58+1.間章 聖王女ミレイユは心が折れそう
※年末年始、投稿予定表です。
本編。次24日、25日、28日、31日、1日、2日、3日、4日、5日、11日。
零部。20日、26日、27日、29日、30日。
??、31日。ちょっと投稿日がこんがらがってたら大惨事に……(吐血。
※ミレイユ第三聖王女視点です。
◇◆◇◆◇◆◇◆
城塞都市ベンガーナ。
ここは聖王家が帝国軍に対抗するための最大にして最後の砦だ。ここより大軍を収められる砦は全て帝国軍に制圧され、三大公は動かない。
ここが落ちれば事実上、聖王国の敗北は決まる。今のベンガーナの主は名目上は兄であるパトリック第三王子だが、事務仕事においてはミレイユが中心だった。
ミレイユはあくまで兄リシャール第二王子が帰還するまでの代理だが、軍事しか出来ない兄の補佐として最も重責を感じる立場にあった。
だが同時に今は、心からの希望に満ちている。何故ならアレス王子がクラウゼン騎士王国で兄リシャールと合流して聖王国に到着したからだ。
まもなくあのアレスと会える。かつて見た中性的な美貌が思い出される。
あの茶目っ気たっぷりの笑顔をまた見たい。あの皆を力付ける凛々しい微笑を、あの優しい微笑みを。幾度と無く繰り返し夢に見続けた。
あの美しさと勇ましさを兼ね備え、ユーモアに満ちた美麗の王子。
ミレイユが窮地に陥った時、颯爽と現れて帝国の魔の手から救い出し、兄妹全員を助け出した。再びの再会を約束して立ち去ったあの理想の王子様。
彼に抱き抱えられた優しくも逞しい腕の感触を、今でも確かに覚えている。
正直本当に夢なのでは無いかと疑った。幻と言われても否定出来ない程に素敵で美しい想い出の十数日間。
けれど彼は本当に約束を守り、しかも義勇軍という聖王国の窮地を救う連合軍を率いて舞い戻って来た。
彼と出会ったから今迄の苦難を耐え切れた。彼と出会ったから頑張れた。
次に会ったとき胸を張れるように、彼の傍らにそっと寄り添える、彼に相応しい淑女でありたい。よく頑張ったとあの力強い腕に抱き抱えられたい。
彼はあの時と変わったのだろうか、それとも当時のままなのだろうか。
幾度と無く夢見た再会の日が、文字通り間近に迫っている。
けれどやっぱり不安もある。自分は彼に相応しく在れているだろうか。
失望されないだろうか。ガッカリされないだろうか。思い出の方が奇麗だったと言われたらと思うと心が凍えそうになる。
そんな方じゃ無いと信じていても、それでも少しでも失望されたくない。
「なぁに。お前なら大丈夫さ、俺達の可愛い妹よ。」
優しい兄達の言葉は励みになるが、自分に甘い二人の言葉だ。
やっぱり自信というには少し心許無い。愛された家族だからこその贔屓目が二人にはきっとある。大事にされているのは嬉しいが、流石に客観性は多分無い。
「ミレイユ姫。リシャール第二王子殿下が義勇軍と御帰還なされました。」
ぃぃいやぁ~~~~~~った~~~~~~~~~~~~ぁぁぁあああ!!!
どうしようどうしよう今どこかしら直ぐに会えるのかしら先触れは到着していたけど何かあったらどうしようでも無事だから報告が届いた訳でもしかしたら今窓を覗けばあの方の姿が見えるのかしらそんなに都合良くいくのかしらぃえそもそも私の今の姿ってちゃんと綺麗にしているかしら鏡見ないとお風呂入らないといいえ今そんな我侭を言ってる暇は無いわ贅沢は駄目落ち着きなさいミレイユッッッッ!
「まあ、国境は全て帝国軍が見張っていた筈よ?騒動一つ無いだなんて、一体どんな手品を使ったのかしら。
それでお兄様方はどちらに?」
見つけたァァァぁぁぁぁッッッッッッッッッ!!!
「パトリック殿下は門まで出迎えに向かわれました。
なので手配の確認と正式な謁見の方を、姫君にお願いしたく。」
溜息が漏れる程かっこいい☆
(でも御兄様が迎えに行ってくれて助かったわ!息を切らしたはしたない姿なんて見せられないもの!お兄様なら直ぐにでも案内してくれるとおもうから今私がするべき事を全て済ませて少しでも準備を整えないと!)
ここは便乗して諸々の準備を理由に、正式な謁見まで時間を稼がせて貰おう。
「では今日は代表者の方とだけ簡単な対面を済ませ、他の方々は部屋の手配を優先して頂きましょう。
明日の対面に備え、本日は存分に休息を取る様にと伝えて下さい。」
正直先にアレス王子に会っておかないと取り乱さない自信が無い。
果たして予想通り次兄リシャールは引継ぎを部下に任せ、早々に現状説明に来てくれた。こちらの動きも大体予想しており、平和な日々は諸侯に配慮し敢えて鎧姿のままで直参する形を取るらしい。
鎧姿のアレス王子かぁ………………………(はぁと☆
◇◆◇◆◇◆◇◆
髪や化粧を整え直す時間こそあったが、流石に湯浴みやドレスを選ぶ様な余裕は無かったし、何より鎧で面会する意味を考えろと止められた。
ドレスというより政務用の私服という絶妙に公私の中間の服装なのだが、ドレスの様な特別着飾った装いはここぞという時に取っておけとの事だ。
この手の話は大概パトリックお兄様は頼りにならないが、リシャールお兄様なら政治的な思慮と高い美的センスを持ち合わせている。
素直に忠告に従って間違いは無いだろう。
準備を終えて謁見の間で待つミレイユは今更ながらに緊張して来たが、それ以上にアレス王子を間近で見れて声が聴ける瞬間が待ち遠しい。
何せ東部完全制圧から義勇軍は幾度も中央部へと突入を果たし、その度にクラウゼンやドールドーラと国外へ離脱する空振りの日々だ。
その全てが劇的な勝利で飾られているのだから不満など無いが、遂にと思って肩を落とした日々はミレイユの不安を何度も揺さ振った。
だがその苦悩も今日までだ。後少し、ほんの少しの待ち時間で終わる。
ならば今は最高の笑顔で迎えるために、成長した今の自分を見て貰う為に、全力で理想の淑女として振る舞おう。
門番が略式で到着を告げ、報告を優先した面会である事を示す。
扉がゆっくりと開き、報告に参上した四人の人影が姿を現す。
先頭を歩くのはやはり無敗の英雄にして聖王国の救世主。
輝く様な金色の髪を短く切り揃えて流す、柔らかくも大きな碧い瞳。
中性的な顔立ちながら凛々しさを纏い、細身の様でいて引き締まった男らしさも兼ね備えた、隣の兄よりも頭一つ分大きい美丈夫の青年。
アレス・ダモクレス第二王子だ。
その隣に。
―――――――――純白に輝く最も美しい美女がいた。
………………………………え?
背中に届く程に伸びた波打ちながら輝く白い髪。白磁の様に透き通った雪肌。
凛々しくも愛らしさを備えた相貌に緋色を讃えた大きな瞳。
純銀の防具では隠し切れぬ女性的な曲線と豊満な肢体を、静謐な雰囲気で上書きした上品さを体現した様な理想の淑女。
非現実的な程に浮世離れした、ミレイユの知る限り最も美しい美女が。
アレス王子の、隣に。
並んでいた。
………え?
………………………ぇぇぇえええええええええ~~~~~~~~~っっっ????
何あれ嘘でしょ。私勝てない。アレは無理。絶対無理。無茶。不可能。
何で。待って。え?どういう事?どうして?
顔が完全に凍り付いている。笑顔が張り付いている。駄目。動かない。
頭の中がぐるぐる回る。目の前が真っ暗になる。これは無い。駄目。
血の気が引く。背筋が凍える。喉が枯れる。
「義勇軍代表として、アレス・ダモクレス第二王子。
並びに三名。先ずは聖王家の皆様方に御挨拶を申し上げます。」
金色に光り輝く様な美声が脳裏に響いた。
思わず小さく笑顔で微笑みかける。
素敵。最高。とても好き。
もうこの声と笑顔だけで生きていける。
そして忽ち冷静さを取り戻す。
そうだ。ここに来たのは代表者だから。
そして特別な立場を持つ人達だから。別にアレス王子の恋人として死ねる今心に確かなヒビが入るが別に紹介された訳じゃない。
成程。帝国の聖女様。
………………本当に噂通り以上に美しいとか止めて下さい。
心臓が鐘楼の様に乱打されている中で、必死に平常心を保ってアレス王子に視線を向けて心が暖かく休まる凄く落ち着く。
(そうよミレイユ、アレス王子を信じるのよ。大事なのはそれだけ。
あの方は誰よりも真摯で素晴らしい方。決して人を裏切る様な方じゃ無いわ。)
この場は未だ私的な空間では無い。だが同時に今後を話し合う場でもある。
兄リシャールが代表して話を進めてくれていて助かった。そして早速本題に。
(ん?)
「我々三兄妹の総意として。
アレス・ダモクレス第二王子の正妻として我が妹ミレイユ・ジュワユーズと正式な婚姻を結ばせる用意がある。」
(ちょ、ま。)
まだ心の準備が。
「どうか受け入れてくれるだろうか、アレス王子。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、ギシギシギシギシギシギギギギギギギギギッッッッ!!!
会話を中断させたのは一瞬二人を除いで全員が周囲を見渡す程の地鳴り、いや。
胃鳴りの雷鳴だった。
「おや、何故お受けなさらないので?
この場には必要な証人が全て揃っていると思われますが。」
あ。駄目だわコレ。
今の振動は何か分からないが、明らかにヴェルーゼ皇女の声音にはアレス王子に対する好意を裏返す様な怒りがあった。ゴール済みかな?いやそもそもゴールって何を指してゴールかはちょっと考えたくないけどトニカク手遅れかな?
「……あ~、アレス王子?何か、変なところがあったかね?」
(ッ?!)
「…………すいません。ホントすいません……!
今物凄く余裕が無いのでぶっちゃけさせて下さい。!
先ず第一王子では無く第二王子の婚姻話が王位継承権的な問題で大惨事なのですが何故皆さんは普通に予想通りの流れに聞こえるのでしょうか……ッ?」
聞かないでと内心の叫びを打ち消す様にアレス王子が口を挟む。
あれ?どういう意味?えっとアストリア第一王子?義兄さまのお話?え?
混乱している間に話が進む。え?義兄様は賛成?もしかしてワンちゃんある?
え?でもそうするとどうなるのかしら?ええ?何々、どういう状況?
どうやら事情を把握していないヴェルーゼ皇女様が、義兄様と今の現状を整理して下さるご様子。え?皇女様もこの話は予想外?
「ええ。というか。
客観的に言って、完全に『窮地から救い出してくれた白馬の王子様』では?」
コクコクコクコクコクコクコクコクコクッッッッ!!!
はっ!流石に頷く数が多過ぎる!落ち着いてミレイユ今私アレス王子の前!
アレス王子をヴェルーゼ皇女が浮気を問い詰める様な空気で話してる。
うわぁ、コレ駄目かなやっぱり無理かなどうにもナラナイかな……。
アピールチャンスは逃さず話に加わり、僅かな蜘蛛の糸の様な希望に縋る。
「聖王家のお姫様と田舎の第二王子じゃ、釣り合いなんて考えるまでもないので。
興味持たれてれば縁として十分かな、と思っておりまして。」
ちょッ?!私が高根の花?!ってうわぁぁぁぁあああああ!!
そうだ私聖王家のお姫様ッ!!うぇえぇえぇぇええ?待って待って!
それに釣り合い取れるくらいの大活躍をしてくれたんじゃないの?!
不満どころか不足だなんて、欠片も絶対有り得ないんですよぉ!?!?!
「で、でもアレス王子はクラウゼンに行く道中、彼の国の様子や各地の噂話なども色々話して下さいました!」
「……あの、そのね?
ぶっちゃけ前にミレイユ王女から聞いた好みのタイプが『優しくて頼もしい、気が回る方』だと聞いていたので。あ、兄さんみたいな人なんだな、と。」
「まぁ!アレス王子は義兄様と本当に仲が宜しいんですね!」
大好き。ダメ、理性が飛ぶ。アレス王子は本当に刺激が強い御方。
「申し訳ありません!ヴェルーゼ皇女にプロポーズしました!
帝国皇女との婚姻を認めて頂く代償にダモクレスの王位継承権を放棄して兄さんのダモクレス王即位を確定させる心算でいました!」
ピシリ。
あ。死のう。
「え?ちょ!未だ諦めていなかったの?!」
「諦めていなかっとは何じゃあ第一王位継承者ァ!!」
え?どういう意味?
「いやいや無理でしょ?君自分の手柄を理解している?
明らかに君より上とか聖王家以外認められない空気でしょ?むしろミレイユ王女との婚姻で全部を認めさせるくらいの心算だと思ってたよ?」
え?何まだ私にチャンスあるの?
「オンドレはワシが二股かける様な男だと思っとったんかいィッ!!」
ですよねー。
「……いや、無理でしょ?絶対側室は押し込まれるし必要だよ?
もう言っちゃうけど、アレスの紋章はダモクレスのも含めて五つ揃ってる。」
「「「っ?!」」」
――――結論から言って。
側室ならワンチャンありました。
もうね?状況が二転三転して何が何やら分かりません。何というか、アレス王子の貴重な駄々を捏ねる姿とか、一途な所とか色々堪能させて頂きました。
幾度と無く心が張り裂けそうになりました死にたいと何度も思いました。
泣けばいいのか笑えば良いのか分からない上に世界の命運まで話に加わって来て脳が破壊されそうだった。
でも流石に死にそうになった時はすごく慌てた。
いやぁ。アレス王子は博識ですねぇ、凄いですねぇ。オホホホホ。
そんな事まで調べたんだァ……。ん?あれ?ヴェルーゼ様?
え?コレ本当に世界の命運がアレス様の双肩にかかってませんか?
というか。あ!もしかして私ヴェルーゼ皇女と争わなければアレス王子とも結婚出来るんだ!そうか!
じゃあヴェルーゼ様をどう支えるかを考えれば全部上手くいく?!
「お、男の甲斐性の魅せドコロじゃぁあああああ~~~~ッッッッ!!!!!!」
うん!嫌われてる訳じゃない!セーフッ!!
王家や貴族が複数人の妻を持つのは普通普通!
(首の皮一枚、繋がったぁ~~~~~~~っっっっっっ!!!)
※年末年始、投稿予定表です。
本編。次24日、25日、28日、31日、1日、2日、3日、4日、5日、11日。
零部。20日、26日、27日、29日、30日。
??、31日。ちょっと投稿日がこんがらがってたら大惨事に……(吐血。
Q.家格一番のお姫様が何であっさり側室を受け入れてるんですかぁ?
A.寝取られ間際でそれどころじゃなかったw
原作アストリア王子だと「信じていいの?でも婚約者いるし迷惑だよね」くらいの距離感ですがまあ周りはね?という微妙な関係。
アレス王子は「君の鬱フラグは全てブチ砕いた!」からの「次に会う時はもっと凄いぞ!」くらいの温度差がありますw
その上で「婚姻の障害は全て乗り越えて来たぞ!さあ世界を救いに行こう!」というくらい派手に戻って来たのが聖王家視点ですw
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