55.第十三章 ドールドーラの高機動姫プリースト
※三連休連続投稿、一日目です。続きは明日、11/3~4日連続投稿予定。
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はぁ~~~っはぁっはぁあああ~~~~~~!!
戦略地図の規模と精度では、ダモクレスこそが世界一ィッ!!
例え数と質で帝国に劣っていようと、聖王国と連合を組めばそろそろ数でも五分に持ち込める筈!
見えたな!勝機が!……本国軍が予想外の動きをしない限りッ!!
(いや。マジで本国軍が動いてこっちの戦略潰された一例が、クラウゼン騎士王国とか言いましてね?)
ゲームでは十万以上残ってるのよ、最精鋭が。
偵察段階でもヤバい禁呪使ってそうな虎の子部隊が多分万単位で。
ハッハッハ、そりゃあゲームみたいな状況になるには帝国軍が総出で修羅になる必要がありますし?裏技があってしかるべきですよねぇ?
40LV部隊が万とか、うちら何十戦しても未だ未だ全然ですしねぇ?
絶対あって欲しく無かったけどなぁ!?
わぁい★僕だけ知ってる極秘情報、秘密主義が過ぎるって当たり前じゃん?
こんな情報、事前に知ってたら味方(+ワシ)の心折れるやん?
因みにオイラ、【三神具】増量中とかいう追加核兵器情報所有中★笑え。オラ。
オラぁッ!胃薬もっと寄越せェッ!!樽で飲むぞォ!!
閑話休題。
ハウレス央北王国の真南に位置する、ドールドーラ央東央国。
ここではハウレスの魔狼騎士団に並ぶ特殊騎兵、天馬ペガサスによる騎兵団化に成功した事で知られている。
肉と魔力さえ与える手段が有れば良い魔狼ガルムと違い、ペガサスの家畜化には高山が必要となる。
単に高山であればそれこそハウレスの方が多いのに、実際に家畜化に成功したのは国土の半分以上が平地のドールドーラだった。
その理由は聖王国とハウレスの国境、国の北西にある高山白刃山地と。
国境となって海に抜ける白磁川の先にあるカルデラ山岳湾、湾岸山脈にあった。
かつては巨大山岳だったと思われる湾岸山脈は、中央から大部分が崩落して海没して岩礁湾と化している。
だが一方で三日月状の山脈が大部分ドールドーラ側に残って絶壁の海岸線を構築していた。この山脈こそが、天敵の居ない天馬育成に最適の土地だったのだ。
斯くしてドールドーラは他国との交通の不便さと引き換えに、自国の内政問題に意識を集中する事が出来た。
侵略し難い反面、侵攻もし難い中堅国。それがドールドーラである。
再び魔狼ミッドガルに騎乗し、韋駄天騎士団を率いるアレスは今回後衛に居た。
理由は単純で、帝国軍の布陣地域は南の何の変哲も無い港町だからだ。
ドールドーラが苦手とするのは市街戦であり、奇襲で片が付くのなら彼らの独壇場となっている。必要なのは城攻め、正面突破出来る物量なのだ。
事前にドールドーラには密使を派遣して、近々応援に駆け付ける旨を伝えて有事の通行許可も取り付けており。先日の東南諸侯の独断に対する謝罪と改めて約束の履行に出陣したと通達した。
国境にはドールドーラ国王ラムロックの代理人が派遣されている予定だ。
そちらとの対面の為に、リシャール殿下と共に一旦先陣に合流したのだが。
「……まさか姫君自らお出迎え頂けるとは思いませんでした。
お初にお目にかかります、リシュタイン王女。」
……目が横に泳ぐなぁ。
リシャール殿下は元々面識があった様で、一時は婚姻話が持ち上がった事もある義妹にも似た間柄らしい。だがアレスは、別の意味で彼女の事に詳しかった。
そう。彼女は又の名を『高機動姫プリースト』。
ゲームで魔法使い系戦闘スタイルの見本とすら言われた、一撃離脱型神官だ。
言動はお淑やかな筈なのだが、紋章には無い筈の速度上昇率が一番高く、魔力も総じて優秀。スキルなど不要と言わんばかりに癒して逃げる、止め刺して逃げる。
天馬を購入出来ないプレイヤー達は、簡単に死なず足を引っ張らずに回復役が務まる彼女を物凄く、高確率で決戦メンバーに入れる程重宝するのである。
その活躍振り故に、二次創作では何故か笑顔で血塗れメイス画が定番だった。
「HA、HA、HA、噂に違わずお美しい。
お会い出来て光栄です姫君。」
因みに容姿は金髪を後ろで編み上げた嫋やかなお姫様だ。虫も殺さなそう。
だが既に30LV越えというハイスペック振りと重なり、どうしても腰が引けてしまうのはプレイヤーのサガだろう。
「あらあら、流石は噂に名高いアルス王子ね。
どうやら私のお転婆姫伝説は、とっくに把握されてしまってるのねぇ。」
「ははは、何の事やら。」
イヤ、ホント似合い過ぎるんですよその細目のニコニコ笑顔と溜息が。
「さて。今回の案内役も兼ねて、我々聖天馬騎兵団も義勇軍に参戦致します。
差し当って地図のご用意はあるかしら?」
両者が港町とその周辺地図を並べると、リシュタイン姫が目を瞠る。
「驚いたわ。場所によっては義勇軍の方が詳しいくらいだなんて。」
互いに認め合った軍議は話も弾む。凡その筋は瞬く間に合意出来た程に。
義勇軍の進路は港町の東側からの突撃だ。
アレスこそ後詰だが、名誉挽回したいが戦力に不安がある東南諸侯他は側面部隊として、北から攻め寄せる方針で纏まった。
リシュタイン姫は南側海岸側からの強襲部隊を担当して貰う。義勇軍の飛翔戦力も彼女の指揮下に入る事となった。
リシャール殿下率いる主力は一見囮を兼ねた西正面部隊。尤も物量が厚い。
実際の所、最初は無理をせず門に近付く事に専念し、他の部隊が襲撃して帝国軍が兵を分散し始めたタイミングで強襲に切り替える。
「兵力に差があるからこそ出来る、王道だな。」
「ええ。此処さえ落とせば国内の帝国軍は物の数ではありません。」
因みに先日の東南諸侯の詫びとして、港町の復興に出費する形で承諾を得た。
本来であればダモクレスが支払う義理は無いが、港の優先使用権を条件に出費の大部分を負担する事になった。
ま、今後の交易で元を取るしか無いんだけどね?返済期待出来ないし。
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平地と言えども真っ平らでは無く、多少は凹凸で高低差もある。
若干低地に位置する港町は交易の上で地味に面倒で、今迄流行らなかったのにも納得の面倒さだ。進軍の上では楽だが、内陸への輸送は不便なのだ。
そして周囲が空いている代わりに、遠くの敵は森を抜けるまで気付けない。
天馬騎士団中心に籠城するのであれば誤差だろうが、義勇軍の大軍を前に防衛網の構築が遅れるのは致命的だった。
慌てて城門を閉鎖した頃にはリシャール殿下の正面部隊が接近してしまい、側面部隊の発見にも遅れが出た。
聖天馬騎兵団は騎士団というよりプリースト隊に騎士団を護衛させているという構図なので、回復役が三割近く最前線を切るのに向かない。
そのためネルガルの翼人部隊が恐ろしい程に嵌る。
何せ彼らは機動力と引き換えに装甲が薄く、一撃離脱後は撤退して後続に任せるのが本来の運用法。だが聖天馬騎兵団が盾となれば、即座に再強襲が可能となる。
常に最初と同様の強襲が繰り返せるのだ。
安全圏を何度も往復して回復し、旋回しながら町の要所を襲撃し続ければ。
対空戦力に欠ける指揮系統など容易く分断されてしまう。
そうなれば正面の大軍を押し止める余裕は無い。
時間をかけている間に、側面の部隊が城門へ到着する。
「このまま決着……とは行かない様だな。」
森を抜け、後衛として守りを固めるアレスの元へ一直線に。
凡そ千人の大規模傭兵団が一直線に疾走する。
「迎え撃て!総員、最大火力!【中位破邪柱】ッ!!」
「「「【中位氷槍檻】っ!!」」」
前衛が一斉に盾を構え、傍らで〔槍衾の槍〕を構えるヴェルーゼ皇女の魔法隊が一斉に敵傭兵団に魔術を叩き込む。
各々の兵が各自で迎撃やら回避やらをしている様だが、それなりに出鼻を挫いた気配はある。だがその程度で止まるとは思っていない。
「ははっ!きっちり迎え撃ってくれやがるかぁ!
さあ、総員お返しをくれてやれッ!!」
「追撃だ!総員、叩き込むぞ!」
敵将の声が戦場に響き、アレスの号令が図った様に揃った。
「「「「「【炎舞薙ぎ】ィッ!!」」」」」
接敵間近の間合いで敵味方双方から炎の斬撃が一斉に解き放たれ、互いの戦列に炎が流れ込む。
戦場一帯が赤く加熱し、そこら中で炎に弾き飛ばされる騎兵達が続出する。
「踏み止まれ!乱戦になろうがこの場を死守する者が味方だ!」
「ちぃ!中々にしぶといなアレス王子ィッ!!」
ひたすらに前方だけを切り払い、乗騎を止めずに突っ切らせる。
渦巻く風を纏う槍を振り回し、毛皮を纏った焦げ茶の重甲冑で魔狼を駆る。
アレスは後ろにヴェルーゼを下がらせ、〔雷の魔剣〕を引き抜いて迎え撃つ。
「切り刻め〔風の槍〕ィ!!」
「打ち据えろ〔雷の魔剣〕ッ!!」
細身の槍からは渦巻く鎌鼬【下位風刃】が、厚く短い直剣からは弾ける放電球【下位落電】サンダーが。
互いに空中で衝突し合い、殆ど同時に武器を打ち据え合う。
「乱戦中に余裕だな〔裏切り剣士〕ルトレルッ!」
「ぉおっと!生憎賞金の高い方を狙うのは常識でね無敗の英雄殿ッ!
中々クレイジーな戦い振りをするじゃ無いかアレス王子ィ!」
〔風の槍〕に〔雷の魔剣〕。両者共に魔力消費無しに魔法を放つ魔法武器だ。
但しそれぞれ武器としての性能は無いに等しく、膂力で魔法が放てるという特性こそが最大の特徴であり、それ故に魔法使いと同じ間合いで戦うのが定石。
けれどアレスと眼前の重甲冑の傭兵は、揃って初撃以外を乱戦で互いの武器を叩きつけながら至近距離で放つ。ある意味最も贅沢で乱暴極まりない使い道。
「ハッタリは結構!あんたの狙いは【聖杖】奪還だ!」
それはアレスの後ろにこそ突撃の本命があるからだ。
「なッ!」
動揺した瞬間の強引な鍔打ちにルトレルが魔狼ごと後退し、アレスのミッドガルは踏み止まって前に踏み出す。
僅かな間隙に抜き放ったのは首筋を狙い澄ます〔達人の剣〕。
「「【魔力剣】ッ!」」
互いに間合いを伸ばした一閃で、しかし紙一重で両者とも捌き切る。
いや、それでも優勢なのはアレスの方で。兜の鋼を一つ後ろに弾き飛ばした。
「今のダモクレスの諜報力は、世界一だと自負しているよオッサン。」
「ち……。中々言ってくれるじゃねぇの、若造。」
アレスは腕の《シーカーリング》を見せて挑発する。傍らで見ていたヴェルーゼ皇女は目の前の男の腕にも全く同じ腕輪がある事に気付いた。
アレスは彼の事を最初から詳しく知っている。
メインマップ〔大陸最強の傭兵団〕によるドールドーラ解放戦におけるシナリオボスの一人。大陸一の規模を誇る傭兵団、鮮血魔狼団の団長。
彼の討伐こそ非売品装備を入手する唯一の手段であり。
そして祖国を売り渡してダークナイトとなった亡国の元王族であり。
【裏切り剣士ルトレル、LV35。ダークナイト。
『心眼、神速、反撃、必殺、鉄人』『鉄血の紋章、不死身の紋章1』。
魔人の剣、風の槍、シーカーリング。他】
彼はヴェルーゼ皇女の手で止めを刺された際。
聖杖ユグドラシルの奪還と引き換えに皇帝から不死身の紋章と服従の呪いを刻まれた、彼女への刺客だったという事実が明かされるのだ。
――その一方で。
「まさかこの程度で勝ちを確信してはいないだろうなぁ!」
ヴェルーゼとルトレルの間にはアレスがいる。
ルトレルが構えた〔魔人の剣〕の【魔力剣】が切れる前にと距離を詰め、片手で剣を振り上げた反対の手に違和感を感じて。
「っ〔煙玉〕?!」
咄嗟にヴェルーゼ皇女を庇える位置に立ち位置を変えた脇を、ルトレルの魔狼が走り抜けて距離を離す。
「潮時だ野郎共っ!このまま撤退する!
それじゃ次の戦場で会おうぜ、アレス王子ィ!?」
隊列の隙間を走り抜けるルトレルを狙うには、アレスの立ち位置は少々悪い。
舌打ちしながら素直に後手に回った事実を認める。
(忘れていた。そう言えば〔煙玉〕は物さえあれば誰でも使えるんだったか。)
攻撃アイテムの大半はゲームでは『探索技能』持ちにしか使えなかったが、実際は〔秘密の符丁〕が無いと買えないだけで、普通に練習次第で使えたのをアレスは自ら確認していた。
余りにゲーム通りだったから忘れていたが、成程原作でも彼が登場するのは複数マップだ。劣勢になれば逃げ出すとは思っていたが。
「……見事にしてやられたな。
総員、撤退する敵を無理に負う必要は無い!持ち場の保持を優先し、逃げ遅れた敵を確実に仕留めろ!」
「「「ぉおっ!!!!」」」
アレスの号令に応え、周囲のダモクレス騎士達も落ち着きを取り戻す。
接触時間も短かったので左程打撃を与えられたとは思わないが、被害が少なかったのなら先ずは上々だ。
『伏兵』を潜ませているかも知れない敵を、無理に負う必要も無いだろう。
「……アレス王子、後でお話があります。
それとその《シーカーリング》、とある西部の亡国王家が所有する秘宝です。
何処で入手したのか、詳しくお聞かせ願いたいものですね。」
マジか。流石にゲーム設定にそこまで詳細な情報とか無かったわ。
「……そこまでは知らなかったが、その質問に答えるのはもう少し後だな。
頃合いとしては、聖王家直系の三兄妹と兄アストリア王子が揃った時にでも。
余裕がある様ならイザベラ大司教を救出した後にしたかったが、高望みして手遅れになっても困るからな。」
はっきりと警戒心を顔に出すヴェルーゼ皇女に、アレスも周囲には聞こえない様に応えられる範囲で告げておく。
表向きはリシャール殿下と東南諸侯に花を持たせるためと、後衛にダモクレス軍を配置した件。《シーカーリング》やルトレルが刺客だと知っていた件まで含めて考えると、流石に情報の出所に不信感を抱くのは当然か。
「……分かりました。そう遠くない頃である事を祈っています。」
「ああ。」
あまり長くは待たないぞ、か。
露骨に態度に出したのは、ある種の信頼の表れか。
ならば精々、期待に応える努力をしようか。
「追撃します!一撃で最大火力を叩き込んだら深追いの必要はありません!」
「「「【バスター】ッ!!」」」
「……流石は高機動姫プリースト。アレ間に合うのか。」
ドールドーラ解放戦、快勝。
※三連休連続投稿、一日目です。続きは明日、11/3~4日連続投稿予定。
ゲームではドールドーラ辺りでペガサスが解禁されますが、ガルムよりお高い上に〔中央部〕では〔銀武器〕を始めとした様々なアイテムが解禁されます。
結果的に資金難になる事も多く、後半でワイバーンを買えると知るプレイヤーは大抵資金を温存し。
その後の飛行ユニットは、前線メンバーで編成するだけで手一杯になる訳です。
すると機動力に長け、回避力の高い回復役には頻繁にお世話になり。
前線付近にいる『奇襲、反撃』スキルしか持たない筈の某お姫様はちょくちょくカウンターで敵を返り討ちにする事もあり……w
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