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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第三部 聖都奪還前婚約闘争
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54.第十三章 敗戦後始末会議

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 幸いにも帝国本隊はあっさり引いてくれたので、今の中央方面軍の戦力も探ろうと密偵隊に指示を飛ばす。今回どれだけ損害を与えたかは流石に未知数だ。

 ゆっくり休みたいが、裏工作が困るので早々に軍議を始めねばならない。暗躍に慣れた方々を放置すると、罪状が有耶無耶になる程度で済むとは限らない。

 彼らは後が無いのだから、極論帝国への寝返りも視野に入ってる筈だ。


 砦内で食事を取った一同が集結したのは一刻ほど後だった。


 最初に双方の状況説明という手順は取られない。何故なら義勇軍は聖王国と合流するための集団であり、リシャール殿下がいるこちらが本隊。

 つまりリシャール殿下は既にこちらの事情を承知している。必要なのはあくまで独自行動を取った東南諸侯側の報告だけだ。

 東南諸侯達が現状を知りたかろうと、優先順位は下になる。


 彼らも薄々察していた様子で、リシャール殿下が軍議の開始を告げた時も異論を挟む者は特に居なかった。

 だがそれは、彼らにとっても都合が良いと判断した証拠でもある。


 果たして軍議が始まり東南諸侯代表として、カラード東南候が口を開く。

 曰く。自分達は戦力外として義勇軍本隊への参戦を断られた者達である。

 本隊から排除されたが故に、参戦義務を果たすためには別の戦場で手柄を立てねば聖王国に顔向け出来なかった、等。

 概ね予想通りの内容ではあった。


「ふむ。こちらでは輜重隊としての協力国なども〔聖戦〕の要請に応えた形として認めて欲しいという嘆願は受けているがな。

 その辺りはどう思っている?アレス王子。」


 訳:戦力外の貢献も認めて欲しいという意味だと思ったが?である。


 この辺の流れも既に殿下と話はしてある。リシャール殿下には基本中立という形で両者の話を聞く立場を取って貰っていた。

 故にアレスも余裕を以って応じられる。脚本は最初から出来上がっているのだ。

 他の東部北部諸侯がこの場にいる以上、彼らに甘い顔は出来ない。


「私としては、せめて彼らには早々にダンジョンで鍛えクラスチェンジした上で、直接我々に合流して欲しかった、という所ですな。

 我々は聖王国との合流を優先しただけで、戦力が足りている訳では無い。

 数だけの軍隊では助力どころか足を引っ張るのが現状だとは、今回の件で実感が出来たと思うのですが?」


 訳:足手まといを軍隊扱いしろと?精鋭だけでも戦力と認めていた筈だが?


 歯軋りしつつも敢えて沈黙を貫き、聞き流す東南諸侯達。

 彼らは結果を出せなかった敗残兵だ。下手な反論は首を絞めるのであくまで彼らはリシャール殿下中心に応対したい様だ。甘い。


「義勇軍としては作戦に納得がいかないから独自行動を取るでは連合軍の意味もありませんし、何より背中を預けられません。

 最初に私を総大将とする旨は合意を得ていますから。

 彼らは戦力を失っている事ですし、彼らには一旦祖国にお帰り頂き、改めて独力で聖戦に参加して頂くという形を取るのは如何でしょうか?」


「なっ!ふざけるな!」


 要は義勇軍辞めてくれ発言である。これで彼らに無視は出来なくなった。


「ふざけてもあなた達の主張を否定しても居ません。

 単に独自行動を取る方々に協力は出来ないが、独自に聖王国への参戦義務を果たすのなら止める理由は無い、と明言させて頂いただけです。

 そちらのお望み通りかと思いますが?」


「っ……!?」


 一度は規律を無視して好き勝手やった敗将が、義勇軍の恩恵だけを受け続けようなんて虫が良過ぎるよね?という話だ。

 東南諸侯の傲慢さに苛立ちを覚えていた方々も揃って頷き賛同を態度で示す。

 何も言えないのなら、このまま彼らは義務を果たせず自滅した三流国に脱落だ。


(流石にそこまで甘くはないよねぇ、カラード東南候?)


 ていうか甘かったら一番アレスが困る。


「我々は既に義勇軍に協力している!そちらこそ都合が悪くなった時だけ使い捨てると言うのは虫が良過ぎるのでは?!」


「そちらの意見に配慮した形だった筈ですが?

 こちらは命令違反に対して罰則という形は取っていない。

 こちらとしては予定外の救出行動で、クラウゼンの復興手順を整える時間も聖王国への万全な助力も出来なくなっている。

 義勇軍全体に実害が無かったとでも思われたのか?」

(まだ黙ってくれるなよ!?未だ反論の余地はあるんだぞ?)


「そ、損害を受けたのはそちらだけでは無い!」


「違反しなければ受けなかった損害の責任を、違反された側に負えとでも?

 では正式に罰則として今回の救出費用を請求させて貰おうか?」

(下手な反論をするんじゃない!?)byあれす。


 感情任せの反論が一番困るんだよ!

 だが黙ってれば浮上する問題は先に口に出せた!


「わ、我々は既に参戦した!聖戦への参戦義務は既に果たしている!」

(いよっし!言えたな?『もう帰国して参戦しないぞカード』を出せたな?)


「だったらそのまま国から出ずにいるが良かろう!」

(余計なタイミングで口を挟まないで下さいぃぃっ!!)


 嬉々として敗戦諸侯達を潰しにかかろうとしたのは、彼らと国境を接する辺りに居る東央諸侯の一人だ。

 彼らは帝国戦が終われば、再び東南諸侯とも対立する恐れがある側だ。


 だが流石にこれには敗戦諸侯達が一斉に立ち上がる。

 アレスは咄嗟に、しかし慌てて見えない様に片手を上げて今発言した東央諸侯を制止した体で口を挟む。表情は全力で誤魔化す


「まあ我々も鬼ではありません。皆さん方が改めて兵を揃えて参戦出来るというのなら歓迎するのも吝かではない。

 但し、必要なのは下限LV15を二千以上。勿論今手元に残されている方々を数に数えられて構いません。」


「「「なっ!!」」」


 声が上がったのは双方からだ。

 東南諸侯は今壊滅したばかりで精鋭を出せと言う要求への反発。

 主力諸侯からは罰則を実質無罪にするのかという不満。


「期限は明日から一週間、我々は帝国が体勢を整える前に動く必要がある。

 それまでに必要な数をワッケイ城へ揃えられるのなら、義勇軍の一員として今後も迎え入れましょう。とはいえ、次の作戦への反論は受け付けません。

 正直次の一手は、あなた方の意見を受け入れている余裕も無いので。」


「む、無茶な!一週間は短過ぎる!」


 慌てるカラード候だが、この場合むしろ要は彼だ。アレスは最初に東南諸侯全てを対象にした。つまり極論、彼だけで二千を用意しても良い。

 例えば自国の防衛戦力を全て回す、等と言った手法で。


「独自に聖戦に参戦されるなら、こちらの都合など無視すれば良かろう!

 言った筈だ!そちらの救出作戦のために、こちらは既に帝国の中央方面軍と準備不足の状態で交戦状態にある!

 諸侯らの都合で聖戦を失敗しろとでも、帝国に降伏しろとでも言われるかッ!」


(強い態度は取らせて貰うよォ!内容がどれだけ甘々でもねぇ?!)


 言い訳したいなら虎の子を出せ。要はこの辺が落としどころだろう。

 彼が自国戦力を空にした筈も無いし、戦力外通告した部隊を全て戻せば全諸侯が義勇軍入りしている現在なら自国防衛力も足りる筈。


「……アレス王子。一週間と言ったが、帝国軍はどう対処する?」


 頃合いと見たリシャール殿下が口を挟んでくれる。

 素晴らしいですね、最高のタイミングです。優秀な上司はとても良いモノだ。




「敵はこちらの戦力をまだ掴めていません。

 ので密偵隊を派遣して噂を近隣にばら撒いております。


 曰く『義勇軍はクラウゼンで敗走し、モルドバル城塞奪還は起死回生の博奕。』

 曰く『義勇軍の現戦力は全て揃えても五千前後。』

 曰く『義勇軍はクラウゼン攻略後、彼らの主力を味方に付けて参戦した。』

 曰く『義勇軍は既に五万以上の精鋭を揃えて聖都奪還に動いている。』


 これらの噂に尾ひれが付けば、帝国軍は正確な情報が揃うまでは自軍の再編成を優先せざるを得ない筈です。ですが所詮は噂だけ。

 故に、一週間が限度。」




(((……ん?え?もう動いてるの?ていうか既に手を打ったの?)))

 諸侯の認識では、立て直しと現状把握が精々だった。


「……それ、続ければ一週間以上稼げるんじゃないか?」


「次の作戦で先手を打つためには、噂の効果が残っている内に行軍を開始する必要があります。

 さもなければ次の作戦行動が気取られますので。」


(((な!既に次の作戦計画は完成しているのか?!

 で、ではまさか先程の言葉はハッタリでは無く、次に間に合わなかったら『その程度』の意味なのか?!)))


 アレス王子は、本当に自分達を除外出来る作戦を用意しているのかも知れない。

 その憶測は、本気で彼らの心胆を寒からしめる内容だった。


(自信を以って大丈夫と言えるのは、一週間が限度ですから!

 それ以上の猶予は流石に用意出来んなァ!というかホント未だ衝突早いし!!)


 現状で正面対決だけは絶対に無い。

 残存帝国中央方面軍の推定戦力、十万~十五万。

 本国の救援があったらホント詰む。義勇軍主戦力でもギリ質が五分だからね!

 ワシら聖王国本隊と合流して無いから今、二万以下ナンスよ!


「わ、分かった……。一週間以内に全員で二千、それで納得しよう……。」

(((だ、駄目だ。勝てん!アレス王子には、逆らえん!)))


(勝訴!勝った!第三部完!首の皮一枚繋がったぞコンチクショゥぅッ!!)


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 五日後。

 早々に帰国した敗残東南諸侯は、既に一部がワッケイ城に所定の兵を集めている状態であり、この場の軍議にはいない。

 彼らの戦力の確認は〔鑑定の瞳〕という『鑑定眼』の代用が出来る魔導具を所持するイストリア王に依頼してある。

 東部最大国家のイストリア王は、東南諸侯とて強気に出られる相手では無い。


「待て!アレス王子は本気で、折角奪還したモルドバル城塞から全て、守兵ごと引き上げようというのか?!」


「勿論です。守兵を残しておいては逆に危ない。

 この地の守護には万単位の兵が居るのは皆さんもご存じの筈。」


 再びの軍議の場で、アレスは次の作戦の詳細を説明する。

 直前に説明をするのは、密偵や内通者対策だ。今回の作戦は特に隠密性、機動力を重視した強行軍となる。

 故にどの軍が動くかは明言せず、全軍に出撃準備を整えさせておいた。


 義勇軍にも聖王国にも、分散させられる戦力は無い。

 ここを守護する限り、必然的に全軍を動かせる戦域は限られてしまう。その場合帝国軍が網を張るのも、罠を準備するのも容易となる。

 主導権は数と一部質でも勝る中央方面軍に握られてしまうだろう。


「盗賊相手なら城塞の守兵達だけで十分です。

 そもそもここは聖都から一日以上離れている。帝国がもしこちらに義勇軍と戦えるだけの兵、例えば五万以上を派遣して来るようなら。

 それこそ先に聖都を奪還してしまうべきでしょう。」


 義勇軍が放棄した城塞に、果たして帝国が戦力を避けるかな?

 首元に刃が迫っている状態でそれは無理だよねぇ?


「半端に残せば潰されますが、放棄してしまえば逆にこの地は安全なのです。」


「だ、だがこの地が帝国軍に奪われれば、我々は数少ない退路を一つ断たれる。」


「ではその前に。

 全軍でドールドーラの帝国軍、制圧してしまいませんか?」


「「「は?」」」


 ふふふ、諸侯全員が予想外の声。これは幸先が良いですね。


「ドールドーラは未だ帝国に陥落していませんが、同時に聖王国に支援出来る状態にもありません。

 何故なら港の一部を帝国軍に制圧され足止めされているからです。

 その数一万前後。我々が一丸となれば短期決戦で落とせます。

 ドールドーラが自由になれば央東方面全域が聖王国側になり、モルドバル城塞の戦略的価値は間違いなく下がります。

 となれば、守備隊を置かない理由としても十分では?」


「ッ!だ、だから東南諸侯をワッケイ城付近に集合させたのか……!」

「「「……あっ!!」」」


 そう、ざっと一週間。

 向こうもそろそろ義勇軍の戦力に確信を持ち始める頃合いだろう。となれば今の情報を元に改めて戦略を練り始める筈。

 さて、そこで全軍失踪したらどうなるかな?


 今迄の情報に抜けは無いかと不安にならない?

 改めて姿を現した軍、又は追跡した軍に、撤退した筈の部隊の旗が合流したら?翻っていたら?


 前提情報が変わった状態で強引に援軍、追撃軍を出せるかな?




 義勇軍、全軍を移動させてドールドーラの完全解放を果たす――。


 義勇軍はモルドバル城塞に戦力を集結させていると判断した帝国中央方面軍が、失踪した義勇軍の第一報を得るのが凡そ半月後。

 帝国中央軍が真に事態を把握するのは、次に義勇軍本隊が聖王国領に姿を現した概ね一月後以降の話になる。

※ドールドーラ戦が省かれる訳ではありません。どう勝ったかは次回w!

 尚、アレスの計画ではドールドーラ攻略が先でした。

 モルドバルは完全に蛇足ですw必死こいて修正案を出したんだよォッ!!



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