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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第三部 聖都奪還前婚約闘争
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61.第十五章 聖戦始動会議

※本日イブ投稿です。明日のクリスマスと合わせ、二日連続投稿予定です。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 三大公が全て出陣し、帝国と全面対決の姿勢を取る。


 聖王国が中央方面軍と正面対決が出来る戦力を揃えた事を意味するその報告は、聖都ジュワユーズに駐屯する帝国軍に少なからぬ衝撃を与えた。


 一方で方面軍中枢はその一報に対し、驚く程の平静さを以って応じていた。

 何故なら彼ら中央方面軍にとっては正面対決こそ待ち望んだ形であり。

 今迄の義勇軍が繰り広げた雲を掴む様な神出鬼没の戦い振りこそ、帝国軍が最も苦手としていた戦術であったからだ。


 正面対決なら負けはしない。

 その自負が、聖都ジュワユーズの周囲に布陣する方面軍一般兵にも伝わる。

 故に、士気の上で帝国軍に動揺は無い。

 ある意味士気が浮ついているのは、連合軍である聖王国軍の方であった――。



 城塞都市ベンガーナ。

 遂に全ての三大公が集結したと街の人間が興奮に冷めやらぬ中、殆ど同時に到着したブラキオン大公軍とグラッキー大公軍、両者三万ずつが入城した。

 ベンガーナは元々が大軍の駐屯を想定した大都市であり、兵舎が不足するという事は有り得ない。何より元々三大公用の一角が用意されており、むしろ優遇されてすらいたのだが。


 当のグラッキー公爵は露骨に態度に出すくらい不満を露わにしていた。

 それは彼が想定していた様な出迎えが無かったからだ。厳密に言えば出迎え自体はあったが聖王家によるものでは無かった、というのが正しい。


『申し訳ありませんが、聖王家の方々は今他の王家の方々と対談中です。

 明日三大公の皆様全員での対面を予定してますので、それまでお待ち下さい。』


『それは三大公だけで聖王家の方々と対面させて貰えるという意味かい?』


『いいや。いつ帝国軍が来てもおかしくないという状況下なのでな。

 当日はそのまま軍議を始めたいとの事で、負担を減らすために私とアレス王子がその場に控える予定だ。不服かな?ブラキオン公爵。』


『まさか、王国最強の守護騎士様を疑うなんてとんでもないさね。

 儂は勿論歓迎するよ?』


「くそっ、あのババアめ!儂一人で聖王家と対面させないためにわざわざあの場で口を挟みおった!」


 個別に対面すればグラッキーの窮状を訴える事が出来る。だが全員で対面すれば他の三大公が口を挟める。十中八九その場で反対されるだろう。

 会議の前に本格的な議論は出来ないし、会議の場で再度提案しても同じ提案を繰り返した事になり単に自領の都合だけで話している扱いにされるだろう。

 そうなれば棄却は確実だ。最初から会議の場で持ち出すしかない。


(だがどうにかして短期決戦を挑ませねば、グラッキーに未来は無い。

 おのれアレス王子め、本当に舐めた真似をしてくれる!)




「……なるほど。そういう流れであればグラッキー公が大人しかったのも頷ける。

 正直、三大公は本来入城時に揃って出迎えるべき相手ではあったが。

 貴殿はどの程度協力的だと予想している?」


 守護騎士エルゼラント卿は王国最高の騎士として名高い近衛騎士団長だ。

 ゲームでは聖王国で第三王子パトリック殿下と共に義勇軍入りするユニットなのだが、元々が聖王家の護衛であり切り札的存在でもある。

 更に特殊クラスのパラディン部隊を率い、【奥義・天動剣】を操る唯一の存在。

 正に聖騎士の名に相応しい、終盤まで活躍出来るユニットの一人なのだ。


 因みに先王と共に参戦したのに、三大公がほぼ代理しか参加しなかった所為で彼らの統括指揮に負われ、王の護衛が出来なかったという後悔に苛まれている。

 正直嫡子が二人いる現状で義勇軍入りするかは判らないが、先日のアレス婚姻騒動の時にも扉の前で控えており、後で事情を知らされている。

 聖王家側からの要望で、王家が動けない間は彼を聖王家の代理として会議に参加させて欲しいと頼まれている程に、全幅の信頼を置かれている。


「先ず間違いなく全面的な協力は無いでしょう。主導権争いを如何に制するかで、今後の方針が左右されると思います。

 はっきり言えば、彼らは帝国が信用出来ないからこの場にいるのかと。」


 尚魅力8。大抵の魅力8はアレスより見劣りするのに、この人全く見劣りしていないレベルの超イケメン。多分性格で堅物分の-補正がかかってる。へけ。


「そうか……。嘆かわしい事だが、私にはこの手の策謀に疎い。

 君に期待するしかないのが歯痒いよ。」


 訂正。まさか堅物補正じゃなくて、生真面目タイプ?


「ご心配無く。なぁに、未だジャンケンが始まっていないと思っている方々相手に私は負けませんよ。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 会議室の間には既に百名近い各地の諸侯達が集まっていた。

 会議の間には従者又は副官一人のみを伴うという決まりであったため、三大公達は余りの数の多さに驚く事になる。

 もっともその驚きをはっきり態度に出したのは、グラッキー公ただ一人だ。


「どういう事だこれは!何だこの有様は!

 この様に有象無象を連れ込むなど義勇軍は何を考えている!」


「騒々しいぞグラッキー公爵、そんなに軍議が嫌なら会議が終わるまで待っているが良かろう。」


 鼻で笑う様にあしらったのはワイルズ東央王だ。周囲の諸侯もさも煩わしいと同調して頷き合い、相手にしようともしない。


「だ、黙れ黙れ!儂等は貴様らに話しかけている訳では無い!

 代表者を出せと言っている!アレス王子は何処だ!」


「何を言っている大公風情が。我々は独立国の王、いつから貴様は対等になった?

 貴様らは聖王国の法をを何と心得る。」


「おいおい、儂等をそこの間抜けと一緒にせんで貰おうかの。

 この場に席順は無いと聞いたが、空いている席ならどれに座っても良いのか?」


「構いませんぞ。大抵は知己のある者の近くに座るが早い者勝ちでもある。」


 声のする方を振り向けば、飄々とした顔でカトブレス大公が然りと頷いたイストリア東央王の隣に座る。気が付けば既に後ろで様子を見ていた筈のブラキオン大公も若手であるマリエル女王の隣に座るところだった。

 梯子を外された形のグラッキー大公も、旗色悪しと見て何も言わずに両者からも離れた椅子を選び、憤慨隠さずに席に着く。


 程無くして聖王家の二王子が護衛という形でアレス王子と守護騎士エルゼラント卿が後に続く。グラッキー公は歯軋りしながら機会を伺うしか無かった。


「さて、『聖戦』の呼びかけに応え、よくぞ集ってくれた。

 各地の王家並びに諸侯達よ。聖王家を代表してこのリシャール、先ずは皆に感謝の意を示させて貰おう。」


 中央机に進み出たリシャールが建ったまま軽く頭を下げ、驚きながらも全諸侯が一斉に立ち上がり、異例の振る舞いに戸惑いながら同じように頭を下げる。


「さて、それではこれから諸侯一同には合同で軍議を開くにあたり、幾つかの説明と発表がある。アレス王子、ここに。」


「はい。」


 脇から進み出たアレス王子が、リシャール殿下に軽く頭を下げてから向き直る。

 これこそグラッキー公が待ちに待った瞬間だった。


「お待ち下さい殿下、アレス王子には先にお聞きしたい事がある!」


「……グラッキー公爵、後に出来んか?」


 二人で頷き合ってからの変沓が逐一癪に障る。だがグラッキー公爵にはそもそも聖王家にも主導権を握らせる気は無かった。


「申し訳無いが後回しには出来ぬ事柄ですので。

 義勇軍代表であるアレス王子には是非ともお聞かせ願わねばならぬ!

 貴殿はこれ程の数の諸侯を悪戯に並び立て、一体如何なる作戦を立てると言い張るお積りか!これでは烏合の衆そのものでは無いか!

 何故貴殿は最初から代表者だけで会議に臨む事が出来なかった!殿下を前に無駄な時間を取らせるなど、無礼にも程があろうが!!」


「その通りですな。では貴殿は各々方に任せ、軍議の終了を待たれるが良い。」


「なっ?!」


「無駄な時間を取らせるのは無礼なのでしょう?

 貴殿の疑問はこれから分かる筈の話であった。待てず無駄な時間を取らせた。

 ですから、貴殿は軍議が終わるまで、外で待たれよ。貴殿の土地は元々聖王家の統治代行領。軍の指揮権を殿下に預けるのに、何の問題もあるまい。」


「き、貴様ァ?!この、無礼者が!辺境の田舎王子如きが「グラッキー公爵。未だお前の非礼を並べ立てねば納得出来んか?」……っ!」


 はっきりと不要物扱いされ激昂したグラッキーに冷水を浴びせたのはリシャール殿下その人だ。流石にアレス王子の様に詰る訳には行かず、息を呑み。


「話を遮ったのはお前だ。私は軍議の為の発表と説明と言ったぞ?

 お前は今、説明を求めたな?自分だけの為に。

 私がアレス王子に全員への説明を命じた様を、お前は見ていなかったのか?」


「……っ!!」


「下がれグラッキー公。話が聴けぬ。」


 割って入ったのはブラキオン公爵だった。ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべているのはグラッキーの隙を嘲笑っているからだ。しかも敢えて同格の大公が制止する事で自らの株と立ち位置を確保する方向で口を挟んでいる。

 こうなれば一人悪役になる他無い。「公の顔を立てよう」と応じ席に座る。


「それでは皆様、この私アレス・ダモクレスは義勇軍代表として発言いたします。

 今この場を以って、義勇軍は正式にその役目を終えました!

 よって、義勇軍は今この場を以って解散致します!

 諸侯の皆様方、長らくのご協力、誠に有難うございましたッ!!」


「「「っなぁ?!?!」」」


 思わず腰を浮かす三大公の傍らで、直前に知らされた諸侯達はまさか本当に、遂に等の呟きが聞こえ、皆が本当なのだと悟る。


「よって今後我々は〔聖戦軍〕となり、正式に聖王家の指揮下に入ります!

 リシャール殿下、改めて義勇軍の指揮権を返上させて頂きます。」


「うむ。確かに受け取ったぞ、アレス王子。

 今後は私の傍らで、軍師として活躍して貰いたい。」


「拝命、確かに賜りました。」


(く、くそぉーーーッ!!やられた!そういう事か!!)


 これで分かった、何故これ程多くの諸侯を軍議場に入れたのか。


 三大公は領地規模こそ中堅国並だがあくまで諸侯の一つ、各王家よりは名目一段下に属する。あくまで小国王よりは発言権が上というだけに過ぎない。

 この場には三大公以外にも聖王国内の諸侯が集まっているが、三大公はあくまで彼らの最上位に過ぎない。言うなれば国王に準ずる権限を与えられた大貴族だ。

 例えば東央のイストリア王、ワイルズ王はどちらも国王本人。

 クラウゼンのレオナルド王子、ドールドーラのリシュタイン姫等は代理嫡子。

 どちらも三大公より上位者であり、対等に話していい身分ではない。


 義勇軍が解散した今、これで全ての参列諸侯は横並びとなった。

 アレス王子が代表者という立場を捨てる事で、三大公は参加者の一部という立場に落とし込められた形になったのだ。


(そう来たか!そう来るか!)


 笑うしかない。それでいて自分は軍師という形で各諸侯よりも頭一つ上の立場を保持している。そしてそれらを諸侯に納得させる、確かな実績がある。

 何より聖王国外の諸侯は、アレス王子を上に置く事に元々慣れている。


(コイツは本物の狸だね!いや、こっち側の人間だと言って良いさね!

 どうやら本気でかからないと、良い様に顎で使われちまいそうだよ。)


 三大公は、他よりも多くの出兵を強いられている。だがそれも今迄義勇軍が転戦した分の負担を考えれば、やっと対等と言い張る事も出来る。

 自領を守る事は、あくまで地位に見合った責務なのだ。

 だが話はそれで終わらない。アレス王子が引き下がった後は再びリシャール殿下が前に進み出て、発表を続ける。


「さて。義勇軍が解散した今、諸侯の中には不安を感じている者達もいる筈だ。

 例えば今迄義勇軍が貢献と見做して来た輜重隊の護衛任務。小国家であれば十分な負担となるそれが引き継がれるかどうか。

 これに関しては〔聖戦軍〕でも引き続き採用する事を宣言する。

 無論、事務方の人員提出を貢献と認める案もそのままだ。」


 途端に安堵の溜息が随所で漏れ聞こえる。だがこれも三大公達には驚愕の提案の一つだ。事務方を義務ではなく軍功に匹敵する貢献と見做しては、命を懸ける兵士がいなくなる。それがこの時代の一般常識だ。

 今迄は疑う者すら居なかった、不変的な固定観念だったのだ。


「という訳で、引き続き事務方や輜重隊を賄う諸侯はそちらで登録を頼む。

 全ての貢献をそちらで賄う諸侯達は、役職への対応を優先するなら軍議への参加を免除する。先に登録を始めてくれ。

 その間、聖王国諸侯はこちらへ。今の内に質問に答えよう。」


 義勇軍方式を知らないのはこの場では聖王国の者達だけだ。

 他国の諸侯達は疑問すら抱かず、脇で座っていたヴェルーゼ皇女他の事務方担当諸侯の方へ移動する。


(のぅ凶眼や、あの娘っ子が誰か知ってるかい?)


(ああ老獪。お察しの通り、あれがヴェルーゼ皇女だ。狡すっからかろう?)


 二人の大公は席を立ちながら、飄々と軽口でお互いの認識を共有する。

 三大公視点で見れば元帝国聖女に対し内通疑惑を持ち出すのは、会議を誘導する意味でも当然の事だ。

 だが事前に諸侯に彼女がどれだけ受け入れられているかを見てしまえば、それが如何に迂闊な行為かを察せられる。例えば先程のグラッキー公の様に。

 それを事前に見せつけるやり方が、如何にも狡すっからいというのだ。


(あんたを先に巻き込んだのも、三大公を分断するだけじゃなさそうだね。)


(だろうな。してみれば儂は差し詰め、殿下寄り。お主は中立。

 強欲は悪役、反対役といったところか。)


 だがそれでは三大公全てを味方には出来ない。ここで真っ向からグラッキー公爵が帝国に付くと宣言されるのも当然、困った事態の筈だ。


 実際彼らの前では、何故自分達を小国王子の下に立たせ、恥を掻かせる真似をと憤慨する強欲ことグラッキー公に対し。

 リシャール殿下は最初から聖王家主導で話を進めており、アレス王子には説明役を担当させただけに過ぎないと改めて一蹴する。

 己の先走りで遮らなければ掻かずに済んだ恥だと、逆に非礼を問う有様だ。


 だがその強気も、此処に他国諸侯が居並んでこそのものだ。

 今迄は聖王家と言えど、現地の都合を優先せざるを得なかった。今の聖王家には三大公以外の後ろ盾が存在している。

 だが彼らとて無視出来ない程の影響力を誇るからこそ、三大公なのだ。


(さて。ここまでは全て予定調和なのだろう?

 お手並み拝見と行こうか、無敗の英雄殿。)

※本日イブ投稿です。明日のクリスマスと合わせ、二日連続投稿予定です。


 会議編はサクサク行きます。でも企まないとは言ってないw



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