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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第三部 聖都奪還前婚約闘争
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62.第十五章 謀略暗闘軍議

※本日クリスマス投稿です。昨日のイブ投稿と合わせ、二日連続投稿してます。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 事務方の派遣は殆どの諸侯が行ったが、軍議室に残ったのは半数に止まった。

 小諸侯達が当たり前に戦功を諦めたのも奇異な光景だったが、会議の参加人数は一応適正値の範囲内と言えるだろう。


「さて。義勇軍ではお馴染みの方式ですが、聖戦軍でも同様に叩き台用の基本戦略までは私アレスが提案させて頂きます。

 皆様には忌憚の無い意見を、と言いたいところですが。」


 ピクリ、と全員に緊張感が走る。


「流石に義勇軍名物であった『礼儀作法君は早退しました』は今後、廃止とさせて頂きます。「おい待て。」何せ次期聖王陛下の御前なので。

 もう一度言いますが、次期聖王陛下の御前なので。礼儀作法だけは忘れない様に念押しでお願いいたします。」


 カトブレス公が一瞬白目を剥きながら突っ込むが、敢えてスルーした。

 義勇軍諸侯は少し、いや割と不満気だ。皆結構気に入ってたらしい。いやでも、流石に聖王家の会議で乱闘は駄目だよ。いくら殿下が笑いを堪えててもさ。


「それでは先ず、聖王国の全体図をご確認下さい。」


「「「おいちょっと待て。」」」


 三大公揃い踏みで物言いが入った。

 何だろう。一応概略図というか、遠景図止まりに控えたのだが。


「……その、何じゃ?この、やたら芸術的に細かい風景画は?」


「私が描いた聖王国領の全体図です。

 地形が分かり易いので、これを元に戦略を説明しようと思うのですが。」


 鳥瞰図の技法をある程度取り入れつつ、なるべく距離が等しくなるよう細部に気を使ったテーブルクロス大の大作だ。

 立体感も臨場感も中々上手く表現出来たという自信がある。


「今回のはまた、大作ですなぁ……。」

「これはモルドバル城塞から見た光景ですな?視点はもっと高い位置ですが。」

「ほぉ……。まるで鳥が地上を見下ろしたかの様だ。よく描けている。」


 基本方針を説明すると、先ず第一に、籠城戦は却下だ。


 理由は単純、三大公だけで八万の軍隊で長期戦を行うと兵糧が問題になる。

 それに大軍の利も生かせない。包囲だけなら帝国は五万あれば十分で、その場合一部の軍が三大公の領土を侵略する余裕が出来てしまう。

 こうなれば将来的な瓦解は確実だろう。と、いうのが表向きの口実。


 裏の理由としては、ゲームでグラッキー公爵は帝国側で暗躍しており、実際ある程度の裏付けと、今は帝国軍に雇われている傭兵団〔鮮血魔狼団〕を養っていたという状況証拠がある。

 今問い質しても無駄なので、籠城は内通により確実に失敗するのだ。


「我々は2の1、ベンガーナ付近で布陣し帝国軍を待ち構える方針になります。」


 凹型で例えられる聖王国を九マスで雑に分割し、左上から呼び分ける方針だ。

 大体一マス強行軍で一日か。まあ大軍なので数日だろう。


 11カトブレス領、12教会総本山、13グラッキー領。

 21ベンガーナ城塞、22平原、23聖都。

 31ブラキオン領、32モルドバル城塞、33森ドールドーラ側山地となる。


「城塞に逃げ込めぬよう、帝国は22に布陣するのでは無いかね?

 そもそも帝国が挑発に応じる保証も無いのに、何故短期決戦が出来ると思う。

 聖都に圧力を掛けねば睨み合いになるのでは無いか?」


「その辺はご心配無く。既にダモクレス海軍が北の海を閉鎖しております。

 陸路では西はクラウゼン、東はハウレスとドールドーラが解放済み。モルドバル城塞に兵を置いていない帝国は国外から兵糧を確保出来ません。」




 ()()()で黒煙が上がる。数で劣る帝国軍船が、ダモクレスの大型船から放たれた小型船舶の群れに囲まれ、壊滅した証だ。


「拿捕した船の兵糧は全て回収しろ。

 初回はベンガーナ城塞に届けろとのお達しだ。」


 浅黒い肌の巨漢が黒髪を潮風に晒し、堂々と勝利を宣言する。

 海商王ドルゴン。

 ここ数年で世界中に販路を伸ばした海竜商会の総帥であり、ダモクレス海軍の頂点に君臨するアレスの腹心の一人だ。




「更に今、別動隊が23~33境界付近にある帝国の食糧庫として使われている砦を襲撃しております。

 食料を奪取したら砦を放棄する様に伝えていますが、彼らも義勇軍の精鋭部隊。

 まして今は帝国が兵糧を運び出すために兵を分散させているので、負ける要素は無いと思いますよ?」




「ば、馬鹿な……。我が鉄骨騎士団が、同数相手に負けるというのか……。」


 十万の進軍を支える輜重隊を支えるのは容易ではない。聖都には元々各地に国内の治安を守るために数多の砦が築かれていたが、それらは同時に聖都への輜重隊を守るための中継地点でもあった。

 その中で一部の砦は集積地としても機能しており、以前はこの倉庫砦の存在が聖王国内で迅速な進軍を可能としていた。


 今回は各地の砦がフル活用されており、更に義勇軍の動向が掴めなかったなどの条件が重なり戦略的な重要度が増大。鉄骨騎士団は約二千という遊撃隊としては有り得ない兵数を揃え、単独で砦の奪還すら視野に入れた精鋭部隊の一つだった。


「いや、実際アンタらは強かったよ。この砦に居た連中とは大違いだ。

 まさか今回の任務で俺達と同じ魔騎士限定部隊と遭遇するなんてな。」


 〔北部最強〕スカサハ。かつては揶揄交じりで呼ばれた北部も今や義勇軍の中核として活動する事で、既に他の地方と五分の扱いを受けるまでに成長していた。


「お、おのれぇぇぇっ!!!」


 ブラウン子爵が裂帛の勢いで全体重を切っ先に込めて、踏み込みと同時に突進の様な抉り突きを繰り出す。

 『必殺・抉り突き』。彼の一族が必殺と伝える渾身の牙は、狙い澄まして重ねられた剣身によって掬い上げる様に弾かれ、同時に懐へ滑り込まれる。


「だが甘い。」


 『必殺』の一閃が子爵の首を空へ跳ね上げる。それがこの戦場の決着の瞬間だ。


「急げよ。折角の一撃離脱、何度も追討されるなんて只の恥だぜ?」




「帝国はただでさえ敗戦続き。十万越えの軍を維持するため、士気を保つため。

 準備が出来次第、出陣せざるを得ないという訳です。」


「な、何故そのような独断を!」


「これは異な事を。北海の閉鎖と食糧庫襲撃は解散前の作戦です。

 三大公より先に帝国軍が動き出さぬための、牽制も兼ねていたのですよ?」


(ふむ。流石に不味いの、翻弄され過ぎておる。強欲任せでは荷が重いか。)

「それで?我々に告げられていない事前作戦はもう無いのかね?」


「ええ。事前準備は今ので全部です。」

 おっと程々にしておけと来ましたか。いい塩梅で口を挟むなぁ。


「戦略的には短期決戦ですが、布陣自体は待ちの姿勢です。


 縦に北軍、央軍、南軍で並べ、前後二列に後詰の計七軍。

 但し横一列では無く、曲線。南軍を少し突出させます。」


 流石にこの段階で口を挟もうとする者はいない。先程散々グラッキー公が途中で遮って失敗した後だ。義勇軍に限らず、二の轍を踏む程三大公も甘くない。


「基本戦術は正面を北軍と南軍で衝突し、若干前に突出した南軍が横から挟み込む方向で行きたいと思います。

 正面を塞ぎ北の山地へ押し込み、しの字に囲む形へ持ち込む方針です。」



 前列に。北グラッキー公三万、央カトブレス公二万、南ブラキオン公三万。

 ここに現在も参陣中の総数不明な聖王国諸侯軍が加わる。現在は三千程度だが、全て中央のカトブレス公の指揮下に入って貰う予定だ。

 彼らは質より数重視なので、大きく動かない配置の方が良い。



 後列に。北旧義勇軍一万五千、央クラウゼン一万、南ドールドーラ五千。

 全部隊が頃合いを見ての右側もとい南側、前列の間隙を埋める形での突撃狙い。

 戦況を決めるための軍勢であると同時に、不測の事態に対応するための軍だ。


 尚、クラウゼンの機動力は南央どちらも援護出来る。

 ドールドーラの聖天馬騎兵団は味方を飛び越えての強襲も可能なため、苦戦するどの部隊の援護もし易い配置となっている。

 旧義勇軍が一纏めなのは決戦戦力であり、時に部隊を分けて他に回し易い、臨機応変な対応をする、戦況を下支えするための戦力となるからだ。



 後詰。聖王国近衛、ベンガーナ合同軍計五千。

 こちらは基本予備兵、不測の事態の即応部隊であり本陣だ。

 出来れば戦う機会等無いまま終わって欲しい、伝令を伝えるための中枢部隊。



 一通りの説明を終えた後の諸侯の反応はまちまちだが、答えは一律で沈黙。

 今迄の口論が意外な程に、全員が思考の海に沈んで口を開かなかった。


(……手堅いな。大軍の用兵としては驚く程に堅実で手堅い。

 敵にもこちらの意図が伝わり易い分、味方の動きも実に明快だ。対処し易い。)


 これは奇策頼みの小僧という印象は改めねばなるまい。無論自分が指揮官ならという配置はあるが、この全体像を崩す程の名案とは決して言えまい。


(厄介だねぇ。三大公全ての造反を抑止しつつ、それでいて妥当な配置だ。

 儂等に配慮されていない、活躍の機会が奪われているとは絶対に言えないよ。)


 むしろ動きの鈍い大軍の運用としては適切な配置だ。長く耐え続けるだけで良いというのも悪くない。欲張らなければ本当に勝てると思わせる布陣だ。

 それでいて決戦戦力は自分達が固めている。実に厄介で隙が無い。


(ば、馬鹿な!これでは迂闊に動けん!いや、下手に動けば文字通り全滅する!

 いや、裏切らなかった方が生き残る公算が高いでは無いか!これでは戦後に帝国との繋がりが発覚した時、致命的な結果しかもたらさん!これは絶対に不味い!)


 義勇軍が突撃した際に横合いから殴るか、中核へ突撃するか。否だ。義勇軍全軍が後ろから移動する筈も無い。

 単に開戦と同時に北へ移動し義勇軍への道を空けるか。否だ。序盤が一番警戒されている。義勇軍が北を塞ぎにかかれば単に裏切りが際立つだけに過ぎない。

 帝国側、山沿いに逃げる。否だ。これは帝国軍諸共北へ押し込める布陣だ。逆に帝国軍の動きを制限し、敗因になりかねない。



「では私から。アレス王子は、これを見た敵軍はどの様に布陣するとお思いで?」


「全軍で南に兵を差し向ける事は出来ないと思っています。

 ドールドーラの聖天馬騎士団は最も後方を突き易い騎士団です。聖都への道を塞ぎながら包囲戦術に持ち込めば、動揺は必須かと。」


 最初に口を開いたのは北部コラルド王。それはそうだと頷きながら、具体的にはどう配置するかを答えなかったのは、諸侯に考えさせる心算だと察する。

 それは義勇軍諸侯も同じだった。戦力的に貢献出来ない諸侯達にしてみればこれは貢献の好機だ、採用もしくは予想が当たれば当然皆の印象に残る。


 結果。帝国の布陣は概ね南に戦力を集結させる鏡合わせの布陣か、中央に戦力を集結させた中央突破だろうという結論に至った。

 北側、山側に戦力を集結させるのは帝国視点でもデメリットが大きいという判断となったのだ。これに慌てたのはグラッキー公だ。


 何せ負担が大きいと抗議が出来なくなった。カトブレス公とブラキオン公を入れ替えるべきではという意見が出るくらい中央側の負担が大きく北側の負担が少ないというのが全体の意見だ。グラッキーは余計な動きさえしなければ、損は無い。

 ()()、余計な動きをしていなければ。


「……アレス王子は、どうやってこれで敵総大将の首を上げる心算かね?

 これでは敵総大将ダンタリオンを討つ事は難しいのではないか?」


 我ながら苦しくはあったが、何も言わずに後で事が発覚するよりマシだ。しかしアレス王子は、ええと肯定する様に頷いた。


「正直言って私は、初日で劇的に戦況が傾かない可能性も考えています。

 場合によっては無理に動かず、三日、四日と同じ布陣での戦闘が続くかも。

 ですので私は、今回の戦略目標を敵総大将の討伐では無く、帝国軍将兵の消耗、大局的勝利に据えたいと思います。

 はっきり言えば、敗走させた後ならダンタリオン皇太子は聖都に籠城させて構わない。聖都を包囲出来るなら、帝国軍は本土の増援抜きに戦局を覆せない。

 皇太子の首は、五分の戦場では無く六分七分に傾いてからで良い。

 それがこの戦いの基本方針です。」


「……とことん堅実な戦術よのう。焦る必要があるのは帝国軍ばかり、か。」


「成程のう。最初の兵糧庫襲撃も、海岸閉鎖も、此処で効いてくる訳かい。

 儂らの意見を聞く必要の無い段階で動き始めるのも、これは納得じゃわい。」


 帝国軍が時間を稼ごうとすればするほど、真綿で己の首が締まっていく。

 無理をするには誰が動くべきか。当然、皇太子だ。


((これは勝ち馬かのう?油断は禁物じゃが、勝てる要因は揃っておるわ、))


「ま、待て!そもそも何故義勇軍、いやダモクレス軍は帝国海軍を封鎖出来る?!

 ダモクレスは帝国海軍の戦力を正確に把握しているとでも言う気か?そんな事が帝国と内通せずに出来る筈が無い!違うか?!」


 焦りが強引な論調となって現れ、思わず言い過ぎたと口を噤むが。


 何故か旧義勇軍の諸侯は一斉に顔を反らした。


「ああ。そう言えば今迄は一応気付いた方々にも口止めをお願いしてましたな。

 実は帝国海軍の二割は、ダモクレスの()()()()あります。」




 アレス、アストリア王子以外の全員が一斉に噴き出した。

※本日クリスマス投稿です。昨日のイブ投稿と合わせ、二日連続投稿してます。


 詳しくは次回wwww


 一応補足するとリアルの新兵がLV1相当なので、ハイクラスなら丸一日無休憩で歩き続ける事が可能という程度の話です。

 ゲーム中戦場の移動は多分時々ダッシュか速足前提w

 異世界乗騎なので、騎兵はリアルの車と同程度の進軍速度をイメージしてます。

 流石に一日で一マスは騎兵軍以外は非現実的という判断。万単位で歩兵無しとか無いわとw


 あと彼は本編初登場w多分間章でしか登場して無かったよね?



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