63.第十五章 帝国は悪逆不正大国です。
主人公目線になりましょう。
きっとワインが上手い筈ですw
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イタズラ大成功の内心で、アレス王子は能面の様な無表情を貫く。
「何かおかしいかな?
敵軍に味方の密偵を潜り込ますのは常套手段だと思ってましたが。」
「待てやクソ餓鬼ィ!流石に二割は多過ぎるわ!
説明抜きには見逃せんぞっ!!」
最初にテーブルに足を載せたのは東央イストリア王だ。伊達に礼儀作法君が早退する義勇軍に所属していた訳では無い。
空かさずヴェルーゼ皇女が小声で指摘し、慌てて聖王家の二人に謝罪した。
「ふむ。そもそも我がダモクレスが伊達に世界一の海軍国家を自称している訳では無いのは皆様もご理解頂けてると思いますが、同時に我がダモクレスは小国です。
そしてこれは今迄各国の皆様が海軍に力を入れていないからこそ可能な話だ、というのは疑う必要の無い事実でもあります。
ですがそれ故に、数年で大小数百隻の船を揃えるのはダモクレスの国力では到底不可能な話です。」
「本当かね?それは本当に本当かね?
俺はそろそろダモクレスが小国という言葉に多大な疑問を抱いているぞ?」
北部レギル王子、冷静に。説明しますので冷静に。
「そもそも材料と造船場が用意出来ませんよ。
なので発想を変えました。
帝国の国力で造った船舶を造船所、商会ごと乗っ取れば良いのでは?と。」
「「「オイ待てェッ!!お前今何つったッ?!」」」
あ、むせ返る人と腰を浮かした人とに分かれたか。
「帝国の様子を探るのに、商会ほど適した存在は無いのでは?
というか実際適してました。我がダモクレスは帝国で商売しながら販路を広げ、帝国領内での交易路を開拓。帝国で得た商品を他国に輸出して資金を増やし続けております。義勇軍の武器の一部は帝国産ですよ?」
「お、おま!お前は何を言っている?!」
ネタ晴らしたのしいです。
「勿論ダモクレスを経由して販売する武器は相場通りの価格ですが、これは帝国内の武器生産量を圧迫出来る良い手ですよ?質の良い武器は義勇軍に流し、悪い武器は品不足を理由に帝国内で高額で捌きます。戦中なので、違和感が無い。
ワタクシ、とても儲けました。船が沢山必要です。ええトテモ、とても。」
青褪める者、口元を抑える者、実に様々な反応だ。
狡猾で性悪に慣れた筈の腹黒諸侯達を右往左往させるのは実に楽しい。
「ですが戦中の帝国で大量の船舶を使う許可は帝国軍にしかおりません。
なので我がダモクレスは、商人として帝国軍の輸送部隊を担いました。」
「「「ちょっ?!お前義勇軍だろ?!」」」
「勿論です。ですので帝国軍には買い取った商品の三分の二しか届けてません。
序でに言うと常に相場の二割上乗せした額で届けております。ピンハネです。
また儲けました。不満は賄賂で黙らせてます。」
そこら中から咳払いが聞こえる。深呼吸と過呼吸の音が響く。
とてもたのちぃ。
「知ってました?今帝国軍ではノルマを熟せないと処罰されるんです。品不足の中で彼ら帝国商人はどうやってノルマを達成しているのか?
そう、賄賂です!証人を抱き込むのです!帝国では、横流しが横行しています!
だから三分の二でも敵に妨害される事無く、確実に前線へ届ける我がダモクレス所属商会は優秀なのです!権限も実に増えました!
そう、我々ダモクレスがガメた三分の一は正当な商売で、正当な価格で義勇軍と反帝国諸国に卸し続けているのです!
帝国の金で、帝国の労力で!帝国の船舶から義勇軍の船舶に積み直して!」
「ま、待て!ならば何故その輜重で金を取る!
金を取らねばもっと聖王国は楽に戦えた筈であろう!」
「大公殿は王家に寄付したのですか?」
「わ、儂は余裕が無い!!」
くけけけ、キレがありませんなぁ。
「大公殿は商売を苦手としている様ですな。
値上がりさせているのですから輜重を集められなくなっては本末転倒です。
それに捨て値で輜重をばら撒けば現地の農家は農作物が売れず、破産してしまいます。破産した農家を借金漬けにしたり追い出して自分の手の物で埋める。
これは地上げに使われる常套手段ですぞ?私は聖王国を破産させる気など、一切御座いません。まさか、本当はそのお積りで?」
「そ、そんな訳あるか!言い掛かりも甚だしい!」
「ははは、冗談です。大公殿にも商業という苦手分野があって安心しました。
万能な人などいない。ええ、当然の事ですとも!」
絶好調である。最高である。
「帝国領内では今、不正をせずには生きられない程物価が上昇しております。
我がダモクレス所属商会は帝国から強制徴収する権限も与えられる程の信頼を、配達の成功率と賄賂で勝ち取っておりますのでね。
問題無く物資を揃えられます。商会もドンドン乗っ取り傘下を増やしました。」
「ま、待て……!待て……。それは、それは外道過ぎるだろう……。」
おや裏切者さん。君が言うのかい?まだ黙ってるけど。
「何をおっしゃる?敵国の財布を締め上げて何が悪いのですか?
我々は義勇軍であり今は聖戦軍。帝国の敵ですぞ?」
ちょっと口元が無表情貫けなくなって来たぞィ。緩む緩む。
「な、なあアレス王子?君は帝国民を、虐げる側に回って無いか?」
「他の連中は殆ど野盗同然の商会や徴収隊が溢れていますぞ?
我々は徴収率こそ過酷ですが、栽培元の安全は全力で確保してます。事実支払いが滞った町や村が挙って傘下に入りたがる程ですぞ?
それに一流の職人や農民達は、ね?亡命、という手もありまして。
ダモクレスは優れた産業従事者であれば、難民でも差別しませんぞ?むしろ技術がある方々は積極的に受け入れております。」
「お、お前はマッチポンプという言葉を知らんのか……!」
「良き言葉です。とてもお世話になっております。」
あ、カトブレス公が決壊した。はい陥落者一人追加ー。
「お、お前、絶対帝国に情報を横流ししてるだろう……!」
「ええ。ベンガーナは今食料が不足気味であり、野戦を挑むしかないと。」
あ、ゲラゲラ爆笑し出したよブラキオン公。もう隠す気も無くなったね。
流言ってこういう時に流すもんだよね。親指立てて頷き合いました。
「あ。今回海上封鎖で拿捕した分と、封鎖直前にダモクレスが帝国で買い込んだ食料は全て。ええ、先日カトブレス公にも護衛を手伝って頂きましたが。
あの時にガッツリ運び込ませて頂きました。三分の三を。
しょうがありません、流石にダモクレス軍を突破する手段は、我が帝国所属軍船にはありませんから。ええ、全額聖戦軍の懐に入りました。
お腹一杯。」
全員陥落。
「あ、アレか……!あの輜重、聖都行きの軍糧だったのか……!」
「ヒドイ……!本当に酷過ぎる……!!」
「全く。帝国はどうして不正を放置するんだろうね?
真っ当な国家運営がどれほど大事か、分かっていないよ。」
「「「や、止めろ……!ほ、本当に止めろ…………ッ!!」」」
流石に全員が椅子に座れなくなって来たのでそろそろ止める。
いやぁ、正しい政治の大切さ、皆分かったかな?
「……アレス王子、楽しみ過ぎです……。」
ヴェルーゼ皇女が眼だけテーブルの上に出して、恨みがましい目で睨みます。
わぃ、きゅんと来た。涙目が実に可愛らしい。
これは他の男に見せられませんよ。
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仕切り直したものの流れは変わらず。というかむしろ確定し。
ほぼほぼ最終決定となって軍議は解散した。
与えられた一室に戻ったグラッキー公爵は荒れに荒れていた。
まさか聖王国の英雄に腹黒さで負けるとは思わなかった。というか本当に好き放題やり過ぎだ。アレは稀代の悪党だろうと頭を抱える。
「くそ!あの男は帝国の情報をどこまで握っている?!」
いやまさか、最初から知っていたから自分を悪役に仕立て上げたのかと疑うが、実に有り得そうとしか言えない悪童振りだ。
その癖不正に厳しい態度なのが実に納得いかないが、奴が不正を得意とするなら心から納得出来てしまう。何だあの不可解矛盾生命体。
(くそ!どうやって帝国に勝たせる?これで本当に帝国に勝てるのか?
そもそもどんな情報を流せば寝返った時の対価になる?)
帝国の経済に商人を通じてダモクレス王国が介入している?そんな馬鹿な。
というか確認する手段も無い上に欺瞞工作にしか聞こえない。下手したら聖王国と裏取引した可能性を疑われそうだ。いや、信じないか。
後詰が総大将というのは実に普通の事だ。今回会議で話し合った内容は、戦場で相まみえれば直ぐに分かる。というか布陣した段階で分かる。
ゴミの様な価値だ。自分が聞いたら絶対無能としか思わない。
『このタイミングで発表するのも何だが、アレス王子には監視の目を付ける。
正式な発表は聖都奪還の折になるが、彼には我が妹ミレイユを嫁がせる。』
『え?殿下今監視の目って言いました?』
会議終盤の会話が脳裏を過る。アレもまた凄まじく腹立たしい。
思い出した瞬間に長椅子を蹴り飛ばしてしまう程に。
『お、お待ち下さいリシャール殿下!どういう事ですか?!
ミレイユ王女には我が息子との婚約を打診していた筈です!』
『いや流石にアレス王子に勝てる功績じゃ無いだろう?
聖王国はアレス王子がダモクレス王に即位する後ろ盾となる。この際ヴェルーゼ皇女を正妻として迎え入れ、ミレイユが側室になる。』
『聖王国王女が側室ですと?!ミレイユ王女が哀れ過ぎます!!』
『いや、ミレイユはアレス王子びいきだから。側室はダモクレスに嫁ぐ際に聖王家の継承権を放棄するためだ。妹が一番乗り気だぞ?
だからヴェルーゼ皇女以外に正妻に成り得る家格の者がおらん。』
『監視の目って言ったでしょおッ?!』
『いや、監視の目はミレイユの侍従回りの方。』
『ダモクレスは有能な人材をいつでも募集しております。』
『あ、私アストリアがハーネル王になる後ろ盾も聖王家です。
私がハーネルに即位し、アレスに玉座を譲るという手順の予定です。』
『殿下?!軍議の片手間で発表する事では有りませんぞッ?!』
『いや。実際この件で勝利した後、我が国にミレイユ以上の褒美が出せるか?
論功行賞の際には、アレス王子にも聖王国側に立って貰う予定でな?』
『『『止むを得ませんな。改めておめでとう御座います。』』』
何だあの軽いノリ。内々の話に全然なってない。
ふざけているにも程があるが、聖王家とダモクレスの間に楔を打ち込むのはあの仲の良さを見れば現実的とも思えない。
三公揃って介入するならともかく、他の二人は間違いなくアレス王子側だ。
「あらあら、随分な荒れ様ですこと。」
「何者だ?!一体どうやってここまで?!」
窓の方から聞こえた声に振り向けば、そこには妖艶な黒いローブ姿の女がいた。
俯きがちの顔はフードに隠れていたが、かなり整った顔立ちなのは一目で伝わる美貌の持ち主であり、彼女が握る《錫杖》に気付いてはっと息を呑む。
「あなたの方から連絡があったと思いましたけど勘違いだったでしょうか?
私の素性ならこの《闇の錫杖》以上の物は無いと思いますけど。」
「っ?!い、いや。間違いない。貴様、闇司祭であったか。」
彼女の素性を踏まえればどうやって来たかなど問題ではない。騒ぎ立てて困るのはグラッキーの方だ。いや、寧ろ向こうから来たのは有難いとすら言える。
「帝国は既に出陣を決めました。そちらの猶予もそうありませんよ?」
「分かっている!だがアレス王子は聖都に密偵を潜り込ませている!
どの程度情報が洩れているか分からん!」
はぁ、と色気のある溜め息で小首を傾げて鈴の転がる様な声で下らない、と呟く一言が耳に残り。
「その密偵の情報は、決戦に間に合いますの?
あなたが今更帝国にどんな情報を漏らしたところで意味は無い。
先ずは発想を変えてみては?あなたがこれから何をするか、何が出来るかを私は問うているのです。」
『なので発想を変えました。』
「はっ!」
不意にさっきの軍議中の言葉が脳裏を過る。
そうだ、発想だ。グラッキーだけで裏切るから駄目なのだ。三公だけと手を組む事を考えるから駄目なのだ。
要は、戦況を変え得る働きをすれば良いのだ。
「そう言えば少し前、義勇軍で大失態を犯した愚か者がいた筈だ。」
「東南候のお二人ですわね。首尾良く運んだら、必ず伝令をお出しなさい。」
あぁ、と頷く事は出来なかった。
顔を上げた時には既に、女の姿はどこにも見当たらなかった。
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ベンガーナ城塞は、大堀の内側を巨大な城壁が囲み内側に城下町を収納している二重構造だ。城下町の内側に、内壁に囲まれた中央城塞がある。
今や各国諸侯がひしめく中央城塞は十万以上の兵を駐屯出来る巨大建築物だが、当然ながらその大部分は兵舎であり、一部屋十人単位で寝る兵士用の中部屋が大半を占める。十人単位なのは数を数えるのが楽だからだ。
これが事務方や伝令の手間を減らす上で、案外馬鹿にならない。
数が多い程兵士達と大部屋を必要とする領主、城主達を近くに配置するのは難しくなるのだが。ベンガーナでは千人単位で駐屯出来る塔を繋げて城壁同然に並べ、三重に囲んだ上で最上階の下を一体化させた。
これにより城塞外周の諸侯が交流と移動がし易くなる半面。防衛機能を確保するために城塞は、回の字の如く更に内側に柱の如き天守を必要とした。
従者護衛を控えさせた大部屋が四隅に区切られ、それぞれが大将格の為の一室。
中層には社交用のダンスホールや会議室が並び、交流の場も用意されている。
その上に聖王家と領主ベンガーナ伯爵家が寛ぐ私室階層が二つ。伯爵家が最上階になるのは空からの奇襲に備え、聖王家の安全を確保するためだ。
だが今は当主が成人前の幼子しかおらず、聖王家が守護する側となっている。
上層階は三階あり、彼らの下は客間階となっている。
何が言いたいかと言えば、今客間階に控えているのはダモクレス王家であり事実上の城塞の主である聖王家に接触するには彼らを無視出来ない間取りという事だ。
実は頻繁にミレイユ王女がアレスの部屋を訪れている事など、中層よりも下の諸侯達は知る由も無い。
聖王家全員が割と部屋を持て余し気味なダモクレスの階に来てる。知らない。
というか皇女の為に、聖王家が侍女と護衛を追加した。待てよ。
知らなければ聖王家はダモクレスの傀儡に見える。それだけだ。
カラード東南候は中央天守に一室を用意される大諸侯側でありながら、今や積極的に交流を持とうとする者はいない。
それは先日自国兵の凡そ半数を死傷させた、モルドバル城塞の一件が原因だ。
国力は中堅国の下に落ち込み、愚将の烙印を押され。しかしドールドーラの戦で辛うじて体面を保つ事は出来る様になった。指示を無視したアレス王子のお陰で。
要は敵意の対象外。障害では無く、やんちゃな子供。
結局のところ、自分は張り合えるような器では無かったのだ。
「所詮儂は、誰かに使われるだけの男だったという事か。」
『悪い事は言わぬ。このまま貴殿が聖戦軍に属していても、ただ没落していくだけで終わる。その事実は、貴殿が一番理解しているだろう?』
月明かりだけを頼りに酒杯を仰ぎながら、カラード候は先日の密談を思い出す。
聖王国三大公。強欲公という悪評を好んで使う、国土面積では若干劣るが実質的な独立国であるカラード侯国とは事実上の、同格である筈の男。
奴が恩を売る様な態度で向けていた見下す様な眼差しに気付かぬほど、愚鈍だと思われるとは思わなかった。いや、もうその程度だと思われたのか。
カラード東南候は彼に誘われるがままにマンダレイ東南候と渡りを付けた。
無論それらは帝国と内通して、決戦の前日に帝国側へ移動して布陣するためだ。
開戦中に効果的に裏切れないのなら、開戦前に裏切って物量で帝国に貢献しようという単純な作戦。だが実現すれば効果的だろう。
何せ五分であった聖戦軍十二万の内、三万以上が帝国軍の戦力として加算される事になる。帝国軍十二万として十五万対九万。質は恐らく同格が精々。
避難方向は帝国寄りの央北側。南側に布陣すれば帝国と聖戦軍双方に挟まれ磨り潰されるので、まあ妥当な選択か。
理想も未来も関係無く、只の私欲。何ともまあ、惨めな話か。
「慢心すれば身を亡ぼす。身に染みるよ、アレス王子。」
呟きを聞く者は誰もいない。護衛など今は傍に置きたいとも思わない。
月明かりを頼りに、再び酒杯を仰ぐ。
戦争で正面から殴り合う奴は馬鹿だよ?をゲーム世界で実践する主人公ですw
地に足を付けているのでマンチキンとは違いますが、質の悪さはこっちの方が上でしょうwだってメタ知識頼みじゃなくて現地の法や経済に適合してるんだぜ?
尚、ここまでバラしてる理由は帝国派への離間工作を兼ねてるからです。
アレス王子は正しく聖王国の軍師やってますwホラ今裏切り者がいるから漏らす内容も厳選しないとw
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