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70.第十七章 潜入調査はダモクレスの独壇場です。

※成人の日休みによる三日連続投稿、初日です。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 まあ種明かしすると、ミレイユ王女がいきなりダモクレス軍に馴染めと言うのは無理がある訳で。フォローをする人材が必要な訳です。


 となると一番相応しく身分が近い人材もまたヴェルーゼ皇女になる。というか、彼女達が上手くやれないならダモクレスの後宮は立ち行かない。

 現状ミレイユ王女は慣れるためにもヴェルーゼ皇女と一緒に事務仕事を担当しており、今は結婚前という事もあって友人関係に近い距離感を築いていた。


 そもそも二人とも、《紋章》にまつわる特大の秘密を知ってしまった仲だ。

 婚姻という形だから内心複雑になるだけで、頼れる味方なら多い方が良い。対立している余裕など無いと言うのが両者の本音だった。


「どうやら帝国軍は油断し切っている様子。

 聖都の最前線ならともかく、決着前に聖戦軍が現れる事は無いと高を括っている様ですな。」


 アレス達が攻め寄せているのはグラッキー領内の砦の近く。

 彼らは形だけとはいえ帝国に屈服していたため、対価として軍糧を提出しており駐屯用の砦も幾つか明け渡してもいた。

 彼らは基本監視要員であり後方要員でもあるため、砦一つで千を待機させる程の理由も余剰兵力も無い。あったとしたら先日のベンガーナ攻めに参加した筈だ。


「なら正面突破だな。今は拙速の方が大事だ。」


「どの砦から行く?」


 視界にある砦は三つ。距離的には斜めに遠ざかっていく形だが。


「三隊に分けて同時攻撃で良いだろ。

 下手に連携されたり逃げられる方が厄介だ。」


 ぶっちゃけ主力が基礎クラスの砦なんて障害にならない。盗賊化される方が問題なので素直に討伐してしまおう。軍としての組織力さえ失ってしまえば、この世界の住民は異国だろうと普通に土着する。

 何せ言語的な障害はほぼ無く、外見的な差異で出身地を見抜く事は先ず不可能なのだから、種族間での差別は前世と比べると遥かに難しい。

 小さな村や町にとって、近所の住民以外は隣接領だろうが別大陸だろうが違いは分からないのだ。

 労働力が不足傾向な社会で、働く気のある者が排斥される事は少ない。


「どーして略奪品が正規軍の砦に山の様にあるんだろーね。」


「知らんのかね?帝国で賄賂をしない清廉潔白な連中は早死にするのだよ。」

「横領罪で処刑で。」


 囚われの守将が堂々と言い放ったので、アレスは公開処刑を命じる。

 抗議の声が聞こえるが気にはしない。聖戦軍は清廉潔白な政治を取り戻すため、聖王国を支持します。

 ヴェルーゼ皇女が背中をじっと見ているが、私は絶対に振り向きません。




 近隣の砦を次々と制圧し、制圧した砦の大部分は閉鎖して次へ進む。

 兵は追い出し資材を持ち出してしまえば、小さな砦自体に価値は無い。村単位の避難所としては有益だろうが、その辺はグラッキー領主が対応すべきだ。


 概ね三千の部隊を複数作って進軍すれば、数日でグラッキーの領都ダグラスター以南の地域から帝国兵や盗賊を駆逐出来た。

 領都ダグラスター自体はグラッキー公の御膝元なので奪還の必要は無いが、領主一族が処罰された直後に大軍で乗り込むのは流石に不味い。

 他方に散った部隊もそろそろ一旦再合流する必要があるし、軍の大半は領都の外で待機させて交代で領都入りし、休息を取る手筈を整えた。

 アレスは表向き領都には補給のために訪れた、という方向で話を進めていた。


――そう、表向きは。




「もう、また敬語になってますよ騎士アスター?

 いずれ夫婦になるんですから、もう少し力を抜いて話して下さらない?

 ルーゼ様からも何か言って下さいな。」


 満面の笑顔で、しかし不服そうな小声で。

 神官少女ミーシャことミレイユ王女の髪色は今、普段の淡い金色では無くアレスと同じ銀髪だった。


「そうですね。今後は私と同じ話し方に慣れて頂かなくては。

 私達が開き直るにしたのに、当事者であるあなたがそれでは困ります。」


 対するルーゼことヴェルーゼ皇女は鮮やかな金髪ポニテ。普段も時々ポニテなのでイメージは大きく変わらないのではと思ったが、高めか低めか、右寄りにするかだけでも結構印象が変わっている。今は特に可愛らしさ重視の様だ。

 女は化けるとは言うが、思いの外彼女は印象を変えるのが巧かった。


 アレス達が今いるのは領都ダグラスターの市街地。そして王侯貴族が決して使わない様な極々普通の宿だ。事実、下の階には一般客も滞在している。


 尚、実はダモクレス密偵が運営する直営店でもある。なので目撃者を出さずに宿泊出来る屋根裏部屋も、暖炉に偽装した階段も、地下に脱出路もある。

 雑魚寝なら百名は潜伏出来る、聖都の偵察拠点を兼ねた隠れ家の一つだった。


 変装中なのでいつもの護衛騎士達はいない。

 が、代わりの同行者が剣鬼スカサハ、剣姫レフィーリア、僧兵バルザム。

 此処に聖王国最強の聖騎士こと守護騎士エルゼラント卿まで加わっていて、一体誰が護衛に不足だと言えるだろうか。


 魔法学者ジルロックは市街地向きとは言えないが、今回〔髪染めの腕輪〕という染料では不可能な髪色と目の変色を可能とした魔導具を用意した張本人だ。

 魔法使いとしての腕は間違いなく一流の存在だ。というかコイツだけ原作に登場していない上に、割とぶっ飛んだ才能を誇るマッド系錬金術師だったりする。


 因みにエルゼラント卿は先代聖王を守れなかった事に責任感じており、常々聖騎士の座を降りたいと口にしていたので、今後はアレスとの婚約成立に伴いミレイユ王女の専属護衛となった。要はダモクレス入りである。

 正直、ダモクレスの武将戦力は既に聖王国とも渡り合える領域になって来た。


「それで騎士アスター。今回の潜入の目的は、奴隷売買所の制圧だったか?」


「ああ。この宿にグレイス宮廷伯が報告に来る手筈になっている。」


 現状回りが気を使った所為でちょっとしたデート感覚になってしまっていたが、本来の目的はそっちの方だ。

 まあ宮廷伯の報告待ちだから現状がある訳だが。


「でもまあ、問題無く使えてる様で良かったよ。

 その腕輪、腕から外さないと色が取れないから破損にだけは気を付けて。

 魔力消費が無い分お高くなっているからね。量産は出来ないと思ってくれ。」


「そうなんですか?下位魔導書よりは高いかもと思いますけど。

 それでも防御魔具よりは値が下がるのでは?」


 ジルロックの指摘にミレイユ王女が疑問を抱くが流石に甘いとしか言えない。

 何せスポンサーが言うのだから間違いはありません。


「何を言ってるんだいお姫様。試作品は開発費がかかるんだよ?

 量産が出来ない素材を使えば失敗作が全く出ないとでも?」


「オイオイ助さん、この場合は完成品の単価だけで論じるべきでしょう?

 問題は比較対象の防御魔具がどの程度の品を想定してたかですよ。」


 ふはははは、と二重奏で笑うアレスとジルロックに、装着者である王女二人は嫌な予感を覚え始める。因みに現存する完成品は四つ。

 アレスが銀と黒を持っているが、これはアレスが一番変装が必要だからだ。


「まぁぶっちゃけ、下手な魔剣よりはお高い代物ですなぁ?」


「「「はぁ?」」」


 髪染めの手間一つ無く全身の毛を染められるのだからそうもなろうよ。髪は愚か眉毛や眼球までセットで色が変わるんですぜ?

 正直私も造れるとは思わなかったです。もうコイツ絶対他国に渡せない。


「い、一体ダモクレスの金銭感覚はどうなっているの?!

 潜入工作のために予算を幾らかけているのよ!」


「その辺にしておいてくれませんかな、ルーゼ嬢。

 予算に付いては我々も合意の上ですから。」


 扉を開けて入って来たのは別ルートから領都に潜入したグレイス宮廷伯を始めとした、アストリア王子とダモクレス密偵隊の面々だ。

 今回の作戦は領都側から情報が漏れぬよう、極秘に行われている。

 何せ事前調査によると、この地では昔から奴隷売買が半ば公然と行われている。特に買い手側は、貴族である事も多いとか。


「おいおい、よく成立するなそんな商売……。」


 ゲームではよく有る設定だが。この世界では奴隷売買は違法だし、何よりそれらが成立し辛い社会的な裏事情もある。

 はっきり言えばこの世界、奴隷に向く様な人材など引き抜き対象になり易い社会構造があるのだ。労働力として有益な人材は、何処の土地でも欲しい。


 戦火が続いているこの世の中、慢性的な人手不足のため親無しの子は周囲の者達が養子にして迎え入れる習慣があり、平民ほど血縁関係を重視しない。

 罪人はあっさり手足を切り落とされるか処刑される傾向にあり、苦役という手段はあまり好まれない。過酷な労働環境に耐えられる人出は引き抜き対象になる。

 当然逃亡奴隷などが存在すれば、皆が匿い家族として迎え入れるだろう。


 呪いの様な強制労働を強要出来る手段は、それこそ暗黒教団以外に存在しない。

 ではどのような状況で奴隷が成立しうるかと言えば。


「――観賞用。拘束具による種族差別、ですか。」


「そういう事です。後は借金による人質等がありますが、労働力として採算を取る気が無ければ、奴隷売買は成立するのです。」


 この場合、扱いは特に酷い。鎖で繋がれるのが当然となるため逃亡も厳しい。

 特にこの世界では《紋章》持ちが王族となる反面、紋章を所持しない異種族達が見下される傾向にあるのだ。

 そしてそこに奴隷売買の成立する余地がある。


「そんな……。」


 まさか聖都の近く、それも大公家の御膝元でそんな事が行われていたと知って、ミレイユ王女が愕然とする。

 実際問題、田舎では稀によく居る他種族の傭兵など、戦力となれば然して人種を気にする者はいない。他者を差別する余裕があるのは都会だからだ。

 この世界、排他的な田舎は盗賊達のカモだと言う点を忘れてはならない。


「そういう訳で、これを機に堂々と奴隷売買を軍隊で叩き潰すのが今回の作戦の筋となる訳だ。序でに奴隷とされた連中も解放したい。

 貴族達に強制捜査なんて、トップが裁かれた直後以外出来ないだろう?」


 捜査に協力しない?おやおや君達本当に帝国側じゃ無いんですかぁ?

 君達のトップみたいに裏切ってませんかぁ?証拠も何も奴隷売買、君達の御膝元で行われていますよねぇ?

 と言った流れを作りたいの、だ、が!


「今回の目玉はマーメイドの姫君という情報があります。

 彼女の救出は特に重要となるでしょう。」


 ふはははは!原作ゲームイベントです!このイベントでマーメイド族が雇用可能になりますが、救出失敗するとそれまでです!

 敵にマーメイド族が現れる様にはなりますが!なりますが!


 で。リアルだといつお姫様が売りに出されるか、誘拐されるタイミングを狙って合わせれる?邪魔すれば良いの?その時ワシおるん?


 とまぁ。物凄く危機感を覚える状況なので、聖都外の諜報部隊の拠点を兼ねつつ秘密裏に網を張り続けていたんですよね。


「マーメイドが?そんな希少種族が一体何故?」


「事情は分かりませんが、どうも最近聖都付近で目撃者が増えていた様です。」


 何か向こうも気になる事があり、調べていたという話だろうか。

 だとしたらこのタイミングで揃ったのは、正史より行動が早まっているアレス達の動きに影響されたと見る方が自然な流れか。ぶっちゃけ他種族の内偵は外見的、体質的な問題でダモクレスでも容易じゃない。


「これ以上は実際に救出してから聞くしか無いと思う。

 事情は各自、理解して貰えたかな?」


「「「はっ!」」」


 市街地の地図は既に用意してある。というかついさっきまで兄上ことアストリア王子が《治世の紋章》で建物の部屋割りや人質の位置を確認していたらしい。

 奴隷売買は夜、闇オークションの目玉の一つという形で行われる。


「ほほぅ。それはそれは、押収品の没収が捗りそうでゲスなぁ?」


「相変わらず好きだねぇ君は。」


 参加者も可能な限り捕らえたいよね!むしろ参加者を中心に捕えたいよね!

 密偵隊の主力はそっち担当でOKかな?


「闇組織の証拠を優先しなくて良いのかい?」


「そっちは明日、軍を乗り込ませてから公然とやりたいかなぁ?」


 観客って言う人質がね?身元確認序でに代官様に許可を得る形にした方が、邪魔をさせ難いかなって。


「ま、待て!代官は悪事を隠すために抵抗するだろう!?」


「ふははは、逮捕者達と代官を引き合わせますよ?

 貴族の顧客を確認抜きに見捨てるだなんて、そんな怪しい真似して捜査を渋る様な代官、聖王家のお姫様に罷免して貰うしかないかなぁ?」


「ちょ!貴殿、姫様をこのために連れて来たのか?!」


「いえそこは流石に。出来ればパトリック王子の手柄にしたいので最後の手段の方が良いです。なのでその前に王女共々代官を説得する場に向かいます。」


(((いや、聖王家に否言える代官とか絶対有り得ないし……。)))

 実際には拒否権すら無い訳かと、一同の心に代官への同情心すら湧く。


「人質救出は敵の脱出路から潜入する、俺達が担当する形になるかな。」


 人質の解放には数を連れ込めない。密偵隊は伏兵として周囲に集めて退路を塞ぐ形になるので、捕縛側は物量で対応出来る。

 少数で敵を圧倒出来る武力は人質側にこそ必要だ。


「じゃあ配置が決まったところで、この後は全員食事を取って夜の襲撃に備えての仮眠としよう。

 何か質問は?」


「あ。アレスは三人で一部屋かな?」


「ジルロックさん?!」

「「そうですね。何もないから問題はありませんね。」」


「男の自制心を試さないで下さりませんか?!」


「ご心配無く。ベット三つの部屋は用意してあります。」


 畜生!嬉々としてオレを追い詰める奴等しか居やがらねぇ!

※成人の日休みによる三日連続投稿、初日です。


「あの、お二人は何処まで進んでいるんですか!」

「いえ全く。」

「え。」

「全ては聖王家の後ろ盾を得て婚約を発表する方が先だという話だったので。」

「祖国が敵国なので、公的な立場は王子の後ろ盾以外には無いに等しいので。」

「ひ、人目を忍んでなら……?」

「会話と婚約指輪以外は特に何も。

 あの方意外と清い交際が好きな方に見えてましたし。」

「そ、その流れで私との婚約に……?」

「直前に王子が何らかの隠し事をしていると判明してます。」

「わ、私はあなたの味方しますからね!」


(清い交際は今しか出来ない清い交際は今しか出来ない清い交際は今しか……。

 ふ。流石に二人揃って抜ける時間は作れんなぁ(吐血。)

「人数増えるより仕事増える速度の方が早く無いですか?」

「聖王家と合流するまでの辛抱だはよ手を動かせ。」



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