59.第十四章 起爆
※絶対に前話から先に読んで下さいw
おや、そういえば何か先延ばしにされてたような……w
◇◆◇◆◇◆◇◆
謁見の間。
「どうか受け入れてくれるだろうか、アレス王子。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、ギシギシギシギシギシギギギギギギギギギッッッッ!!!
会話を中断させたのは一瞬二人を除いで全員が周囲を見渡す程の地鳴り、いや。
胃鳴りの雷鳴だった。
「おや、何故お受けなさらないので?
この場には必要な証人が全て揃っていると思われますが。」
裂けた気がした。
胃鳴りの音が止まり、聖王家の面々とマリエル女王が遅れてアレスの胃の音だと気付くが。驚き過ぎて口を開けない。
え、今の何?と。
冷静な、何も疑問も不自然も感じていない感情の無い声で。
ヴェルーゼ皇女が首を傾げる様に賛同の意を示す。
「え?アレス、もしかして話してなかったの?」
「さも確定事項だったかのように言わないで?」
イヤ何でだ【聖王家の紋章】どうなった?兄どうするの何で何が揃ってるの?
神剣所持者どうする?何で婚約話?いやそう言えばこっちから皇女との婚姻許可を申し出ようとしてたんだっけ?いや第一王子の婚姻が先で。でも玉座が兄で先の結婚は出来なくて。そもそも義勇軍総大将は兄で。儂副官で。全部予定で。
「……あ~、アレス王子?何か、変なところがあったかね?」
リシャール第二王子聖殿下が何かがおかしいと。
いやもしかして今言われると思ってなかったのかと首を捻りながら気を巡らせ、敢えて尋ねる形を取ってくれる。何かおかしいのかなと。
「…………すいません。ホントすいません……!
今物凄く余裕が無いのでぶっちゃけさせて下さい!
先ず第一王子では無く第二王子の婚姻話が王位継承権的な問題で大惨事なのですが何故皆さんは普通に予想通りの流れに聞こえるのでしょうか……ッ?」
メキメキと個性的な胃音が鳴り響き。三兄妹は腰を浮かす程に動揺して分かったからと助けを求める様に辺りを見回し。
マリエル女王は不意に自分の隣に人がいたと気付いた様に腰を抜かす。
アストリア王子は何処に疑問がと首を捻り、でも流石に放置出来ないかなと義兄が手を上げて口を開く。
「えっと。先ず私の婚姻問題はマリエル女王との結婚が確定すれば片付くよね?
玉座に関してはミレイユ王女と婚姻を結ぶ君がダモクレス王に就く形になれば、周囲も私がハーネルに移り住んでも皆納得すると思うけど……?」
「あ、あぁ~~~!そっかある意味ここに継承権の微妙な玉座が二つあるのか!
そしてそれは兄さんが風下に立たない形なら分けて問題無いと!
そういう話な訳か!」
アハハハハハハ!そっかマリエル女王的にも兄さんが故郷でずっと傍にいる方が絶対良いよね!色々やらかした辺境の田舎に移り住む方が不安大きいや!
ガッツリ兄上の両肩を掴ませて頂きましたよ?
「オイ待てやアンタ誰との婚姻を進めたか忘れたとは言わさんぞ?」
「え?そこも疑問なの?ちょっと待って、そもそも君、ミレイユ王女との関係どうなっているの?私そこ君からの又聞なんだけど?」
「それはアレス王子の話だけで関係を推察出来たという意味ですよね?」
「え。ええ、はい。」
あ、なんか自然に正座しおったこの爆弾発言兄貴。
そろそろ皇女殿下の内心に兄上も気付き始めたらしい。
「お聞かせ願えませんか?肉親が感じたお二人の御関係を。」
「はい。報告によると帝国に囚われた直後の最も心細いタイミングで、周囲の裏を掻いて考え得る限り最小の犠牲で姫を救出したとか。
その後行方不明だった騎士達と合流し、安全な場所まで護送。
パトリック王子と再会させた後で長女であるクラウゼン王妃の元へ亡命の護衛。
直接の接触はそこまでと聞いてますが、最後にリシャール殿下の所在も突き止め双方に伝えたと伺ってます。」
「……それで全部ですか?」
「ええ。というか。
客観的に言って、完全に窮地から救い出してくれた『白馬の王子様』では?」
どげぶっ!!!!
「……聖王家の皆様も相違無いようですね。」
顔を真っ赤にして頷き続けるミレイユ王女の内心は一目瞭然であり、両王子殿下も重々しく肯定している。彼女の恥じらう姿は実に愛らしいのだが。
問題はこれが他人事ではなく自分の醜聞であるという事だ。
「一つ重大な事を付け加えて欲しい。
彼は我々に必ずや再び駆け付けると約束し、北部に東部を奪還し、義勇軍を組織して中央部の戦況を変え得る迄に力を付けて戻って来た。
まさしく有言実行の英雄であるという点だ。」
「……そうですね。それはとても大事ですね。」
わぁキュピキュピ海豚の鳴き声が聞こえるなァ。いつから儂の胃の中は水族館や動物園になったんだろう。うぇへへへへへ。
「つまり姫の窮地を救うため再び舞い戻って来た英雄様は、一体何が御不満で姫君との御婚姻に疑問を抱いておられるのでしょうか……?」
「あの。はい。いえね?
救出して一週間だった訳ですよ。最初は密偵として怪しい行商人やってて、その後に素性を明かして諸々手配して。
話す機会はずっとあった訳じゃなくて。
聖王家のお姫様と田舎の第二王子じゃ、釣り合いなんて考えるまでもないので。
興味持たれてれば縁として十分かな、と思っておりまして。」
「で、でもアレス王子はクラウゼンに行く道中、彼の国の様子や各地の噂話なども色々話して下さいました!
あの時お聞かせ頂いたお話は、クラウゼンでも値千金の価値があるお話だと皆が絶賛して下さいました!
アレス様とのお話が無ければクラウゼンとの同盟もどうなっていたか!」
「ああ、それもあったな。私がクラウゼンに訪れた折にも話が随分と通り易かったと思っていたら、事前にミレイユを通して伝わっていたと聞いたよ。」
リシャール殿下が要所要所で急所を刺して参ります。
ホホウ、ぶっちゃけ中央の貴族に話せるネタが他に無かっただけなんですが。
「……あの、そのね?
ぶっちゃけ前にミレイユ王女から聞いた好みのタイプが『優しくて頼もしい、気が回る方』だと聞いていたので。あ、兄さんみたいな人なんだな、と。」
「まぁ!アレス王子は義兄様と本当に仲が宜しいんですね!」
うぅ~ん、全く気付いてくれてない!謙遜だと思われてらっしゃいますね?
そうか、あなたの立場だと単に戸惑っているだけに見えてるんですね?
「申し訳ありません!ヴェルーゼ皇女にプロポーズしました!
帝国皇女との婚姻を認めて頂く代償にダモクレスの王位継承権を放棄して兄さんのダモクレス王即位を確定させる心算でいました!」
「「「は、はぁ?!」」」
「なっ!」
ピシリ、と笑顔のままミレイユ王女が硬直し。
唯一素の驚きを見せたヴェルーゼ皇女以外は一様に予想外の返答に耳を疑って、そしてお互いの顔を見合わせて間違っていなかった事を確認する。
「え?ちょ!未だ諦めていなかったの?!」
「諦めていなかっとは何じゃあ第一王位継承者ァッ!!」
「いやいや無理でしょ?君自分の手柄を理解している?
明らかに君より上とか聖王家以外認められない空気でしょ?むしろミレイユ王女との婚姻で全部を認めさせるくらいの心算だと思ってたよ?」
「オンドレはワシが二股かける様な男だと思っとったんかいィッ!!」
シーン……。と沈黙が染み渡り、互いに行き違いを自覚する。
それと同時に収集や落し所も現状全く見当たらない。正に途方に暮れる様な心境で一致していた。
「……そこのところ、どう考えていたのですかアストリア王子。」
「……いや、無理でしょ?絶対側室は押し込まれるし必要だよ?
もう言っちゃうけど、アレスの紋章はダモクレスのも含めて五つ揃ってる。」
「「「っ?!」」」
「このまま義勇軍を率い続けたら、ヨルムンガントを倒した後なら聖王家の正統性にも異議を唱えられるくらいの発言力が出ると思うよ?
聖王家との婚姻は絶対に渡りに船。
というか、次世代の為に聖王家との繋がりは必須……。」
「……では、あなたが私との婚姻を進めたと聞いておりますが。」
「そもそもアレスは嫌がる相手を無理矢理口説こうとはしないよ?」
「……。」
「……一番がアレス好みだと知っていたのは間違いないよ。
はっきり言って君との婚姻は弟にとって益しかない。帝国戦での落し所として君の存在はとても有り難いんだよ。義勇軍が復讐に走らない口実としてもね。
更に言えば、弟が聖王国に頭を下げる理由になるのも良い。」
「最初から側室にする方向性で考えていた、と?」
「流石にミレイユ様の気持ちに気付いてなかったのはちょっとどうかと思った。
側室は背中を押さないと流石に無理だろうなって。」
「ふごっ!」
「周りだって神剣の血統を途絶えさせないためと言えば、側室に承諾せざるを得ないでしょ。聖王家の正妻がいれば反論もし辛いよね?
武王国の血は残るし、聖王家と合わせて考えれば同格は現れない。
可能性があるとすれば〔南部〕の古王国シルヴェスタ王家くらいだけど、あそこも【聖杖ユグドラシル】を失った弱みがある。
直系の姫を側室にするのは向こうの立場が許さないんじゃないかな?」
「……えっ?もしかして俺、戦後は田舎に隠居とか無理……?」
「「「……王家を黙らせる後ろ盾があれば……?」」」
事実上聖王家以外に有り得ないんですね?ハイ。
「……やーーーだ~~~~ッ!!二股とか浮気とか絶対嫌~~~~ッ!!!」
「いやお前が言うんかい?!妹がそんなに不満か?!」
今迄事の成り行きに口を挟めなかったパトリック王子が思わず割り込むが。
「一途が良いの!浮気が嫌なのォッ!!
嫁に順位付けとか格付けとか嫌なのッ!?どっちが良いとか考えたくないのぉ!
うちの嫁さんは美人で最高で一番だからそれで良いのぉ!!二人とか優劣付けたくないのォ?!どっちも一番とか二人の違い気にしたくないのォ!!
誕生日に今日はどっちの日とかどっちを大事にとか考えたくないのぉ!!」
もう恥も外聞も無く泣き叫ぶ。というか既にストレスで吐く。この後の展開とか超絶考えたくない。どうにも出来る気がしない。
「い、いや。おう。流石に浮気しろとは言わんがな?」
「ドレスだって相手に合わせてとか似合うデザインはどれとか大変でしょぉ?!
奇麗な宝石とかプレゼントとか常に二つ考えないとでしょぉ?!嫁を褒める時にドコが良くてドコが違くてとか毎回考えないとでしょぉ?!」
「あ、うん。それはね?」
「ドコがえっちとかドコがそそるとか嫁別に区別しなきゃとか絶対嫌よォ!!
嫁のサイズとか比べたくないの!全部好みで全部理想で良いじゃないッ!!」
「オイ。」
★※◇$☆★#&◆ッ!?
真っ赤な顔からのボディブローが突き刺さり、青い顔で悶絶する。
魂が飛び散る痛みがする。胃液が傷口に染み渡ってる。コレ絶対裂けてる。
「……あ~~、何だ。その。改めて確認するが、本当に良いのか?」
ビクビクしながら悶え苦しむ醜態を晒すアレスを前に、流石のリシャール殿下も確認したくなった様だ。
だが苦笑しつつもミレイユ王女は、はい。とはっきり頷いた。
「正直複雑なものが無いとは言いません。まだ整理が付いていない面もあります。
でも、一途であって欲しいという気持ちは私にもありますから。
二番だから駄目とは、申し訳なくて言えません。」
ヤバい。うっすらと涙目で気丈に振る舞っているのは分かるのだが。
慰める以前に吐かずにいるだけで限界が来てる。
「……あの、流石にちょっとこのまま死にそうなので……。」
一番遠くで座っているマリエル女王が、アレスに助け舟を出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
【高位再生】。
骨折や臓器を含めた高度な治療を可能とする回復魔法であり、使い手すら稀なる3LV回復魔法である。
殆どの回復魔法は存在こそ知られているが実態は遺失魔法に近い扱いであり、〔光のオーブ〕は教会総本山でも限られた者しか見た事が無いという。
その類稀なる〔オーブ〕に触れ、実際に3LV回復魔法を習得した二人こそが、帝国の聖女ヴェルーゼ皇女と現ドルイドのミレイユ第三王女だ。
「流石にちょっと追い詰め過ぎましたか。」
「精神的な負担でここまで内臓に負荷がかかるものなんですね……。」
まさか【高位再生】が必要になるとは思わなかった。
主に外傷では無く中身的な問題だったが。因みに本当に裂けたりはしてない。
「しかし、分かりませんね。
あなたは以前、聖王家の方々の前で話すべきお話があると言っていましたよね?
てっきり私はあなたが聖王家絡みの血筋か、今回の様に聖王家から婚姻の確約を頂いていたのかと思いましたが。」
「……ああ、それも誤解の元になってたのか。
残念ながらそこは全く判らないかな。前にも言った通り俺は孤児で、五歳以前のダモクレスに拾われる少し前くらいの事しか覚えていないんだ。」
「取り込み中に済まないが、一旦《紋章》を確認させて貰えないだろうか。」
今かと疑問に思った女性陣に対し、リシャール殿下は極めて真剣な表情だった。
息を吹き返したアレスとしても、後々?のために見せておいた方が良いと思っていたので、素直に上着を脱いで背中の《紋章》を見せる。
「《王家》《治世》に《軍神》《賢者》《魔王》か。
兄上、どうやら間違いなさそうだぞ。」
事情を知っていると思しき二人の王族は頷き合い、遅れて思い至ったらしきミレイユ王女がハッと口元を隠した。
「……ああ、その様だな。
マリエル・ハーネル女王、貴殿はアストリア・ダモクレスと婚姻を結ぶという話だが、であれば己が王家の命運よりも重い秘密を背負う覚悟はあるか!
無いというのなら、聖王家は君達二人の婚姻を認める事は出来ん!
今直ぐこの場から立ち去り、一諸侯として〔聖戦〕に参列するが良い!」
「え?」
「え?あ、あります!私は、アストリア王子との婚姻に全てを賭けてます!」
驚きつつもはっきりと断言するマリエル女王。それに対し少々迂闊ではと思ったのは意外にもアレスとヴェルーゼの二人だけの様子だった。
「それは自分の故郷より世界の命運を選ぶという意味だぞ?」
「……分かりました。それがダモクレスに嫁ぐという意味ならば。」
頷き合った聖王家の三人に対し、事情が分からないのは今は、三人。
「ダモクレス王家は未だ秘伝を引き継いでいる、そう考えて相違無いか?」
「はい、相違ありません。
ダモクレス王家は今も、聖王家の予備であると理解しております。
アレスが口伝を引き継いでいないのは、直系を引き継ぐ前であるからです。」
「はぁっ?!」
思わずアレスは口走る。何だそれは。ダモクレスは只の辺境の一王家の筈で。
(――いや待て。意味があった?
原作で義勇軍を率いたのは、単に帝国に従えなかっただけでは無かった?)
例えば続編で明かされる様な隠し設定があったとしたら。
公式が全てを明らかにするのは続編と決めていたとしたら。
続編が何らかの理由で頓挫して完成しなかったとしたら。
(そもそもゲーム知識は全てを語っていない。分かっていた筈だ。)
「これから語る全ての話は、決して口外を許されぬ秘伝となる。
それは聖王の証とされる紋章《覇者の紋章》の真実だ。」
その秘密を知る者は今は四人、聖王家の三兄妹と予備であるダモクレスの嫡子。
「そしてアレス王子。
貴殿の持つ五つの紋章、その正式名称こそが《覇者の紋章》なのだ。」
「んなッ?!」
「そして《覇者の紋章》とは。
魔龍ヨルムンガントを討伐するために産み出された紋章だ。」
爆弾が三神具だけだなんて、勿体無いじゃ無いですかw
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