渡り合えても不思議はない。



 天井から降り注ぐ剣戟の牙を〔剣姫〕レフィーリアは前のめりの跳躍と共に斬り弾く。〔剣鬼〕スカサハはその場で迎え撃ち弾き斬るが、返しの刃は捌かれる。


「へぇ。」


「奇襲のつもりだったが、共に凌がれるか。

 まあいい。お相手願おう。」


 『神速・跳弾』により天井を飛び降りた、軽装の痩せ男が薄刃の魔剣〔飛燕剣〕を片手に構える。上下階への階段は廊下後ろにと立ち塞がれる。


「あなたまさか〔人斬り剣豪〕ガントルド!?

 強者との斬り合いに固執し過ぎて傭兵を追われた男が、こんなところで落魄れているだなんてね。」


「ほう、オレを知っていたか。

 これでも俺にとっては天職だと思っているのだがな。事実こうして義勇軍の英雄達と剣を交える機会を得た。

 乱戦の最中ではこうはゆくまい。」


「言ってくれる。悪いが先を急ぐ、一騎討ちに拘ってやれないぞ。」


「構わんさ。建物内ではオレの方が有利だからなッ!」


 一瞬の跳躍による斬撃が二人諸共切り払うが、両者壁を背にして互いに異なる『神速』の踏み込みでギリギリを見切る。が。


「ぬんっ!」

「なっ!」


 『必殺・裂帛』。一瞬で跳ね上がった筋力によって急激な方向転換による逆袈裟斬りが放たれ、レフィーリアをガードごと弾き飛ばす。

 躊躇無く背中に斬り込んだスカサハに対し、ガントルドは振り向き様の切り返しを間に合わぬ筈の姿勢から切り弾く。


(今のは『必中・疾風』か?まさか剣戟に対し『必中』を狙ったのか?!)


「ぬぅ……!」


 『反撃』と『連撃』の手数に圧され、止むを得ず動きを縛られる前に飛び下がるガントルドだが、一瞬遅ければレフィーリアの追撃の餌食となっていた。

 二対一でありながら平然と対応し切る彼の体捌きに、屋内ではガントルドの方に分があると納得せざるを得なかった。


「どうやら、はったりで俺達を相手にしている訳じゃなさそうだ。」


「……ええ、そうね。」


 二人の天才が気配を研ぎ澄ます。ここからは、一切の驕りは有り得ないと。


   ~~~~~~~~~


「や、止めてェ!あたしの宝物を燃やさないでぇッ!」


「くははははっ!良い生地を使っている、よぉく燃えるじゃないか!」


 嘲笑と共にドレスを引き裂く音が辺りに響き、金属の装飾が床に散らばる。


「ひ、酷い。酷過ぎる……!何もここまでしなくても……ッ!」


   ~~~~~~~~~


 朧の如き無音の加速と跳弾の如き不規則な跳躍、『霞』と『跳弾』という二つの対極の『神速』が鎬を削り。

 『見切り』と『心眼』による心を読むかの様な洞察と天性の嗅覚による体捌きが産み出す『神速』が両者に追従し、先手を打つ。

 三者の動きは既に常人の視界を容易く振り切る程に、鋭くも速く翻る。


 『反撃』に『連撃』とあらゆる姿勢に体勢から『必殺』の剣閃を見極め体現するスカサハの手数は人間離れした剣戟の嵐を体現する。


 対してレフィーリアの技は幻の如き幻燈の剣舞。〔剣姫〕の名に相応しく多彩な虚実を織り交ぜて対峙する者達を翻弄する。


   ~~~~~~~~~


「おいおいオッサン、貴様はこの〔ブラッドロア〕の長なのだろう?

 今の今迄貴様は、散々他人を踏み躙って来たじゃあないか。

 何故貴様はオレが、貴様を踏み躙る事を止めると思っているのだぁ~~?!」


 火に燃べられ襤褸切れと化したドレスの数々を前に、縄で縛られ近寄る事も許されぬ首領は、心の拠り所の無残な姿に顔中の汁を垂らして慟哭する。

 余りに惨めな有様に共に縛られた部下達が、引き攣った顔で首領を見つめる。


 お楽しみの最中だった首領は、女物の下着だけを纏った姿で自室から引き摺り出されていた。

――眼帯に髭面の毛むくじゃらオヤジが、滂沱の海に沈んでいた。


   ~~~~~~~~~


『必殺・裂帛』。攻撃の一瞬に自身の魔力を微活性させて、一瞬だけ全身の筋力を限界以上に漲らせる剛の技。

『必殺・迅雷』。攻撃の瞬間だけ自身の魔力を微活性して一瞬の反射速度を跳ね上げる加速術。

『必中・疾風』。一撃に風を纏わせて互いの間に一瞬だけ真空を生じさせる事で、双方の間合いを引き寄せる魔技。

『必中・朧』攻撃の瞬間に魔力で刃を包み武器を幻の如く視覚から隠す、長刃長柄の武器ほど間合いを狂わせる錯覚の魔技。


 古来、戦場において魔法と剣技との併用、応用は幾度も研究され続けた。

 術式による発展は魔導具、魔法の武具として集約され。

 技術による発展は、魔剣技として確立された。

 その未発達の時代。試行錯誤の秘技。


 魔力操作のみで成し得る、とある奥義が編み出された。


 古来より傭兵達の間で様々な形で引き継がれた、魔剣技の原点と言われる一瞬の魔力操作を極めた四種の秘剣。

 それぞれが全く異なる性質を有するが故に、全てを体得する事は困難を極めた。

 ハイクラスにより体得出来る魔剣技の下位互換とされたそれらの秘技は、昇格の出来ない傭兵達の間で細々と継承され、弟子や戦友達に引き継がれ。

 いつしか〔傭兵四極〕と呼ばれ特別扱いされ、語り継がれる様になった。


 数多の傭兵達が様々な経緯で伝承し、指導者達がそれぞれに異なるが故に。

 全て知り、極めるのは不可能とされる。古より紡がれる妙技の数々。


 スキルとしては『必殺』と『必中』のたった二つ。

 だがしかし。いない筈なのだ、〔四極〕全ての体得者等という存在は。


   ~~~~~~~~~


「一緒にしてくれるな馬鹿共め!

 俺様は真面目に生きている人間を破滅させる趣味は無いとも!

 オレが破滅させて楽しいのは貴様らの様な、傲慢な馬鹿共だからだ!

 散々人を破滅させ嘲笑し続けて己だけは例外だと思い込む様な、自分だけは幸せに死ねると信じ込んでいる野心家の愚物共こそが!

 己が救われる側では無いと己の行いを振り返り確信する瞬間こそが、最高に絶望した表情を浮かべてくれると、知ぃぃぃっっっっているからなぁッッッッ!!!」


 アレスが全身を仰け反らせながら嘲笑する陰で。

 ダモクレス密偵団は音も無く全ての鍵を解き放ち、証拠と金品、そして人質達の口を塞いで騒がせずに運び出し続ける。


 獲物を前に舌舐めずり。

 正に二流の証拠であり、これでアレスは一切油断していない。


 これはあくまで捕縛したトップ達の関心を引き、抵抗する気力を奪うための演技ではある。何せ彼らは、今全員の拘束が終わったところだった。


 実際ボスからドレスを奪ったアレスが現れるまでは、全員仲間を見捨てて逃亡を図る最中であったのだ。

 その彼らが思わず呆気に取られ、そして自分達の退路が断たれたと信じ込んで膝を突いたのも、あくまでアレスの演技力による錯覚でしかない。

 実際の所、彼らが呆然としなければ証拠の一部は回収出来なかっただろう。


「貴様らは全員今の首領と同じ、女下着をまとった変態姿で処刑されるのだよ!」


「「「んなっ?!ふざけるな、俺達はノーマルだっ!!」」」


「晒し者ってそういうものでしょう?(とても可愛い声)」


「「「「「ッ◆っ☆?#※×★?!」」」」」


   ~~~~~~~~~


「見事なり。我が〔四極〕全てを凌いで見せた者達などお前達が初めてだ。

 これだから人斬りは止められぬ。」


 〔人斬り剣豪〕ガントルドは、これまで義勇軍が出会った中で最強の剣士として両者の前に立ち塞がっていた。

(つづく。)

※成人の日休みによる三日連続投稿、二日目です。

 レイニー止めしようかと思いましたw


 でもまあ、ある意味この話で落ちてるし……w

 今話は四コマ風二画面進行だと思って下さいw次話からは普通に戻るので明日続きを投稿する事にしました。



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