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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第三部 聖都奪還前婚約闘争
78/159

51+2-6.間章 ダーチャの海賊達6

※24/11/22、ルビ修正。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 早朝から始まったゴーストホロウ攻略戦は、カンテン島以外の全島制圧を以って第一段階を終了した。

 時間帯は正午。丁度、太陽が真上に到達した頃合い。

 義勇軍代表アストリア王子は、クラウゼン王国代表レオナルド王子と共にガレス東央伯からもたらされた報告を聞いていた。


「〔使徒〕に……、【闇神具】、か。

 成程、これは重要だ。彼らは【闇神具】を創るために生贄を必要としたのか。」


「アストリア王子、君は……。その、信じるのかね?

 私には与太話の様にしか聞こえないのだが……?」


「な、何を言うか貴様ァ!?」


 ガレス伯が鼻白むが、レオナルド王子は白々とした顔でまあ待てと制止する。


「冷静になれ。人を魔導具にするなど信じられるものかよ。

 一体どんな邪法なら物体をそんな指輪や錫杖に押し込めるというのだ?

 そもそも先日ダーチャの海賊はダモクレスに寝返っているでは無いか。そんな強制力があるというのなら連中は何故寝返る事が出来た?

 どうせ死に損ないの、勢い任せの妄言であろうよ。」


「いや、別に矛盾してないよ。

 強制力があるのは【闇神具】の所持者に命じられた時だ。

 首領ドブロチンが暗黒教団に反感を抱いているなら、彼は首領という立場でありながら【闇神具】所持者の命には逆らえないのかも知れない。」


「そ、それは……。で、では?」


「むしろ【闇神具】の数が少ないから〔神の慈悲〕なんて薬を使って求心力を高めているのかも知れないね。

 そしてその成果はあっさりと、闇神官や闇司祭に掻っ攫われる訳だ。」


「な、成程。そう言われるとドブロチンが暗黒教団に反逆を企てているというのも強ち有り得ないとは言えない訳か……。」


「【闇神具】が常識的な魔導具だとは思わない方が良い。

 何せあの魔龍絡みの代物だ、今判っている範囲だけでも相当強力な呪いの産物だという程度しか解析出来ていない。

 生贄の話だって単に、魔力を無理矢理奪う程度の話かも知れないしね。」


「確かに。失礼したガレス卿、どうやら私の早合点の様だ。」


「いえ、こちらこそ。謝罪を受け入れましょう。」


 二人が和解したところでこっそり安堵の溜め息を吐く。彼らはお互い年嵩が近い所為か微妙に遠慮が無く、少し考えるより前に口を開いてしまう時がある。

 どちらも自分と同格の相手に馴染みが無く、気遣いに欠けるのだ。

 だがまあ別に態度が悪い訳では無いので、合同軍というのは彼らの外交的経験を積む意味でも有益なのかも知れない。


 若干距離を感じてしまう自分もまだ若い筈と、時に年配相手の方が会話を弾ませ易い現状に抱いた疑問を内心で否定し。

 アストリアは軽く深呼吸と共に言い聞かせながら、改めて思考を切り換える。


「さてカンテン島の形状ですが、定義上一つの島ではありますが実質二つに分かれています。巨大な火山島が陥没したカルデラ湾と、中心の岬小島です。」


 例えるなら生卵の黄身が外に漏れ出し、海と繋がった様な形状か。三日月というより細長い島の中央を大きく抉った形。

 しかし陥没湾は浅瀬というより元は大量の船を並べた港だったが、今はその船舶を殆ど使い果たして寂れた状態となっている。問題はその中央。

 三日月が顔なら鼻の位置に岬の様な小さな森に囲まれた小島があり。


 スカルガ岩礁群島で最大の建築物、魔城〔ゴーストホロウ〕が鎮座していた。


「〔ゴーストホロウ〕は円形の城壁の中に三つの塔と天守がある。

 それぞれの塔から渦を巻いた様な内壁が伸びて天守を囲んでいる形だ。」


 アレスが居ればトリスケル、渦巻き型三脚巴とでも言っただろうか。

 渦の中に入らねば塔へは辿り着けず、塔から伸びる内壁を通らなければ天守へは辿り着けない。しかし塔を無視して空から挑めば。


「三つの塔から集中攻撃を受ける、か。

 成程、確かに難攻不落の要害と自慢するだけの事はある様だ。」


 レオナルド王子が首を捻り、他の面々も迷いを見せるが。


「いえ、意外とそうでも無いんですよ。

 確かに各塔は大軍で攻めるのは難しいと思えますが、逆に言えば壁の中は狭く、英傑を三人用意出来れば数で囲めない分彼らの方が不利になります。

 飛行部隊は塔から攻略させれば問題ありません。」


「あ、そうか。この要害、大軍を想定していないんですね?

 中央からの増援を阻止する手段はありませんが、三つの塔全てに援軍を出したら天守の兵が手薄になる。

 各塔から攻め込める戦力は限られますが、同時攻撃なら問題無い。」


 体調を持ち直したヴェルダ令嬢の指摘に、あぁと納得の空気が広がる。


「そういう事です。各塔千の三千では辛いかも知れませんが、六千以上なら恐らく問題無く落とせるでしょう。

 倍近い兵力を用意している我々なら左程苦戦はしない。

 なので問題は、どの程度の罠があるかでしょうね。」


 それも飛行戦力を想定しなければの話だ。

 敵が無策なら勝てる。それが合同義勇軍の出した結論だった。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 〔ゴーストホロウ〕の外門は三つある。


 道中の高低差のある森に覆われた道は大軍の進軍に不向きで、自然と何処かの門に戦力を集中させる形になる筈だった。

 虎の子の暗殺部隊ヴァルデイアは攻城戦に向かない。敵が分散したところで各個撃破をしつつ、じりじりと指揮官を中心に敵を削っていく。

 それがダーチャの海賊達こと首領ドブロチンの立てた基本方針だった。


 だが合同軍は地上部隊の全てをガルム騎兵で揃え、多少の地形差は物ともせずに城の全てを包囲して進む。

 流石のヴァルデイアも囲まれた状態では奇襲出来ない。止むを得ず後退を続け、遂には城内に撤退する旨を決意するが、流石に否を言える状況では無い。

 例え戦果は上げられずとも、無駄死にするよりはマシなのだ。

 更に合同軍は、全ての門に集うまで攻撃を仕掛けなかった。

 圧倒的物量を前にすれば、城門の強度も守兵の数も問題にならない。瞬きの間に全ての外門が突破され、中庭へと押し入られた。


「くそ!殆ど損害を与えられていないでは無いか!情けない!」


 〔ゴーストホロウ〕天守最上階には、全体の指揮を取るために各島で生き残った族長達が集結していた。

 首領ドブロチンの怒鳴り声に対し、族長達は頭を下げながら沈黙を保つ。


 はっきり言えば現状は、逃げ出したいくらいの圧倒的な物量差なのだ。

 そもそも質で言えば、一にクラウゼン、二に義勇軍。最も戦力で劣っているのがダーチャの海賊達だ。

 本来ならゲリラ戦による泥沼の長期戦、消耗戦こそがダーチャの海賊の本領だ。

 それが今回は伏兵が悉く発見され、各個撃破された上での短期決戦だ。

 既にダーチャの民は軽傷者か死者しかおらず、総人口も五千と残っていない。

 今迄本拠地以外の全ての島が制圧された事など一度も無かったのだ。彼らは今、本気で皆殺しの恐怖に苛まれていた。


 中庭に張り巡らされた柵は魔法で海賊ごと薙ぎ払われた。

 戦場は城壁を盾にした防衛戦へと移行したお陰で、範囲魔法の影響は最小に抑えられている。だがそれは大軍の圧力に対抗出来るという意味にはならない。

 加えて塔の一つでは既に飛行部隊が突入して来た。あれでは長く持たないというのは目に見えてしまう。


(まさか、この〔ゴーストホロウ〕ですら持ち堪えるのは難しいのか……?)


 そこへ。


「全く、情けないにも程がありますね。同志ドブロチン。」


「同志では無い、首領だ。物覚えが悪いぞ闇司祭ラプスー。」


 忌々し気に睨み付けるドブロチンの元に、怪僧の異名を持つ張り付いた笑顔の男が自分の顎を撫でながらゆっくりと歩み寄る。

 足元の見えない分厚い法衣は鎧の上からも着られる暗黒教団の特別仕様だ。彼らは長年の迫害により、日頃から寸鉄を纏った分厚い服を身にまとう。


 ドブロチンが禿鷲を思わせる初老男なのに対し、ラプスーは皿無し河童にも似た壮年男だが、彼らは立派な同期で同世代だ。

 ドブロチンは討ち取った首の数で首領に上り詰めた、生え抜きの戦士だ。

 だが神官の適性があったラプスーは教団内で順当に出世し、遂に闇司祭の地位に上り詰めて〔中央部〕の教団を統括する立場となった。

 その中には当然、クラウゼンの一地方であるスカルガ岩礁群島域――ダーチャの海賊達も含まれる。


(冗談じゃない!ダーチャをここまで鍛え上げたのはこのオレだ!

 他所を好き勝手にうろつき回る馬鹿に使い潰されるためじゃない!)


 神の恩恵とやらで今やはっきり年上に見える程見た目に差が付いたが、戦いではいつでも勝てる自信がある。〔使徒〕の呪縛とて容易く無視出来る。

 長老や他国の者を徐々に排し、ダーチャの者だけを中核に据える様に仕向け続けたが、未だに暗黒教団の影響力を排除し切る事は出来ていない。


(だが後一歩だ!その為に帝国と手を組む事を許容した!

 なのに義勇軍などがしゃしゃり出て来たせいで全てが水の泡だ!)


「やれやれ、相変わらずですねぇ。ですが勘違いなさらぬ様に。

 闇神官ならともかく、闇司祭は首領の上。同志の上役です。

 同志扱いはむしろ、頭を下げるのが苦手な旧友への譲歩なのですよ?

 まあ今は言っている場合でもありませんが。」


「クソが!回りくどいぞ!貴様ならこの状況を打破出来るというのか?!」


 薄ら笑いを浮かべるラプスーは余裕を崩さない。【転移魔法(ワープ)】を使える奴はいつでも逃げられるからだろうがと怒りの視線を向けるが。


「ええ、ええ。出来れば同期に花を持たせてやりたかったのですがね。

 ここまで追い込まれては流石に逆転も不可能でしょう。私の故郷が失われるのは忍びないですから。」


 コツ、コツ、コツと、一同の後ろを回り込んで首領の後ろの壁に手を当てる。


「それに首領殿は、どうも教団の力を見縊っておられる様子。それでは今後に差し障るのでね。我々も切り札を切らせて頂くと致しましょう。」


 《闇の錫杖》を彫刻絵画に描かれた髑髏の絵に重ね、髑髏の両目が怪しく輝いて絵画全体に赤い輝きを広げる。それは絵画に偽装された魔法陣だった。

 脈打つ様に繰り返し点滅し部屋全体に広がり、やがて地響きを城中に響かせる。


「さあ刮目なさい!

 これぞ我ら暗黒教団が築き上げた魔城の真なる力!

 〔ゴーストホロウ〕たる所以ですッ!!」


 地響きの中で両腕を広げ、嘲笑を響かせる闇司祭ラプスー。

 我慢出来なくなった族長達が最上階の階段を走り降り、空気口に偽装した細長い窓から外の様子を覗き見る。

 空へ迎撃の邪魔にならぬよう、三つの塔より低い位置にある天守は屋根が槍の様に鋭く伸びている。

 三つの塔の内一つは既に火の手が上がり、突入されている様子が見えたが、それ以上に気になる光景が、湾内の全域に広がっていた。


 それは三日月状の稜線全てから立ち昇る赤い輝き。城や湾内を幾筋も走る、煌々と輝く魔力の線。見える断片を参照すれば、それは先程の絵画魔法陣と全く同じ形だと気付けるだろう。

 だが薄々察してはいても、誰もが確認には動けない。


 視界に入る全ての海。湾内の内側全てが黒と白に染まり。

 海中から次々と浮上し、上陸し続けるのは。

 この地で死に絶えた無尽の躯達。


 万を超す〔アンデッド〕の群れが生者を探し求めて城を目指す。


「さあ、我らの先祖、そして哀れなる敗者達がお出迎えです!

 尽きる事の無き亡者の群れに、滅ぼされるが良い!

 我らが神敵、義勇軍共よッ!!」


 想像を超えた光景に絶句する族長達の背後で。

 闇司祭ラプスーの嘲笑が響き渡る。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 海中から湾を埋め尽くすほどのアンデッドの群れは、事情を知らぬ合同義勇軍の者達に恐慌と混乱を巻き起こした。

 だからという訳では無いが、この場で最も冷静でいられたのはアストリアが天馬に乗っていた事と無関係では無いだろう。

 物的距離と全体を見渡せる配置は、戦場を俯瞰するに十分な猶予があった。


「狼狽えるな!アンデッドは別に不滅でも何でもない!

 ヴェルダ令嬢、どうやら敵は質まで確保出来なかったらしい。練度の低い部隊に防衛させて経験を積ませよう。敵の城壁を盾にして迎え撃つんだ。

 ガレス伯とレオナルド王子には、そのまま塔の攻略を優先して貰いたい。」


「わ、分かった!」

「承知しました。」


 レオナルド王子は既に兵を、塔の一つに突入させている最中だ。

 上陸部隊の指揮をヴェルダ令嬢、突撃隊をガレス伯に任せ、アストリアは船舶側に湾の出口だけ塞ぎ続ける様に伝えて現状を維持させる。

 伝令の彼には撃ち落とされない様に高度だけ注意させる。

 海賊達に飛行部隊はいないので、制空権は一切気にする必要が無い。


 『鑑定眼』で見たところ敵の質は一桁LVが大多数を占める程度には低い。落ち着いて対処すれば負ける恐れは無いだろう。

 だが問題はいつ敵が尽きるかだ。本当に無限という事は無くとも、万単位の物量なら不覚を取る部隊も出かねない。


「ま、となれば取れる戦術は一つ、か。」


 既に塔の一つは飛行部隊によって落としたが、他の二つは攻略中だ。慎重に行くなら同時攻略こそが望ましかったが。


「贅沢は言ってられない、か。マリエル女王、こちらへ!」


 共に飛行部隊を率いるハーネル女王に声をかけ、実質的なアストリア側近三人衆のケイトリー、トミー、カーターの三人を集める。

 正直に言えば戦力的には心許無い。二軍戦力の弊害として、天才と呼ばれる者達や一流と呼ばれる武将達はアレス王子の方に付き従っている。

 だからこそアストリアは最前線には出ず、部下を鍛え上げるつもりで全軍を敵に相対させて来た。自身も秀才止まりでとても英傑側だとは思えない。


「アンデッド達がどれだけいるのか、強い個体がこれから出るのか。

 残念ながら、これらを確認して動く時間は我々には無い。

 最悪なのは現状を放置したまま、元凶と思われる闇司祭に逃げられる事だ。」


「「「っ?!」」」


 だが、恐らくは言ってられないのだ。アレスがアストリアを前面に押し出したがるのは、アレスには出来ない何かがあると考えているからだ。

 不確定要素を語りたがらない義理の弟は、重要な事ほど口が堅く慎重になる。


(多分ダモクレス第一王子が、義勇軍総大将になる必要があった何かがある。)

 それは、魔龍ヨルムンガントと戦う可能性かも知れない。


 であれば。


(神剣を扱えない可能性のあるアレスは、魔龍を倒せないのかも知れない。)

 それは何らかの理由で、アストリアが神剣を扱えると推察しているのだろうか。


 十中八九、ヴェルーゼ皇女は【聖杖ユグドラシル】を持っている。だがアレスも察しているのか、あるいは確認しているのかは確信が無い。

 【神具】の所有資格を確認する手段が有るのかは未だ分からない。

 全部推測で、確証は碌に無い。

 アレス一番の秘密は、未だ隠されている。


(そろそろ分かり易い武功を立てる必要がある。

 いつまでも義弟の威光を盾に発言する、凡人王子では駄目なんだ。)


「既に陥落させた塔から、我々飛行部隊が先行して敵本丸天守を攻略する!

 無茶をする必要は無い!だが他の部隊の合流は待たない!

 我々の戦力だけで敵総大将ドブロチン、並びに闇司祭ラプスーを討つ!

 総員、覚悟を決めろ!」


「「「ぉ、ぅぉおおおっっっ!!!!!!」」」


 高らかに宣言して降下したアストリアを先頭に、将兵達が次々と天馬から飛び降りて塔の中に突入する。

 騎手がいなくなった数多のペガサス達が上空に飛翔して待機する傍らで、空には不吉な暗雲が日差しを隠し始めていた。

※24/11/22、ルビ修正。


 (本人が信用出来ない)未来情報を参考に動くアレスを、最も間近で見ていた義兄アストリア王子視点。

 まるで語れば未来が確定するのを恐れる、予言者の如き振舞いに見えますねw

 どう見ても神に愛されている義弟が胃痛に絶叫する姿を見続けてると、実際かなり危機感を覚えてしまう状況では無いでしょうかw

 なのでアストリア王子の「自分は凡人」発言は大体アレスの所為ですw



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