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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第三部 聖都奪還前婚約闘争
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51+2-3.間章 ダーチャの海賊達3

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 最北端砦にクラウゼン軍が集結した翌夜。

 ダーチャの海賊達が、入城前の義勇軍本陣に夜襲を仕掛けた。

 その数二千前後。義勇軍が守りに入ると思っていたダーチャの海賊達は、野戦により迎撃され包囲失敗。

 砦から打って出たクラウゼン騎士団五千に挟撃され、敗走した。


 義勇軍三千に、騎士団総数八千。明らかに戦力を読み違えたかに見えたダーチャの海賊達だったが、その目的は全く別のところにあったと判明する。

 義勇軍で読んでいたのは敗軍の追討のため全部隊を出し、三部隊に分かれて動く指示を出したアストリア王子只一人。

 反撃を警戒し兵力の分散を嫌う諸侯達が意図を理解したのは、海賊達を捜索して近隣の村々にまで到達した時だった。


「ひ、酷い……。これがダーチャの海賊達のやり方だというの……!」


 間に合わなかったと膝を折るケイトリーの前には、串刺しにされた死体の数々。

 北部の森の中にある、海賊達から隠れて暮らしていた小さな村の一つだった。


 北部の村々は大部分が小規模の砦を築き、それ以外は全て隠れ住んでいる。

 だが今回の様に男達が虐殺されるのはともかく、皆殺しにされる事は稀だった。

 何故なら海賊達にとって、彼らはある種の家畜、略奪すべき収入源だからだ。

 クラウゼン王国は徐々に要害を増やしながら開拓範囲を拡げ、ダーチャの海賊達を脅かし続けていたが、それでも執拗に彼らは略奪を辞めていない。


 だからこそ今迄は、弱者を生かし続けていたのだが。


「ここも『復讐の加護は我らにあり』か。全く、ふざけやがって!」


 死体の山の前には血文字で書かれた看板があった。

 つまり、最北端砦への襲撃は囮だったのだ。目的は自分達の残虐性を知らしめる事で、クラウゼンや義勇軍兵の士気を挫く事にあった。


「伝令だ!後は西に向かった小隊が最後だ。

 早く乗れ!犠牲者が増えるぞ!」


「分かってるわよ!」


 生存者を探している余裕は無い。一部隊があれば、少数の自警団が守る程度の村なら蹂躙出来る。彼らが生き残っている限り同じ事が起こるのだ。

 アストリアが強硬な掃討を主張した意味を、今更ながらに重い知る。

 甘いのだ。無駄な犠牲を減らすために捕虜を取るなど。

 彼らは善意を、情を嘲笑いながら盾に取る。

 彼らは本当に、あらゆる非道を行うのだ。




 翌日。次に大きく動いたのは合同義勇軍の方だった。

 作戦開始時からダモクレス軍は、岩礁群島攻略に備えてクラウゼン城塞の西港町に、今集められるだけの軍船を集結させていた。

 その軍船団の半数以上が、西北端の岩礁地帯に到着したとの第一報が義勇軍に届いたのだ。位置関係で言えば、丁度北からは崖が障害になり見えない辺りか。

 アストリアは即座に側近達と、天馬一小隊を護衛に現地へ向かった。


「な、何という数の船団だ……。

 これが全て、本当にダモクレス一国の所有する海軍なのか?」


 その船団は、現代感覚で言えばお粗末だろう。

 百人以上が乗れる大型帆船は十隻。こちらは岩礁地帯向きでは無く、海岸線から離れた地点での輸送用に用いる武装船。

 その周囲を囲む様に百艘近い浅底の中型船と海戦用の帆船が随伴していた。


「ええ。元々は近隣の海賊退治から始まった造船でしたが、周辺の無人島開拓事業を進めながら交易事業を拡大したんです。

 今は我がダモクレスこそ、世界随一の海軍国家だと自負してますよ。」


(((自負しているんだ……。)))


 潮風に目を細め、崖の上でアストリア王子が応じる。

 北の小国とは何だったのか。だがそんな事よりも気になる事が一つ。

 全ての帆船の中で最大規模、今は畳まれた三本マスト、船尾に三角帆を靡かせた明らかに他とは別格の存在感を放つ、舳先側が奇妙に広い巨大船があった。


 そしてその巨大船から飛び立ったワイバーンが一頭。数名の天馬を引き連れ上陸したのはあの、巨漢のミルジランにも勝るとも劣らぬ黒髪に浅黒肌の大男。

 明らかに違うのは、男が快男児と呼ぶべき明るい気質をまとっている点か。


「よくぞ御無事でアストリア王子!

 海商王ドルゴン、御命により輸送帆船〔太極号〕を携えて。

 只今御身の前に馳せ参じました!」


 寝そべるワイバーンから駆け下りたドルゴンが両手を打って膝を折り。

 天馬騎士達が脇に走り寄り後に続く。

 騎馬隊から降りて進み出たアストリア王子が固く肩を叩き合う傍らで。


「な、何ぃ!しょ、海商王ドルゴンだと?!

 ま、まさか最近急激に販路を拡げて世界最大の海運商会として名を馳せた、海竜商会の総帥である、あの海商王ドルゴンなのか?!」


「ちょ、詳しいですねガレス東央伯?!」


 声を聞きつけて慌てて前に進み出ようとするガレス東央伯を宥めながら、疑問の言葉がどうしても口に付く。正直あまりの取り乱しっぷりに、ちょっと引く。

 でもヴェルダ令嬢も、自分が取り乱したかったとちょっと思った。


「当たり前だ!我が領の商会が中央との交易業で悉く後れを取った、ガレス伯爵家最大の取引相手の名前だぞ!

 我が領が中央部の情報でダモクレスに先んじるためには、あの商会を味方に付けるしか無かったんだぞ!」


 その言葉にダモクレスの一同がさっと顔を背け、アストリア王子とドルゴンはと言えば気まずい顔を向けて。


「申し訳無いがそれは不可能です、ガレス東央伯。

 そもそも我が海竜商会は、ダモクレス領の交易事業を担う商会として立ち上げられた組織です。我が商会の船舶は全てダモクレス王国が所有しています。」


「ま、待て!それでは海竜商会というのは!?」


「はい。ダモクレス王国が運営する商会です。」


 頼みの綱が、相手の右腕だった。

 膝から崩れ落ちたガレス東南伯の心境は、孫悟空に似ているだろうか。

 いや、それはあるまい。彼は孫悟空ほどに不屈では在れない。何故ならガレス伯の心は今、正に全ての野心が灰になって燃え尽きたのだから。


「それで、あの一番大きい船が例の〔太極号〕かい?」


「無視するんですか?!」


 いや無理だよ、何を言えば良いのさとアストリアは首を振る。

 同じ心境だったドルゴンも当然の様に便乗する。何せ彼は照会を立ち上げた当時から続く、アレス王子腹心の一人だ。似たような状況なら場数が違う。


「ええ、アレです間違いありません。

 必要な物は全て揃えてありますので、後は現場を指定して頂ければ直ぐに。」


「なら今晩だ。進める場所は調査済み、間違いないね?」


「勿論です。密偵達が通信に使っている島の一つ。

 そこが岩礁を避けられる海路の入り口となっています。」




――これは昨日今日の調査結果では無い。

 かつてアレスが〔西部〕偵察を終えた後、〔中央部〕の聖都へ向かう際。海賊達の生活圏と略奪に使っている経路を避け、密かに入国するために調べ上げた。

 当時の潜入経路がそのまま、偵察班の中継地点として活用されているのだ。


 尚ゲーム原作では、ダーチャの海賊を闇司祭ラプスーが、まるでこの地の支配者が如く、我が物顔で支配している描写しか知らなかった。

 精々が海賊達の首領ドブロチンと仲が悪かった、くらいの前知識である。



 正直、まさか暗黒教団()()()()だとは思わなかった。

 至近距離で偵察していて超戦慄した。



 尚、実際の関係は闇司祭ラプスーが〔中央部〕()()()()()だ。

 現暗黒教団トップである暗黒教皇アルハザードは各地の教団まとめ役で、現在の総大将的な立ち位置だろうか。

 ダーチャの首領ドブロチンは、教団中央部の最大()()ダーチャの()()()となる。


 つまりゲーム上では二人の幹部が討ち取られただけで、この地の暗黒教団は全く壊滅していなかったのだ。

 単に主流派が壊滅しただけで、地方組織は気付かれなかった事になる――。




 よって今回の殲滅作戦も、当初の予定より大分大盤振る舞いとなっている。


「それじゃ戻ろう。今日中に海岸線へ陣を進めたい。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 義勇軍とクラウゼンが北上した海岸線は砂浜から一軒家程度の高低差で、周囲と比べて若干低くなっている岸壁だ。

 一部が崩落して、数人が通れる幅の坂が出来ている岩浜だった。


 道幅は狭いが二~三人が剣を振るえる、岩礁からの進入路には適した箇所。

 一方で崖下からははっきりと見渡せる、奇襲には向かない監視し易い場所。

 強いて挙げるなら、柵で覆えば上で何をやってるか見えない点だろうか。

 あそこに陣取る限り、奇襲には備えられても突入には向かない。

 防衛戦をやっているダーチャの海賊達にとっては、正直失笑する防御拠点だ。

 上陸地点の一つとして候補には上がるが、別に塞がれても困らない。

 昨日の攻撃は大した成果では無かったが、あんな場所に張り付かせたなら効果はあったという事か。


「船団を用意して夜の中に千を出陣させろ!

 今度は大回りで迂回し、敵の背後を突くのだ!」


 だがドブロチンの予想に反し、事態はその夜の内に動いだ。


「何、では柵は即席の坂にするための物だったという事か?」


 陣地の柵を倒して崖下まで傾け、海まで一直線にガルム隊が走り下りたとの報告を受けたドブロチンは、連合義勇軍が最初から夜襲の為に崖際まで陣を進めたのだと遅ればせながら気付いた。


「サンド島、制圧されました!」


「シシン島、全滅です!」


 刻一刻と悪化する戦況と、敵に壊滅させられた村々の情報が入って来る。

 ドブロチンは歯軋りこそしたが、驚きはしない。陸地で戦う限りはこうなると、ある程度の予想は付いていた。


 何よりダーチェの本領はこの後、船を使った強襲にある。

 魔狼ガルムは水上を走るが、急流を走ればそれは動く地面に等しい。渡れない海面は存在するし、舟でしか進めない場所も多い。

 要は最初の物量による侵透を押し止め、ダーチャに優位な地形で退路を阻む。

 それさえ出来れば勝つのはドブロチンだ。


 だがその認識が甘かったと最初に気付かされたのは、西岩礁側から大型の軍船が随伴艇を先頭にして突入して来ると聞かされてからだ。


「は、旗から見て、ダモクレス軍です!大型船、最低五隻!」


「ば、馬鹿な、大型船が上陸出来る場所など……?!

 まさか、ゴルゴ島かッ!?」


 岩礁とて全ての場所で均一に散っている訳では無い。

 連合義勇軍が布陣した直線状にあるゴルゴ島は、海流の関係で南側に比較的大きな流れがあり、その分海底も深く抉れて岩礁が殆ど無い一帯があった。

 つまりその一帯だけは、大型船が問題無く上陸出来る。


(義勇軍が事前に?いや、長年クラウゼンとは戦い続けている。

 ゴルゴ島は昔本拠地があった事もある島だ、把握していてもおかしくは無い。)


「なっ!何だとぉ?!馬鹿な、有り得ん!

 随伴艇が合わせて数百艘など、お前らは一体何処を見張っていたッ!!」


「お、大型船です!奴ら大型船から次々と船を降ろしています!

 岩礁帯一面が、敵の小型船で封鎖されて近付けません!」


 安易に船を沈めれば良いという問題では無い。

 周囲には敵のガルム隊が走り回る戦場での話だ。船という障害物が、岩礁地帯を海賊達の襲撃を阻む、柵へと変えたのだ。


 強襲による混戦が封じられて戦場が陣取り合戦と化せば、準備があり着実に前進出来る義勇軍側の物量が真価を発揮する。


 加えて義勇軍側には、多くは無いが飛行部隊もいる。

 魔法使いだけならこちらにも居るのだが、舟ごとに前衛と後衛を乗せるのは効率が悪い。必然密集するためには魔法使い用の小型船という、飛行部隊の餌食が出来上がる事になる。


「止むを得ん。ゴルゴ島は一旦放棄する!

 戦線を後退させて防衛網を厚くしろ!奪われた島は後日奪還すればいい!」


 ドブロチンの号令に対し、義勇軍はゴルゴ島周辺の制圧に専念する。

 これにより最初の海戦は義勇軍の勝利によって終わった。


(くそ、手強いのはクラウゼンの方だと思っていたが、真に警戒すべきは義勇軍の方だったか。伊達に各地を転戦していないという事か。

 早く頭を切り替えねば。問題はどうやって連中をこの地から叩き出すかだ。)


 ドブロチンは頭を働かせるため、敵に動きがあったら起こせと告げて一旦休みを取る事にする。

 だが正解は、一度でいいから撤退後の戦場を遠目に確認しておく事だった。




「な、何ぃ?!ゴルゴ島に砦が築かれたぁ?!

 馬鹿な!防衛陣地の見間違いだろう!」


「い、いいえ!あれは既に砦と言って良い陣容となっておりました!

 敵は、大型船を使って島と海岸線に橋を架けています!」


 ドブロチンは慌てて高台の上に上がり、ゴルゴ島の方角を見下ろす。

 見れば巨大な帆船からは前後に長い梯子橋が渡されており、その横に岩礁を利用した橋が築かれている最中だった。


 そして何よりゴルゴ島だ。

 大量に運び込まれた資材は一部が崖上の陣地に使われていた物が運ばれて、引き上げた舟の縄を解いて砦の一部として組み立てられている。


 しかも簡易ではあるが半ば完成しつつある砦の中に、築城を生業とする錬金術師達が来ているらしい。

 【石材錬成】の魔法で複製された石板や煉瓦素材が、外壁の内側に積み上げられ続けている。安全な陣地内であれば非戦闘員が居ても問題にならないのか。

 しかも向こうは長期戦を考えているのか、随所に倉庫と思しき石造りの建築物を幾つも並べて建てている。


(くそ!砦を破壊したくても、連中の布陣は未だ砦の外だ!

 あそこまで攻め寄せるには、先ず近場の島々を奪還せねば話にならん!)


 そもそも正面からあの布陣を突破出来るなら、最初からゴルゴ島に砦を築かれるまで押し込まれる事も無かったのだ。

 さしものドブロチンも、このまま戦えば負けると認めざるを得なかった。


「しゅ、首領。いかが致しましょう……。」


「狼狽えるな馬鹿共め!心配せずとも我が〔ゴーストホロウ〕は難攻不落だ!」


「し、しかし。数に劣る我々では、あの様に要塞に立て籠もられては……。」


 情けない部下の襟首を掴み、ドブロチンは額を突き合わせて睨む。


「数で劣っているだと?一体いつの話をしている愚図め!

 ダーチャの海賊は女子供問わず、全てが兵士で全てが殺し屋だ!

 ヴァルデイアも主力は健在!我々は元より海賊、正面対決など騎士の戯言だ!

 我らダーチャの本領は、どの様な相手でも喉笛に喰らい付ける事にある!」


 ようやく実感が追い付いたドブロチンは、〔ゴーストホロウ〕へと馬を巡らせながら今後の方針を思案する。


「オレに恥を掻かせた罪は、必ずやその身で贖わせるぞ義勇軍!

 絶対に、絶対に!何があってもだッ!!」

 アストリア王子視点だとシリアス多め。勢いで苦労を乗り切るタイプでは無く、本来暗黒教団は手段を選ばぬ非道な悪役なので、真っ当に糾弾される存在です。


 あ、ドルゴンという名前に心当たりのある方はその通り。

 そう、第零章に登場した彼ですw彼はアレス王子側に属してます。

 アレス王子は悪党を指差して笑いものにするタイプw



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